現代の日本では多くの人たちが日々の生活の中でAIの恩恵を受けています。例えば、自動運転車が普及しつつありますが、運転手の代わりに車を制御できるのはAIが導入されているためです。さらに、お掃除ロボットや顔認証システムなどにもAIが導入されています。
また、事務作業や問い合わせ対応、製造業務などに従事している方の中には、AIによって働き方が大きく変化したと感じている方は多いのではないでしょうか。
多くの企業がAIを導入し、これまで人間が1つ1つ行ってきた作業を自動化しています。業務負担の軽減を実感している人も多いと思いますが、すべての業務がAIに置き換えられて、社内での役割がなくなるのではないかと不安に感じる人もいるはずです。
私たちの生活はAIと切り離しがたいと言えますが、AIにはできることとできないことがあるため、それらを見極めてうまく活用することが求められています。
本記事ではAIの能力を確認した上で、AIにできること、できないことを紹介します。あわせて、AI導入における問題や活用事例についても確認しておきましょう。
目次
1.AIとは?
AIとは「Artificial Intelligence」の頭文字を取った略語で「人工知能」を意味します。人間が行う知的行動をコンピューターがデータをもとに取得し、再現するものです。
AIは人間の手には負えない膨大な量のデータも短時間で解析でき、ビッグデータの分析も可能にしました。AIを活用することで業務を効率的に進められます。
AIは以下の2つに大きく分類できます。
特化型人工知能
汎用人工知能
特化型人工知能
特化型人工知能とは、特定の仕事やタスクに特化したAIを指します。特化型人工知能には人間としての感性、思考回路はありません。
限定的な領域の課題に特化して学習、処理を自動で行います。特定の課題にしか対応できないため、該当分野のみでの活用になります。
また、該当分野においても学習していない内容の事態が生じた場合は対応できません。
なお、チェスをするAIや顔を認識するAIなどが当てはまります。
汎用人工知能
汎用人工知能とは、人間のように色々なことができるAIを指します。汎用人工知能は理論上、人間のように自分で考えて行動できるとされています。
特定の問題にのみ対応するのではなく、さまざまな問題に柔軟なかたちで対応可能です。
汎用人工知能は完全には実現していませんが、一部の高度なAIシステムは部分的に実現されています。
なお、料理や掃除を行う家庭ロボットや患者の症状を診断し、治療計画や手術のサポートが行える医療アシスタントAIなどが当てはまります。
2.AIにできること一覧
AIにできることを簡単に言うと、取得したデータや学習したパターンに基づいて処理や判断を行うことです。
ここでは、AIにできること一覧を紹介します。AIにできることとして、主に以下8つのことが挙げられます。
画像認識・検索
データ分析
音声認識
自然言語処理
最適化
異常検知
単純な学習と行動
制御・実行
画像認識・検索
AIは画像や動画に含まれている人や物、文字を識別する画像認識を行えます。例えば、スマートフォンなどの顔認証システムは、AIの顔を特定する能力によって実現したものです。
また、対象物の名前が分からなくても画像検索し、特定することも可能ですが、画像検索もまたAIの画像認識能力による恩恵といえます。
帳簿入力の際に画像認識を活用することで、情報のデータ化を瞬時に行えるなど、画像認識はビジネスにおける業務負担の軽減にも役立っています。
データ分析
AIによって膨大な量のデータを短時間で分析できるようになりました。AIは販売実績や気候データなどを基にデータを分析し、精度の高い需要予測を行います。
人間の手では捌ききれない量のデータであっても、AIであればデータの取得から分析まで瞬時に行うことが可能です。
このため、過去何十年ものデータを踏まえた分析を行い、精度が高い分析結果を導き出すこともできます。また、従業員がデータ分析を行う負担も軽減されるので、人材不足の解消、残業時間の削減、人件費の削減などにもつながっています。
音声認識
AIは人の声が録音された音声データの文字変換とデータ化(音声認識)を行えます。
人間がキーボードで文字を入力するよりも音声認識の方がスピードが速く、かつタイプミスもないため、文字変換とデータ化に最適です。
また、手のケガなどによってキーボードを打てない人でも、音声認識を使えば入力が可能です。
AIによる音声認識はすでにさまざまな分野で活用されており、翻訳、議事録作成などでも利用されています。
自然言語処理
自然言語処理とは人間が話したり、書いたりする言語をプログラミング言語に変換する技術のことです。これにより、曖昧な自然言語であってもコンピューターが処理できるようになりました。
人間が入力、もしくは話した言語を、AIは自然言語処理によって変換できます。Google音声アシスタントやSiriによる音声認識には自然言語処理が活用されています。
最適化
AIは過去のデータに基づいてパターンを分析し、特定の物事について計画や方針の最適化を行えます。企業において計画や方針の最適化は数々のメリットをもたらします。
これにより、コスト削減や実施期間の短縮に成功した企業も少なくありません。一昔前は、経営層の勘に基づいて意思決定が行われることも多くありました。
しかし長年の経験に基づいた判断であっても誤ります。AIのサポートを受けることで、より正確性のある意思決定を行えるようになりました。
異常検知
AIは与えられたデータから学習し、特定の物事における異常検知を行えます。
正常と異常を確かな精度で判断でき、人間が見落としてしまうような異常も検知可能です。
AIの異常検知は主に以下のシーンで活用されています。
メールのスパムの検知
建物などへの不法侵入者の検知
食品への異物混入の検知
製造ラインにおける不良品の検知
病気の検知
AIの異常検知は製造現場や医療現場において多く導入されています。
異常検知を導入することで早期発見につながったり、事故を未然に防げたりとさまざまなメリットが得られます。また、安全性確保においても異常検知は重要な機能です。
単純な学習と行動
AIは単純な学習と行動を得意としています。
例えば、単語を認識して言語の翻訳をしたり、企業におけるルーティンワークを代替したりできます。また、文書のデータ化や、そのデータに基づいた関税の計算や書類作成も補えるため、報告書や決算書の作成時における負担を軽減できます。
ルーティンワークや頻繁に生じる業務もAIによる自動化ができるので、AIをうまく導入すれば従業員にクリエイティブな仕事や新規ビジネス案の創出に集中してもらえます。
制御・実行
AIは産業ロボットや自動運転技術に活用されています。取得したデータから特定の物事に対する異常を検知した後、制御を行って目的の遂行まで導くことが可能です。
AIの制御・実行によってハードウェアが正常に動作するための判断や、業務の適切な遂行に向けたコントロールができるようになりました。
3.AIにできないこと一覧
先述したしたようにさまざまなことができるAIですが、AIにもできないことがあります。
ここでは、AIにできないこと一覧を紹介します。AIにできないこととして、主に以下4つのことが挙げられます。
学習させていない分野の判断と実行
言葉の意図を理解した上での解釈
創造的な作業
合理的ではない作業
学習させていない分野の判断と実行
人間は学習したことのない分野であっても過去の経験に基づいて判断し、実行することもできます。また、全く未知の分野であっても柔軟に考えたり、勘に頼ったりすることでうまくいくこともあります。
しかし、AIは学習した分野の判断と実行以外は苦手としています。AIに行動してもらうには、その行動をするという判断とその判断の過程となるロジックを学習させなければなりません。
つまり、AIは人間のように学習していないロジックの判断や実行はできないのです。
言葉の意図を理解した上での解釈
AIは決まった単語や構文を学習させることで文章の生成や、翻訳が可能です。しかし、言葉の細やかな意図を汲み取り翻訳や返答することはできません。
例えば、翻訳家は文脈や作者の意図を汲み取って翻訳します。あるいは、読み手に馴染みのある言葉に置き換えることもあります。しかし、AI翻訳ではこうしたことは考慮されません。
また、言葉を発した人の意図を正確に汲み取ることも苦手とします。例えば、「検討する」という言葉には「考える」という意味と、「受け入れられない」という二通りの意味があります。
人間はこれまでの会話経験や相手との関係性、その場の雰囲気やこれまでのいきさつから意味を判断します。こうしたあいまいな表現をAIが判断することは難しいのが現状です。
創造的な作業
AIはゼロから何かを生み出すことはできません。AIはデータとデータを組み合わせて何かを創出できますが、何もないところでは創出することはできません。
例えば、近年はAIによるイラストや音楽が注目を集める機会も増えています。しかし、これらの創作物は教師データを組み合わせて作られたものです。
AIがイチから生み出しているわけではありません。
合理的ではない作業
AIとは学習したロジックに基づいて最良の選択肢で判断を行っています。事前に学習していない場合、そこに考慮されることはありません。
また、AIが不測の事態に対して柔軟に対応することは現状不可能です。
4.AI導入における問題とは?
AIを導入することで利便性の向上、、仕事や日常生活における負担軽減します。しかし、AI導入における問題点があるのも事実です。
AI導入の問題点として以下の3つが挙げられます。
膨大なコストがかかる
働く場所を失う人が増える
AIによる誤った判断やミスへの懸念
膨大なコストがかかる
AIの導入には膨大なコストがかかります。
AIの導入で人件費削減や生産性の向上により利益が高まる見込みがあるものの、初期投資費用を捻出できない企業も中小企業を中心に多く存在します。
また、AIは導入だけでなく、維持するにもコストが発生します。継続的な負担となるため、導入を躊躇している企業も多いです。
総務省「令和元年版 情報通信白書」によると、大企業では16.5%の企業がAIを活用している一方、中小企業では5.6%しかAIを活用できていません。
働く場所を失う人が増える
AI導入によって仕事が自動化すれば、これまで従事してきた仕事から別の仕事に転身しなければならない人も出てきます。
例えば、以下の仕事はAIに代替される可能性が高いと考えられています。
システム保守
経理事務
倉庫作業
電車運転士
データ入力
銀行事務
保険事務
製本作業
受付
ライター
集金人
通関士
AIの代替で仕事を失ったとしても、少子高齢化の今、働く場所はあると考えられます。しかし、年齢によっては難しく、転職に成功しても新しいスキルをイチから取得しなければならないなど苦労が予想されます。
また、仕事が見つかるまでの生活費や精神的な負担なども、考慮しなければならない問題です。
AIによる誤った判断やミスへの懸念
AIは人間以上に情報を正確に処理することもできますが、誤った判断やミスをすることもあります。
例えば、AIは分析時に大量のデータを必要としますが、データの偏りや質に問題があった場合はその結果も偏ったものになります。
また、AIは判断の全てが正しいわけではありません。AIを用いた顔認識システムのハッキングや自動運転車のセンサーへの干渉など、悪意ある操作によってAIの判断が誤る危険性があるので注意が必要です。
5.人間がAIに勝てるものはあるのか
近年、AIに人間の仕事が奪われる可能性があると指摘されています。事務職の募集や窓口スタッフの募集は少なくなり、事務作業の一部や窓口対応を自動化している企業もあります。
しかし、本記事で説明したようにAIにはできることとできないことがあります。AIはデータに基づいた対応を基本としているため柔軟性に欠けており、不測の事態への対応は難しいといわれています。
また、創造力や感情も人間のようにはなく、ゼロから何かを生み出したり、個々に寄り添ったりすることは難しいのが現状です。
このため、AIがそれぞれの感情を汲み取った接客や対応をしたり、患者に寄り添った対応をしたりすることは難しいといえます。商業施設や学校、医療業界の一部においてもAIが導入されていますが、これらの業務をすべてAIに置き換えられるとは現状では考えにくいです。
また、AIには人間のような自然な倫理観や道徳観はありません。人間は倫理観や道徳観に基づいて社会的責任を果たしたり、周囲との関係を構築したりします。
どの職業に従事するにせよ倫理観や道徳観は不可欠ですので、これらの概念がないAIには限界がある部分もあります。ただし、AIの倫理的判断能力の向上も研究されています。
6.AIの活用事例
ここまで見てきたように、AIはさまざまな業界において業務に従事する人たちをサポートしています。
ここでは、企業におけるAIの活用事例を紹介します。
大塚商会
大塚商会はAIを活用し、営業力の強化に成功しています。営業担当者にdotDataを活用したAIが最適な商談先を提案することで、同社における商談先が3倍に増え、営業活動が活発になりました。
また、蓄積した膨大なビッグデータをAIで分析し、そのデータを商談に取り入れることで、営業担当者の信頼も高まりました。顧客にとっては信ぴょう性の高い情報を得られるなどのメリットがあります。
ファミリーマート
ファミリーマートはクーガー(東京・渋谷)が開発した人型AI(人工知能)アシスタントのレイチェル/アキラの導入を各店舗において進めています。
レイチェル/アキラが各店舗の状況や店長に合ったデータを提供することで、店舗の省力化や運営力アップも期待できます。売上や客数などのデータに基づき、AIが発注のアドバイスなどを行うため、店長は自身でデータを分析したり、発注数を予測したりする手間を省けます。
さらに、同社はスーパーバイザー(SV)が担っていた業務の一部も人型AIアシスタントに代替していく方針を示しています。
オムロン
オムロンはAI分析によって金型製造の加工時間を40%削減することに成功しています。
同社は多品種少量生産が求められる中で、限られた熟練者で生産活動を行っていました。
こうした状況下、AIを活用し、作業者が五感で察知していた加工条件設定を見える化することに成功。
データの活用によって制御が自動化され、加工時間が従来よりも40%短くなりました。さらに、工具の摩耗量が20%削減し、寿命も伸びています。
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7.まとめ
多くの人たちがAIによる恩恵を享受しつつも、自身の仕事がAIにいずれ代替されるのではないかと懸念していると思います。仕事内容によってはAIに代替されるものがあるのが正直なところですが、すべての職業がAIに代替されるわけではありません。
また、AIが人間同様の水準で業務をこなせるとは限らないため、人間が手直ししたり、最終確認をしたりしなければならないこともあります。
AIにはできることも多く、人間の手に負えないことを短時間で完了することもあります。しかし、未収得の分野を判断したり、創造的な作業をしたりすることは苦手です。
社会を発展させるためにはAIに全て依存するのではなく、AIができることとできないことを見極め、うまく活用することが大切だと思います。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。