多くの企業が業務の一環として外部へ業務を委託することを選択しています。外部の企業やフリーランスに業務委託を実施する場合、特定の期間を明記した業務委託契約を締結し、その契約期間中において委託と受託の間の協力関係を確立することが通常の流れとなっています。
しかしながら委託されたフリーランスが業務委託契約を解除したい場合や解除される場合、その解除に伴う様々なリスクや影響が生じる可能性があります。業務委託契約を解除する・される立場として、フリーランスである受託者が、どのようなリスクを考慮すべきかを理解し、適切な手続きを踏むことが肝要です。
そこで、この記事ではその手続きとリスクについて解説していきます。
業務委託において仮に契約の途中解除が発生する場合、受託者としての立場でのリスクや損失を考慮する必要があります。この記事を通じて、状況に応じた適切な対応策を把握し、業務委託契約の解除に伴う潜在的な問題に対処するための知識を共有したいと思います。
目次
1.業務委託契約とは?まずはどの契約が自分に当てはまるか確認しましょう。
業務委託契約は、雇用契約ではなく、特定の仕事を独立したフリーランスとして引き受ける契約です。従業員として企業に所属するのではなく、自分自身を事業主として位置づけ、特定の業務を請け負う合意をすることです。
業務委託契約には以下の3つのタイプがあります。
請負契約
委任契約
準委任契約
最初に、自分の場合がどの業務委託契約に該当するかを確認しましょう。
請負契約
請負契約は、特定の成果物(製品やシステム)を作成することを引き受ける契約です。この契約では、成果物が契約通りの性能、品質、納期を満たす限り、その制作過程は重要ではありません。
典型的な請負契約の例として、「この設計図に基づいて家を建ててください」という施主と大工の契約が挙げられます。ただし、家が完成し、引き渡された後に雨漏りがあった場合、契約に違反することになり、修理や一部の料金返還、時には損害賠償の支払いが求められることがあります。
委任契約
委任契約は、特定の結果を約束して引き受けるのではなく、ある業務を「代わって遂行する」ことを約束する契約です。この契約では、依頼主の期待通りの結果が得られなくても、誠実に業務を行う限りにおいて契約違反にはなりません。例えば、依頼人と契約した弁護士が敗訴しても、契約違反とはされません。
広義の委任契約には、「委任契約」と「準委任契約」の2つの種類がありますが、どちらも「業務遂行契約」です。
「委任契約」は特に「法律行為を代行する契約」を指します。ここでいう法律行為とは、裁判、相続、M&A、不動産売買など、権利や義務が移動する行為全般を指します。ただし、物品売買などは個人が通常自分で行うため、委任契約とは関連しないことが一般的です。委任契約に関わるのは、弁護士や司法書士などの「複雑な法律行為」の専門家です。
一方で、法律行為以外の行為(事実行為)に関する業務契約は、「準委任契約」と呼ばれます。
準委任契約
準委任契約は、医療行為においてよく例に挙げられる医療契約と似た性質を持ちます。医療契約では、医師と患者の間で結ばれ、医師は「善意をもって慎重に」患者を治療する義務を負いますが、治癒の結果については責任を負わないとされています。広い意味での委任契約の大半は、準委任契約に該当し、アウトソーシングなどで法律行為以外の業務を他者に委託する際に用いられます。
例えば、フリーランスのITエンジニアがクライアントと結ぶ業務契約は、請負契約か準委任契約のいずれかです。成果物を保証するのが請負契約で、特定プロジェクトで一定期間担当する場合などは準委任契約になります。
委任契約や準委任契約を結ぶ場合、委任された専門家は依頼者に対して「善管注意義務」(善良な管理者としての注意義務)を負います。この義務を怠ると、損害賠償を請求されることがあります。
2.業務委託契約はどのような場合に解除されるか
業務委託契約がどのような場合に解除されるのかを知りたい方もいらっしゃるのではないでしょうか。以下では、具体例をご紹介します。
双方が契約終了について合意に達した場合
業務委託契約の解約に関しては、依頼者とフリーランスの双方が合意し、契約を終了できる場合があります。このような場合、双方が納得した状態で契約が解約されるため、一般的には大きな問題が生じることは少ないとされています。
しかしながら、契約を解約する際には特定の手続きや注意点を守ることが重要です。依頼者側は解約通知書を作成し、それをフリーランスに送付することが一般的です。この通知書には、両当事者の詳細情報や解約の意図と理由、解約予定日などが明記されます。依頼者とフリーランスが通知書の内容に同意した後、正式な契約解約合意書を作成し、その手続きが完了します。
解約の際には、適切な文書を用いて合意を確認し、法的手続きを遵守することが不可欠です。また、双方の協力と円滑なコミュニケーションが解約プロセスをスムーズに進める鍵となります。適切な手続きとコミュニケーションの重要性を認識し、解約が円満に行われるよう努めることが大切です。
契約に違反した場合
業務委託契約を締結する際には、契約書を通じて具体的な内容を明確に規定します。この契約書には、業務内容、報酬、期間、義務と権利、違反事項に関する規定などが含まれており、双方の当事者が契約の条件を確認し合意する基盤を提供します。
契約の一方が契約違反を行った場合、その行為が契約解除の根拠となる可能性があります。例えば、依頼者が契約に基づいて業務を遂行したにもかかわらず、報酬の支払いを怠る場合、依頼者側は契約解除の権利を行使することが考えられます。
同様に、フリーランス側が契約違反を犯した場合、依頼者は契約解除の要求を行う可能性があります。この際、依頼者がその違反行為によって損害を被った場合、損害賠償請求も同時に行われる可能性があります。契約違反に関する規定は契約書によって異なるため、契約を締結する際には注意深く契約書の条項を確認し、どのような場合に契約解除が検討されるかを理解することが重要です。
契約が更新されない場合
業務委託契約の一種である委任契約では、契約を締結する段階で契約期間があらかじめ規定されています。そのため、契約期間が満了すると契約は自動的に終了します。
契約の更新も可能ですが、その際には再度双方の同意が必要です。フリーランス側が契約を更新したいとしても、依頼者がそれに同意しない可能性も考えられます。
3.請負契約、準委任契約それぞれの契約解除方法
業務委託契約を終了させるためには、正しい手順を踏む必要があります。適切な手続きを行わないと、後で問題が生じる可能性があるので、注意が必要です。
以下では、請負契約と委任(準委任)契約のそれぞれについて、解除の方法を詳しく説明します。
業務委託契約の解除方法
請負契約を解除する方法は、大まかに2つの方法があります。
発注者による解除
請負人による解除
それぞれの解除方法について詳しく見ていきましょう。
・発注者による契約解除
業務委託契約を依頼主(注文主)側が解除する場合、通常契約金額全額の支払いが必要であり、契約金額を支払うことさえできれば、いつでも解除することができます。もし契約金額が高額で、部分的な支払いで解除を希望する場合は、請負人と交渉する必要があります。この場合、依頼主側が都合によって解除するため、交渉が受け入れられるかどうかは請負人の判断によります。
ただし、依頼主が請負人の契約違反を理由に解除を申し出る場合、契約金額の支払いが拒否される可能性があります。さらに、損害賠償の請求を受ける可能性もあるので、注意が必要です。
・請負人による契約解除
請負契約では、成果物の提供について契約を結びます。そのため、請負人が契約後に解約を申し出る場合、その申し出自体が契約違反となります。このような場合、請負人は契約金額を受け取れないだけでなく、場合によっては損害賠償を支払わなければならないこともあります。ただし、依頼主(注文主)が請負人の申し出を了承することで、契約を解除することもできます。
一方、依頼主側が契約違反をした場合に、請負人から解除を申し出るケースもあります。この場合、請負人は業務にかかった費用の請求が可能です。
委託契約(準委託)の契約解除方法
委任(準委任)契約の場合、依頼主(注文主)と請負人の双方は自由に契約を解除することができます。途中まで業務が進行している場合、その進捗に応じた報酬の支払いを求めることができます。
ただし、相手方に不都合なタイミングで契約を解除する際には、損害賠償の請求が発生する可能性があります。たとえば、企業と顧問税理士の契約が税務申告期間直前に解除される場合、企業側から損害賠償の請求を受ける可能性があることに注意が必要です。
4.契約解除の方法
具体的に契約を解除する際には、どのような方法があるのでしょうか。円満に解除するためには、まず話し合いを大切にしましょう。
ここで考慮すべきポイントは次の通りです。
契約解除の意向を突然送るのではなく、相手方に丁寧に契約解除を希望する旨を伝えること。
相手方との話し合いを通じて、事情や背景を説明し、納得してもらえるように努力すること。
相手にとって不都合な時期に契約解除を行わないように気をつけること。
請負契約の場合は原則として受託者からの解除が難しいため、相手方と合意を得ることを優先すること。
まずこれらのポイントを心に留めてください。その上で契約解除の進め方について詳しく説明します。
法律を盾にするのではなく、まずは友好的に交渉した方が良い
業務委託契約を途中で解除したい際、最初に取るべきステップは、企業側と協議し、契約解除に関して合意を形成することです。契約書が解除手続きについて詳細に規定していても、まずは双方が対話し、問題を円滑に解決しようとする試みが必要です。
法的手段をいきなり用いることは、必ずしも最善の方法ではありません。法的なアプローチは摩擦や争いを引き起こす可能性があり、本来であればスムーズに進展するはずだった状況が逆に複雑化することも考えられます。
ただし、話し合いによる解決が難しい場合や、契約が明らかに不当であるなどの状況であれば、法的手段を検討することも一つの選択肢となります。法的手段は、公平な解決を目指すための手段として、適切な場面で利用されるべきです。
契約解除に際しては、双方の協力と理解が求められます。解除に関する問題を早期に検知し、適切なアクションを取ることで、双方にとってよりスムーズな解決が可能となります。
契約解除の通知
会社員が退職届を提出するのと同じように、業務委託を解除する際には、「業務委託解除通知書」を提出しましょう。
「業務委託解除通知書」には、以下の内容を含めるべきです。
通知が契約解除を目的としていることの明示
日付
宛名
送信者
契約関係の明記(誰が誰に、どの契約を、いつから)
契約書の詳細(タイトル、締結日)
契約解除の日付
解除の意思表示
解除の理由(必須ではないが礼儀的には記載が望ましい)
内容には、契約した契約を具体的に記載し、解除の意思を明確に表現することが大切です。解除理由は必須ではありませんが、相手の立場を考慮し、突然理由なしに解除されたとの印象を避けるためにも記載することが良いでしょう。
また、契約解除通知書は、自身に契約解除の権利がある場合に利用します。書類を作成し、相手に送付する際は、配達が確実に証明できるよう、配達記録付きの内容証明郵便で送付することを検討しましょう。
契約解除合意書を交わしておいた方が無難
円満な話し合いを通じて問題を解決し、業務委託解除通知書を提出し、お互いが合意したことを確認したら、契約解除の第一歩が成功します。
次に行うべきは、「契約解除合意書」を交わすことです。これにより、合意内容を書面にまとめ、後日の意見の不一致を防ぐことができます。
5.業務委託契約を解除する際の注意点
業務委託を解除する際には、以下のポイントに注意が必要です。
記録と証拠の保持
契約違反の程度の確認
請負契約の解除における請求可能範囲
長期契約の解除や変更時には十分な予告期間を考慮する
両者での合意による解約を目指す
それぞれについて詳しく説明します。
記録と証拠の保持
業務委託契約を解除する必要が生じた場合、業務の記録や交渉内容などの証拠をしっかり保管しておくことが重要です。業務委託契約解除は時に法的な紛争につながることもあります。有利な証拠があれば、リスクを軽減できる可能性がありますので、きちんと保存しておくことがおすすめです。
契約違反の程度の確認
相手側が契約書に違反する事実がある場合でも、その違反による実際の損害がほとんどないことがあります。このようなケースでは、契約違反を理由にして契約解除を申し出ても、「理不尽なクレームをつけている」と判断されてしまい、逆に相手から訴えられる可能性があります。
不必要な問題を回避するために、トラブルを最小限にするための手段として、契約書に報酬削減の条件などの規定をあらかじめ設けておくことが有益です。
請負契約の解除における請求可能範囲
業務委託(請負)契約においては、違約金や損害賠償の権利が発注者側にのみあるわけではありません。ここでは、発注者側が都合で請負契約を解除した場合、請負人が請求できる可能性のある範囲を説明します。
発注者が請負契約を解除した際に、請負人が求めることができる賠償は主に次の3つです。
完成した成果物に対する報酬や代金(進捗に応じて)
未完成の成果物に関する支出(仕入れや人件費など)
契約が適切に進行した場合に期待された逸失利益に対する損害賠償
これらの項目に基づいて請求が行われることがあります。
長期契約の解除や変更時には十分な予告期間を考慮する
業務委託契約も、業界によっては何年もあるいは何十年もの間取引を続けることが一般的です。このようなケースでは、経営者の交代や代替わりによって、急に契約条件が変更されることがあります。
もし片方に不利な変更が加わる場合、契約解除や変更に対する予告期間を長く設けることがおすすめです。自社に影響がない場合でも、取引先の立場を考慮した条件提示が重要です。無理な契約解除や変更は、自社の信用を損ねる可能性があるため、避けるべきです。
両者での合意による解約を目指す
業務委託契約を解除する場合、両者が合意できる解約条件を設けることが大切です。裁判になると、双方に時間と弁護士費用の負担が発生する可能性があるからです。
余計な問題を回避するためにも、契約書を作成する際には、詳細な解約条件や違約金に関する条項を設けておくことをお勧めします。
6.業務委託契約の解除に関するQ&A
業務委託契約を解除する際には、これまで説明してきた内容に加えて、他にもさまざまな疑問が生じるかもしれません。以下では、よく寄せられる質問とそれに対する回答を紹介します。
契約解除は何日前までに通知すればよい?
契約解除のタイミングは、業務委託契約の契約書に明記されています。たとえば、「解除の通知は3ヶ月前までに行う必要がある」といった具体的な記載があるでしょう。このような規定に従って手続きを進めてください。
仮に契約書にそのような記載がない場合は、相手方と相談して契約解除のタイミングを決める必要があります。一方的に解除するのではなく、相手方の合意を得てから解除通知書などを送付するようにしましょう。
突然一方的に契約を解除された場合、どうすればよい?
業務委託契約が一方的に解除される場合でも、まず最初に契約書の内容を確認してください。契約の条件によっては、解除手続きを拒むことが難しかったり、報酬を受け取れなかったりすることがあります。相手に対して問い合わせる際も、契約書に明記された内容に基づいて交渉を進めることが大切です。
業務委託契約が突然解除される状況に直面しても、冷静な対応を心がけましょう。自分だけでは解決が難しいと感じた場合は、専門家に相談することも検討してください。専門家に相談することで、適切な対処法をアドバイスしてもらえるため、スムーズに手続きを進めることができます。
病気や怪我で契約を解除したい場合はどうすればよい?
病気や怪我などの理由で契約を解除する場合でも、まずは相手に状況をしっかり説明することが重要です。どんなやむを得ない事情があっても、契約に書かれた義務を果たせない場合は契約違反になる可能性があります。この場合、損害賠償を支払う必要が生じるかもしれないので、注意が必要です。
ただし、相手が理解を示してくれれば、実際に金銭的な要求がないこともあります。円満に解決するためには、誠実な姿勢で対応することが大切です。もし自分で交渉する自信がない場合は、早めに専門家に相談することを検討しましょう。弁護士に依頼すると、法的な側面から適切な対処が行われるでしょう。
一旦請負契約を締結した後、請負契約を拒否することはできる?
もし引き受けた業務委託の仕事を辞退したい場合は、最初に業務委託契約書を確認しましょう。契約書には、途中で仕事を断る際の規定が含まれている可能性があります。もしそのような条項があるなら、契約書に基づいて仕事を辞退することが可能です。
しかし、契約書にそのような記載がない場合は、依頼者との合意を得るか、法的な観点から途中での辞退可否を判断する必要があります。
業務委託契約の解除と解約の違いは何?
業務委託契約における「解除」とは、契約そのものが存在しなかったかのように取り消す行為を指します。一方、「解約」は、将来的にも良好な関係を維持するために契約を終了させることです。
業務委託契約を終了させる際には、自分が「解除」を希望しているのか「解約」を希望しているのか、しっかり伝えることが重要です。
7.まとめ
業務委託契約は、基本的に合意された契約期間中において、委託者と受託者の間で合意された業務の提供とその受領の関係を着実に維持することを確約する契約形態です。この契約において、合意された業務の内容や期間に従い、両当事者が自身の義務と権利を実行し、円滑な業務の実行と成果の達成を促すことが求められます。
特に、あなたがフリーランスとして受託業務を引き受ける場合、契約交渉においては適切なアプローチをとることが重要です。フリーランスとしての立場から、自身の専門性やスキルを提供し、受託者としての役割を果たすため、契約の条件や範囲に関する十分な合意が形成されることが必要です。交渉プロセスを通じて、双方の期待やニーズを明確にし、有益な契約を築くことが求められます。
フリーランスとして受託した業務委託契約を解除したい、又は解除されるという際にもまずは委託者との円満なコミュニケーションを心掛けましょう。委託者と円滑な関係を保つためにも、感情的な対応を避けるように心がけましょう。
もし契約解除に関して法的な側面がある場合、弁護士や法律専門家のアドバイスを受けることを検討してください。特に争いごとが生じる可能性がある場合は、法的なアドバイスを受けることで自身の権利と責任を正しく理解できます。
契約解除は重要なプロセスであり、注意深い準備とコミュニケーションが求められます。自身の権利と義務を理解し、円滑かつプロフェッショナルな手続きを行うことが大切です。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。