フリーランスとして働いていて一定の利益が出てきたので法人化(法人成り)を検討しているけれど、「法人化って具体的に何をすればいいかわからない」と悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。
利益が増えてきたタイミングで節税を視野に入れることは重要です。また法人化することで「対外的信用力の向上」など多くのメリットがあります。しかし、手続きや費用面で考慮すべき点も少なくありません。
そこで本記事ではフリーランスが法人化するメリット・デメリットに加え、会社設立のための具体的なステップや必要な手続きについて紹介します。この記事を読むことで法人化に必要な内容を一通り理解でき、法人化すべき適当なタイミングや法人化後のステップまで検討できるようになります。ぜひご一読ください。
目次
1.フリーランスと法人の違い
フリーランスと法人の最も大きな違いの一つは法務局に登記が必要かどうかです。法人は法務局に設立登記をして法人格を得る必要があります。設立には一定の資本金の準備も必要となるため、ハードルが高くなっています。
一方フリーランスは個人として事業を行う人のことで法務局に設立登記をする必要がなく、資本金の準備も不要です。そのため、法人に比べて開業のハードルは低いです。その他にも税制など、フリーランスと法人にはさまざまな違いがあります。
合同会社と株式会社について
法人を設立する際には、通常「合同会社」と「株式会社」のどちらかが選ばれます。この2つの違いは以下のとおりです。
【合同会社】
設立費用は約10万円程度
株式を通じた資金調達ができない
設立にかかる手続きや費用は株式会社よりも少ない
【株式会社】
設立費用は約22万円程度
株式を発行して資金調達ができる
会社の規模を将来的に拡大させたい場合に向いている
どちらの会社形態も設立には2週間から1ヵ月程度かかります。合同会社は設立にかかる手間や費用が少ないため、自分1人で運営する小規模な事業や費用を抑えたい場合に選択されることが多いです。
会社形態は後で変更することも可能です。最初は合同会社を設立し、後で「株式による資金調達を考える」という場合は後から株式会社に変更することもできます。
2.フリーランスが法人化で得られるメリット
会社員から独立した方であれば、経費計上できる項目が増えるなど会社員時代とは異なるフリーランス特有のメリットを実感している人も少なくないでしょう。
自身で起業し法人化した場合に得られるメリットとはどのようなものか、一緒に見ていきましょう。
節税効果が期待できる
フリーランスの場合課税所得が900万円以下であれば所得税は23%、900万円を超えると33%、1,800万円を超えると40%、4,000万円を超えると45%と課税率は上昇していきます。
法人化すると支払う税金が法人税に変わります。法人税の場合比例税率(固定税率)が適用され、最高税率は23.2%にとどまります。つまり法人税では課税所得が増えてもそれを超えて税率が上がることはありません。さらに資本金1億円以下の中小法人なら、課税所得800万円以下の部分に対して15%の優遇税率が適用されます。
所得税は収入から経費を差し引いた課税所得が多いほど所得税率も高くなる累進課税制度のため、高収入の人ほど手取りが増加した場合に悩むことになります。
役員報酬を経費に計上できる
法人化すると給料・役員報酬・退職金も経費に計上できるようになります。ただし不当に高い報酬や退職金は認められないため、注意が必要です。
フリーランスの場合事業費用と生活費の区別が曖昧になり、「生活費にどれだけ使えるか不明確」といった状況になりがちです。しかし法人化すると給与の支払いが発生するため、資金を明確に分類しやすくなります。また法人では役員報酬を経費にできるだけでなく、給与所得控除も利用できるため節税効果が期待できます。
役員報酬とは取締役・監査役などの役員に支払われる報酬のこと、つまり役員の給与を指します。役員報酬は株主総会で決定され毎月一定額が給与のように支給されるのが通常です。
給与は雇用契約があることが前提であり、雇用契約のない役員に対する給与は報酬と呼ばれます。従業員の給与は全額損金に算入できますが、役員報酬については不正を防ぐために会社法や法人税法で厳しい規定が設けられています。
消費税の納付が2年間免除される
フリーランスであろうと法人化した場合でも、課税売上高が1,000万円を超えると消費税を支払う義務が生じます。
ただし法人化後の最初の2年間は、資本金が1,000万円未満であれば消費税の納税が免除される可能性があります。同様に個人事業主として起業してから最初の2年間も、課税売上高が1,000万円を超えていても消費税の支払いが免除されることがあります。フリーランスから2年後に法人化すれば、さらに2年間消費税が免除される可能性があります。合計で4年間消費税が免除されることもあります。
この2年間の消費税免除期間は法人化の適切なタイミングを判断する際の指標として役立ちます。ただしフリーランスや法人化後の状況によっては、特定の条件を満たしている場合でも消費税の免除が適用されないことがあるので注意が必要です。
経費の幅が広がる
フリーランスと同様に法人でも事業に関連する支出は経費として計上できますが、法人の場合は経費の範囲がより広くなります。たとえば社宅を借りることで自宅の家賃の一部を経費として計上できるほか、生命保険料・日当なども経費として処理できます。これにより法人所得を減らすことができ、節税の機会が増えます。
長期間にわたって欠損金の繰越控除を受けられる
経営が赤字になった場合は、通常その赤字を翌年以降の事業所得と相殺することができます。フリーランスの場合この繰越期間は通常翌年から3年間ですが、法人の場合は翌年から最大で10年間まで繰り越すことができます。
赤字が大きい場合、繰越控除を受けられる期間が短いと欠損金を完全に相殺できない可能性があります。そのため、法人化することで節税効果を高めることができます。
社会的信用を獲得
フリーランスと法人との大きな違いの一つに「社会的信用」があります。
法人化すると銀行からの融資を受けやすくなったり、事業に対するさまざまな助成金を受け取りやすくなったりすることがあります。また法人化することで規模を拡大する際に人材を集めやすくなるなど、事業拡大の面でも多くのメリットを感じることができます。
取引企業を増やし事業を継続的に拡大していきたいと考えているなら、法人化することは大きな利点となるでしょう。
社会保険に加入できる
フリーランスは国民健康保険と国民年金に加入できます。しかし法人化すると本人だけでなく従業員も社会保険(厚生年金や健康保険)に加入することが可能です。社会保険に加入することで、自営業者が加入する国民年金よりも将来受け取れる年金額が増える利点があります。さらに求人を出す際に「社保完備」と記載することで、応募者の反応が良くなることが多く、採用面でのメリットもあると主張する経営者が多いようです。
有限責任にできる
仕事で発生した負債を有限責任にできるのも、フリーランスから法人化する際の大きなメリットの一つです。
フリーランスの場合経営が悪化して借入金や未払いの税金が返済できない場合は、個人資産から返済する必要があります。
しかし法人化すれば、経営が困難な場合でも個人としての返済義務はありません。ただし金融機関から借入を行う際に自らが連帯保証人となる場合は、フリーランスと同様に返済義務が発生するため注意が必要です。
決算期を選べる
フリーランスの場合、決算期は12月に固定されており自分の都合で変更することはできません。また、確定申告と納税は毎年3月15日までに行わなければなりません。しかし法人の場合は決算期を自由に設定でき、後から変更することも可能です。税金の支払いが資金繰りに負担を与えないように、決算期を調整する法人も多く見られます。
3.フリーランスが法人化する際に注意すべきこと
ここまでフリーランスが法人化する際のメリットについて見てきました。節税効果や経費計上の幅が広くなるなど、法人化によって得られるメリットは多々あります。しかし法人化に伴う費用など、注意が必要な点もあります。
この章では法人化を検討する際に事前に知っておくべき注意点をご紹介します。
設立に費用と時間がかかる
法人化する際は法務局で設立登記申請を行う必要があります。株式会社の場合には登記費用と印紙代で約24万円がかかります。さらに必要な書類を準備し、出資金を用意するなどの手続きにも時間がかかります。
必要な書類は国税庁のサイトなどからダウンロードでき、手続き方法を解説した書籍も多数あります。司法書士・行政書士・税理士に手続きを依頼することも可能です。その場合は追加で約10万円の費用が発生することを事前に理解しておきましょう。
会社が赤字でも法人住民税の均等割を支払う
フリーランスには存在しない税金の一つとして法人には所得に関係なく、最低でも毎年7万円ほどの法人住民税の均等割を支払う義務があります。
社会保険料の支払い義務
法人化した場合、本人を含めて加入要件を満たす全従業員の社会保険への加入を義務づける必要があります。 社会保険料は半分を本人・従業員が負担し、残りの半分を会社が負担します。
登記可能な事務所が必要である
設立登記には所在地を記載する必要があり、法人の場合は必ず本店を用意しなければなりません。 自宅を所在地にすることもできますが物件の用途に制限が多いことや、住所が外部に知られるというデメリットがあります。 また登記ができない物件もあるため、事前に必ず大家さんに確認することが重要です。
会計や事務手続きの増加
フリーランスは、税務処理を税理士に委託することもありますが、経理は自らを行うことも少なくありません。
法人化すると経理業務はより複雑化し、社会保険手続きや事務作業にかかる手間も増えます。これらの業務を1人で遂行するのは難しくなるため、税理士などに依頼するか事務スタッフを採用する必要が生じるのが通常です。
一部の交際費が損金算入されない場合がある
個人事業主は通常事業に関連する交際費をすべて経費として計上することができます。
しかし法人の場合は、飲食費についてのみ50%が経費として認められ年間800万円が上限となります(資本金1億円以下の企業の場合)。したがって多額の交際費を使っている個人事業主が法人化する場合や資本金が1億円を超える場合には、経費として計上できる交際費が減ることに留意する必要があります。
株主総会などの設置が必要
法人を設立すると個人事業主のように自由な意思決定ができるわけではなくなります。法人としての重要な決定は株主総会などの機関で行わなければなりません。
たとえ株主が1人であっても基本的には最低限株主総会を開催し、招集通知や議事録の作成および保管することが必要です。
4.法人化する最適なタイミング
フリーランスが法人化を検討する際、最適なタイミングがいつなのか見極めるのが難しいケースもよくあります。 そこでこの章ではフリーランスが法人化するのに最適なタイミングについて詳しくご紹介します。
個人事業の所得が800万円を超えたとき
フリーランスとして所得が800~900万円程度ある方は法人化するのがよいとされています。
所得が800万円の場合だとフリーランスの税率は23%ですが、中小法人の法人税の税率は15%となります。 控除を考慮しても、法人化した場合の納税額が低く抑えられます。
所得控除・他の収入の有無・法人化後の報酬額などによって変動する可能性があるため、所得が700万円を超えるようになった時点で、専門家に相談して法人化の可否を検討してみると良いでしょう。
売上高が1,000万円を超えたとき
フリーランスの事業収入が1,000万円を超える場合にも法人への移行が推奨されます。
売上高が1,000万円を超えると通常2年後から消費税が発生しますが、法人化により最長2年間は免税の恩恵を受けることができます。 法人化に伴う費用と直近2年間で支払う消費税を比較すると、前者の方がコストを抑えられるのが通常です。
ただし資本金が1,000万円以下の法人は初年度から消費税を支払う必要があることに注意してください。
事業の拡大を考えているとき
事業の拡大や新規事業の立ち上げを考えていて、資金調達が必要な場合にも法人化を検討すべきです。法人化により社会的信用が高まるため、資金調達のための融資などを受けやすくなります。より広範囲なビジネス展開を望む場合には、法人化を積極的に検討してみることをお勧めします。
5.フリーランスが法人化する流れ
この章では法人化の手続きを把握するため詳しく説明していきます。株式会社を例に説明します。
会社概要の決定
フリーランスが法人化する場合に、まずは会社の概要を決定するのが通常です。この段階で、以下の事項を最低限決めておく必要があります。
事業目的
商号
本店の所在地
資本金の額
発起人(出資者)
各発起人の出資額
発行可能株式総数
設立時に発行する株式の数
株式譲渡制限の有無
公告の方法
事業年度
設立時の取締役や代表取締役など
これらの事項は後に定款に記載される要素となりますので、しっかりと明確に定めておくことが重要です。
【任意】会社用の実印作成
通常、会社設立時には一般的に以下の印鑑が必要とされます。
代表者印(実印)
銀行印
角印
ゴム印
商業登記に実印が必要でしたが、令和3年2月15日以降オンラインで登録申請を行う場合は印鑑の提出は任意となりました。
定款の作成・認証
「定款」とは、決定した会社の概要を文書にまとめたものです。会社の基本的なルールや規定を明示したものと考えていただければ理解しやすいでしょう。
株式会社の場合には定款を作成した後、公証役場で定款が法令に基づいて作成されたことの証明を受けます。これを「定款の認証」といいます。以前は、書面による定款が一般的でしたが、PDF形式の電子定款も認められるようになりました。電子定款を利用すると印紙代4万円がかからず、会社設立時の費用を抑えることができます。
資本金の払い込み
発起設立の場合には発起人が、募集設立の場合には出資者全員が発起人または設立時取締役のうちの1人の銀行口座に出資金を振り込みます。この際に振り込まれた金額が「資本金」となります。資本金の振り込みは定款の認証を受ける前でも問題ありません。
会社設立の必要書類を準備
次に会社設立の必要書類を準備します。登記を行うには登記申請書を作成して、定款・資本金の払込証明書や役員の就任承諾書などの必要な書類を法務局に提出する必要があります。
登記申請書の内容は商業登記法で定められており、この法令に適合していない場合には申請は却下されます。
全ての会社に必要な書類
登記申請書
登録免許税の収入印紙を貼付した台紙
登録すべき事項
定款(紙または電子定款)
取締役の就任承諾書
払込証明書
印鑑(改印)届出書
場合によっては必要となる書類
発起人の決定書
代表取締役の就任承諾書
監査役の就任承諾書
取締役全員の印鑑証明書
会社設立登記
会社の設立日は通常は法務局に登記申請書を提出した日となります。登記が完了すると登記完了証が交付されます。登記完了証が交付され登記事項証明書・印鑑証明書・印鑑カードが取得できるまでには、登記申請書を提出してから1週間から2週間ほどかかるのが通常です。
6.フリーランスが法人化して後悔すること
ここまでで法人化の手順について具体的なイメージができたことでしょう。
しかし法人化には後悔の可能性もあります。実際法人化したフリーランスの中には「予想外の問題が発生した」「もっと違う方法で進めるべきだった」と後悔する人もいます。
そこでこの章ではフリーランスが法人化して後悔しがちなことについて紹介します。
将来的に発生しうる問題について事前に把握しておけば適切な対策を講じることができ、失敗を回避することができるでしょう。
法人化前や直後に後悔したこと
法人化について後悔することは、立ち上げ前や直後にもあります。具体的に後悔として想定される内容としては以下が挙げられます。
定款の内容を軽率に決めてしまい、後で修正のために費用がかかった。
独断で届出書類を作成し、後から税金面で損をすることに気づいた。
設立申請の手続きを一人で行った結果、業務に支障が出るほどの手間がかかってしまった。
設立費用の補助金の存在を知らず、損をしてしまった。
設立時に必要な書類や手続きは多岐にわたります。一人で行おうとすると手が回らず、知識不足で失敗する可能性もあります。上記のような後悔を避けるためにも、適切なサポートや情報収集が不可欠です。
法人化後に後悔したこと
立ち上げしてしばらくしてから後悔するケースもよく見られます。具体的に後悔として想定される内容には以下のようなものが挙げられます。
法人の決算業務は予想以上に複雑で、経費処理や法人税の計算に多大な時間と労力がかかった。
社会保険料の算出が難しく、個人で処理するのは難しかった。
バーチャルオフィスの契約料・社会保険料・法人税などの負担が思ったよりも大きかった。
フリーランスの時と異なり、法人化すると経理や税務などの業務が複雑化し一人で対応するのが難しいのが通常です。特に経理や税務面での困難が予想されるため、適切なサポートを受けることが重要です。
7.会社設立サービスの選び方3つ
法人化で後悔しないために会社設立サービスを利用するのも手です。
この章では会社設立サービスを選択する上でのポイントについて解説します。
料金やサービスが明確で透明にわかること
最初の重要なポイントはサービスの料金や提供内容が明確に示されていることです。インターネット上で検索するといろんな会社設立サービスが見つかりますが、中には以下のようなものもあります。
一見格安に見えるが、実際には役所への申請だけしか手助けしてくれない
他のサービスより安く見せかけているが、実際は手続きの一部しか提供していない
会社設立においては修正に追加の費用がかかることがあります。したがって「最終的にいくらかかるのか」「提供されるサービスの範囲はどこまでか」を明確に提示しているサービスを選ぶことが非常に重要です。
助成金や節税などのアドバイスを提供してもらえること
助成金や節税などのアドバイスを受けられるかどうかを確認することも肝要です。
地方自治体によっては特定の条件を満たすことで会社設立に対する助成金が支給される場合があります。このような情報を提供してくれないサービスを利用してしまうと「本来受け取るべきだった補助金を逃してしまった」と後悔することになりかねません。
また法人を設立した後は役員報酬の調整によって社会保険料を削減したりなど、フリーランス時代には利用できなかった節税手法を活用することで余計な支出を抑えることも可能となります。社会保険や税金のルールは非常に複雑であるため、フリーランスが独自で最適な戦略を立てるのは容易ではありません。
従って法人を設立する際には助成金や節税に関する適切なアドバイスを提供してくれる専門家に依頼することが不可欠であるといえます。
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8.まとめ
フリーランスがビジネスを拡大していく過程で、法人化することによって税制上のメリットが大きくなる時期があります。適切なタイミングで法人化するためには、法人化のメカニズムをよく理解しておくことが肝要です。
法人化には社会的信用の向上や有限責任など事業上の多くの利点が伴います。しかしその一方で設立には費用と手間がかかる上、設立後も事務作業が複雑化するというデメリットも存在します。
法人化のタイミングを見極めるには専門家と協議することをおすすめします。アドバイスを得ながら、法人化の適切なタイミングを見極めてみましょう。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。