AI(人工知能)技術の理解において欠かせないのが「機械学習」と「深層学習(ディープラーニング)」です。どちらも「学習」という言葉が使われておりますが、それぞれの特徴や活用方法には明確な違いがあります。
本記事では「機械学習」と「深層学習」について、基本的な仕組みから活用例までをわかりやすくご紹介します。
目次
1.AI(人工知能)とは
AIとは「Artificial Intelligence」の略で日本語の意味は「人工知能」です。
定義については厚生労働省の資料に以下のように記載されております
「大量の知識データに対して、高度な推論を的確に行うことを目指したもの」 |
引用元:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000148673.pdf
もう少しわかりやすくすると「コンピュータが与えられたデータをもとに人間に代わって知的活動(学習や理解、予測、最適化など)を行う技術」といえます。
AI技術は過去に第一次ブーム(1950年代)と第二次ブーム(1980年代)がありました。しかし、コンピュータの演算能力やデータの蓄積方法などの問題で広く普及するには至りませんでした。
時代とともに技術が進歩し、現代社会においてChatGPTや検索エンジン、自動運転やお掃除ロボットなどのさまざまな分野で活用されています。
その背景には昨今のコンピュータの演算能力向上や情報通信技術の向上によるデータ管理の最適化、先進デバイスの進化などの技術の発展があります。
2.機械学習とは
機械学習とはAI技術の1つです。データが持つルールや法則性、優先度などの基準を教えます。教えた内容をもとに与えられたデータに対して、どのような分析や判断をすればよいかを「アルゴリズム(※)」に基づいて学習させる技術を指します。
※アルゴリズムとは問題解決までの手順(計算方法や処理方法など)を指します。
モデル
「モデル」は、機械学習をする上でおさえておきたい重要な言葉です。
モデルは入力データを分析し、学習した内容に基づいた出力を行う仕組みです。モデルに対して十分な量のデータを学習させることでより精度の高いデータを出力できます。
学習済みのモデルに対して処理させたいデータを入力すると学習内容から得た判断方法をもとに出力してくれます。
モデルについて理解を深めるため「経歴から理系と文系を判別する」を例に説明します。
学習:理系と文系の経歴をサンプルデータとしてモデルに与えます。モデルはその内容をもとに経歴に含まれる学科名や就職先の名称などのキーワードをもとに、経歴からの判別方法を学習します。
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学習済みのモデルの出力結果をもとに再度学習を行い、より最適化することが機械学習の目標です。
モデルの学習には用途に応じた以下の種類があります。
教師あり学習
教師なし学習
強化学習
用途に応じたモデルを使い分けが重要です。
教師あり学習
この学習は「入力データから結果を予測させたい」という場合に使用します。
サンプルデータと、そのデータから導き出してほしい結果(答え)を与えて学習させます。学習後、データを渡すだけで答えを導き出せるようにするのが目的です。
具体例として、入力した画像が「男性」なのか「女性」の判別を行う場合で考えてみましょう。
学習:人物が写っている画像のファイル名に「男性」か「女性」かを記載して入力・学習させます。そうすることで画像の特徴と結果の関係性を学習させます。
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教師なし学習
この学習は「入力データの分類をさせたい」という場合に使用します。
先ほど解説した教師ありとは異なり、学習で結果は与えません。大量のサンプルデータを与え、共通点や相違点、傾向などを学習させます。学習後、与えたデータを分類させることが目的です。
具体例として、入力画像が犬かそれ以外か分類する場合で考えてみましょう。
学習:犬の画像と他の動物の画像を大量に与えます。そうすることで犬の画像の共通点とそれ以外との相違点を学習させます。
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強化学習
この学習は「入力データから得た結果をより最適化させたい」という場合に使用します。
これは教師ありにプラスして、モデルが出した結果にフィードバックを行い、再度結果を出力させるという流れを繰り返して、より最適な結果を導く学習方法です。
具体例として、車の安全な自動運転を最適化する場合で考えていきましょう。
学習:与えるデータは教師あり学習と同じで、サンプルデータと結果(答え)を入力します。ここでは、走行ルートのデータと、ハンドル操作を与えて学習させます。
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機械学習では活用したい事例に応じてモデルを使い分けを考えていきましょう。
3.深層学習(ディープラーニング)とは
深層学習(ディープラーニング)は、機械学習の1種類です。前述の通り、通常の機械学習では人間がサンプルデータの特徴や文字などの「特徴量※」を入力しますが、深層学習では、サンプルデータから特徴量を自動で見つけ、データを判別するための基準を導き出します。
人間の手を借りずに、自走して学習してくれるのが深層学習です。
自走を実現するのが「ニューラルネットワーク」という手法です。この手法を用いることで人間が教えなくともアルゴリズムが自力で分析・判別に必要な情報を取得ができるようになります。
※特徴量とはAI技術においてデータの特徴を数値や文字などの定量的な情報で表したものを指します。
ニューラルネットワーク
ここでは、先ほどお話したニューラルネットワークについて、より詳しく解説します。
ニューラルネットワークとは人間の脳で情報の伝達と処理を行う神経細胞(ニューロン)の仕組みを参考にして作られた学習手法です。入力データを出力するまでに複数の階層で分析と評価を行うことで人間の認識過程に近く、高い精度でのデータ処理を可能とします。
ニューラルネットワークのメリットを「犬」か「猫」かを判別する場合で考えてみましょう。
通常の機械学習では、犬と猫の判別は困難な可能性が高いです。なぜなら、機械学習は、過去に入力されたデータを参考に、輪郭や耳の形状などの似た特徴を持っているかで判断するため、犬と猫を混同してしまう可能性があるからです。
一方、ニューラルネットワークは、輪郭や耳といった一部だけでなく、全体をとらえた上で犬か猫か判断します。
このように、ニューラルネットワークを駆使すれば、機械学習では対応できなかった抽象的な判断ができる可能性があります。
4.機械学習と深層学習(ディープラーニング)の違い
前述した通り、深層学習(ディープラーニング)は機械学習の1つです。そのため「機械学習」と「深層学習」を別物として取り扱うのは適切ではありません。
そのため、本記事では深層学習と、それ以外のものを「機械学習」として扱い、違いを説明していきます。
学習方法
ここが一番のポイントになります。それぞれ解説していきます。
機械学習の学習方法
前述しましたが、機械学習では、データ入力は「人間」の役割です。学習方針や内容も人間が決めて、より精度の高い分析ができるように支援していきます。
深層学習(ディープラーニング)の学習方法
深層学習では、人間の代わりにニューラルネットワークで構築されたアルゴリズムがその役割を果たしてくれます。つまり、学習において人間のサポートは必要ありません。
どう学ぶのか、どう分析していくのかもアルゴリズムが決めるため、抽象的な内容であっても判断ができるように学習することもできます。
そして、深層学習は「教師あり」「教師なし」「強化学習」のすべての学習に応用が可能です。
メリット・デメリット
機械学習と深層学習のメリットとデメリットについて、具体的に紹介していきます。
機械学習のメリット
コストが低い
ここが最大のポイントで、深層学習のニューラルネットワークのような複雑なアルゴリズムは必要ありません。学習に使用するデータは少なくて済みます。また、処理をするためのコンピュータのスペックもその分低くなります。そのため、実用化までの時間も短縮することが可能です。
作業の時間短縮ができる
これは機械学習と深層学習の両方に当てはまることですが、学習した基準をもとに人間より短時間で最適化された結果を導き出せます。また、人間が行った際に発生するミスを減らすという面でも時間短縮に役立ちます。
深層学習(ディープラーニング)のメリット
工数の削減や作業の効率化が見込める
深層学習は人間が行う作業の減少や質の向上・効率化がメリットです。また、アルゴリズムの構築と大量のデータ処理により、時間経過とともに質が向上します。
機械学習よりも複雑な作業が可能
機械学習は人間が特徴量を設定できることが前提ですが、深層学習はアルゴリズムが特徴量を見つけるため、より複雑な作業が可能です。また、結果を蓄積して精度を高めていくため、チェスや将棋のようなゲームでAIが人間に勝つこともあります。
機械学習のデメリット
判定基準の明確化が必須
前述の通り機械学習では人間が特徴量を設定しなければなりません。そのため、少しでも抽象的な内容を含むと実用化できないこともあります。
処理過程の透明性が保てない(ブラックボックス化)
全ての機械学習があてはまるわけではありませんが、処理の過程が不明(ブラックボックス)なケースもあります。そのため、学習後の結果に間違いがあっても、途中からの修正ができず、最初からやり直しになることもあります。
深層学習(ディープラーニング)のデメリット
学習に時間がかかる
深層学習のニューラルネットワークに学習させる際、大量のデータを段階的に処理させるため、機械学習よりも時間を要します。
実用化できれば、学習に使用した以上の効果に期待できますが、時間やコストの負担はある程度想定しておく必要があります。
開発コストが高い
深層学習では複雑な処理が可能なニューラルネットワークの構築や学習用データを用意するなどの難易度が高い作業が求められます。また、ニューラルネットワークにはハイスペックのコンピュータが必須で、機材と工数の両面でコストがかかります。
大量のデータが必要
前述の通り深層学習には大量のデータが必要です。しかも、複雑な処理に比例して専門性の高いデータが要求されるため、その作業がボトルネックになることもあります。
ただ、最近ではサポートサービスや外注などもあるため、利用を検討するのも良いでしょう。
ここまでで機械学習と深層学習の違いを説明しました。それぞれが得意なことが違うため、どのように使い分けるかを考えることが大切です。
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5.機械学習と深層学習(ディープラーニング)の活用
機械学習と深層学習はそれぞれ適している分野が異なります。本章ではそれぞれの活用例を紹介していきます。
機械学習の活用例
機械学習の役割は「予測」と「分類」が主になります。活用の具体例は以下の通りです。
マーケットの需要と売上の予測
異常や故障の予測
カスタマーサービスやマーケティングでの顧客分類
マーケットの需要と売上の予測
過去の実績と在庫状況、顧客情報などの組み合わせから将来的な需要や売り上げを予測し、最適化された生産や発注による業務環境と利益の向上に役立ちます。
例えば、夏や冬の前はエアコンが売れやすい、梅雨の時期は雨具関連が売れやすいなどのわかりやすい傾向や判断基準があるため、精度の高い結果を期待できます。
異常や故障の予測
ロボットやIoT化が進んだ機器などに使用されるケースです。IoTの各種センシングデバイスから情報を収集し、過去の異常や故障の事例と照合することで異常や故障の発生前にメンテナンスを行うことができます。
それにより、生産率の安定化や不良品の減少なども見込め、コスト削減や不測の事態による損害を減らすことが可能です。
カスタマーサービスやマーケティングでの顧客分類
顧客の抱えている問題や需要を問い合わせや購入する商品の傾向などは過去のデータから分類することが可能です。そのため、顧客の困りごとや求めている商品といったニーズに合わせた満足度の高い対応を目指すことができます。
深層学習(ディープラーニング)の活用例
深層学習の役割に決まったものはありません。機械学習ではできない以下のような分野で活用されています。
車の自動運転
画像認識による認証や検査
医療診断
車の自動運転
運転中のドライバーは、目や耳を使って情報を得て、適切な判断をして安全運転をしています。これと同様に、センサーを用いて情報を取得し、安全運転に必要な判断をし運転を指せる技術です。
現状、実用化されているのはブレーキや車線キープなどのサポート機能がほとんどですが、研究では複雑な環境である街中での運転に対する実用も行われています。
これによって人間のミスによって起きる事故などを未然に防ぐことが期待できるでしょう。
画像認識による認証や検査
近年、カメラなどの技術の発展に伴い、画像から細かいデータを得られるようになりました。深層学習ではその詳細なデータを使用した学習で精度の高い識別ができます。
顔や指紋などの生体認証や画像検索などの身近なものから、以前は人間が目視で行っていた設備や製品の検査や点検などに活用されています。人間がやる場合に発生するヒューマンエラーや不規則性をなくし、統一された基準での判別が期待できます。
医療診断
これはまだ研究段階ですが、健康診断や過去の診察などデータとして学習を行い、診断のサポートにも深層学習は活用されています。血液検査やレントゲン、MRIなどの情報の組み合わせごとに判断方法を柔軟に変え、医師の負担軽減や病気の早期発見などへの発展が期待されています。
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6.まとめ
機械学習と深層学習(ディープラーニング)について紹介しました。
機械学習は人間が基準を設定できる「予測」と「分類」が得意で、深層学習は人間が基準を設定できない問題への対応が可能になります。また、この技術を活用する際にはそれぞれで必要なコストとデータに関するリスクと実用化によって得られるリターンを意識しながらの導入検討が重要です。
うまく活用して業務の効率化や製品の品質向上を目指しましょう。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。