データの保存先などがクラウドに移行している昨今、サービスの提供方法にも変化が表れています。特にソフトウェアをクラウドで提供する「SaaS業界」の需要は高まり、今後の将来性にも期待が集まっています。エンジニアはSaaS業界特有の事情を把握し、転職先の1つとして考えてみるのもおすすめです。
本記事ではSaaS業界の基本や将来性、転職時のメリットなどを解説します。SaaS業界に興味があるエンジニアや、キャリアパスを広げたいIT人材は、ぜひ詳細をご確認ください。
目次
1.SaaS業界とは?
SaaS業界への就職・転職を考えるのなら、まず業界の基本を把握することがポイントです。以下では、SaaS業界の特徴について解説します。
クラウド上でサービスを提供する企業が属する業界
SaaSとは、クラウド型のソフトウェアやアプリケーションを開発・提供する企業を指します。SaaSとは「Software as a Service」の略称で、「サース」と呼びます。
SaaS業界に属する企業はクラウドを活用したさまざまなサービスを開発しつつ、販売・管理・顧客のフォローまで幅広く対応するのが特徴です。
使った分だけ料金を請求する従量課金制(サブスクリプションモデル)を採用している企業も多く、コストを抑えたい利用者にとってSaaSは魅力的なサービスとなっています。
SaaS業界の市場規模
SaaS業界の市場規模は、年々拡大を続けています。「One Capital」が2024年3月に公開した「Japan SaaS Insights 2024」によると、2020年から上方修正が繰り返される結果となっています。
2023年に1.4兆円に達したSaaS業界の市場規模は、2027年には2兆円を超えると予想されていて、さらなる成長に期待できるでしょう。
2024年においては、ChatGPTなどの生成AI技術が広まった影響で人工知能に関するAI-Native企業に注目が集まると考えられます。既存のSaaS企業もEmbedded AI(機械学習モデルを組み込みで追加すること)を意識して、AIとの共存を図ることが必要とされるでしょう。
参考:One Capital、国内SaaS市場の動向や2024年における予測をまとめた「Japan SaaS Insights 2024」を公開
SaaS業界の成長要因
SaaS業界の成長要因について解説します。SaaS業界の成長を牽引する主な要因は大きく3つあります。
1つ目はクラウド技術の飛躍的な発展です。クラウドサービスが広く普及したことで、企業は大きな初期投資なしに、必要なソフトウェアをすぐに使い始められるようになりました。
この変化が、経費削減と素早いサービス展開を可能にし、SaaS市場の爆発的な拡大を後押ししています。
2つ目は柔軟性に富んだビジネスモデルです。多くのSaaS企業が採用している従量課金制やサブスクリプション方式により、各企業は自社の資金事情や要望に応じてサービスを利用できます。
そのため、規模の大小を問わず、様々な企業でSaaSの採用が進んでいるのが現状です。
3つ目は、テレワークの浸透とデジタル化の加速です。コロナ禍をきっかけに、場所の制約なく仕事ができるSaaSへの需要が一気に高まり、多くの企業がSaaSの導入に舵を切りました。
こうした複合的な要因により、SaaS業界の成長曲線は今後も右肩上がりを続けると見込まれています。
SaaS業界で成功した主な企業一覧
昨今のSaaS業界では、以下の企業が成功事例として有名です。
株式会社ラクス | 経費精算システム「楽楽精算」や、メール共有・管理システム「Mail Dealer」などを提供する企業 |
SATORI株式会社 | MA(マーケティングオートメーションツール)である「SATORI」を開発・提供する企業 |
株式会社スマレジ | クラウドとつながったタブレットを利用したPOSレジ「スマレジ」を展開する企業 |
株式会社ユーザベース | 経済情報プラットフォーム 「SPEEDA」、B2B事業向けのプラットフォーム 「FORCAS」などを提供する企業 |
国内では上記のようなSaaS企業が台頭し、多くの事業をサポートしているのが現状です。その他、GoogleやAmazonなどの有名企業も、積極的にSaaS関連サービスを提供しています。
2.SaaS業界の主なビジネスモデル
SaaS業界では、「フリーミアムモデル」と「プライシングモデル」の2種類が主なビジネスモデルとして浸透しています。以下では、各ビジネスモデルの特徴について解説します。
フリーミアムモデル
フリーミアムモデルとは、基本サービスを無料で提供するビジネスモデルです。便利な機能や核となるシステムは有料となり、課金が必要になるのが特徴です。
初期コストが不要なことから導入のハードルが低く、必要に応じてプランや導入するシステムを選べます。
有名なところではGoogleが提供するGmailやGoogle Driveなどが、フリーミアムモデルに該当します。
プライシングモデル
プライシングモデルとは、使用したサービスに合わせて料金が決定するビジネスモデルです。「価格設定戦略」とも呼ばれ、定額制や従量課金制などさまざまな仕組みで提供されています。
提供するサービスがもたらす価値に合わせて価格を決める「バリュー・ベースド・プライシング」、サービスの原価を計算して価格を決定する「コスト・プラス・プライシング」、競合他社の価格を考慮して割安さをアピールする「コンペティション・ベースド・プライシング」など、さまざまなスタイルが存在します。
3.SaaS業界の特徴について
SaaS業界は、他業界にはない特徴や魅力があります。サービスの利用時やIT人材として転職を考える際には、業界の特徴を理解するのも重要です。
以下では、SaaS業界独自の特徴について解説します。
安定した売上に期待ができる
SaaS業界は、比較的安定した売上を維持しやすい点が特徴の1つです。一定の料金でサービスを提供し続ける「サブスクリプションサービス」を利用すれば、契約企業が増えるほど利益は増大します。
大きく売上が減少することも少ないため、計画的な事業展開を進めやすいでしょう。
一方で、安定した利益を確保するには、契約後のフォローに力を入れる必要があります。顧客の悩みや不満に寄り添い、より良いサービスを展開していくことが望まれるでしょう。
顧客の意見をフィードバックとして取り入れて、サービスの改善や新技術の導入などに活かしていくことがSaaS業界では重要となります。
新事業を展開する企業などに需要がある
SaaS業界に属する企業が展開するサービスは、低コストで利用できる点が特徴です。先に紹介したフリーミアムモデルであれば、基本無料で利用を開始できるため、新事業にマッチするかまず試してみたい企業にとって有益な選択肢になります。
IT関連の技術革新はスピードが早く、企業にとっては最適な環境を整備すること自体が負担になることもあります。そこで低コストで素早くサービスを導入できるSaaSの需要が高まり、今後も注目を集めると予想されるでしょう。
サービスの提供方法が豊富にある
SaaSは、サービスの提供方法が豊富にある点も特徴になります。
フリーミアムモデルとプライシングモデルといったビジネスモデルに加えて、他企業が開発した製品をカスタマイズし、自社ブランドとして販売・展開する「ホワイトラベル」や、特定の業界・業種に特化したシステムを提供する「Vertical SaaS」など、多種多様な提供方法が存在します。
昨今はAIを活用し、顧客ニーズや購入時のパターンを分析して、最適な形でサービスを提供するSaaS企業も珍しくなくなっています。今後もSaaSはサービスの提供方法を模索し、利用者にとってメリットとなる手法を発見していくことに期待できるでしょう。
4.企業がSaaSを導入するメリット
企業がSaaSのサービスを導入することには、多くのメリットがあります。以下では、サービスの利用者である企業目線で見たSaaS業界のメリットを紹介します。
最新技術をスムーズに導入できる
SaaSを利用することで、最新技術や高品質のシステムをスムーズに導入できるようになります。新技術を導入して一からシステムを改修するには、多くのコストがかかります。
その点、SaaSなら最新技術を取り入れたサービスを簡単に導入できます。
SaaSには、利用したいサービスを使いたい分だけ導入できる柔軟性があるため、将来を見据えた計画的な利用が検討できます。専門のスキルを持つIT人材を新たに雇用したり、自社のエンジニアに無理な業務負担を強いる必要もありません。
初期費用を抑えて環境を整備できる
SaaSの利用者目線で見ると、初期費用を抑えて必要な環境を整備できる点も大きなメリットです。先の解説通り、SaaSのサービスはサブスクリプションで利用できるケースが多いです。
従量課金なら使った分だけの支払いになるため、無駄な出費を抑えられます。
初期費用が課題となって新事業の展開が難しい場合などにも、SaaSの利用が検討されるでしょう。
すぐにでもサービスを利用可能
SaaSはクラウド型のサービスであるため、契約後すぐにサービスの利用を開始できます。自社でシステム基盤を保有するオンプレミス環境のように、機器の設置や導入にかかる時間が不要なので、素早く事業展開を進められるでしょう。
クラウドによるサービス提供となるため、技術発展に合わせたバージョンアップなどもスムーズに進められます。その他、法改正による変更を余儀なくされた場合にも、素早い対応に期待できるでしょう。
5.SaaS業界が「やめとけ」と言われる理由
SaaS業界はときに、就職・転職は「やめとけ」と言われることもあります。以下では、なぜSaaS業界が「やめとけ」と言われるのか解説します。
ハードな労働環境に悩まされる
SaaS業界は市場規模は拡大し、重要が高まっているため、多くの企業と契約することが見込まれます。そのためSaaS業界で働く場合、業務負担が大きくなる可能性も懸念されます。
ハードな労働環境によって心身に負荷がかかり、肉体的・精神的な悩みを抱えることもあるでしょう。
昨今はIT人材不足も課題になっているため、人手が足りずに1人で抱え込む業務量が多くなる可能性もあります。そういった仕事における負担の面が考慮されて、「やめとけ」と言われることも考えられます。
目標設定が厳しいケースも
SaaS業界では競合他社に負けないように、高い目標を設定するケースもあります。営業や開発面で厳しい目標を立てられると、プレッシャーが強くなって精神的な負担が重くのしかかることもあるでしょう。
特にインサイドセールスやフィールドセールスなどの営業担当は、新規契約数・提案回数・訪問回数・架電回数などの目標が細かく設定されていることもあります。すべての目標をクリアするには多大な労力が必要になるため、待遇によっては割に合わず、SaaS業界は「やめとけ」と言われる理由になっています。
6.IT人材がSaaS業界に転職するメリット
エンジニアをはじめとしたIT人材は、SaaS業界に転職することで多くのメリットを得られます。以下では、IT人材がSaaS業界に転職するメリットについて解説します。
キャリアパスを広げられる
SaaS業界に転職して実績を積むことで、将来のキャリアパスを広げられます。さまざまな可能性を考慮しつつキャリアの方向性を決められるようになる点は、IT人材にとって大きなメリットとなるでしょう。
例えばSaaS業界で得た経験を活かして、プロジェクトマネージャー・プロダクトマネージャー・ITコンサルタントなどのキャリアが考えられます。そのままSaaS業界の企業に残り、昇進してチームリーダーやマネージャーとして活躍する未来も想定できるでしょう。
将来性があるため安定して働ける
SaaS業界は市場規模が拡大していて、今後も多くの需要を見出せると予想されています。将来性があるため働いている側から見ると、安心して仕事に集中できる点がメリットになるでしょう。
不安定な業界に身を置いていると、待遇が悪くなって生活に支障が出る可能性も懸念されます。スキルアップなどに時間を割く余裕も持てないため、将来のキャリアにまで悪影響となることもあるでしょう。
その点、業界全体が成長しているSaaS企業なら、安心して仕事に打ち込めます。
フリーランスなど柔軟な働き方が選べる
SaaS業界は、フリーランスなどにも積極的に業務を委託しています。個人で働くエンジニアや各種IT人材が活躍しているため、柔軟な働き方を選択できる点もメリットです。
IT人材として実績・スキルがあるのなら、フリーランスとして独立してSaaS企業と契約するのも1つの方法です。「フリーランスボード」では、フリーランス向けの案件を多数掲載しています。
SaaS企業からの案件も豊富で、「リモートOK」「高単価」などのさまざまな条件を軸にマッチする求人を探せます。
SaaS業界で必要とされているIT人材
SaaS業界で必要とされているIT人材には、主に以下の業種が挙げられます。
エンジニア
フロントエンドエンジニア
バックエンドエンジニア
インフラエンジニア など
SaaS企業によって開発案件や取り扱うシステムの詳細は異なるため、自分の経験・スキルを活かせる職場は多数見つけられるでしょう。
上記の他にも、営業(インサイドセールス・フィールドセールス)・マーケティング担当者・カスタマーサクセスなどの業種も、SaaS業界を支える人材として重宝されています。
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7.まとめ
SaaS業界の市場は拡大を続けていて、2027年には2兆円を超えると予想されています。将来性のある業界として投資家からも注目を集めているため、さらなる発展と社会への貢献に期待できるでしょう。
そんなSaaS業界を支えるのは、実際に業務を担当するIT人材です。エンジニアや営業職などの専門家が持つ能力が求められているため、関連スキル・経験を持つ人は高い需要のもとで転職活動が行えるでしょう。
この機会にSaaS業界の特徴やメリットを確認し、転職を検討してみるのもおすすめです。
SaaS業界ではフリーランスに向けても、多くの業務を提供しています。これまでの経験を活かして、SaaS業界で活躍するフリーランスエンジニアになることも可能です。
転職だけでなく、フリーランスとして独立する道を検討するのも、将来を考える1つの方法となるでしょう。
「フリーランスボード」の掲載情報を参考にして、ぜひフリーランスへの転身も視野に入れてみてください。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。