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分散コンピューティングとは?基本や活用例、メリット・デメリット、将来の需要など解説

公開日:2024/12/14最終更新日:2025/07/07

「分散コンピューティング」とは、複数のコンピュータを活用して、さまざまな処理を行う技術のことです。1台のコンピュータでは対応が難しかった業務も、分散コンピューティングを応用することでスペック以上の成果を出せる可能性があります。企業単位で利用できる技術であるため、今後は分散コンピューティングを活用する事例が増えるかもしれません。


本記事では、分散コンピューティングの基本とメリット・デメリット、技術としての将来性について解説します。これから分散コンピューティングを学びたい方や、データ分析の業務などに活かしたいと考えているエンジニアの方は、ぜひ参考にしてください。


1.分散コンピューティングとは?

分散コンピューティングの意味や特徴を知ることは、その有用性や必要性を理解するための第一歩になります。以下では、分散コンピューティングの基本について解説します。

複数のコンピュータを使って同時に並行処理を行う方法

分散コンピューティングとは、複数のコンピュータを同時に利用し、並行処理を行う方法・技術を指します。個人や企業が保有する複数のコンピュータを同時に利用することで、それぞれのリソースを使ってさまざまな処理をスピーディに行えます。例えば大規模な演算処理など時間のかかるものでも、分散コンピューティングを活用することで短時間で必要な情報を収集可能です。


分散コンピューティングを使う際には、ネットワークを介して複数のコンピュータとつながります。つながったコンピュータそれぞれにタスクを振り分けて、計算結果を最終的に1つの成果としてまとめるのが分散コンピューティングの基本的な流れです。


Googleは「MapReduce」というソフトを公開し、ビッグデータの処理に対して広く使用されています。このシステムでは、計算するデータを「マップ」という形で各コンピュータに分割します。分割後はそれぞれの計算結果を「リデュース」というアルゴリズムを通して集約するのが特徴です。分散コンピューティングの基本を理解する際には、「MapReduce」の勉強をすることも1つの方法になります。


分散コンピューティングのシステムには「垂直型」「水平型」と呼ばれる種類があります。垂直型は接続するコンピュータを大型・中型・小型の階層で分類して配置し、それぞれ役割が異なる形で運用します。


水平型は使用するコンピュータすべてが、並行に同じ処理を行うスタイルです。コンピュータ同士が対等な関係にあり、階層構造は存在しません。複数のデータベースをネットワークで接続する、「分散データベース」を構築するときなどに用いられます。

グリッドコンピューティングとの関係性

「グリッドコンピューティング」とは、分散コンピューティングの仕組みを使って、仮想的に高性能なスーパーコンピュータを構築する方法です。コンピュータ1台ずつのスペックは微力でも、複数のリソースを並行で処理することで、スーパーコンピュター並の処理能力を活用できます。


グリッドコンピューティングは計算処理を行う複数のコンピュータを相互連携させてグループ化し、スムーズに利用できるようにする技術です。一方で分散コンピューティングは、複数のコンピュータをインターネットを経由して結びつけ、同時並行的に計算処理を実行する技術という点で違いがあります。


分散コンピューティングが基盤技術、グリッドコンピューティングが応用技術として位置づけられます。しかし、2つの技術に明確な定義はなく、同じ意味で使用されるケースもあります。


グリッドコンピューティングはさまざまな形で利用されていて、例えば損保ジャパンは日立が開発した量子コンピュータを疑似的に再現する「CMOSアニーリング」を使い、お客さまから引き受ける自然災害リスクのポートフォリオに対して、以下のものをモデル化しています。

  • 保有すべきリスク

  • 再保険など外部移転すべきリスク

  • 外部移転時の条件(再保険条件)

  • 実務上考慮が必要なその他条件 など

上記のモデル化によって、膨大な組み合わせからリスクテイクおよび安定収益を両立する条件の発見手法を開発しました。


また、NTTデータは国内初のPCグリッドコンピューティング「cell computing®」について、2003年6月に大規模実証実験の最終報告を行っています。実証の結果、「ヒトの遺伝子情報からの周期性の発見」「光学的に新たな特徴をもつ材質の設計図の作成」という成果を引き出すことに成功しています。


どちらの計算も、平均的なコンピュータを1台使った場合には、膨大な時間(数十年~数百年規模)かかるとされています。それを約4ヶ月で終了させた点は、cell computingおよびグリッドコンピューティングの有用性を証明することにつながったでしょう。

2.分散コンピューティングが活用される領域と活用例

分散コンピューティングは、既にさまざまなシーンで活用されています。以下では、分散コンピューティングが実際に導入されている領域について解説します。

クラウドシステム

クラウドシステムの構築において、分散コンピューティングは欠かせない技術となっています。クラウドはインターネットを使用して、ストレージやデータベースを提供するサービスです。


例えば既に多くの企業に導入されているAWS(Amazon Web Services)やGoogle Cloudなども、分散コンピューティングの性能を活用してサービスを提供しています。


また、昨今は「分散クラウド」に注目が集まっています。分散クラウドとは、自社のデータセンターにあるサーバーを使い、クラウド事業者のサービスを実行して処理する方法を指します。従来のようにAWSなどのサービスに運用管理に責任を任せつつ、オンプレミス環境にクラウドの技術を持ち込める点が特徴です。


分散クラウドは低遅延の環境が必要とされるAR・VR技術や監視カメラなど画像処理の際に活用できると考えられています。

計算やシミュレーション

本来なら膨大な時間が必要となる計算やシミュレーションも、分散コンピューティングが得意とする領域です。例えば身近なもので言えば気象予測には、分散コンピューティングのシステムが使用されています。

分散コンピューティングによる並行処理によって、素早く予測結果を導き出すことが可能となっています。


その他、医療分野では新しいツールや診断方法を開発するための、時間短縮のために活用されています。科学研究の分野でも、複雑なシミュレーションを実行し、素早く結果を導き出すために活用が進んでいます。

ビッグデータなどの分析

ビッグデータなどの分析作業にも、分散コンピューティングが使用されます。ビッグデータは現代において、マーケティングなどにも欠かせない重要な情報源です。


しかし、その規模ゆえに1台のコンピュータで分析を行う場合、多くの時間がかかってしまいます。そこで分散コンピューティングを利用し、処理速度を向上させることで問題を解決しています。


ビッグデータの分析を分散コンピューティングを使って行うことで、市場のトレンドを素早く把握したり、リアルタイムで顧客情報を獲得したりできます。例えば金融業界では、金融データや取引の処理をリアルタイムで分析し、リスクヘッジや今後の予測に活用されています。

3.分散コンピューティングを使うメリット

分散コンピューティングを使うことには、多くのメリットがあります。以下では、分散コンピューティングがもたらす主なメリットについて解説します。

高い処理能力を導入できる

分散コンピューティングは、高度な処理能力を自社に導入できる点にメリットがあります。複数のコンピュータの能力を合わせることで、個々の企業でもスーパーコンピュータに並ぶ処理能力を持つ仮想環境を構築できます。そのリソースを事業のシミュレーションやビッグデータの分析などに活用すれば、より高度な戦略性を用いてプロジェクトを発足・運用できるでしょう。


通常のコンピュータではパワー不足に感じることが増えてくると、分散コンピューティングを使うことが想定されます。その際には分散コンピューティングについての知識を持つエンジニアが求められるため、今から本格的な学習を進めておくのもポイントです。

低コストで利用できる

分散コンピューティングは、低コストで利用できる点も大きなメリットです。大規模な演算処理などを事業で利用する場合、スーパーコンピュータの導入も選択肢の1つになります。しかし、スーパーコンピュータの導入および運用には多くのコストがかかり、簡単には決断できないでしょう。


その点、分散コンピューティングは既に会社で保有しているコンピュータを使って並行処理を行うため、コストを格段に抑えられます。低コストで高い処理速度を導入できることは、分散コンピューティングを使う理由になるでしょう。

拡張性がある

状況に合わせて臨機応変に機能を拡張できる点も、分散コンピューティングのメリットです。求める処理速度に達するようにつなぎ合わせるコンピュータの台数を増やしたり、必要な機能の追加や削除をしたりと、自由な利用が可能です。

コンピュータにかかる負担を分散できる

分散コンピューティングの活用は、個々のコンピュータにかかる負担を分散・軽減することにもつながります。処理によって生じる負荷が分散されることで、トラブル回避のリスクヘッジにもなるでしょう。


また、分散コンピューティングは仮に障害が発生しても、全体に影響が及ばない点もメリットの1つです。分散コンピューティングでは「クラスタリング」と呼ばれる技術によって、複数のコンピュータをシステム全体で協調させることが可能です。


複数のコンピュータでシステムを運用しているため、仮にそのうちの1台に問題が発生しても、他のコンピュータでカバーできます。障害に対して強い点もまた、分散コンピューティングが注目される理由だと言えるでしょう。

4.分散コンピューティングが抱えるデメリット・課題

分散コンピューティングはメリットだけでなく、デメリットも抱えているシステムです。以下では、分散コンピューティングのデメリット部分について解説します。

セキュリティ対策が難しい

分散コンピューティングを利用する場合、セキュリティ対策が課題の1つになります。分散コンピューティングで利用するすべてのコンピュータにセキュリティ対策を施す必要があるため、安定した利用が難しくなるケースも考えられます。セキュリティに関する専門知識も求められるため、セキュリティエンジニアの採用なども検討されるでしょう。

管理に手間がかかる

分散コンピューティングは、利用において手間と時間がかかるシステムでもあります。分散コンピューティングを構成するコンピュータは、それぞれ別の場所にあるため、一元管理が困難です。遠隔にあるコンピュータを活用する場合などには、OSのアップデートやリソースの管理などをきちんと行える環境が必要です。責任者となるエンジニアを任命し、分散コンピューティング全体の管理を任せる方法も考えられます。

システムが複雑化する

分散コンピューティングによって複数のコンピュータを利用することで、システムが複雑化することも問題点として挙げられます。システムが複雑化すると、万が一トラブルが発生した際に原因を特定したり、素早く対処したりするのが難しくなります。そのため分散コンピューティングを利用する際には、システムの複雑化に対応できる環境の構築が求められるでしょう。

ネットワークの負担が増加する

分散コンピューティングによってコンピュータに対する負担は軽減されますが、それらをつなぐネットワークの負担は増加します。複数のコンピュータを並行処理する際に、ネットワークが負荷に耐えられないと、通信速度の遅延などを引き起こす可能性もあるでしょう。リアルタイムでの処理が必要とされる場合、通信速度の遅延は大きな問題になり得ます。

5.分散コンピューティングの将来性は?

分散コンピューティングは、現在だけでなくこれからも長く活躍する技術だと考えられます。以下では、分散コンピューティングの将来性について解説します。

クラウドサービスの発展に合わせて重要な技術になると予想される

分散コンピューティングは既に、クラウドサービスを構築するシステム基盤として広く利用されています。昨今は社内にデータやソフトなどを保管するオンプレミス型から、クラウド上に保管場所を移行するケースもあります。既にクラウドは企業におけるインフラの1つになり、今後も欠かせないシステムの1つになると予想されるでしょう。


そのためクラウドサービスを支える分散コンピューティングも、必要な技術としてこれまで以上に重要視される可能性があります。クラウドサービスに新しい価値や技術が付与されることも考えられるため、分散コンピューティングには将来性があると言えるでしょう。

AIと組み合わせた活用に期待される

分散コンピューティングは、AIと組み合わせた利用方法にも注目されています。AIが学習を行うために必要となる膨大なデータも、分散コンピューティングを使うことでスピーディに提供できます。これまで以上にAIが使いやすくなったり、新しい技術の発見につながったりする可能性に期待できるでしょう。


AIもこれから発展していく技術であるため、相性の良い分散コンピューティングの将来性を証明する要因の1つになるでしょう。

分散コンピューティングに詳しい人材の需要も高まる?

分散コンピューティングの将来性を考慮すると、関連する知識・技術を持つ人材の需要も高まると予想されます。分散コンピューティングを活用したプロジェクトを立案・管理できるシステムエンジニアや、リスクへの対処を行うセキュリティエンジニアなどは、多くの企業で求められるようになる可能性があるでしょう。


分散コンピューティングのやり方を理解して、事業で実行できる人材を目指すのなら、Pythonなどのプログラミング言語が役立ちます。基本的なコーディングができるレベルを目指し、将来に備えて学び始めるのもおすすめです。分散コンピューティングに関する知識・技術があれば、その点をアピールの軸にして就職・転職活動を行うことも可能です。


その他、フリーランスのエンジニアとして働く際にも、分散コンピューティングに詳しいと高い評価を得られる可能性があります。高単価の案件・求人を請け負うきっかけにもなり得るため、将来的にフリーランスエンジニアを目指す人も、分散コンピューティングについて勉強してみてはいかがでしょうか。


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6.まとめ

分散コンピューティングは、複数のコンピュータをつなげて並行処理を行う技術です。スーパーコンピュータに匹敵する処理速度も実現できるため、さまざまな形での有効活用が考えられます。将来的にも有益な技術になると予想されるので、今から分散コンピューティングを学んで基礎を把握しておくことにはメリットがあるでしょう。


分散コンピューティングの知識・技術は、フリーランスエンジニアとして働く際にも役立ちます。「フリーランスボード」ならフリーキーワードを使って、フリーランスエンジニア向けの案件・求人を検索できます。分散コンピューティングに関する案件・求人も、簡単に探せるのが特徴です。この機会に「フリーランスボード」を使い、分散コンピューティングに関係する案件・求人の内容を調べてみるのもおすすめです。


本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。

分散コンピューティングとは?基本や活用例、メリット・デメリット、将来の需要など解説に関するよくある質問

分散コンピューティングの目的は何ですか?

システムにはどんな種類がありますか?

GoogleのMapReduceとは?

グリッドコンピューティングとの違いは?

活用される主な領域はどこですか?

分散クラウドの特徴は何ですか?

分散コンピューティングのメリットは?

デメリットや課題は何ですか?

今後の技術的な将来性は?

関連人材の需要は高まりますか?

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この記事の監修者

笠間 慎

大学卒業後、人材紹介会社にコンサルタントとして従事。フリーランスとして独立。その後、フリーランス案件サイト「フリーランススタート」の立ち上げに編集長兼ライターとして参画し、月間30万人が利用する人気メディアへと成長させる。 2024年より、フリーランスボード編集長に就任。自身の経験を元に、フリーランスの活躍を支援する情報を発信している。

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目次

1.分散コンピューティングとは?

複数のコンピュータを使って同時に並行処理を行う方法

グリッドコンピューティングとの関係性

2.分散コンピューティングが活用される領域と活用例

クラウドシステム

計算やシミュレーション

ビッグデータなどの分析

3.分散コンピューティングを使うメリット

高い処理能力を導入できる

低コストで利用できる

拡張性がある

コンピュータにかかる負担を分散できる

4.分散コンピューティングが抱えるデメリット・課題

セキュリティ対策が難しい

管理に手間がかかる

システムが複雑化する

ネットワークの負担が増加する

5.分散コンピューティングの将来性は?

クラウドサービスの発展に合わせて重要な技術になると予想される

AIと組み合わせた活用に期待される

分散コンピューティングに詳しい人材の需要も高まる?

6.まとめ