Kubernetesは、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイ、スケーリング、管理を自動化し、効率的な運用を実現するために重要な役割を担う仕組みです。
しかし、Kubernetesは非常に多機能で奥が深く、その仕組みや関連技術を正しく理解せずに導入・運用しようとすると、かえって複雑さを増したり、十分な効果を発揮できなかったりする可能性もあります。
この記事では、Kubernetesとは何かという基本から、その仕組みを支えるコンテナやDockerの概要、主要な機能、導入のメリット・デメリット、具体的なユースケース、関連エコシステム、そして理解しておくべき重要な用語まで、網羅的に詳しく解説していきます。
Kubernetesの基礎を学びたい方や、導入を検討している方にとって、実践的に役立つ情報をわかりやすくまとめました。
ぜひ最後までお読みいただき、Kubernetesに対する理解を深めてください。
目次
1.Kubernetesとは?
Kubernetes(クバネティス、またはクーベネティス)は、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイ、スケーリング、管理を自動化するためのオープンソースプラットフォームです。
多数のコンテナを効率的に、かつ安定して運用するための「コンテナオーケストレーションツール」として、デファクトスタンダードの地位を確立しています。
マイクロサービスアーキテクチャの普及や、DevOpsによる開発・運用の高速化が進む中で、コンテナ技術の活用は不可欠となりました。しかし、コンテナの数が増えるにつれて、その管理は複雑化し、手作業での運用には限界があります。Kubernetesは、この課題を解決するために生まれました。
宣言的な設定と自動化により、インフラの管理負担を軽減し、開発者がアプリケーション開発に集中できる環境を提供します。コンテナ運用に課題を感じているエンジニアにとって、強力なソリューションとなっています。
2.Kubernetesを理解するために把握すべき2つのこと
Kubernetesを深く理解するには、その基盤となる「コンテナ」と「Docker」という2つの技術要素を把握することが第一歩となります。これらはKubernetesが扱う中心的なオブジェクトであり、その仕組みを理解することが重要です。それぞれを解説していきましょう。
コンテナとは?
Dockerとは?
コンテナとは?
コンテナとは、アプリケーションとその実行に必要なライブラリ、設定ファイルなどの依存関係をひとまとめにパッケージ化する技術です。
OSレベルの仮想化を利用し、ホストOSのカーネルを共有しながら、プロセスやファイルシステム、ネットワークなどを隔離された空間で実行します。従来の仮想マシンのようにゲストOSを含まないため、非常に軽量で、起動も高速です。
この特性から、開発環境と本番環境の差異をなくし、「自分のPCでは動いたのに、サーバー上では動かない」などといった問題を解消するのに役立ちます。
また、リソース効率が良いことから、一つの物理サーバーやVM上でより多くのアプリケーションを実行可能です。ポータビリティも高く、異なる環境へのアプリケーション移行を容易にする技術として、現代の開発・運用に欠かせない要素となっています。
Dockerとは?Dockerとの違いとは?
Dockerは、コンテナ技術を広く普及させた代表的なプラットフォームです。
コンテナの作成、配布、実行を容易にするためのツール群を提供し、開発者からインフラエンジニアまで幅広く利用されています。
「Dockerfile」というテキストファイルにコンテナの構成情報を記述することで、誰でも同じコンテナイメージを再現可能にします。作成されたコンテナイメージは、「Docker Hub」などのレジストリを通じて共有可能です。
Kubernetesは、このDockerを含む、さまざまなコンテナランタイム上で動作するコンテナを管理・オーケストレーションする役割を担います。
Dockerがコンテナという「荷物」を作り、Kubernetesがその「荷物」を効率的に運び、配置し、管理する「物流システム」に例えられます。Dockerの基本的な使い方を理解しておくことは、Kubernetesを学ぶ上で非常に有効です。
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3.Kubernetesの6つの機能
Kubernetesは、コンテナ化されたアプリケーションのライフサイクル全体を管理するための豊富な機能を提供します。これらの機能を活用することで、運用の自動化と効率化を実現可能です。
サービスディスカバリーと負荷分散の機能
ストレージ自動化
自己修復機能
デプロイ管理
自動化されたロールアウトとロールバック機能
セキュリティ機能
サービスディスカバリーと負荷分散の機能
Kubernetesは、コンテナに独自のIPアドレスを割り当て、コンテナ群に対して単一のDNS名を提供します。アプリケーションの各コンポーネントが互いを簡単に見つけられるようにする仕組みです。
また、コンテナへのネットワークトラフィックを複数のPodに分散させる負荷分散機能も備わっています。不安定なコンテナを検知してトラフィックの分散対象から自動的に除外することも可能であり、サービスの可用性を高めることに貢献します。手動でのIP管理やロードバランサー設定の手間を削減できるのも特徴の一つです。
ストレージ自動化
Kubernetesでは、コンテナが利用するストレージをローカルストレージだけでなく、AWS EBS、GCP Persistent Disk、NFSなどの外部ストレージシステムから自動的にマウントさせることが可能です。これをストレージオーケストレーションと呼びます。
開発者は、アプリケーションが必要とするストレージの種類やサイズを定義ファイルに記述するだけで、Kubernetesが適切なストレージボリュームのプロビジョニングとコンテナへの接続を管理してくれます。ステートフルなアプリケーションもコンテナで実行しやすくなり、データの永続性を確保しながらコンテナのメリットを享受できるのが特徴です。
自己修復機能
Kubernetesの強力な機能の一つが自己修復能力です。コンテナが応答しなくなったり、ヘルスチェックに失敗したり、コンテナが動作しているノード自体に障害が発生した場合、Kubernetesは自動的にそのコンテナを再起動します。
さらに、定義されたヘルスチェックにパスしないコンテナにはトラフィックを送信しないように制御することも可能です。ユーザーが定義した状態を維持しようと動作し続けるため、手動での障害対応の手間を大幅に削減し、アプリケーションの高い可用性を維持することに繋がります。
デプロイ管理
Kubernetesは、アプリケーションの新しいバージョンをデプロイしたり、既存のアプリケーションを更新したりするプロセスを管理します。
ユーザーは、デプロイしたいコンテナイメージとその実行状態を宣言的に記述します。Kubernetesは、その宣言に基づいて、ローリングアップデートなどを自動的に実行します。
アプリケーションの可用性を維持しながら、安全かつ効率的にアップデートを行えるのがメリットです。デプロイプロセス全体を自動化することで、人為的なミスを減らし、リリースサイクルの高速化に貢献します。
自動化されたロールアウトとロールバック機能
デプロイ管理機能の一部として、Kubernetesはアプリケーションのロールアウトとロールバックを自動化する機能を有しています。
新しいバージョンをデプロイする際、Kubernetesはコンテナの起動状態やヘルスチェックを監視します。もし新しいバージョンに問題が検出された場合、自動的に以前の安定したバージョンにロールバックさせられるため、安定性が向上しやすくなるのが大きなメリットです。
この機能は、デプロイに伴うリスクを最小限に抑え、サービスの安定性を確保する上で非常に重要です。
セキュリティ機能
Kubernetesは、コンテナ化されたアプリケーションを保護するための多様なセキュリティ機能を提供します。
これには、機密情報を安全に管理するためのSecretsオブジェクト、コンテナが実行できる操作を制限するセキュリティコンテキスト、ネットワークポリシーによるPod間の通信制御、ユーザーやプロセスへのアクセス権限制御などが含まれます。
これらの機能を適切に設定・活用することで、多層的な防御を実現し、アプリケーションとクラスター全体のセキュリティを強化できます。
さらには、DevOpsプロセスにセキュリティを組み込むDevSecOpsの実践にも役立つ特徴を有しています。
4.Kubernetesを利用するメリット
Kubernetesを利用するメリットは以下の9つです。ひとつひとつ見ていきましょう。
多数のコンテナ管理がしやすい
高速に起動ができる
自動でデプロイができる
可用性が高い
複数環境でも利用できる
DevOpsやマイクロサービスと親和性が高い
拡張性が高い
障害に強い
セキュリティ強化がしやすい
多数のコンテナ管理がしやすい
Kubernetesの最大のメリットは、そのオーケストレーション能力です。
数百、数千といった多数のコンテナを手動で管理するのは現実的ではありません。Kubernetesは、コンテナのデプロイ、スケーリング、スケジューリング、モニタリングといった管理タスクを自動化します。
宣言的な設定ファイルに必要な状態を記述するだけで、Kubernetesがその状態を維持するように動作してくれるため、管理者の負担は大幅に軽減されます。マイクロサービスのように多数のコンポーネントから成るシステムの運用において、このメリットは大きいと言えるでしょう。
高速に起動ができる
Kubernetesが管理するコンテナが軽量であるため、アプリケーションの起動やスケールアウトが非常に高速に行えるのがメリットです。
従来の仮想マシンの起動には数分かかることも珍しくありませんが、コンテナは数秒で起動可能です。この高速性は、急なトラフィック増に対応するための迅速なスケールアウトや、開発・テストサイクルの短縮に直結します。
CI/CDパイプラインに組み込むことで、コードの変更からデプロイまでの時間を大幅に短縮し、ビジネスの要求に素早く応えるアジリティを獲得することに貢献します。
自動でデプロイができる
Kubernetesは、アプリケーションのデプロイプロセスを自動化し、効率化します。ローリングアップデートやカナリアリリースといった高度なデプロイ戦略を、簡単な設定で実現可能です。
デプロイ時に問題が発生した場合の自動ロールバック機能も備わっており、安全かつ迅速なリリースが可能です。開発者はインフラの複雑な操作を意識することなく、アプリケーションコードの変更を本番環境へ反映させられます。
この自動化は、ヒューマンエラーのリスクを低減し、リリース頻度の向上をサポートするため、DevOpsの実践において中心的な役割を果たすことでしょう。
可用性が高い
Kubernetesは、アプリケーションの可用性を高めるための機能を豊富に備えています。
ノードやコンテナ障害を自動的に検出し、正常なノードでコンテナを再起動する自己修復機能はその代表例です。
また、複数のコンテナを常に稼働させておくレプリケーション機能や、トラフィックを正常なコンテナにのみ振り分けるロードバランシング機能も、サービスの継続性を支えます。これらの機能により、インフラの一部に問題が発生しても、アプリケーション全体としてはサービスを提供し続けられます。
システムの安定稼働が求められる環境において、大きな安心材料となるはずです。
複数環境でも利用できる
Kubernetesは、オンプレミスのデータセンターやパブリッククラウドなどを組み合わせたハイブリッドクラウドやマルチクラウド環境など、様々なインフラストラクチャ上で動作するように設計されています。
特定のクラウドプロバイダーにロックインされることなく、アプリケーションのポータビリティを確保できます。一度Kubernetes向けにアプリケーションを構築すれば、基盤となるインフラが変わっても、大きな変更なしにデプロイ・運用が可能です。ビジネス要件やコストに応じて最適なインフラを選択できる柔軟性は、長期的な視点で大きなメリットと言えるでしょう。
DevOpsやマイクロサービスと親和性が高い
Kubernetesは、DevOpsプラクティスやマイクロサービスアーキテクチャと非常に相性が良いプラットフォームです。
宣言的な構成管理、API駆動の操作、自動化されたデプロイ・スケーリング機能などは、CI/CDパイプラインとの連携を容易にし、開発から運用までのプロセスをスムーズに繋げます。
また、マイクロサービスのように独立した小さなサービス群を、それぞれ個別にデプロイ、スケーリング、管理するのに適したアーキテクチャを提供します。サービス間の連携やトラフィック管理もサービスメッシュとの連携で高度化できます。効率的な開発・運用サイクルの実現を強力に後押しします。
拡張性が高い
Kubernetesは非常に高い拡張性を持つように設計されています。コア機能は安定性を重視しつつ、CRDという仕組みを利用することで、ユーザーが独自のAPIリソースを定義し、Kubernetes APIを拡張することが可能です。これにより、特定のワークロードや運用ニーズに合わせたカスタムコントローラーやオペレーターを作成し、Kubernetesの管理能力をさらに高めることができます。
また、エコシステムも活発で、監視、ロギング、セキュリティ、サービスメッシュなど、様々な領域でKubernetesと連携するツールやサービスが多数存在します。これらを組み合わせることで、自社の要件に最適なプラットフォームを構築可能です。
障害に強い
Kubernetesは、システム全体の障害耐性を高めるための仕組みを複数備えています。前述の自己修復機能やレプリケーション機能に加え、複数のマスターノードによるコントロールプレーンの冗長化、複数のワーカーノードへのPodの分散配置などが可能です。
特定のノードやコンポーネントに障害が発生しても、システム全体としては機能し続けることができます。また、ノードやPodのヘルスチェックを継続的に行い、異常を早期に検知して対処します。これらの機能により、ミッションクリティカルなアプリケーションであっても、Kubernetes上で安定して稼働させることが期待できます。
セキュリティ強化がしやすい
Kubernetesは、セキュリティを強化するための様々な機能を提供しており、これらを活用することで多層的な防御を実現できます。RBACによるアクセス制御、ネットワークポリシーによる通信制御、Secretsによる機密情報の管理、セキュリティコンテキストによるコンテナ権限の制限などが標準で利用可能です。
また、設定ミスや脆弱性を検出するセキュリティスキャンツールや、コンプライアンス遵守を支援するツールなど、エコシステムも充実しています。インフラストラクチャレベルでのセキュリティ対策を講じやすく、アプリケーションの安全性を確保するための基盤として機能します。
5.Kubernetesを利用するデメリット
多くのメリットを持つKubernetesですが、導入や運用にあたっては以下3つのデメリットを理解することが大切です。それぞれを見ていきましょう。
初期費用がかかる
アップデートが頻繁にあるため学習し続ける必要がある
使い方を明確にする必要がある
初期費用がかかる
Kubernetesクラスターを自前で構築・運用する場合、サーバーなどのインフラコストに加えて、設計・構築に関する初期費用が発生します。
また、概念やコンポーネントが多く、習熟するには一定の時間と労力が必要です。クラウドプロバイダーが提供するマネージドKubernetesサービスを利用すれば、インフラ管理の負担は軽減されますが、サービス利用料が発生します。
特に小規模なシステムの場合、導入効果とコストが見合わない可能性もあるため、事前の検討が求められます。
アップデートが頻繁にあるため学習し続ける必要がある
Kubernetesは非常に活発に開発が進められており、およそ3~4ヶ月に一度のペースで新しいバージョンがリリースされます。
バージョンアップごとに新機能の追加や仕様変更、非推奨となる機能や削除される機能が含まれることがあります。安定した運用を続けるためには、これらの変更に追従し、継続的に学習していかなければなりません。
特に、APIの変更などはアプリケーションの改修が必要になる場合もあり、計画的なバージョンアップ戦略が求められます。
キャッチアップを怠ると、セキュリティリスクの増大や、新機能の恩恵を受けられないといった事態に繋がる可能性を考慮しましょう。
使い方を明確にする必要がある
Kubernetesは非常に多機能で柔軟性が高い反面、「何のために導入するのか」「どのような課題を解決したいのか」といった目的が明確でないと、そのメリットを十分に活かせない可能性があります。
例えば、「単にコンテナを動かしたい」だけであれば、Docker Composeや他のシンプルなツールで十分かもしれません。
以下のような具体的な導入効果を事前に検討するのが必要です。
スケーラビリティ
可用性向上
デプロイ自動化
マルチクラウド対応など
組織の目標と照らし合わせることが重要になります。目的が曖昧なまま導入すると、かえって運用が複雑化してしまうケースも考えられます。
6.Kubernetesの導入事例(使いどころ)
Kubernetesは、その柔軟性と強力な機能から、様々な分野や用途で活用されています。ここでは代表的な導入事例(使いどころ)を紹介します。
マイクロサービス・アーキテクチャーまたはクラウドネイティブ開発
ハイブリッド・マルチクラウド環境
大規模なアプリケーション
アプリケーションのモダナイゼーション
DevOpsプラクティス
人工知能(AI)と機械学習
マイクロサービス・アーキテクチャーまたはクラウドネイティブ開発
Kubernetesは、マイクロサービスアーキテクチャを採用する上で非常に有力な基盤となります。
各サービスを独立したコンテナとしてデプロイし、個別にスケーリングやアップデートを行うことが容易です。サービスディスカバリーや負荷分散機能により、サービス間の連携もスムーズに行えます。
また、コンテナ、マイクロサービス、DevOpsといった要素を組み合わせたクラウドネイティブなアプリケーション開発において、Kubernetesは中核的な役割を担います。
ハイブリッド・マルチクラウド環境
特定のクラウドベンダーに依存せず、オンプレミスとパブリッククラウド、あるいは複数のパブリッククラウドを組み合わせて利用するハイブリッド・マルチクラウド戦略において、Kubernetesは重要な役割を果たします。
Kubernetesは様々な環境で一貫した運用体験を提供するため、インフラの違いを抽象化し、アプリケーションのポータビリティを高めます。ワークロードの配置を柔軟に決定でき、コスト最適化やリスク分散、あるいは特定のクラウドが提供する機能の活用などが可能になります。
大規模なアプリケーション
多数のコンポーネントから構成される大規模なアプリケーションや、大量のトラフィックを処理する必要があるシステムにおいても、Kubernetesは効果を発揮します。
自動スケーリング機能により、負荷に応じてコンテナの数を動的に増減させられます。
また、ローリングアップデートや自己修復機能により、サービスを停止することなく、安定した運用を実現できます。多数のコンテナやノードを効率的に管理するための機能が充実しており、複雑なシステムであっても運用負荷を抑えながら、高いパフォーマンスと可用性を維持することに貢献します。
アプリケーションのモダナイゼーション
既存のモノリシックなアプリケーションを、マイクロサービス化したり、コンテナ化したりする「アプリケーションのモダナイゼーション」においても、Kubernetesは重要な役割を担います。
コンテナ化によってアプリケーションのポータビリティを高め、Kubernetes上で管理することで、デプロイの自動化、スケーラビリティの向上、可用性の向上といったメリットを享受できます。
段階的にモノリシックなアプリケーションをマイクロサービスに分割し、Kubernetes上で共存させながら移行を進めることも可能です。レガシーシステムからの脱却と、クラウドネイティブなアーキテクチャへの移行を支援するプラットフォームです。
DevOpsプラクティス
Kubernetesは、DevOpsの文化とプラクティスを実践するための強力なツールです。
インフラストラクチャをコードとして管理し、宣言的な設定によって環境の再現性を高めます。CI/CDパイプラインとの連携も容易で、ビルド、テスト、デプロイのプロセスを自動化し、迅速かつ頻繁なリリースを実現します。
開発チームと運用チームの間の壁を取り払い、協力してアプリケーションのライフサイクル全体を管理することを支援します。自動化、一貫性、再現性を重視するDevOpsの思想と、Kubernetesの機能は非常に親和性が高いと言えます。
人工知能(AI)と機械学習
人工知能(AI)や機械学習の分野でも、Kubernetesの活用が広がっています。AIモデルの開発や学習には、多くの計算能力、アイデアを試すための柔軟な環境、そして常に同じ結果を得られる正確さが求められ、これらがAI開発の課題です。
Kubernetesは、これらの課題解決を強力にサポートしています。たとえば以下のようなことが可能です。
AI計算に適した高性能部品(GPUなど)の管理
コンピュータ計算能力の効率的な割り当て
AI学習作業計画のスムーズな実行
加えて、「Kubeflow」のように、Kubernetes上でAI開発の全工程を管理しやすくするツールも登場しました。その結果、AIの専門家はコンピュータの複雑な設定に悩むことなく、AIそのものの開発に集中できる環境が整いつつあります。
7.Kubernetesエコシステム一覧
Kubernetes単体でも強力なプラットフォームですが、その真価は広範なエコシステムとの連携によってさらに高まります。ここでは、Kubernetesを取り巻く主要なツールやサービスとして以下の5つを紹介します。
Kubernetesマネージド・サービス
Kubernetes監視ツール
Istioサービス・メッシュ
Knativeとサーバーレス・コンピューティング
Tekton
Kubernetesマネージド・サービス
Kubernetesマネージド・サービスは、以下の代表例があります。
AWSのEKS
Google CloudのGKE
Microsoft AzureのAKSなど
これらのサービスを利用することで、Kubernetesのコントロールプレーンの構築、運用、スケーリング、アップグレードといった管理作業をクラウドプロバイダーに任せることが可能です。
インフラ管理の負担が大幅に軽減されるため、ユーザーはアプリケーションの開発と運用に集中できます。高可用性やセキュリティも担保されやすく、Kubernetes導入のハードルを下げる選択肢です。
Kubernetes監視ツール
Kubernetesクラスターと、その上で動作するアプリケーションの状態を監視し、可観測性を高めるためのツール群です。
代表例は以下のとおりです。
Prometheus(メトリクス収集・監視)
Grafana(ダッシュボードによる可視化)
Elasticsearch/Fluentd/Kibana(EFKスタック、ログ収集・分析・可視化)
JaegerやZipkin(分散トレーシング)など
これらのツールを組み合わせることで、クラスターのリソース使用状況、アプリケーションのパフォーマンス、エラー発生状況などを詳細に把握し、問題の早期発見やトラブルシューティングに役立てることが可能です。安定した運用に不可欠な要素と言えるでしょう。
Istioサービス・メッシュ
Istioは、マイクロサービス間の通信を管理、保護、監視するためのオープンソースのサービスメッシュプラットフォームです。
Kubernetesと連携し、アプリケーションコードを変更することなく以下の機能を提供します。
サービス間のトラフィック制御(カナリアリリース、A/Bテストなど)
高度な負荷分散
通信の暗号化(mTLS)
アクセス制御
詳細なテレメトリ(メトリクス、ログ、トレース)収集
マイクロサービスアーキテクチャにおけるネットワーク通信の複雑さを解消し、運用管理を容易にするための強力なツールです。Kubernetesのネットワーク機能を補完し、より高度なアプリケーション管理を実現します。
Knativeとサーバーレス・コンピューティング
Knativeは、Kubernetes上でサーバーレス・ワークロードを構築、デプロイ、管理するためのプラットフォームです。コンテナイメージをビルドする機能、リクエストに応じてコンテナを自動的にスケールイン/アウトさせる機能、イベント駆動型のアプリケーションを構築するための機能などを提供します。
Kubernetesの基盤を活用しながら、AWS LambdaやGoogle Cloud Functionsのようなサーバーレスコンピューティング環境を実現できるのが特徴です。開発者はインフラ管理を意識せず、コード実行に集中できるようになり、リソース効率も向上します。
Tekton
Tektonは、KubernetesネイティブなCI/CDパイプラインを構築・実行するためのフレームワークです。
パイプラインの各ステップ(ビルド、テスト、デプロイなど)をKubernetesのカスタムリソースとして定義し、コンテナとして実行します。再利用可能なタスクやパイプラインを定義でき、標準化された方法でCI/CDプロセスを管理可能です。
Jenkins XやGitLab CIなど、他のCI/CDツールと連携したり、あるいはTekton単体でパイプラインを完結させたりできます。Kubernetes環境でのCI/CD構築において、有力な選択肢の一つとなっています。
8.Kubernetesの用語解説
Kubernetesを理解し、効果的に利用するためには、いくつかの重要な概念と構成要素を表す用語を知っておく必要があります。ここでは基本的な用語を解説します。
クラスター
ノード
Pod
ReplicaSet
Deployment
Service
コントロールプレーン
レプリケーション・コントローラー
Kubelet
kubectl
CustomResourceDefinition(CRD)
クラスター
クラスターは、Kubernetesにおける管理の基本単位であり、コンテナ化されたアプリケーションを実行するためのノードの集合体です。
少なくとも1つのコントロールプレーンと、1つ以上のワーカーノードで構成されます。コントロールプレーンがクラスター全体の状態管理やスケジューリングを行い、ワーカーノードが実際にコンテナを実行します。
ユーザーは通常、コントロールプレーンのAPIを介してクラスターを操作します。高可用性を実現するために、複数のコントロールプレーンとワーカーノードで構成されることが一般的です。
ノード
ノードは、Kubernetesクラスターを構成する個々のマシンです。アプリケーションコンテナを実行する役割を担います。
各ノードには、以下の構成要素が動作しています。
コンテナランタイム(Dockerなど)
kubelet(コントロールプレーンと通信し、コンテナを管理するエージェント)
kube-proxy(ネットワークルールを管理するプロキシ)など
ノードには、コントロールプレーンの役割を担う「コントロールプレーンノード」と、実際にコンテナ(Pod)を実行する「ワーカーノード」の2種類があります。
Pod
Podは、Kubernetesで作成および管理できる最小のデプロイ単位です。
1つ以上のコンテナと、それらが共有するストレージボリューム、ネットワークIPアドレス、およびコンテナの実行方法に関するオプションを含みます。
同じPod内のコンテナは、localhostを通じて互いに通信でき、ストレージボリュームを共有します。通常、1つのPodには1つの主要なコンテナを配置し、補助的なコンテナを配置することが一般的です。
ReplicaSet
ReplicaSetは、指定された数のPodのレプリカが常に実行されている状態を維持することを保証するコントローラーです。
Podのテンプレートと、維持したいレプリカ数を定義します。ReplicaSetは、現在のPod数が必要なレプリカ数と一致するように、Podの作成や削除を自動的に行います。
例えば、ノード障害でPodが停止した場合、ReplicaSetは別のノードで新しいPodを起動します。通常、開発者が直接ReplicaSetを作成することは少なく、より高機能なDeploymentリソースを通じて間接的に利用されることが多いです。
Deployment
Deploymentは、PodとReplicaSetに対する宣言的な更新機能を提供するコントローラーです。
Deploymentリソースに、アプリケーションのあるべき状態を記述します。すると、Deploymentコントローラーが現在の状態からあるべき状態へと、制御された速度で変更を加えます。
具体的には、内部でReplicaSetを作成・管理し、ローリングアップデートやロールバックといった機能を実現します。ステートレスアプリケーションのデプロイとライフサイクル管理に最も一般的に使用されるリソースの一つです。
Service
Serviceは、実行中のPodの集合に対して、単一の安定したIPアドレスやDNS名を提供する抽象化レイヤーです。
Podは一時的なものであり、障害やスケーリングによって再作成されるとIPアドレスが変わってしまいます。Serviceは、Podの集合へのアクセスを仲介し、クライアントがPodのIPアドレスを意識することなく、常に同じエンドポイントに接続できるようにします。
また、複数のPodに対して負荷分散を行う機能も持ちます。Serviceにはいくつかのタイプがあり、用途に応じて使い分けられます。代表的なServiceは以下のとおりです。
ClusterIP: クラスター内部でのみアクセス可能な仮想IPアドレスをServiceに割り当てます。クラスター内の他のPodからアクセスするためのデフォルトタイプです。
NodePort: 各ノードの特定のポートでServiceを公開します。クラスター外部から<NodeIP>:<NodePort>でアクセス可能となり、主に開発やテスト用途で利用されます。
LoadBalancer: クラウドプロバイダー(AWS, GCP, Azureなど)が提供する外部ロードバランサーを自動的にプロビジョニングし、Serviceに割り当てます。クラスター外部からのアクセスに最も一般的に使われるタイプです。
ExternalName: Service名をCNAMEレコードとして外部のDNS名にマッピングします。クラスター内部から外部のサービスにアクセスするために利用されます。
コントロールプレーン
コントロールプレーンは、Kubernetesクラスター全体の頭脳として機能するコンポーネント群の総称です。クラスターの状態を管理し、決定を下す役割を担います。
主なコンポーネントは以下のとおりです。
クラスターの状態を永続的に保存する分散キーバリューストア「etcd」
APIリクエストの受付・検証・処理を行う「kube-apiserver」
Podをどのノードに配置するか決定する「kube-scheduler」
クラスターの状態を望ましい状態に維持する各種「コントローラーマネージャー」など
これらは通常、マスターノード上で実行され、高可用性のために冗長化されることが推奨されます。
レプリケーション・コントローラー
レプリケーション・コントローラーは、ReplicaSetの旧バージョンにあたるコントローラーです。ReplicaSetと同様に、指定された数のPodレプリカが常に実行されていることを保証します。
主な違いは、ReplicaSetがより表現力の高い「セレクター(Podを選択する条件)」をサポートしている点です。現在では、ReplicaSetの使用が推奨されており、レプリケーション・コントローラーが新規に利用されることはほとんどありません。
しかし、古いドキュメントや設定ファイルで見かける可能性があるため、ReplicaSetの前身であるという認識は持っておくと良いでしょう。
Kubelet
Kubeletは、クラスター内の各ノードで実行されるエージェントです。
コントロールプレーンのkube-apiserverと通信し、そのノードで実行されるべきPodの仕様を受け取ります。そして、その仕様に基づいてcontainerd、CRI-O、Dockerなどのコンテナランタイムを制御し、Pod内のコンテナが正常に動作していることを確認します。ノードやコンテナの状態をkube-apiserverに報告する役割も担っています。
Kubeletは、Kubernetesクラスターが各ノードを管理し、コンテナを実際に動かすための重要なコンポーネントです。
kubectl
kubectlは、Kubernetesクラスターを操作するためのコマンドラインインターフェースツールです。
ユーザーはkubectlコマンドを使用して、kube-apiserverと通信し、クラスターリソースの作成、表示、更新、削除といった様々な操作を行います。例えば、「kubectl get pods」でPodの一覧を表示したり、「kubectl apply -f deployment.yaml」で設定ファイルに基づいてDeploymentを作成したりできます。
Kubernetes管理者や開発者がクラスターと対話するための基本的なツールであり、習得は必須と言えます。
CustomResourceDefinition(CRD)
CustomResourceDefinition(CRD)は、Kubernetes APIを拡張し、ユーザー独自のカスタムリソースを定義するための機能です。
Kubernetesには標準でPodやDeploymentなどのリソースタイプが用意されていますが、CRDを使うことで、「Database」や「BackupJob」といった独自のオブジェクトタイプを作成できます。そして、そのカスタムリソースを操作するためのカスタムコントローラーを実装することで、特定のアプリケーションやサービスの管理を自動化できます。
9.Kubernetesの知識を身につけられる資格
Kubernetesのスキルを証明し、キャリアアップに繋げるための認定資格がいくつか存在します。それぞれ解説していきます。
認定Kubernetesクラウドネイティブアソシエイト(KCNA-JP)
認定Kubernetes管理者(CKA-JP)
認定Kubernetesアプリケーション開発者(CKAD-JP)
認定Kubernetesセキュリティスペシャリスト(CKS-JP)
認定Kubernetesクラウドネイティブアソシエイト(KCNA-JP)
KCNA(Kubernetes and Cloud Native Associate)は、Kubernetesとクラウドネイティブエコシステムの基礎的な知識とスキルを証明する入門レベルの資格です。
特定の技術的なロールに限定されず、クラウドネイティブ技術に関心のある学生や、これから学習を始めるエンジニア、あるいは技術営業やマネージャー職の方々が対象となります。
Kubernetesの基本的な概念、アーキテクチャ、コンテナオーケストレーションの利点、クラウドネイティブのランドスケープなどを理解していることを示します。実技試験はなく、多肢選択式の試験です。
認定Kubernetes管理者(CKA-JP)
CKA(Certified Kubernetes Administrator)は、Kubernetesクラスターの管理、運用、トラブルシューティングに関するスキルを持つ管理者を認定する資格です。
Kubernetesクラスターのインストール、設定、ネットワーク構成、ストレージ管理、セキュリティ、ロギング・モニタリング、アップグレード、障害対応など、実践的な管理能力が問われます。
試験はコマンドライン環境で実際のタスクを実行する実技形式であり、高いスキルレベルが要求されます。インフラエンジニアやSREなど、Kubernetesクラスターの運用管理を担当するエンジニアにとって、価値の高い資格と言えるでしょう。
認定Kubernetesアプリケーション開発者(CKAD-JP)
CKAD(Certified Kubernetes Application Developer)は、Kubernetes上で動作するアプリケーションを設計、構築、デプロイ、構成する能力を持つ開発者を認定する資格です。
主な試験範囲は以下のとおりです。
Deployment, Service, ConfigMap, Secretなどのコアコンセプトの理解
マルチコンテナPodの設計
Podのヘルスチェック(Readiness/Liveness Probe)の実装、
永続ストレージの利用
アプリケーションの監視
トラブルシューティングなど
CKAと同様に、コマンドライン環境での実技試験です。バックエンドエンジニアやDevOpsエンジニアなど、Kubernetes上でアプリケーション開発を行うエンジニアに適した資格となっています。
認定Kubernetesセキュリティスペシャリスト(CKS-JP)
CKS(Certified Kubernetes Security Specialist)は、Kubernetesクラスターと、その上で実行されるアプリケーションのセキュリティ確保に関する専門知識とスキルを証明する上級資格です。受験するには、事前にCKA認定を取得している必要があります。
クラスターのセットアップと強化、システムの強化、マイクロサービスの脆弱性の最小化、サプライチェーンセキュリティ、監視・ロギング・ランタイムセキュリティなど、セキュリティに関する幅広い知識と実践力が問われます。
試験はCKA/CKADと同様の実技形式です。セキュリティエンジニアや、Kubernetes環境のセキュリティ強化を担当するエンジニア向けの資格となります。
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10.Kubernetesでよくある質問
Kubernetesについて学習を進める中で、疑問に思う点も出てくるでしょう。ここでは、よくある質問とその回答をまとめました。
kubernetesの読み方は?
kubernetesではdockerが非推奨となる理由は?
kubernetesの読み方は?
Kubernetesの読み方にはいくつかのバリエーションがありますが、一般的には「クバネティス」または「クーベネティス」と読まれることが多いです。どちらの読み方が絶対的に正しいというわけではありません。
また、"K"と"s"の間に8文字あることから、「K8s」(ケーエイツ、ケイティーズ、クバーネイティーズなど)という略称で呼ばれることも一般的です。ドキュメントや会話の中でK8sという表記が出てきても、Kubernetesのことを指していると理解しておきましょう。
Kubernetesではdockerが非推奨となる理由は?
Kubernetes v1.20以降、Docker Engineを直接コンテナランタイムとして使用するためのコンポーネント「Dockershim」が非推奨となり、v1.24で削除されました。これが「KubernetesでDockerが非推奨」と言われる理由です。しかし、これは「Dockerで作ったコンテナイメージが使えなくなる」という意味ではありません。
背景には、Kubernetesがコンテナランタイムの標準インターフェースとしてCRIを定めたことがあります。Docker EngineはCRIに準拠しておらず、KubernetesがDocker Engineを使うためにはDockershimという中間層が必要でした。このDockershimのメンテナンスコストや複雑さを解消するため、CRIに準拠した他のコンテナランタイム(containerdやCRI-Oなど)への移行が推奨されるようになったのです。
開発者は引き続きDockerを使ってコンテナイメージをビルドできますし、そのイメージはCRI準拠ランタイム上で問題なく動作します。影響があるのは主にKubernetesクラスターの管理者であり、Docker EngineではなくcontainerdなどCRI準拠のランタイムを使用するようにクラスターを構成する必要が出てきました。
11.まとめ
今回は、Kubernetesについて、その基本的な概念から主要な機能、メリット・デメリット、導入事例、関連エコシステム、主要な用語、関連資格、よくある質問に至るまで幅広く解説しました。
Kubernetesは、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイ、スケーリング、管理を自動化し、現代のソフトウェア開発・運用に不可欠なコンテナオーケストレーションプラットフォームです。多数のコンテナ管理の容易化、高い可用性、デプロイ自動化、マルチクラウド対応など、多くのメリットを提供し、特にDevOpsプラクティスやマイクロサービスアーキテクチャとの親和性が高い技術です。
一方で、学習コストや運用の複雑さといった側面もありますが、マネージドサービスの利用やエコシステムの活用によって、導入・運用のハードルは下がりつつあります。自社の課題や目的に合わせてKubernetesの導入を検討し、その強力な機能を活用することで、開発プロセスの効率化、アプリケーションの信頼性向上、そしてビジネスの競争力強化に繋げることができるでしょう。
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