スタートアップや事業を立ち上げたばかりの企業は、思い描く将来を実現するための資金調達を行う必要があります。資金調達を受けるには「投資ラウンド」を理解し、投資家の考えや投資方法を把握することが重要です。スタートアップや新規事業者は、投資ラウンドの各フェーズ(段階)の特徴を知り、計画的な事業展開を実践する準備をする必要があるでしょう。
本記事ではスタートアップや事業を始めたばかりの企業がチェックすべき、投資ラウンドの基本について解説します。投資ラウンド一覧や資金調達のポイント・注意点を把握し、これからの事業計画を考えるための役に立ててください。
目次
1.投資ラウンドとは?
スタートアップや事業を始めたばかりの個人事業主・フリーランスは、投資ラウンドの意味を正確に理解しておくことが大切です。
以下では、投資ラウンドの基本について解説します。
投資家がスタートアップ企業に投資するフェーズのこと
投資ラウンドとは、投資家がスタートアップ企業などに対して、資金を投資するフェーズ(段階)のことを指します。投資ラウンドのフェーズによって投資を受ける相手や資金調達の方法が変わるため、事業展開をするにはまず自社のフェーズを把握する必要があります。
投資ラウンドは、主にアメリカのシリコンバレーで使用される用語でした。現在は日本でも資金調達における専門用語として、浸透しつつあると言えるでしょう。投資ラウンドについて理解できていないと、投資家との認識に齟齬が生まれ、資金調達に支障が出る可能性もあります。事業拡大や会社の成長に必要となる資金を確保するためにも、投資ラウンドについての理解を深めておくことが重要です。
資金調達ラウンドとの違いは?
資金調達ラウンドと投資ラウンドには、基本的に同じ意味があります。ただ、投資ラウンドは投資家サイドからみたフェーズを指します。一方で、スタートアップ企業や個人起業家からみたラウンドを、投資ラウンドと表現することがあります。
立場によって資金調達ラウンドと投資ラウンドのどちらの言葉を使うか変わる可能性はありますが、基本的には同じ内容という認識で問題ないでしょう。
投資ラウンドは誰が決める?
投資ラウンドは、スタートアップ企業の経営陣、投資家、法務・財務アドバイザーなどが決めることが多いと言われています。それぞれの立場にいる人が、企業の成長戦略や市場状況、資金の必要性などを総合的に考慮し、投資ラウンドを判断するのが基本です。
スタートアップ企業と投資家の両方に利益があるように、慎重かつ論理的な方法で投資ラウンドを決定する必要があります。
2.投資ラウンドの種類一覧(全体像)
フェーズ | 目安調達額 | 主な投資家 | 主要目的 |
---|---|---|---|
エンジェル(プレシード) | 100万〜1,000万円 | エンジェル投資家/CF | プロトタイプ開発 |
シード | 500万〜5,000万円 | VC・政策金融公庫 | PMF検証 |
プレシリーズA | 5,000万〜1億円 | VC | ユースケース拡大 |
シリーズ A | 1億〜3億円 | VC・CVC | 市場投入・認知拡大 |
シリーズ B | 3億〜15億円 | VC複数社 | スケール&黒字化 |
シリーズ C以降 | 20億円超 | VC/PEファンド | 海外展開・M&A・IPO準備 |
投資ラウンドには上表のようにさまざまなフェーズ(段階)があり、それぞれの特徴を把握しておくことが資金調達を実践するうえで必要になります。
以下では、投資ラウンドの種類・フェーズ一覧と特徴について解説します。
投資ラウンド①エンジェルラウンド(プレシード)
投資ラウンドの最初期段階を、「エンジェルラウンド」と呼びます。エンジェルラウンドはプレシードとも言われ、ビジネス展開がされていない状態の事業段階を指します。製品やサービスに関するアイデアはあるけれど、具体的に形にするための方法や環境はまだ整っていないのが基本です。
エンジェルラウンドでは、エンジェル投資家と呼ばれる個人投資家や、設立したばかりの企業を支援するインキュベーターなどが資金調達先になります。また、小規模事業の場合には株式投資型のクラウドファンディングを実施し、インターネットを介して資金を調達する方法もあります。
エンジェルラウンドでは、まだそれほど多くの資金を必要としないケースが多いため、100万円〜1,000万円程度が資金調達における相場となるでしょう。資金調達に必要となる期間は、だいたい1日〜1ヶ月が目安になります。集めた資金は人材確保やアイデアの開発・創造など、事業を立ち上げるための基盤に使われます。
投資ラウンド②シード
投資ラウンドにおける「シード」とは、会社の設立やビジネスモデルの決定など、事業を始める環境が整った段階を指します。実際に事業展開を行うために、事業体制の整備や製品のプロトタイプを開発する準備などを行います。
資金調達先はエンジェル投資家やクラウドファンディングに加えて、ベンチャーキャピタル(VC)や政策金融公庫などがあります。ベンチャーキャピタルはスタートアップ企業などの未上場企業に投資をして、代わりに出資先の株式を得るのが特徴です。資金以外にも経営アドバイスや施設提供など、積極的な支援(ハンズオン)を行うこともあります。
政策金融公庫とは、経済発展や地域活性化などを目的に支援を行う公的な金融機関です。民間の金融機関よりも金利が低めだったり、返済期間が長めだったり、手続きが簡単だったりといったメリットがあります。一方で、他の金融機関からの借り換えには使えない点に注意が必要です。
資金は商品・サービスのリリースに向けて必要とされる準備や、市場や顧客ニーズなどの調査費用、法人を設立するための費用として使われます。資金調達には数ヶ月の期間が必要になり、相場は500万〜5,000万円程度になるでしょう。
投資ラウンド③プレシリーズA
シードのフェーズで計画していた事業を展開し始めた段階を、「プレシリーズA」と呼びます。プロトタイプの製品・サービスを実際に使ってもらい、ユーザーからフィードバックを得て改善に着手したり、事業の方向性を見直したりといった、今後に関わる重要な業務を始めます。
資金調達先はベンチャーキャピタルなどが主になり、数ヶ月の期間をかけて5,000万〜1億円程度が目安になります。製品・サービスの開発費や人件費に加えて、マーケティング費用や広告費などにコストがかかる点が特徴のフェーズです。製品・サービスがユーザーに受け入れられているかどうかで、資金調達の難易度は変わるでしょう。
投資ラウンド④シリーズA
「シリーズA」とは、製品・サービスが市場ニーズにマッチしていることを証明し、さらなる発展に挑む投資ラウンドのフェーズになります。さらなる成長が見込まれる段階になるため、認知度拡大、売上増加、新規ユーザーの獲得などを目的に、さまざまな施策の実行が望まれます。
投資ラウンドがシリーズAになると、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)も資金調達先の候補になります。コーポレート・ベンチャーキャピタルとは、事業会社が持つ自己資金を使って組織されたファンドで、未上場の企業に出資・支援を行うのが特徴です。自社の本事業とシナジーのある企業に投資し、友好な関係を構築して将来的に市場で相乗効果を得るために運営されています。
その他、投資ラウンドがシリーズAになると、国や地方公共団体が提供する各種補助金・助成金制度の利用も視野に入ります。補助金・助成金を得るにはさまざまな条件があるため、まずは自社の事業にマッチするものがないか確認してみるのがおすすめです。
調達した資金は市場での認知度を高めるためのマーケティング費用や、開発力を高めるための人件費、設備投資による製造ラインの増設などに使用されます。資金調達の規模は数億円に達し、調達期間も半年程度になるでしょう。
投資ラウンド⑤シリーズB
投資ラウンドの「シリーズB」とは、自社の製品・サービスが評価されて、事業が軌道に乗り始めたフェーズです。シリーズBからはさらなる市場の拡大や競合企業との差別化の他、新規事業の展開に乗り出すことも考えられます。これまでと同じく開発・マーケティングを継続しつつ、新しい事業展開を見越した行動も必要になるため、資金調達の重要性が高まります。
また、イグジットや投資資金の回収が始まるフェーズでもあるため、主軸事業の利益が黒字化していることも重要となります。そのため資金調達の金額は、数億〜数十億円が基準になります。
投資ラウンドのシリーズBまでくると、会社が社会的な信用を得ているため、厳しい審査が必要となる手法での資金調達もしやすくなるでしょう。巨額の資金を素早く調達するために、複数のベンチャーキャピタルと接触するケースも考えられます。
投資ラウンド⑥シリーズC
投資ラウンドの「シリーズC」は、事業が安定して黒字経営が継続できているフェーズになります。これまでの成果や実績を活かして、海外を視野に入れた事業拡大や新事業の立ち上げなどが考えられるでしょう。また、M&Aや上場など、別の形で市場に介入していくことも視野に入ります。
資金調達の金額もさらに上がり、数十億〜数百億円まで想定されます。シリーズB以降と同じく、長期にわたる審査が基本となるでしょう。
投資ラウンド⑦シリーズD
投資ラウンドの「シリーズD」とは、既に安定して収益を出せるレベルにまで成長したスタートアップ企業を指します。新規事業展開や海外への進出など、大きなプロジェクトを複数抱えられる状態になるでしょう。そんなシリーズDにおいても、資金調達は重要となります。
数十億円~数百億円規模の金額を調達し、市場拡大のきっかけづくりや株式公開(IPO)の準備など、さまざまな用途に使われます。資金調達には時間がかかるため、中長期的な計画を立てることが求められるでしょう。資金調達先はベンチャーキャピタルなどの他に、IPOやM&Aの実績があるPEファンドも考えられます。PEファンドとは、事業再編や経営効率化に関する投資に特化したファンドです。
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3.スタートアップが投資ラウンドを理解すべき理由
スタートアップ企業の経営者や起業家は、投資ラウンドについてきちんと理解を深めておく必要があります。以下では、投資ラウンドを理解すべき理由について解説します。
スタートアップは自己資金だけで活動するのが難しい
事業を立ち上げたいスタートアップ企業や個人事業主・フリーランス、起業家にとって、資金問題は避けては通れません。ある程度の自己資金を用意できたとしても、アイデアを実現して市場に展開するまでに残金が保たず、途中で体力が尽きてしまう可能性も懸念されます。
そのため新しく会社を立ち上げる際には、自己資金にプラスして資金調達を行い、投資ラウンドのフェーズを進めていく体力をつける必要があります。資金調達に成功すれば、人材や開発時間を確保できるため、事業を実現できる可能性を高められるでしょう。
素早い事業展開を実行するためのコストを確保する必要がある
スタートアップ企業や個人事業主・フリーランス、起業家は、スピード感を意識して素早い事業展開を行う必要があります。市場のトレンドやユーザーのニーズは常に変化しているため、仮に起業を考えた時点では需要のある製品・サービスだったとしても、時間が経過することでその価値が低下する恐れもあります。
また、別の企業に同種の製品・サービスを先に展開されてしまうと、顧客の獲得が難しくなるケースも想定されるでしょう。素早い事業展開を実現するには、資金力が重要です。スピード感のある事業展開を続けていくためにも、投資ラウンドの基本を理解して、フェーズごとに投資家からの資金調達を受けられるように備えましょう。
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4.資金調達におけるポイント・注意点
資金調達を行う際には、投資ラウンドの基本を把握しつつ、成功のポイントや注意点を知ることも大切です。以下では、スタートアップ企業や個人事業主・フリーランス、起業家が知っておきたい資金調達におけるポイント・注意点を紹介します。
計画的かつ余裕のある資金調達を心がける
資金調達の際には、計画的で余裕のある考え方が重要となります。投資ラウンドのフェーズが進むごとに、調達できる金額は上がります。個人では動かすことがない規模の資金を取り扱うことにもなるため、よく考えて具体的な使用方法・用途を提案し、詳細なスケジュールを組み立てることが必要です。
また、事業規模に見合わない金額を調達してしまうと、上手く活かせず回収時に会社の負担となる可能性もあります。必要な資金を見積もったうえで、余裕のある資金調達を行うのがコツです。そのためにも投資ラウンドの各フェーズを理解し、段階ごとに合った投資家から資金を調達できるように備えましょう。
先を見越して資金調達を行う
資金調達の際には、先の投資ラウンドを見越した行動を意識するのも重要です。上記で解説した通り、資金調達の際にはある程度の時間がかかります。エンジェルラウンドやシードのような初期段階であっても、即日に資金調達ができるわけではないため、先を見越して早めに資金の確保に動く必要があります。
投資ラウンドのフェーズが進むごとに調達できる金額が上がると同時に、必要な準備期間も延びます。これまでのやり方を修正し、新しいフェーズに合わせた資金調達の計画を立案することも重要になるでしょう。
資金調達によるリスクを把握する
資金調達はメリットばかりではなく、さまざまなリスクを抱えることにもなります。例えば資金調達を受ける際には、以下のリスク・デメリットについて考えておく必要があるでしょう。
株式を付与しすぎると経営権を外部に握られてしまう
投資契約の内容次第では自由な経営が難しくなる
事業が認められないと資金調達ができない可能性が高まる
投資家の考え方によっては上場できなくなる
返済できなければ倒産・自己破産のリスクがある など
上記のようなリスクを考慮したうえで、計画的かつ投資ラウンドに合った適切な資金調達を受けることが成功のポイントです。
5.まとめ
投資ラウンドは、事業展開を予定しているスタートアップ企業、個人事業主・フリーランス、起業家が理解すべき知識の1つです。事業アイデアを実現するには、資金による経営基盤の構築が欠かせません。自己資金だけでなく、資金調達による事業経営もきちんと視野に入れて、積極的に行動を移していくことがおすすめです。
これから新しい事業を始める予定の方は、この機会に投資ラウンドの基本やフェーズごとの特徴をチェックし、事業計画の立案に活かしてみてください。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。
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