業務委託契約を結ぶ際には、トラブルを未然に防ぐために契約内容を明確にし、業務委託契約書を作成するのが一般的です。契約書の中には、業務の詳細や条件が記載されています。その際、契約内容によっては収入印紙を貼る必要があります。収入印紙の金額も契約内容に応じて異なります。
もし必要なのに収入印紙を貼り忘れたり、金額が足りなかったりすると、過怠税というペナルティが課せられることがあるので、業務委託契約書と収入印紙の関係を正しく理解することが重要です。
この記事では、業務委託契約書に収入印紙が必要なケースや、収入印紙の金額や貼り方について、説明します。
目次
1.業務委託契約書とは?
まず、業務委託契約書について解説していきます。
「請負」と「委任(準委任)」
「業務委託契約書」とは、外部の企業や個人に仕事を頼む際に使う契約書です。
「業務委託」と言っても、実は法律で明確に定められた言葉ではありません。法的には「請負」と「委任(準委任)」という概念が関連しています。
「請負契約」とは、一方が「仕事の成果」を提供し、もう一方がその成果に対して報酬を支払うことで成立する契約です。ここで大事なのは成果の提供であり、その過程はあまり重視されません。
一方、「委任」の場合は、成果そのものよりも、どのようにして成果に至ったかが重要です。「委任契約」とは、仕事そのものに対して代金を支払うことで成立する契約です。こちらは誰が仕事を行ったかや過程が重視されます。
発注した業務が「請負」か「委任」かは、実は契約書に収入印紙を貼る必要があるかどうかを判断する際に重要な違いとなります。
「請負」と「委任(準委任)」の違い
契約書の題名には「業務委託契約書」「業務請負契約書」「業務委任契約書」など、さまざまなタイトルがあります。そのため、タイトルだけでは「請負」か「委任」かを判断するのは難しいことがよくあります。また、「請負契約」や「委任契約」というタイトルでも、中身がその通りでない場合があります。
どうすれば「請負」と「委任」を見分けることができるのでしょうか。
「請負」と「委任」の違いには、報酬の請求タイミングや当事者の責任、途中解約の可否などさまざまな点がありますが、最も大きな違いは「契約の目的」です。
具体的には、以下のように分けることができます。
仕事の完成(成果物)を目的とした契約内容 → 請負契約
仕事そのものを行うことが目的(仕事の過程が目的)の契約内容 → 委任契約
例えば、外部の清掃業者に清掃を依頼する場合を考えてみましょう。
清掃が完了することが目的なら、「清掃の完了=仕事の完成」となりますので、「請負契約」となります。ただし、何をもって清掃が完了したとするか、その基準は発注者が決める必要があります。ほこりや塵の量を測定して基準を決定することが考えられます。一方、ほこりや塵の量が影響しない場合は、清掃自体を行えば良いと考えられますので、「委任契約」となるでしょう。
このように、清掃業務を委託する場合でも、契約の目的や内容によって「請負」か「委任」かが変わります。
2.業務委託契約と雇用契約の違い
業務委託契約と雇用契約の違いについて見ていきましょう。
要求される仕事などに対する拒否権の有無
業務委託契約では、仕事や業務を断る権利が受託者にありますが、雇用契約では指示された業務を断ることはできません。
仕事の過程で事業者からの指示や命令を受けるか
指揮命令とは、業務の指示と同時に就業状況を管理する義務です。業務委託契約では依頼主である企業から指揮命令を受けませんが、雇用契約では事業者の指揮命令を受けます。
業務の遂行方法について事業者から直接指示を受けるか
業務委託契約では、受託者が仕事の遂行方法を決定しますが、雇用契約では事業者から直接的な指示を受けて仕事を行います。
就業時間及び就業場所の定めの有無
業務委託契約では、労働時間や作業場所は受託者が自由に決定しますが、雇用契約では事業者が指定した場所で指定した時間に仕事を行います。
実際に業務委託契約を結んでいた場合でも、作業内容に関する実質的な指示がある場合は、雇用契約とみなされます。たとえば、業務委託契約を交わしているにもかかわらず、具体的な作業内容を直接指示するなどの行動が該当します。
3.印紙が必要な書類は?
印紙が必要な書類についてみていきましょう。
なぜ印紙が必要なのか?
通常、私たちが言う「印紙」とは実際には「収入印紙」を指しています。収入印紙は、税金や手数料などを徴収するために国が発行しており、郵便局や法務局、コンビニなどで入手可能です。
私たちが日常的に作成する契約書や領収書などの中で、法律で特定された文書(「課税文書」と呼ばれるもの)を作成する際には、「印紙税」という税金を支払う必要があります。言い換えると、印紙を購入して文書に貼付することが、印紙税を納める行為となるのです。
印紙が必要な書類は?
印紙が必要となる文書(課税文書)は、「印紙税法」という法律で詳細に規定されており、合計で20種類の課税文書が挙げられています。
これらの課税文書の主な例は、次の通りです。
不動産売買契約書
土地賃貸借契約書
金銭借用証書
貨物運送引受書
工事請負契約書
売買取引基本契約書
売上代金などの領収書
借入金の受取書
課税文書の中で、業務委託契約に関連するものは以下の2種類です。
請負に関する契約書(2号文書)
継続的取引の基本となる契約書(7号文書)
4.請負に関する契約書(2号文書)
請負に関する契約書(2号文書)について解説します。
請負の業務委託契約書には印紙が必要です
業務委託契約の中で、「請負」に関する契約書では、印紙が必要です。逆に言えば、業務委託契約の「委任」については、課税文書には含まれておらず、そのため印紙は必要ありません。
さらに、「請負」に関する契約では、契約の金額に応じて、貼るべき印紙の金額が変わります。
具体的には、契約金額が大きくなると、印紙税の金額も増える仕組みです。ただし、契約金額が1万円未満の場合、印紙税が非課税となるため印紙は不要です。
収入印紙の金額は、契約書に記載された契約金額に応じた以下金額です。
記載された契約金額 | 税額 |
---|---|
1万円未満のもの | 非課税 |
1万円以上100万円以下のもの | 200円 |
100万円を超え200万円以下のもの | 400円 |
200万円を超え300万円以下のもの | 1,000円 |
300万円を超え500万円以下のもの | 2,000円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの | 1万円 |
1,000万円を超え5,000万円以下のもの | 2万円 |
5,000万円を超え1億円以下のもの | 6万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 10万円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 20万円 |
10億円を超え50億円以下のもの | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
契約を変更する覚書にも印紙が必要な場合がある
また、留意すべき点は「覚書」や「念書」などです。請負に関する契約書には、間違いや状況の変化により、契約内容を変更する必要が生じることがあります。その際、新たに契約を締結することもありますが、多くの場合、既存の契約書の一部を修正するために「覚書」や「念書」と呼ばれる文書を使用します。このような「覚書」や「念書」も、請負に関する契約書として、印紙が必要な場合があります。
具体的には、既存の請負に関する契約書の「重要な項目」を変更する場合に、新たに作成する文書には印紙が必要です。
ここでいう「重要な項目」とは、例えば以下の項目です。
請負の内容
請負の期日または期限
契約金額
取扱数量
単価
契約金額の支払方法または支払期日
契約期間
契約に関する条件
このように業務内容、日付、財務面に影響を与える変更がある場合、覚書などで契約内容を調整する際にも、印紙を貼る必要があります。
5.継続的取引の基本となる契約書(7号文書)
継続的取引の基本となる契約書(7号文書)について解説します。
継続的取引の基本となる契約とは?
「継続的取引の基本となる契約書」とは、以下の5つの条件をすべて満たす契約書のことで、この場合、印紙が必要です。
利益を得る目的で事業を行う者によって締結される契約であること
売買、売買の委託、運送、運送取扱い、請負のいずれかの取引に関する契約であること
2つ以上の取引を継続的に行うための契約であること
2つ以上の取引に適用される共通の取引条件を定めていること
電気やガスの供給に関する契約でないこと
条件からも分かる通り、業務委託契約書も、その内容が「請負」契約である場合、継続的取引の基本となる契約書の要件を満たす可能性があります。一方、業務委託契約書が「委託」契約内容である場合は、継続的取引の基本となる契約書には当てはまりません。
また、条件で言及されている「利益を得る目的で事業を行う者」は「営業者」とも呼ばれます。したがってこの条件は契約の一方が営業者であることを指しています。ただし、契約の相手方が国や地方公共団体などである場合、これらは営業者には該当しません。そのため、国や地方公共団体との契約は、継続的取引の基本となる契約書(7号文書)には含まれません。また、これらの5つの条件を満たしていても、契約期間が3ヶ月以内で更新の定めがない場合、7号文書の対象から除外されます。
継続的取引の基本となる契約書の例として、例えば、機械の販売とメンテナンスを行う企業が、一定期間にわたって機械の納品とメンテナンス業務を提供するための契約があります。このような契約では、全ての取引(納品とメンテナンス)に共通する条件が明記された文書が継続的取引の基本となる契約書に該当します。
契約を変更する覚書にも押印が必要な場合がある
請負に関する契約と同じように、継続的取引の基本となる契約書も、覚書などを通じて「重要な事項」を変更する契約を結ぶ際には、その覚書に印紙が必要です。
ここでいう「重要な事項」とは以下の通りです。
先述した「継続的取引の基本となる契約書」の5つの条件
契約の期間
これらの事項を変更するためには、継続的取引の基本となる契約書を修正する覚書などを締結する場合、印紙が必要ですので、注意が必要です。
2号文書と7号文書の両方に該当する場合はどうすべきか
これまでの説明から分かる通り、業務委託契約書の「請負」は、請負に関する契約書(2号文書)と継続的取引の基本となる契約書(7号文書)の両方に該当する場合があります。
このような状況が生じた場合、印紙の取り扱いはどうなるでしょうか。以下のルールが適用されます。
契約書に金額が記載されている場合 ⇒ 請負に関する契約書(2号文書)
契約書に金額が記載されていない場合 ⇒ 継続的取引の基本となる契約書(7号文書)
金額の記載有無は、契約書に支払金額や計算方法が明記されているかどうかによって判定されます。例えば、単価のみが記載されており、契約期間が指定されていない場合、最終的に支払われる金額を算出することはできません。そのような状況では、契約書に金額が記載されていないとみなされます。
業務委託契約書の請負は、2号文書と7号文書のどちらに該当するかは場合によりますので上記をしっかり理解しましょう。
6.誰が印紙を貼るの?
では、誰が印紙を貼るのかについて解説します。
書類の作成者が納税義務者
印紙税は、契約書(課税文書)の「作成者」が納税する義務があります。契約の実際では通常、契約当事者のどちらかが契約書を2通作成しますが、この「作成者」とは誰を指すのでしょうか。
ここでの「作成者」とは、契約書に署名と印鑑を押した当事者両方のことを指します。つまり、印紙税(または印紙代)は契約当事者の両方が共同で負担する必要があるものです。
通常、契約書には「本契約の証として、本書を2通作成し、両当事者がそれぞれ署名と印鑑を押し、各1通を保持する」という記述があります。そのため、各2通の契約書に印紙を貼る必要があり、契約当事者はそれぞれの契約書について半分ずつの印紙費用を分担するのが一般的です。
国等との契約書にも印紙が必要
国などの作成する書類は基本的に非課税文書です。しかしながら、契約書は通常国などと事業者との共同作成によって形成されます。このような場合、契約書に印紙が必要となるのでしょうか。
国などが国外の当事者と協力して作成した書面については、国などが保管する書面:印紙が必要(書面の作成者は国など以外)、国など以外が補完する書面:印紙不要(書面の作成者は国など)という規定が適用されます。
少し複雑かもしれませんが、国などとの業務委託契約書を結ぶ場合、その契約が請負契約なら、契約書の2通のうち1通に契約金額に応じた印紙が必要です。そして、その印紙を貼った契約書は国などが保管することになります。
要するに、業務委託契約書が2通あれば、原則として両方に印紙を貼る必要があり、契約の相手側によっては特例的に1通にのみ印紙が必要になることもあるのです。
ただし、単に印紙を貼るだけでは不十分です。次の項目では、貼った印紙に必要な手続きについて詳しく説明していきます。
7.印紙の入手方法
収入印紙は、郵便局や法務局、市役所などで手に入れることができます。また、コンビニや金券ショップでも販売されていることがありますが、種類や数が揃っているかどうかについては注意が必要です。収入印紙は200円や1万円などさまざまな額面があります。大きな金額や少額でも多くの収入印紙を必要とする場合は、郵便局や法務局などを利用することが良いでしょう。
8.印紙を貼らなかった場合
契約書に印紙が貼られていない場合でも、その契約自体は有効です。契約の内容には変化はありませんし、新たに契約書を作り直す必要もありません。
ただし、納税すべき税金を支払わなかった場合には、罰金が課せられます。
印紙が貼られていない場合、過怠税として印紙税額の3倍を支払う必要があります。ただし、税務調査の前に自発的に申告すると、この罰金が1.1倍に軽減されます。
また、印紙は貼ったものの消印を忘れた場合は、罰金額が2倍になります。
9.印紙税を節約する方法
印紙税を節約する方法について解説します。
契約書を1通だけ交わす
契約書の原本は1通だけ作成し、取引先に収入印紙を貼ってもらう方法があります。この原本は取引先が保管し、自社はそのコピーを保持します。ただし、コピーに「この写しは原本と同一です」というような表記があると、そのコピーも課税文書とみなされてしまうので、気を付ける必要があります。
さらに、この方法を採用する際には、いくつかの注意点があります。例えば、もし民事訴訟が発生した場合、取引先が保持している原本が有利になる可能性があることや、取引先が原本を紛失する可能性があること、取引先が収入印紙を貼らずにいることによって自社も連帯責任で過怠税を支払わなければならないリスクがあることです。
日本国外での契約
印紙税法は、その適用対象が日本国内に限られる法律です。そのため、国外で締結された契約書には印紙税が課せられることはありません。
税抜価格と消費税額を別々に表示する
2号文書において、金額の記載が110万円(税込)とされれば、印紙代は400円必要です。しかし、110万円(税抜価格100万円、消費税及び地方消費税10万円)と記載すれば、印紙代は200円となります。この違いは、契約金額として税抜価格が考慮されるからです。
電子契約
電子契約書では、自社や取引先は収入印紙を貼る必要はありません。電子契約はPDFなどの電子データを使用して成立するため、印紙税法の対象となる課税文書の作成には該当しないとされています。
10.ケーススタディ
印紙の必要性や金額を判断する際、契約が「請負」か「委任」か、さらに「継続的取引の基本契約書」に該当するかどうか、という要素が重要であり、これまで述べてきた通りです。
しかしながら、実務上は1つの契約書に請負と委任が混在しているケースがあり、判断が困難なこともあります。印紙税法においては、1つの文書内に課税文書と非課税文書の双方が含まれている場合、その文書全体が課税文書として扱われることになります。したがって、業務委託契約書が請負と委任の両方の要素を持っている場合でも、課税文書として印紙が必要です。
これらの要点を考慮して、具体的なケースごとに印紙の必要性を確認していくことが大切です。
設計業務を委託するケース
例として、住宅の設計を発注する際の状況を考えてみましょう。住宅の設計を委託するということは、設計図を作成してもらうことを意味します。設計図がなければ目的を達成できないため、「仕事の完成」が存在し、このような場合は請負契約が成立すると考えられます。
したがって、住宅の設計業務に関する業務委託契約書は、2号文書として印紙が必要な課税対象文書となります。もしこの契約書が単に設計業務に関するものであれば、単純なケースです。
注意が必要なのは、1つの契約書に「設計」と「工事監理」「調査・企画」など、性質の異なる業務が組み合わさって記載されている場合です。
設計は請負契約に該当しますが、工事監理は委任契約に該当し、工事監理のみの契約書では印紙は必要ありません。しかし、これら2つの契約内容が1つの契約書に含まれている場合、文書全体が2号文書とされます。要するに、設計と工事監理の報酬額が総額で記載されている場合、印紙税の負担が増加する可能性があるため、慎重な対応が求められます。また、調査・企画業務についても、その性質に応じて委任か請負かが異なることがあるため、印紙の必要性は税務署などに確認が必要です。
こうしたように、1つの契約書に複数の契約内容を含める場合と、各契約ごとに別の契約書を使用する場合とでは、印紙税の金額が変わる可能性があるため、留意が必要です。
11.業務委託契約書に関するQ&A
業務委託契約書に関するQ&Aについて見ていきましょう。
業務委託契約書は紙である必要はありますか?
業務委託契約は、必ずしも紙に記録する必要はありません。双方が合意すれば、電子契約でも成立します。通常、紙での業務委託契約書には印紙税が必要ですが、電子契約では印紙は不要です。
契約後に内容を変更・修正したい場合はどうすればよいですか?
契約内容を変更したり修正する場合には、「覚書(変更契約書)」を作成して合意します。覚書を作成する際、元の業務委託契約書を作り直す必要はありません。覚書を作成したら、元の契約書と共に保管しましょう。
覚書が課税文書に該当する場合、収入印紙を貼る必要があります。ただし、電子契約の場合は収入印紙は必要ありません。
単発の取引であっても、業務委託契約書を締結すべきですか?
業務委託契約書が存在しない場合、契約内容に関して相手との不一致が生じると、問題が発展する可能性があります。このため、取引が一度きりであっても、または長期にわたるものであっても、高額な取引や業務上重要な取引に関しては、基本的には業務委託契約を締結し、書面に残すことが重要です。
ただし、実際の状況によっては、業務委託契約を結ぶことが効率的でない場合もあります。そのような場合には、必要な情報を含む発注書のみを提供する方法も選択肢として考えられます。
12.まとめ
業務委託契約書を作成する際、その内容が印紙税法の2号文書または7号文書に該当する場合、印紙税法によって指定された印紙税を支払う必要があります。課税文書かどうかの判断は、契約の実際の内容に基づいて行われます。もし「課税文書かどうか分からない」という不安がある場合は、専門家に相談してみても良いでしょう。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。