マーケティング戦略を立案し、実行する際に活用できるフレームワークは多くあります。その中でも現在注目されているものの1つとして、STP分析が挙げられます。STP分析は多くの人が知る有名企業のマーケティングにおいても活用されており、顧客やニーズの整理、自社にとって最適な市場の発見などにも役立つものです。
本記事では、STP分析の概要を押さえた上で、STP分析についてやり方、行う際の注意点、企業の活用事例などを見ていきましょう。
目次
1.STP分析とは
STP分析とはフィリップ・コトラーが提唱した手法で、マーケティングにおける代表的なフレームワークの1つです。
なお、STP分析はエスティーピー分析(ぶんせき)と読みます。STPはSegmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の頭文字を取った造語です。
マーケティングで成果を出すには「誰に」「何を」「どのように売るか」が重要なポイントになりますが、STP分析は「誰に」と「何を」に関わる視点になります。
STP分析を正しく行うことで同質のニーズをもつ市場を細分化し、自社が最大限の利益を生み出すにはその中でどこをねらうのか判断できるようになります。
2.STP分析の重要性
時代によって市場や顧客のニーズは変化しているため、ビジネスではターゲットを明確にしたマーケティング戦略が不可欠です。
マーケティング戦略を考えるにあたって調査・分析を行うことは前提となります。明確なペルソナが設定されていれば、自社の商品の強みを活かした商品の企画が実現しやすくなります。
STP分析によって自社が進出する予定の市場を分析し、競合を明確にすることで、自社が優位になる戦略を検討できます。
3.STP分析のやり方
STP分析はなんとなく実施するだけでは十分な結果を期待できないため、分析を行う前に正しいやり方を押さえておく必要があります。
STP分析は、以下の3つの項目に分けられます。
セグメーション
ターゲティング
ポジショニング
それぞれ確認していきましょう。
セグメーション
セグメンテーションでは広い市場を類似のニーズや特性を持つ顧客グループに分類を行います。
以下の表にあるような変数を用いて市場を細かく分けます。
変数の分類 | 説明 | 例 |
---|---|---|
地理的変数 | ・国 ・都市 ・地域 | ・日本に在住 ・都心に在住 |
人口動態変数 | ・年齢 ・性別 ・職業 ・年収 ・家族構成 | ・30代 ・男 ・営業職 ・年収500万円 ・一人暮らし |
心理的変数 | ・価値観 ・嗜好 ・興味 | ・多少高くても、よいものを購入したい ・おしゃれが好き ・トレンドに敏感 |
行動変数 | 人間の行動パターン | ・過去に問い合わせがあったユーザー ・1週間以内に来店実績あり |
続いて、4Rの原則に基づき、各セグメントの有効性の分析を行います。4Rの4つのRは以下になります。
Rank(優先度):自社の事業戦略、マーケティング戦略に則して優先度が決められている
Realistic(有効性):利益を見込める市場規模がある
Reach(到達可能性):自社の製品やサービス、宣伝広告などをターゲットに届けられる
Response(測定可能性):対象とする市場の規模、特徴などの測定が可能。マーケティング施策実施後の効果の測定を行える
ターゲティング
ターゲティングでは細分化したセグメントの評価をそれぞれ実施し、自社が実際に狙うべき市場を決定します。
自社の商品やサービスの強みだけでなく、セグメントの規模を考慮して選びます。
ターゲティングを行う際は、以下の3つのマーケティング手法を用いるのがおすすめです。
集中型マーケティング | 特定のセグメントのみにしぼり、シェアの獲得を目指す |
---|---|
差別型マーケティング | 複数のセグメントにニーズに適した商品やサービスをそれぞれ提供する |
無差別型マーケティング | セグメントにとらわれず、さまざまなターゲットに同じ商品やサービスを提供する |
集中型マーケティングは中小企業や限られた資金の中で商品やサービスを市場に届けたい企業に向いています。一方、差別型マーケティングや無差別型マーケティングは資金に余裕がある中規模の企業、および大規模の企業がよく利用する手法です。
ポジショニング
ポジショニングでは競合他社と自社を比較した結果を考慮し、ターゲットが属している市場内での自社の立ち位置を決めます。自社の商品やサービスのオリジナリティや同業他社にはない強み、独自の位置づけが重要になってきます。
例えば、プリンを販売する場合、ターゲットがスイーツが好きな独身女性の場合、多少値段が高くてもインスタ映えするようなおしゃれなパッケージで、こだわりの材料で製造することで購入してもらえる可能性は高いでしょう。ファミリー層のように複数購入する必要はないため、一個あたりの値段が高くても買ってもらえる見込みはあります。自分へのご褒美を検討しているスイーツ好きの女性から高く評価される可能性は高いです。
4.STP分析のメリット
STP分析を行うことで自社にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。
STP分析を行うメリットとして、以下の3つが挙げられます。
顧客のニーズを整理できる
自社の強みと改善点を洗い出せる
競合他社とは異なる市場を把握できる
それぞれ確認していきましょう。
顧客のニーズを整理できる
STP分析とは顧客のニーズを把握するのに役立つ分析方法です。この分析を行うことで、各市場にはどういった顧客が存在し、どのようなニーズを抱えているのか整理できます。
顧客ニーズの整理を行うことでペルソナを具体的にイメージし、そのペルソナに合った商品やサービスを検討できます。自社がターゲットとする顧客に明確にアプローチすることが可能になります。
ユーザーの声を商品やサービスに組み込めるため、顧客満足度のアップ、売上拡大を期待できるでしょう。
自社の強みと改善点を洗い出せる
STP分析の結果から自社の強みと改善点を把握できます。この強みを言語化し、共有することで、従業員のモチベーションが高まるだけでなく、強みを活かしたサービスや商品を生み出しやすくなります。
また、自社の強みは市場の変化とともに変化するものです。STP分析は一回実施して終わりではなく、市場の変化に合わせて行うことが大切です。STP分析を定期的に実施することで、シェアを安定的に獲得できるでしょう。
競合他社とは異なる市場を把握できる
数多くの企業が存在する中で、自社が存続し続けるには、競合他社の特徴を踏まえてビジネスを展開していく必要があります。
大手企業やその市場で絶大な売上を誇っている企業が存在する市場では、新たに参入しても勝てる確率は低いといわれています。勝てる見込みがあまりない市場で戦うのではなく、自社の強みを活かせる市場を新しく見つけることが大切です。
STP分析を実施することで自社が利益を上げられるポジションを明確にでき、競合他社との戦いを回避できます。
5.STP分析を行う際の注意点
STP分析を行う際はセグメンテーション(S)、ターゲティング(T)、ポジショニング(P)の順番で実施しなければならないという決まりはありません。
状況に応じて、P→T→S、もしくはP→S→Tなど順番を前後させることも可能です。
むしろ、S→T→Pの順番にとらわれすぎると、各フェーズが中途半端になったり、スムーズに進まなかったりすることもあります。S、T、Pの分析を行き来して行ったり、必要なフェーズを重点的に行ったりすることで、より有益なマーケテイング戦略を確立できるはずです。
また、STP分析の実施後、それで終わらせないことも大切です。他のフレームワークもあわせて使い、さまざまな角度から見てみることで分かってくるものもあります。
6.STP分析の企業の活用事例
STP分析を自社のマーケティングに導入したいと考えている企業は、このフレームワークを実際に利用し、成功した企業の事例を知っておくとスムーズに進めやすくなります。
STP分析の具体例として、以下の3社の活用事例を紹介します。
スターバックス
ユニクロ
トヨタ
それぞれ確認していきましょう。
スターバックス
スターバックスは他のカフェチェーンと比べると割高であるものの、「第三の場所(サードプレイス)」というコンセプト、おいしいコーヒーや見た目にもおしゃれなフラペチーノなどが幅広い世代から人気を集めています。
セグメンテーション(S)
利用客を年齢別で10代後半から70代までの男女に細分化し、次に学生、会社員、公務員、自営業、ノマドワーカー、高齢者(退職者)などの属性で分けています。さらに、顧客の経済力や地域の規模などにも注目しています。
ターゲティング(T)
スターバックスは住宅街やショッピングモール内、観光地など全国各地に出店していますが、出店時にはその土地ならではのニーズを調査しています。大都市や主要都市では平均以上の収入があるオフィスワーカーを主なターゲットとしています。このため、座り心地のよい椅子やリラックス効果があるBGM、おしゃれな内装などが特長となっています。
ただし、ターゲットは営業時間帯によって変わることも念頭に入れており、お昼の時間はフリーランス、夕方から夜間にかけては学生も視野に入れています。
ポジショニング(P)
前述のターゲットに洗練された雰囲気の店内で、安くはないが味がよいコーヒーを提供しています。おいしいコーヒーをリラックスできる空間の中で飲めるようなサービスを提供することで、他のコーヒーチェーン店と差別化しています。また、コーヒー一杯の値段は割高ですが、顧客が長居することを想定しています。
ユニクロ
ユニクロは安さを訴求しつつも、質が高く、おしゃれな洋服を提供しています。現在は東京都銀座にも大型店舗を構えており、オフィスワーカーや高品質の衣服を好む消費者の利用も珍しくありません。
セグメンテーション(S)
ユニクロでは比較的リーズナブルな価格帯でありながらも、各アイテムを長く使用できることを前提としています。あわせて、デザイン性も意識しています。
セグメントの幅を広くし、幅広い消費者に対応できる商品を手掛けています。
ターゲティング(T)
年齢や性別は狭めず、カジュアル、かつベーシックなファッションを好む消費者をターゲットにしています。
ポジショニング(P)
流行や年齢にとらわれることなく着用できるアイテムの提供を行うことで、他のファストファッションと差別化しています。
また、同社は「Life Wear(究極の普段着)」をコンセプトにしています。夏場や汗をかきやすい人に適しているエアリズムシリーズや病気などで足がむくみがちな人も履きやすいストレッチメッシュソックスなど、消費者の健康や幸福を追求した商品も特長です。
さらに、同社が行う自然環境や工場労働者に配慮したサステナブルな取り組みも多くの消費者に安心感を与える独自の要素となっています。
トヨタ
大手自動車メーカーのトヨタは国内だけでなく、海外でも高く評価されています。同社が手掛けるレクサスは「ショートパンツで乗れる高級車」「先進的で高品質」をポイントとしています。
セグメンテーション(S)
日本、アメリカ、ヨーロッパの市場において年齢層や年収をセグメンテーションの項目としています。高級車はターゲットがしぼられるため、対象とする層に適格にアプローチする必要があります。
ターゲティング(T)
ターゲットをスティーブン・スピルバーグやビル・ゲイツのような「カジュアルな高級車を好む人」と定めています。
「ショートパンツで乗れる」とあるように、高級車の中でもカジュアル性を求める消費者のニーズに応えています。
ポジショニング(P)
競合高級車との差別化として、商品コンセプトである「先進的で高品質」のポジションを確立しました。
歴史が浅いレクサスだからこそのカジュアルさを出すことで、新興高所得者層から好まれる高級車になりました。
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7.まとめ
モノや情報があふれる昨今、消費者は自分の趣向に合わせて数多くの選択肢の中から商品やサービスを選べます。企業は消費者に自社の商品やサービスを選んでもらうのは容易ではなく、新しく価値を提供する際はマーケテイングをしっかり行うことが不可欠といえます。
マーケティングで利用されているフレームワークは多くありますが、その中でもSTP分析は多くの企業で活用されています。STP分析を正しく行うことで、自社がねらうべき市場や自社が取り込むべき消費者層を明確にできます。
ビジネスを取り巻く環境が激化している中、自社の利益を生み出し続けるためにはSTP分析の活用はもはや不可欠といえるでしょう。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。