所得税の予定納税とは、所得税の納税額がある金額以上になる見込みのある方が、税金を事前に支払うシステムです。
予定納税を行う必要があるのは、前年の所得税納税額が15万円以上だった方であり、その3分の2を予定納税額として支払います。
予定納税は7月と11月に行われ、これら2回にわたって納税額を分割して支払います。予定納税を忘れると、高い利率の延滞税が請求される可能性があるため、注意が必要です。
この記事では、予定納税の対象者や納付方法、予定納税の支払いが難しい場合の対処法などについて詳しく解説します。必要な情報を分かりやすくお伝えしますので、是非ご参考にして下さい。
目次
1.所得税の予定納税とは
所得税の予定納税とは、所得税の金額がある一定額以上になる見込みのある方が、所得税を前払いする制度です。この制度は、確定申告時に一度に支払わなければならない所得税を軽減し、納税者の負担を分散させることを目的としています。
予定納税の対象者
予定納税の対象者は、前年の確定申告で申告した納税額が15万円を超える方です。税務署からは、予定納税の対象となった場合、その年の6月中旬に通知が届きます。
予定納税の金額
通常、予定納税額は前年の所得税額の2/3とされますが、所得の種類や災害減免法の適用を受けている場合は異なる基準が適用されます。
予定納税の納税時期
予定納税は7月と11月の2回に分けて行われます。これらの期間には前年の申告納税額をもとに計算した概算額を納付します。もし納税した年の所得が前年と比較し、大幅に減少した場合は、翌年の確定申告時に納めすぎた分が還付されます。
予定納税する方法
予定納税の方法は、振替納税(口座引き落とし)と自己納付の2つに分けられます。振替納税を利用する場合は、納付期間の前日までに十分な残高があるか確認しましょう。
自己納付の場合は、いくつかの方法があり、e-Taxを利用したり、クレジットカードやスマホアプリを使ったり、コンビニや金融機関での納付も可能です。納税証明が必要な場合は、納付した際の領収書を所轄の税務署に持参する必要があります。
これらの方法から、自分に合った納付方法を選択することが大切です。
予定納税のメリット
予定納納には以下のようなメリットがあります。これらのメリットを事前に理解しておきましょう。
税金の納付負担を分散できる
予定納税では、1年分の納税額を分割して支払うことができます。これにより、納税者は税金の支払いにかかる負担を分散させることができます。
還付加算金の利息を受け取れる場合がある
予定納税では、還付加算金という金利の高い利息を受け取ることができる可能性もあります。
予定納税は、あくまで予定している税金を仮払いで前納する制度ですので、実際の税額が予定納税額よりも少なくなる場合があります。その場合、翌年の確定申告の際に、還付加算金を受け取ることができる場合もあります。
2.予定納税の減額申請
予定納税は、通常前年度の所得税額などをもとに計算されるため、売上高や経費が年ごとに変動する事業では、税金を過剰に前払いすることがあります。
たとえば、業況不振が続いたり、災害に遭遇したり、所得控除が前年度と大幅に変わる場合など、様々な理由で予定納税の額が実際の所得に比べて大きくなる可能性があります。そのような場合には、予定納税の額を適正な水準に調整するために、減額申請の制度が設けられています。
6月末時点で所得税の見積もりが予定納税基準額よりも少ない場合は、7月15日までに税務署長に「予定納税額の減額申請書」を提出します。承認されると、予定納税額が減額されます。
また、11月末の第2期分の予定納税額だけを減額するためには、11月15日までに同様の減額申請を行います。この場合は、10月末時点での所得税額を見積もることになります。減額申請が承認されると、予定納税額が適正な金額に調整されることになります。
3.未納の場合は延滞税がかかる
所得税の予定納税は納付の通知を受けた人に納税義務が発生します。予定納税は税金を前もって支払うことであり、納付期限を過ぎると罰則があります。支払いを忘れたり遅れたりすると、延滞税が発生してしまいます。延滞税とは、税金の支払いを遅らせた分に対して課される延滞利息のようなものです。
延滞期間が2カ月以下の場合、通常の税率よりも低い税率が適用されます。具体的には、年7.3%を「延滞税特例基準割合」と呼ばれる数値によって計算し、さらに1%を加えた金利が適用されます。令和4年の延滞税特例基準割合は年2.4%です。
一方、延滞期間が2カ月を超えると、年14.6%を「延滞税特例基準割合」と呼ばれる数値によって計算し、さらに7.3%を加えた金利が適用されます。令和4年の延滞税特例基準割合は年8.7%です。
「延滞税特例基準割合」とは、銀行の短期貸出約定の平均金利から計算される割合であり、前年の11月30日までに財務大臣が告示するものを指します。
延滞税は高い利率が適用されるため、納付のタイミングや減額申請のタイミングには細心の注意が必要です。適切な手続きを行い、遅れや忘れを防ぐようにしましょう。
4.予定納税で払い過ぎた場合
予定納税で支払った所得税額が実際の本年の所得税額よりも多い場合、確定申告を行うことで、余分に納めた所得税が返金されます。
予定納税と実際の所得税額の計算例を見てみましょう。例えば、2022年の所得税が60万円、2023年の所得税額が30万円だったとします。
予定納税では、2023年分の確定申告で計算される前に、40万円を先に納付します。
しかし、2023年に業績が大きく悪化したため、実際の所得税の金額は30万円だったとします。この場合、予定納税で納めた40万円の方が実際の納税額(30万円)よりも10万円多くなっています。
予定納税の金額が実際の納税額よりも多かった場合、2023年分の確定申告では所得税の追加納付は不要で、10万円分の返金を受けることになります。
状況によっては追加加算金を受け取れる場合も
予定納税は前年度を基準とするため、実際の所得税納税額は予定納税額よりも少なくなり、確定申告により返金される場合があります。
もし返金される場合、翌年の確定申告の際に、返金額に加えて「還付加算金」と呼ばれる金利を受け取ることができます。この金利の特筆すべき点は、その高さです。金利には次のいずれか低い方が適用されます。
年7.3%
年「還付加算金特例基準割合+1%」
令和4年は年0.9%です。
銀行の定期預金の金利が0.001%〜0.3%などと低い水準であるのに対し、年0.9%の金利は大きなものと言えます。そのため、資金に余裕がある場合は、所得税納税額が減少する予定であっても、減額申請をせずに後に還付加算金を受け取るという方法も有益です。
5.納税準備預金も利用できる
納税準備預金とは、納税用に資金を専用口座に預ける制度であり、通常は納税時にのみ引き出すことができる口座です。忙しいフリーランス(個人事業主)などにとって、予定納税を忘れて延滞税を支払うことを防ぐために、納税準備預金がおすすめされます。
この制度には、預金利息に対して通常課税される20.315%(所得税15.315%、住民税5%)が免除されるメリットがあります。また、銀行によっては高い金利が設定されている場合もあります。
さらに、別の口座を作ることで資金管理がしやすくなり、予定納税の通知を受けたときに急ぐ必要がなくなるなど、さまざまな利点があります。
6.予定納税の仕訳と勘定科目
予定納税は所得税等の支払いであり、経費として計上することはできません。会計仕訳においては、基本的には事業主勘定を利用します。
予定納税の支払い方法には現金での支払いや預金からの支払いがありますが、確定申告において所得税を租税公課として計上しないのと同様、予定納税も経費にはなりません。したがって、現金や普通預金から支払った場合は、「事業主貸」の勘定科目を使います。
例えば、7月20日に第1回目の予定納税80,000円を事業用の普通預金口座から支払った場合、次のような仕訳を行います。
借方:事業主貸 80,000円 | 貸方:普通預金 80,000円 | 適要:第1回目予定納税支払い |
一方、予定納税額につき、プライベートの現金や事業と関係のない預金から支払った場合は、仕訳は必要ありませんが、確定申告の際の根拠資料として支払った証拠を保管しておく必要があります。ただし、事業用の小口現金や事業用の口座から支払った場合には、仕訳として「事業主貸」を使います。
7.予定納税の注意点
通常、所得税の予定納税は会社員の方には関係がありません。なぜなら、会社員は給与所得者であり、源泉徴収という形で所得税が給料から差し引かれているためです。給与所得者は原則として確定申告を行う必要がないため、予定納税の対象外です。
ただし、会社員であっても副業を持っている場合、その副業で給与・退職所得以外の所得が20万円を超えたり、年間の給与が2,000万円を超える場合は、確定申告の義務が生じ、予定納税の対象となることがあります。このような場合は、予定納税に注意する必要があります。
予定納税においても、納付すべき税額が期限までに納付されない場合は、本税と合わせて延滞税が追加されます。特に初めて予定納税や中間申告をする方は、納付期限を事前に確認しておくことが重要です。延滞税は2ヶ月以上延滞すると税率が上昇するため、気づいたら早めに支払うように心掛けましょう。
また、振替納税を利用している場合は、税額が確定すると指定した口座から自動で引き落とされます。振替納税を利用していてクレジットカード納付を希望する場合は、所轄の税務署に連絡し、自動振替がなされないように相談してください。
8.まとめ
予定納税は、前年の納税額に基づいて自動的に設定されます。しかし、もし所得額が前年より大幅に減少するなど、所得税額が大きく変わる場合は、減額申請を行うこともできます。
ただし、減額申請には期限があります。また、納税を忘れてしまった場合は、延滞税が増える可能性があります。予定納税の対象になった場合は、納税期限だけでなく、減額申請の手続き期限も事前に確認し、期限前に必要な手続きを行いスムーズな納税手続きを行いましょう。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。