フリーランスとして独立することを考えている方々にとって、最初ステップの一つとして立ちはだかるのが「開業届の提出」です。このプロセスについて多くの人が「開業届を出すべきなのか?」「提出するとどのようなメリットがあるのか?」などと悩むことが少なくありません。
そこでこの記事では、フリーランスの皆さんが開業届を提出するメリットや提出方法について、詳しく説明していきます。さらに、開業届を提出しなかった場合にどのような影響があるかについても解説します。開業届の提出について迷っている方々にとって、この記事は有用な情報となることでしょう。
目次
1.フリーランスに関連する2つの種類の開業届
フリーランスの開業届には、2つの種類があります。1つは税務署に提出する「個人事業の開業・廃業等届出書」であり、もう1つは都道府県の税事務所に提出する「個人事業税の事業開始等申告書」です。
個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)
税務署へ提出する書類は通常「個人事業の開業・廃業等届出書」と呼ばれ、一般的には開業届として知られています。開業届の提出期限は、基本的には、開業日から1ヶ月以内となります。
この届出を提出しないと罰則があるわけではありませんが、青色申告で確定申告を行う場合、条件として「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」と「青色申告承認申請書」の提出が必要です。開業届は、国税庁のウェブサイトからダウンロードできるほか、最寄りの税務署で入手できます。
個人事業税の事業開始等申告書
「個人事業税の事業開始等申告書」は、個人が事業を始めたことを宣言するための書類で、提出する場所は都道府県税事務所です。提出場所と締め切りは都道府県ごとに異なります。たとえば、東京都では事業を始めた日から15日以内に提出しなければならず、神奈川県では1ヶ月以内に提出しなければいけません。
2.フリーランスが開業届を提出するメリット
フリーランスが開業届を提出する一番大きなメリットの一つは、節税を受けられる青色申告を利用して確定申告ができることです。青色申告は、所得税などの税金を低減させるための特別な税制度であり、開業届を提出することでこれを活用できます。
さらに、オフィスの賃貸契約を結ぶ際や創業融資の審査を受ける際にも、開業届の提出が重要です。なぜなら、これらの場面では事業を実際に行っていることを証明する必要があるからです。開業届の控えを提出することが求められるケースもあります。
このように開業届は事業を営んでいることを示す重要な文書であり、提出することで有利になるケースがあります。節税に関連するだけでなく、事業の信頼性を高め、ビジネスの成長を支える重要な書類です。
以下ではフリーランスが開業届を提出するメリットを具体的に説明します。
フリーランスとしての自覚が芽生える
個人差はあるかもしれませんが、開業届を提出することは、フリーランスとしての覚悟や自覚を持つきっかけになることがあります。各項目を一つずつ記入し、税務署に正式に提出することで、自分自身の役割をしっかりと意識し、責任感を持つ人も多いです。
青色申告が可能になる
開業届と青色申告承認申請書を提出することは青色申告を実施するために必要な手続きです。青色申告は節税面で大きなメリットがあります。青色申告は白色申告よりも帳簿の記入や確定申告書の作成が難しいと思われがちですが、会計ソフトを使えばそれほど難しいことではないケースもあります。
もし本格的にフリーランスとして活動するつもりなら、開業届を提出し、青色申告を選択することをおすすめします。
開業届を提出していない(出していない)フリーランスの方は確定申告する際、青色申告ではなく、白色申告となります。
小規模企業共済に参加できる
中小機構が運営する小規模企業共済制度は、フリーランスなどの人々のための積立型の退職金制度で、開業届を提出していれば加入できます。フリーランスは会社員とは異なり、退職金の制度がありません。
このため、実際に多くのフリーランスがこの制度に加入しています。
事業用の銀行口座が開設できる
フリーランスとして事業をスタートするときに開業届を提出することで、自分の屋号を冠した銀行口座を開設できます。個人用の口座を事業に使っても問題はありませんが、取引の際に事業用の口座を使うと、取引相手から信頼を得やすくなります。さらに、事業用とプライベート用の口座を区別することで、経理作業がスムーズになります。
銀行口座を開設するために必要な書類は銀行によって異なりますが、屋号での口座開設を希望する場合、開業届の提出が必要なことが多いため、屋号での口座を開設する予定の場合は、開業届を提出しておくことをおすすめします。
職業を証明できる
開業届を提出することで、自身の職業を証明するために利用できる場合があります。たとえば、クレジットカードを申し込む際など、自身の職業を証明する必要がある場合があります。サラリーマンの場合、通常は勤め先から発行される社員証や在職証明書を提出することができます。
しかし、フリーランスの場合、このような公式な証明書が存在しないことがあります。そのため、自身の職業を証明するために開業届の写しを提出することができるのです。
オフィス契約や融資の審査に利用できる
フリーランスで事業を行う場合、業種によっては実際に店舗を持つか、事務所を契約する必要があるケースがあります。また、事業の規模に応じて、創業融資を検討することもあるでしょう。
融資の申し込みや審査時に、事業を証明するために開業届のコピーを提出する必要があるケースがあります。
3.フリーランスが開業届を提出する際に注意すべき点
失業手当をもらっている人、家族の扶養に入っている人、副業をしている人などは、開業届を提出する際に留意すべき事項があります。この章で説明します。
失業手当を受け取れなくなる可能性がある
開業届を提出すると、失業手当の受給が中止されることになります。これは、開業届があなたが事業主として活動を始めたことを通知する書類であり、職を探す求職者として扱われなくなるからです。
扶養から外れる場合がある
配偶者の扶養に入っている場合、開業届を提出することで扶養から外れる可能性があります。ただし、勤め先の健康保険組合によって対応が異なり、一般的に以下の2つのケースが考えられます。
年収が一定額を超えない限り、フリーランスとして開業届を出していても扶養に入れる可能性がある場合
フリーランスとして開業届を提出すると扶養から外れる場合
扶養に入っていると健康保険料を支払う必要はありませんが、扶養から外れた場合は自身で健康保険料を納める必要が生じます。したがって、開業前に自身の状況と保険に関する規定を確認することが重要です。
所得が一定額を超えると確定申告が必要になる
フリーランスで年間48万円以上の所得がある場合や、給与所得者で副業によって年間で20万円以上の所得を得る場合などは、確定申告が必要です。
所得とは、事業などで得た売り上げ等の収入から経費を差し引いた金額のことです。例えば、給与所得者が副業で売上が30万円あり、経費が2万円であれば、所得は28万円となり、確定申告が必要です。
開業届の対象職業や所得によって税率や課税対象が異なる
開業届を提出する際に注意すべきポイントとして「職業」の欄の記載があります。なぜなら、個人事業税の税率や課税対象は、この職業の種類や所得によって異なるからです。管轄の市町村での取り扱いも確認しておくことが大切です。
4.開業届と一緒に提出する書類
開業届を提出する際に必要に応じて提出すべき書類がいくつかあります。この章で説明します。
青色申告承認申請書について
「青色申告承認申請書」は確定申告時に青色申告を選択するための書類です。この書類は正確な名前で言うと「所得税の青色申告承認申請書」です。青色申告承認申請書は、事前に開業届を提出するか、同時に提出します。提出は、郵送または地元の税務署に直接提出できます。必要な添付書類はありません。
提出期限は、確定申告する年の3月15日までです。ただし、確定申告年の1月16日以降に開業届を提出した場合、提出は開業届提出日から2か月以内となります。
また、青色申告で最高65万円の青色申告特別控除を受けるには、複式簿記を使って記帳し、電子申告(e-Tax)または電子帳簿保存が必要です。
青色専業者給与に関する届出書について
「青色事業専従者給与に関する届出書」は、家族従業員として事業を手伝う配偶者や親族に支払う給与を、青色申告で事業経費として認めてもらうための書類です。新しく事業を始める際には、青色事業専従者の給与を経費として計上しようとする年の3月15日までに提出しなければなりません。
青色専業者給与に関する届出書は青色申告承認申請書の提出後、または一緒に提出します。提出方法は、郵送か地元の税務署に直接持参することができます。なお、届出書の内容とは別に給与に関する規程がある場合、その規程のコピーを添付する必要があります。
通常、家族従業員に支払う給与は経費とは認められません。しかし、青色事業専従者給与に関する届出書を提出することで、例外として給与を経費に計上できるようになり、節税効果が期待できます。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書について
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は、従業員を雇っているフリーランスが、源泉所得税の納期に特例を適用するために必要な手続きの申請書です。
フリーランスが従業員に給与を支払う場合、通常はその給与から所得税を源泉徴収して納付する必要があります。この納付は、原則として支払った月の翌月10日までに行う必要があり、毎月行わなければなりません。
ただし、従業員が10人未満の場合、特例的に年2回にまとめて源泉所得税を納付できるようになります。この特例を適用するために、源泉所得税の納期の特例の承認手続きが必要で、そのために提出しなければならない書類が「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」です。
この申請書を提出する締め切りは特に指定されていませんが、提出した月の翌月末までに税務署から通知がない場合、特例が承認されたとみなされ、提出した月の翌々月から特例が適用されます。
所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書について
「所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書」とは、自分で棚卸資産の価値を評価したり、減価償却の方法を選ぶための書類です。
この書類は、新しく事業を始める人は提出が必要で、事業を開始した年の確定申告の期限までに提出します。この手続きの際には、特別な書類を添付する必要はありません。
個人商店を例に考えてみると、仕入れた商品(棚卸資産)のうち、年末までに売れないものは在庫として残ります。在庫は原則的には最終仕入原価法で価値を計算し、確定申告にて報告します。ただし、所得税の棚卸資産の評価方法の届出を行うと、複数の評価方法から選択できるため、節税に繋がる方法を自分で選ぶことができます。
また、機材や車などの固定資産は時間とともに価値が下がります。この価値の減少は減価償却と呼ばれます。減価償却費の方法には「定額法」と「定率法」の2つがあります。フリーランスの場合、通常は定額法が適用されますが、定率法を選びたい場合には、所得税の減価償却資産の償却方法の届出を行います。定率法は初年度に多くの経費を計上でき、税金を軽減できるというメリットがあります。
所得税・消費税の納税地変更に関する届出書について
「所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書」とは、新しい事業所や店舗を開設する際、その場所を納税地として指定したいときに提出する書類です。この手続きには提出期限が設けられていませんが、この書類を提出した日から、納税対象地が変更されることになります。
特別な添付書類は不要で、通常は住所と居住地が異なる人が納税地を「一方の住所(居住地)からもう一方の居住地(住所)」に変更する場合に使用されます。しかし、フリーランスが新しい事業所や店舗を開く場合にも適用できます。
5.開業届を提出した後に必要な手続き
開業届を提出するだけでなく、提出前後にも行わなければならない手続きがあります。この章で説明します。
国民健康保険への加入
会社を退職してフリーランスに転身する際、健康保険の選択肢が3つあります。
国民健康保険への加入
会社の健康保険を個人で継続する(任意継続)
国民健康保険組合への加入
国民健康保険に加入する場合、通常は退職日の翌日から14日以内に手続きが必要です。離職票、身分証明書、マイナンバー、そして印鑑を持参して、居住地の市区町村の役所で手続きを行います。この際、国民年金への加入も同時に行うことがおすすめです。
会社の健康保険を個人で継続する方法もあり、特に扶養家族がいる場合にメリットがあります。ただし、退職後20日以内に手続きを行う必要があり、条件があることに留意する必要があります。
国民健康保険組合は、同じ業界で活動し、組合の地域内に住所を持つ、従業員が5人未満の個人事業所の事業主や従業員、フリーランスといった個人によって構成された国民健康保険法に基づく法的な組織です。収入に関係なく保険料が一定という特徴があります。
フリーランスは健康保険に加入する際、どの選択肢を選ぶとしても、速やかに手続きを行うことが重要です。なぜなら、フリーランスは体が資産であるためです。
国民年金への加入
会社員からフリーランスに転身する際、以前勤務していた企業が厚生年金からの脱退手続きを代行してくれます。会社を辞めたら、退職を証明する書類を持参して国民年金への加入手続き(国民年金の第1号資格取得手続き)を行いましょう。
ちなみに、フリーランスは会社員に比べて、将来受け取る年金額がかなり低くなるのが通常です。年金に加えて、老後の資産を積み立てる計画を立てておくことは重要です。将来の安心感を確保するために、追加の貯蓄や投資を考えておくことが大切です。
資金繰りと資金調達
一部の業種では、開業にかなりの資金が必要な場合もあります。創業時の資金調達方法には、銀行や信用金庫からの創業融資、日本政策金融公庫の創業融資、補助金・助成金などがあります。
この内、日本政策金融公庫の新創業融資制度について説明しておくと、最大のメリットの一つは、不動産などの担保が不要であることです。通常の銀行融資に比べて資金調達が容易で、金利も低く設定されています。また、補助金・助成金と比べても、融資の限度額が高く、用途に制約が少ないです。
フリーランスになると、収入が急に減少する可能性や、取引先の経営困難や経済の変動により仕事が不安定になることもあるでしょう。そのため、資金の管理や調達についても考えておくことは非常に重要です。
確定申告と日々の経理
フリーランスに転身して開業届を提出したら、基本的に、自分で毎日の経理作業をした上で、確定申告を行う必要があります。
確定申告は、1月1日から12月31日までの全ての収入を計算し、それに対する税金を計算して支払う手続きです。経費を正確に計上するためには、事業関連の支出に関する領収書を整理し、記録しておくことが必要です。1年分をまとめて処理するのは大変かもしれませんが、こまめに記録しておけば、大きな負担にはなりません。
経理作業に慣れるためにも、開業届を提出して売上が始まったら、できるだけ早く会計ソフトなどを使って確定申告の準備を開始しましょう。
6. 開業届の提出手順
開業届の提出手続きは、以下のステップに分かれています。
開業届を作成する
開業届を取得して、情報を入力します。開業届は、地元の税務署で直接取得するか、国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。開業届は、手書きで紙に記入するか、パソコンなどを使ってe-Taxを通じて入力することができます。手書きの場合は、開業届とその控えを作成した方が良いでしょう。
税務署に提出する
開業届の提出方法は、3つの選択肢があります。税務署に直接持参する方法、郵送する方法、オンラインで提出する方法です。
税務署に直接持参する場合、必要な書類を持って税務署に行き、提出します。提出後、税務署から受領印の押された開業届の控えを受け取ります。
郵送の場合、必要な書類をまとめて送付します。この際に、開業届の控えを受け取るために、返信用封筒と切手を忘れずに同封しましょう。
開業届はe-Taxを使ってオンラインで提出できますが、e-Taxを利用するには利用者識別番号の取得が必要です。
提出後は控えを保管する
開業届の控えは、税務署に直接提出した場合はその場で、郵送した場合は返送されて手元に届きます。
e-Taxを使用して提出した場合、提出データと受信通知を印刷しましょう。
7.開業届の記載項目
この章では開業届の記載項目について説明します。
税務署名と提出日
所轄の税務署名と開業届の提出日を書きます。
事業主情報
納税地を指定し、住所を記入します。また他にも住所や事業所があればそれも記載しきます。提出する事業主の氏名、生年月日、そしてマイナンバーを全て記入したら、印鑑を押印します。
職業および屋号
開業届の根拠となる事業名を書きます。屋号欄には事業や店舗の名称を書くこともできますが、空白でも問題ありません。
届出の区分
開業することを示すチェックを入れ、事業を行う場所の住所と氏名を記入し、新規で始めることも示すチェックを入れます。
所得の種類
該当する所得の種類にチェックを付けます。
開業・廃業等の日付
事業を始めた日付を書きます。
事業所等を新増設、転移、廃止した場合
開業の場合には、書く必要はありません。
廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合
開業の場合には、書く必要はありません。
開業・廃業に伴う届出書の提出の有無
青色申告承認申請書や課税事業者選択届を提出する場合、該当する箇所にチェックを付けます。
事業の概要
開業時の事業内容を具体的に書きます。たとえば、職業が「小売業」の場合、事業の概要には「食品・食材の店舗販売」などと記載することができます。同様に、「飲食業」の場合は「ラーメン店の経営」などが良いでしょう。
職業欄では既に「システムエンジニア」といった具体的な情報が提供されている場合、事業の概要もそれに合わせて具体的に記述できます。たとえば、「ソフトウェアの要件定義・設計・プログラミング」など、より具体的な事業内容を記入することができます。
給与等の支払の状況
従業員を採用する場合、関連する項目に人数と給与の決め方を書きます。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無
従業員を採用する場合、『源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書』の提出について該当する選択肢にチェックを入れます。
給与支払いを開始する年月日
従業員を採用する際、給与の支払いを始める日付を記入します。
関与税理士
顧問税理士を利用しているか、開業届の提出を依頼した場合、その税理士の詳細情報を書きます。
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8.まとめ
フリーランスとして独立する場合でも、開業届の提出は任意と言えるでしょう。しかし、青色申告の利点を理解すると、やはり開業届を提出することが得策です。
開業届の記入や提出は難しくありません。現在は、オンラインでの手続きやサポートが充実しており、手軽に行えます。また、青色申告の手続きも現在は簡単に行える方法が多くあります。
開業届を提出し、青色申告に切り替えることで多くのメリットが得られるでしょう。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。