「発注」という言葉は、通常、ビジネスの文脈で用いられ、具体的には何かを注文したり、依頼したりする行為を指します。そして、「発注書」は、サービスや商品を発注する際に、取引先にその意志を明確に伝えるための文書です。
発注書を作成する際には、注文する商品の数量、金額、納期など、取引内容を正確にかつ詳細に記述することが重要です。これによって、双方が異なる理解をしないようにし、取引時の問題や誤解を未然に防ぐことができます。
この記事では、発注書の基本的な目的や留意点、効果的な作成方法について、詳細に解説していきます。発注書の正しい使用方法を理解することは、スムーズな取引を確保する上で非常に重要です。
目次
1.発注とは
「発注」という用語は通常、ビジネスの文脈で頻繁に使用され、具体的には何かを注文または依頼する行為を指します。設備、商品、サービスなどを取引先から調達するために、公式な手続きを経て依頼を行う際に使用される表現です。一般的な飲食店などで客が店員に料理や飲み物をオーダーする場合には、「発注」という語句は通常は使用されません。
このように、「発注」という言葉は、主にビジネス取引における商品やサービスの注文、あるいは特定の業務を委託する行為を指す表現として、一般的に用いられています。
2.発注書とは何か
「発注書」は、商品やサービスの依頼を明確にするために作成される文書であり、取引の申し込みを明示するために使用されています。法的には、発注書の発行が義務づけられているわけではありませんが、ビジネスの世界ではトラブルを予防し、取引プロセスをスムーズにするために一般的に採用されています。
この文書は、取引における双方の意思確認と合意形成を容易にし、透明性と信頼性を高める重要な役割を果たしています。
民法の観点から見ると、発注書の提出は契約の申し込みとみなされ、取引基本契約書が存在しない場合でも、契約内容を明示した注文書があれば契約が成立します。
発注書や契約書が存在しない場合でも、契約は書面、メール、FAX、電話、クラウド形式、口頭などのさまざまな方法で成立する可能性があります。ただし、トラブルを未然に防ぎ、取引プロセスを効率化する観点では、発注書は契約プロセスにおいて重要なツールと言えます。ビジネス取引においては、できる限り発注書を活用しましょう。
発注書(注文書)の役割
ビジネスのやりとりにおいて、発注書はさまざまな役割を果たします。以下で詳しく説明します。
・円滑な取引と不安解消
発注書は何を誰が、いつ注文したかを明確に記録するための文書です。口頭での約束だけでは、後でトラブルが発生する可能性があるため、トラブル回避のために作成されます。たとえば、「1,000個の商品を購入します」と口頭で約束したとしても、実際にその注文を履行した際に「そのような注文はしていない」と主張されるようなことも考えられます。
発注書が存在すれば、このようなトラブルを排除し、取引プロセスを円滑に進めるのに大いに役立ちます。発注書は、取引の条件などを文書化し、関係者間での誤解を防ぐための重要な書類です。ビジネス取引において、発注の際には、発注書を用いた方が良いでしょう。
・認識違いによるトラブルの防止
発注書には、注文の詳細が記載されています。具体的な商品やサービスの名称、数量、金額、納期、品質基準などが発注書に明示的に示されているため、注文内容に関する不明瞭な点が解消され、双方が同じ認識を共有できるようになります。これにより、認識違いから生じるトラブルの可能性が低減されます。
・下請代金支払遅延防止法の遵守
通常、発注書の発行は法的に義務付けられていません。ただし、下請代金支払遅延防止法が適用される場合は、発注書が必要です。この法律は、下請事業者を保護し、支払遅延からくる問題を防ぐために存在します。適用範囲は業務内容や関与する企業の資本額に依存します。
これまでに説明してきたように、発注書はビジネス取引において非常に重要な文書であり、効率的な取引プロセスを促進し、トラブルを未然に防ぐための要石と言えます。発注者と受注者、両者にとって発注プロセスを円滑に進行させ、スムーズなコミュニケーションを確保する役割を果たしています。発注書の存在は、取引の透明性を高め、契約条件や納品スケジュールなどに関する誤解を最小限に抑えることに貢献し、ビジネス取引全般において信頼性を向上させます。
発注書と注文書は法的に同じ
「発注書」と「注文書」という用語には、法的な意味での明確な違いは存在しません。両者は書類の内容や目的、発行タイミングなどにおいて基本的に同じ役割を果たします。ただし、業界や企業によって、形のないサービスや取引に対しては「発注書」、一方で形のある商品の取引には「注文書」という使い方の慣例が存在することがあります。これらの違いは通常、特定の業界内での慣習に基づいています。そのため、取引におけるコミュニケーションを円滑にするためには、企業内部や取引先との調整を行い、どちらか一方の用語を統一するか、または明確なルールを策定することが重要です。
発注書と注文書は、取引プロセスにおいて文書化された証拠として機能し、トラブル時には非常に役立つものです。どちらの用語を採用するにしても、正確かつ詳細な情報を含む文書を作成し、取引の透明性を高めることが重要です。
発注書と契約書の違い
発注書と契約書の違いは、発行主体と合意の有無です。
契約書は、双方の当事者が取引内容について合意した上で署名を行う文書です。両者の合意が契約書に明示されます。
一方で、発注書は注文を行う側(発注側)から発行されて、注文を受ける側(受注側)がそれを受け取ります。そこで、契約が成立するためには相手側の承諾が必要です。ただし、相手側が受け取った文書に同意し取引を進める場合や、双方が「発注書によって契約が成立する」という基本契約を結んでいる場合は、発注書単体で契約が成立することもあります。
発注請書の役割
商品やサービスの注文を受けた側(受注側)から注文した側(発注側)へ発行される発注請書について、主な目的と役割を説明します。
・取引内容の確認
発注請書は、注文に関する詳細情報、金額、条件などを詳細に明記した文書です。この書類により、受注側と発注側は取引の内容を明確に確認できます。
基本的には、発注書と発注請書の内容を一致させる必要があります。もし発注の際に発注書に反映されていない情報がある場合には、発注請書を作成し、新しい発注書を発行するために発注者と連絡を取る必要があります。これによって、双方の理解が一致し、円滑な取引が確保されます。
・受注の確認
発注請書は、取引の成立の意思確認を行う重要な手段です。発行された発注請書を受け取り、それを承認することで、正式な契約が成立する仕組みとなっています。このプロセスによって、双方の取引当事者は取引内容に同意し、契約の条件や納期などが確定します。
発注請書の受領と承認は、ビジネス取引における透明性と信頼性を高め、トラブルを未然に防ぐ重要なステップと言えます。
・証拠の確保
発注請書は取引についての同意の成立を証明する上で極めて重要な文書です。取引の履行に問題が生じた場合でも、発注者が発注請書を受領していれば、その取引が行われたという事実を明確に示す証拠となります。
このように、発注請書は取引における証拠としての役割も果たし、ビジネス取引における透明性や信頼性を高めるのに大いに役立ちます。
例えば、発注者がある商品やサービスを依頼し、それに対して受け手が納品やサービス提供を怠った場合、発注請書が存在すれば、取引についての同意の成立を立証する手段として機能します。発注の受け手は発注請書に基づいて取引の履行を行う責任があり、もし紛争が生じた場合、発注請書がその紛争を解決する材料として活用されます。
取引において証拠を確実に残すことは、トラブルの未然防止に大いに寄与します。ビジネス取引はさまざまな要素や条件がからみ合うため、双方が合意した内容を文書として残すことは、ビジネス関係者の信頼性を高め、トラブルを最小限に抑える助けとなります。そのため、発注請書はビジネス取引において有用なツールの一つと言えます。
3.発注業務の手順
通常、発注書は取引の前段階に発行される見積書に基づいて発行されます。受注側が事前に提出した見積書の内容や金額に発注者が合意し、その後発注書が作成・発行されます。
この段階で双方が合意することで、取引の透明性が確保され、取引内容についての誤解や不一致を防ぐことができます。したがって、発注書は取引の正式な開始を示すものであり、見積書との整合性が重要です。
以下では発注業務の手順について説明します。
見積もりの依頼
発注者は、商品の注文や仕事の発注を行う前に、受注者に見積もりを依頼します。この段階で、取引内容や数量、金額、納品日などを交渉し、双方が合意したら受注者が見積書を返送します。
契約が成立した後に、見積もり段階で決めた内容を変更することが難しい場合もあるため、注意深く調整しておくことが重要です。
発注のプロセス
発注者と受注者が見積書の中身に合意すれば、正式に発注が実行されます。
企業や取引の性質によっては、発注書を発行しない場合もあります。
発注書を発行する場合は、見積書と同じ内容や金額にしなければなりません。ただし場合によって、一部の項目が異なることもあるので、締切日などの記載に漏れがないかを事前に確認することが大切です。
商品の検品
商品やサービスが納品されたら、検品が行われます。この検品作業では、提供されたものに問題がないか、破損や不良がないか、そして注文書の内容と一致しているかを調べます。もし問題があれば、速やかに受注側に連絡し、問題の解決を図ります。
対応が必要な場合、時間がかかることもあるため、検品は納品後できるだけ早く行うのが良いでしょう。
支払い処理
検品が合格で、納品された商品に問題がないことが確認されたら、受注側は自身が作成した請求書に対して支払い手続きを行います。
支払い方法は取引先によって異なり、場合によっては未払いの請求書を調整する必要があることもあるため、事前に受注側と相談して確認しておくべきです。
4.発注書に必要な項目
発注書には、特定の書式が定められていません。一般的な発注書(注文書)の記載内容を紹介します。
書類タイトル
文書の冒頭に「発注書(注文書)」というタイトルを大きく表示して、受け取った相手が書類の種類をすぐに把握できるようにします。
交付先(受注者名)
発注する相手の名前や会社名を書きます。相手が個人の場合は名前の後に「様」を、会社の場合は会社名の後に「御中」と記載します。
発行番号と発注日
発注番号は、同じ契約に関連する書類には、他の書類と同じ番号を使います。これにより、書類の管理が簡単になります。将来、取引先からの問い合わせがあった場合にも、番号を確認してすぐに対応できます。
発注日は発注書を発行した日を記入します。
件名
注文する仕事の名前を書きます。簡単に理解できる名前を使い、略語や通称はできるだけ避けます。
発行元情報
発注する会社の情報を記入します。これには、会社名、住所、担当者の名前、連絡先などが含まれます。
押印は義務ではありませんが、正式な取引を示す印章があれば、受ける側にとっても安心感を提供できます。詳しくは後ほど説明します。
納期・支払条件・有効期限
発注した商品の到着予定日、支払い条件、そして発注書の期限を書きます。(発注書の期限は必ずしも必要ではありません。)
到着予定日は商品を受け取りたい日付なので、記載しておくと良いでしょう。
発注金額
受け取る人がすぐに理解できるように、小計、税金、総額と同じ金額を記載します。総額は、テキストを大きくし、太字にして強調することで、視覚的に分かりやすくなります。
発注内容
商品の名前、色、サイズ、数量など、細かい情報をできるだけ具体的に書きます。これにより、商品を受け取ったり検品したりする際に、確認がしやすくなります。
小計金額・消費税・合計金額
小計の部分には、税抜き金額を書きます。消費税の部分には、計算された消費税額を書きます。
そして、合計金額の欄には、小計と消費税を足してできる金額を記入します。見積もり金額と注文金額が一致していることを必ず確認して記入しましょう。
備考
重要なポイントがある場合、それを備考欄に書きます。
発注書のテンプレートを事前に作成しておくと、何を書くべきか漏れが少なくなり、ミスも防げます。通常は発注者が発注書を作成しますが、発注者が発注書の作成に不慣れな場合などは、受注者が作成しても問題ありません。したがって、発注書のテンプレートをあらかじめ用意しておくことがおすすめです。
5.発注書の送付方法
発注書を送る方法は通常以下の通りです
郵送
メール
FAX
取引先から具体的な指示がない場合、メールで送付することをおすすめします。メールはコストが低く、発注書を最速で届ける方法です。もし取引先が紙の発注書を必要としている場合は、FAXで送る方法も効果的です。取引をスムーズに進めるために、速やかに書類を送付することが重要です。
6.発注書の保管義務
発注書は法的な帳票とみなされ、税法により一定期間保存する必要があります。保存期間は個人事業主と法人で異なり、個人事業主の場合は通常5年間、法人の場合は通常7年間です。
規定された期間内にファイリングなどの方法で書類を保管しておくことが重要です。電子取引の場合も、電子データを保存する必要がありますので、注意が必要です。
発注書を保存しないことによるデメリット
会社の注文書や帳簿を捨てずに保管しておかないと、税務署が調査した際に、購入したものを証明できないため、税金の追加払いが後から請求される可能性があります。
フリーランスの場合、仮に税務調査があった場合に、帳簿書類を提出できないと、青色申告できないことになります。青色申告には、通常、外注費用の申告も含まれます。そのため青色申告特別控除を受けられなくなると、追加の税金を支払わなければならない可能性があります。
また、消費税を支払うフリーランスの場合、必要な購入に関する帳簿書類がないと、支払う消費税額が増えるケースもあります。
電子データでの保存について
情報の保存方法として、「紙での保管」以外に、「電子データでの保管」も認められています。
発注書を電子データでやり取りする場合、それは電子取引に該当し、その際には「電子帳簿保存法」に定められた条件を守る必要があります。2022年の電子帳簿保存法の改正により、電子取引で生成されたデータは、発信者と受信者の両方が原本を7年間保管する義務が課せられました。
7.発注書に印鑑は必要か?
発注書に印鑑や社印がなくても、発注書の効力は変わりません。つまり、発注書には必ずしも印鑑を押す必要はありません。ただし、発注書には取引内容、数量、金額、納期など重要な情報が含まれています
したがって、会社が公式な書類として認識されるように、印鑑を押しておくことは受け手にとって安心感をもたらします。
一般的に、印鑑を押す場合は発注元情報の右側に押印するのが一般的です。
8.発注書(注文書)に印紙は必要か?
発注書は通常、課税文書に含まれず、一般的には収入印紙を貼付する必要はありません。
発注書は、申し込みの意思を示す文書であり、契約の提案を証明できますが、契約が完了したことを確認するものではありません。単に発注書を発行しただけでは、法的に課税対象とは見なされず、そのため収入印紙は不要です。
ただし、発注書が課税文書であるかどうかは、文書の形式ではなく、内容に基づいて判断されます。たとえば、「発注書」という名前の文書でも、その内容が実質的に請負契約書である場合、それは課税対象とみなされ、収入印紙が必要になります。したがって、文書の実際の内容に留意することが大切です。
9.発注書(注文書)についての注意点
この章では発注書を作成する際の重要なポイントをお伝えします。
発注書と見積書の一致を確認する
発注書作成後、受注者から受け取った見積書と一致しているかを確認してください。
発注書・見積書間で不一致があると、どちらが正しいか分からなくなり、問題が生じる可能性があるため、必ず確認しましょう。
金額と納期の確認
発注書には数量、金額、納期などの項目がありますが、これらを送る前に注意深く確認しましょう。
誤った情報で発注すると、計画通りの作業ができなかったり、不要な在庫を抱えることになり、企業にとって大きな損失につながる可能性があります。また、発注先との信頼関係も悪化するおそれがあるため、発注書は社内で必ず確認してから送りましょう。
さらに、下請法第2条第2項では、支払い期限を納品日から60日以内にすることが規定されています。60日を超える支払期限を記載することは法律に違反することになるので、納期や検収とは別に、支払期限を守ることが重要です。
メールでの発注書送付に関する留意点
発注書は信書とみなされ、法律で指定された方法で送付しなければなりません。日本郵便や国が承認した信書便業者だけが信書を送ることができます。メール便などの方法では送ってはいけません。信書を他の方法で送ると法律違反となり、懲役刑が最大3年または最高300万円の罰金が科される可能性があるため、必ず事前に正しい郵送方法を確認してください。
下請法に関する違反の罰則
下請法が適用される取引では、親事業者(発注者)は下請事業者(受注者)に発注書を提供する義務があります。親事業者が下請代金支払遅延等防止法に違反すると、公正取引委員会から勧告を受ける可能性があったり、罰則が科されることがあるので、注意が必要です。
メールで発注書を送信する場合の要件
発注書を電子メールで送信する場合、単に携帯電話のメールで送るだけでは、電子的な記録が下請事業者のファイルに記録されないため、下請法で要求されている電子的な記録提供の要件を満たしません。
また、下請事業者がウェブブラウザで電子的な記録を閲覧しただけでは、それが下請事業者のファイルに保存されるわけではありません。必要なのは、下請事業者のコンピュータにファイルが適切に送信され、そしてファイルに記録されることです。
下請事業者が閲覧した情報を別途メールで送るか、ウェブサイトにファイルのダウンロード機能を提供するなど、下請事業者がファイルに記録できるような措置を講じる必要があります。
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11.まとめ
この記事では、発注書の利用方法や必要事項について詳しく説明しました。発注書を発行することは法的な義務ではありませんが、仕事を委託する意図を明確に相手に伝える手段として非常に有用であり、潜在的なトラブルを未然に防ぐ役割を果たします。
同時に、仕事を引き受ける側にとっても、発注書の存在は信頼感を醸成し、安心感を提供します。
初めての営業業務では、さまざまな書類が関わるため、それぞれの書類の目的や使い方を理解するのは難しいかもしれません。
しかし、書類の意味を理解することで、営業プロセスをスムーズに把握できるようになります。相手にとって発注書が信頼性の証となるよう、書類の適切な使用方法を学ぶことは、貴重なスキルの一環です。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。