客先常駐は「やばい」「やめたほうがよい」ということを同じエンジニアやリクルートスタッフから聞いた方もいるでしょう。しかし、なぜ客先常駐がやばいのか、実際に客先常駐の経験のない方にとっては、よくわからないかもしれません。
そこで、本記事では客先常駐がやばい理由や客先常駐するメリット・デメリットについて解説します。
目次
1.客先常駐はやばい?定義や特徴を解説
客先常駐は、自社の従業員をクライアント企業へ派遣し、その現場で就業させる働き方を指します。何か違法な行為や、悪質な言葉を指すわけではありません。しかし、客先常駐のイメージがあまり良くないのも事実です。
ここではそれを理解するために、客先常駐の特徴や類似のSESとの違いについて説明します。
客先常駐の定義
客先常駐とは、自社で雇用されたエンジニアなどがクライアント企業に出向して、その現場でクライアント企業の業務に従事する働き方を指します。
その中で、客先常駐には勤め先の企業が業務命令して派遣する場合と、クライアントの仕事を受けて自ら個人事業主やフリーランスの代表者が企業先で働く場合とがあります。しかし、「常駐型フリーランス」ではなく「客先常駐」という言葉を使う場合は、勤める企業があって、その契約先がクライアントというケースがほとんどです。
「クライアント企業で仕事をするため社内上司の指示で出向く」という意味が強まるのです。したがって、客先常駐をする前に、雇用元の企業があることが前提となります。
客先常駐は期間が限定的
客先常駐の場合、開発が終わればチームのメンバーや社員は雇用元の企業に戻ります。次の客先常駐でも労働契約は切り替わらず、勤め先はあくまで元の会社のままです。開発が終わり、客先常駐の業務が解消されれば、次の仕事でまた別の業務や客先常駐の指示を受けます。
つまり、1つの企業で長期の業務になることはあっても、ずっと同じところで客先常駐をするわけではないということです。
SESとの違い
SESは、クライアント企業と契約を交わしてエンジニアの手を借りる方法です。客先常駐に似ていますが、SESはあくまでも契約方法のことを指し、労働者の働き方を示すものではありません。
契約関係で定められた労働力提供だけでも契約が成立します。したがって、SES契約を結んだ上で、労働力を派遣する客先常駐を指示することができます。その際、成果物を得るためではなく、業務に対して報酬が支払われます。
ただし、あくまでも労働力を提供する契約であって、労働契約を相手と直接結ぶわけではありません。そのため、指揮命令権がクライアント企業にはないのです。
2.客先常駐がやばい理由と実態
客先常駐は、エンジニアや就職転職情報でも「やばい」といわれることがあります。しかし、なぜ「やばい」とされるのかわからない方もいるでしょう。
そこで、やばい理由やその実態について以下に取り上げます。
やばい理由1.長時間勤務になりがちで業務が多忙
客先常駐がやばいといわれる最大の理由は、業務が多忙なことによって、労働が長時間化することです。そのため、エンジニアへの負担が大きくなりがちです。
勤務時間の長時間化は2010年代からずっと続いていることです。IT企業は客先常駐が行われる現場ほど、長時間労働が発生しやすい傾向があります。
IT企業にブラック企業が多いとされる理由の中には、客先常駐で勤務時間の長時間化や業務が多忙な経験をするためです。もちろん、開発などで無理な労働時間や働き方を強いられやすいというのもあります。
そして、それを担うエンジニアの給料が安いことも重なり、ブラック企業が多い印象を与えた上で、客先常駐がやばいといわれるのです。
やばい理由2.収入が上がらない
客先常駐がやばい理由の2つ目は、エンジニアの収入が上がりにくいことです。エンジニアの給料は二極化していて、上流と下流工程で大きく異なります。
客先常駐は下流工程を担当することが多く、下流工程で安くなる傾向にあります。実際に大幅な給与差が生じるケースも珍しくありません。
マニュアル化した作業や決まった業務をこなすことが基本となり、客先常駐を長くこなしても収入が大きくあがりません。業務量に見合わず、給与が低いことで、「やばい」とされるのです。
やばい理由3.サポートや研修、レクチャーがない
客先常駐がやばい理由の3つ目は、クライアント企業に出向して職場に顔を出す前後に、サポートや研修の体制ができていないことです。すべての企業ではありませんが、客先常駐で放置が続くケースや、業務の進行すらままならないケースも見られます。
また、エンジニアの経験が少ない場合に、雇用元の企業が研修をせずにクライアント企業に客先常駐で送り出すなど、そういったブラック企業があることもやばいとされる理由です。
やばい理由4.偽装請負や経歴を偽っている可能性
客先常駐がやばい理由の4つ目は、客先常駐をさせるために、本来の労働における指揮命令のルールを守らず、偽装請負させることです。偽装請負は業務委託契約の場合に起こりやすく、労働法の指揮命令権がないにもかかわらず、直接命令や業態管理をすることです。
偽装請負は違法な行為で、しかも中小・零細・ベンチャー企業の一部は業務を引き受けるために偽の経歴を用意して、社員を出向させる方法を取る場合もあります。その負担の尻拭いをするのが社員です。
スキルは初心者に等しいはずが、専門やプロのような紹介や説明をして出向かせるなど悪質なケースも稀にあるのです。
やばい理由5.立場が弱い(下請け)
客先常駐がやばい理由の5つ目は、出向する社員の働く企業が2次や3次の下請けで、立場が弱いことです。立場の弱さは、報酬の改善や待遇の良さにも直結するため、クライアント企業に対してエンジニアは主張することが難しくなります。
それが原因で、給与が上がらない、出向いた先で肩身が狭い、無理なルールを押し付けられる、などのやばい状況が発生します。
ただし、客先常駐は一次下請けのベンダー企業で権利がしっかりしているというケースもあるため、あくまでも中小の下請け企業に就職している場合のやばい理由です。
やばい理由6.元気で若い人じゃないと務まらない
客先常駐がやばい理由の6つ目は体力が必要になりやすく、年齢的に若年層の働き手でないと務まらないことです。
長時間労働と業務の多さ、不規則な勤務時間などが発生しやすい客先常駐では、若い人以外は身体的にきついのです。これもやばいことに直結します。
やばい理由7.人数が少数や1人
客先常駐がやばい理由の7つ目は、人数が少なく孤立や孤独を感じやすいことです。本当の雇先から離れての長期勤務になるケースもあるため、知らない人間と関係を構築して業務を進めることが基本となります。
そのため、業務中は特に人数の少なさが責任も集中し、ストレスや負担に直結しやすいのです。
そのため、初心者が送り込まれた場合には先輩からのアドバイスも受けられませんし、頼れる相手がなく、業務が八方塞がりになる実態があることもやばい理由です。
やばい理由8.客先常駐させた企業が人事評価を管理しきれない
客先常駐がやばい理由の8つ目は、労働契約を結んでいる企業がエンジニアの人事評価を管理しきれないことです。
なぜなら、客先常駐は人事を担う管理職や評価を行う上司がその場にいないため、クライアント企業の評価が、同じ人事の評価にされやすいためです。自社で働いているときには評価されたことが、客先常駐では評価に結びつきません。「客先常駐している自分だけ低評価に」なることが、やばい理由となります。
3.やばい客先常駐を避ける手段はある?
結論から述べれば、やばい客先常駐を回避するためには、客先常駐自体を避けるか、やばい現場のない企業を見極めることです。そこで、以下にやばい客先常駐を避ける方法について紹介します。
客先常駐のない企業を探すのはハードルが高い
やばい客先常駐を避ける1つ目の手段として、エンジニアが就職・転職の段階で客先常駐のない企業を探すことです。
客先常駐がなければ、「やばい客先常駐」に当たることもありません。しかし、エンジニアを採用する開発や保守管理業務のある企業で、「客先常駐なし」の条件で探すのは至難の業です。
すでに多くのIT企業が客先常駐をしています。特に、ソフトウェア開発企業では、客先常駐が一般的な働き方になっているケースが多いです。
そこで、客先常駐の有無を見分けるポイントとしては、「具体的な勤務先地域の指定(関東圏や首都圏、東京23区)」、勤怠時間が「客先やプロジェクトで変動する(準ずる)」、「帰社日がある」、「SES企業が取引先」などがあります。
以上をチェックして、客先常がなさそうなところに当たりをつけ、採用前の段階で企業に直接確認するのがおすすめです。
客先常駐先がやばいなら転職する
やばい客先常駐を避ける2つ目の手段は、客先常駐の現場を確認した後、「やばい」と上に報告して常駐するクライアント先の変更を求めます。それでも雇用元が対応せず、配置変えをしないなら、転職することです。
やばい客先常駐では、残業時間の超過、指揮命令権の移譲、偽装請負の違法行為など、何かしらの労働基準法や労働者派遣法、職業安定法などに抵触が確認されることがあります。
そのため、労基署や弁護士への相談を経て、ノーダメージで働いた給与分を受け取り、不足分の支払いを要求しつつ辞めることです。
ただし、「業務が多忙だから」というだけでは法的に企業事由で辞めるのは難しいので、自主的な退職という形になります。雇用元の企業に申し出るのに不安がある方は「退職代行」を利用してもよいでしょう。
優良な客先常駐しかない企業に就職する
客先常駐が避けられず、就職・転職先が「客先常駐あり」しか見つからない場合もあります。そこで、次の手段として優良な客先常駐しかない企業を見つけて採用されることです。
いわゆる「ホワイト案件」と呼ばれるもので、その特徴は以下です。
評価制度が確立されている
上流工程の仕事が多い
社員目線の福利厚生が十分にある
企業内部からの口コミ・評判が良い
社員のことを考えずにエンジニアをやばい客先常駐に送り出す企業は、ホワイト案件から程遠い企業実態です。客先常駐でも安心できるホワイト案件を探し、内部の口コミと照らし合わせて最終判断します。
4.客先常駐の3つのメリット
客先常駐には以下のメリットがあります。これらのメリットは客先常駐がIT企業で浸透している背景にも関係しています。
メリット1.さまざまな企業で仕事現場を体験できる
客先常駐は短い期間でクライアント企業をまわるため、さまざまな開発現場を
体験できることです。特に実務に携わる初心者のエンジニアにとっては、1つの職場内で限られた経験をするよりも、さまざまな現場で経験を積んだほうが勉強になることもあります。
メリット2.クライアントとのコミュニケーションの重要性がわかる
2つ目のメリットは、クライアントや他社エンジニアとのコミュニケーションの重要性がわかることです。実務経験の少ない社員にとって、上司の指示で仕事をこなすだけでクライアントとコミュニケーションを取る重要性がわかりません。
しかし、客先常駐では仕事の内容としてコミュニケーションが基本必要です。それに人脈づくりもできますし、新しい環境に挑戦できます。そして、同時に自然と客先常駐に必要な部分のコミュニケーション能力が身につきます。
メリット3.仕事の効率が高まる
客先常駐は、先述のように多くのIT企業が導入している方法です。その背景には仕事効率が高いことがメリットとしてあるのです。
例えば、客先常駐せずに自社の職場から通う場合は、職場を何度も往復と報告をする必要があります。しかし、客先常駐ではその必要がなく、働き手となるエンジニアの仕事効率があがります。これはエンジニア側にとっても負担を減らすことになるのです。
5.やばい客先常駐の4つのデメリット
客先常駐は上のメリットがある一方で、一般的にはエンジニアにとってデメリットも多いことで知られています。
特にやばい客先常駐もあり、その中には目を疑うような事例があります。以下に代表的なデメリットの事例を挙げます。
デメリット1.キャリアアップが難しい
客先常駐のデメリットは、下流工程の基本的な仕事を任せられるため、エンジニアにとってのキャリアアップが難しいことです。
エンジニアにとってのキャリアパスは、どうしても上流工程メインの仕事が多いです。内製の場合に下流と上流を明確にわけていない仕事もありますが、客先常駐はクライアント企業が上流を任せることはまずありません。
そのため、下流工程の仕事ばかりになってスキルも上がらず、キャリアが客先常駐の長い経験だけとなります。将来の選択肢が少なく、転職や独立には不利です。
デメリット2.エンジニアが期待する業務ではないことがある
やばい客先常駐のデメリットは、2次・3次下請けのブラック企業が多く、中には期待した仕事ではないことです。
自分のスキル通りの仕事や希望した仕事でないと、モチベーションが上がりません。また、開発や保守管理の仕事ならまだ良いですが、エンジニアの仕事として任せないようなケースもあります。
例えば、電話接客や販売店の仕事に派遣させるなど、関係ない業務を行わせるなど悪質な事例も稀にあるのです。エンジニアとしての経験も積めないため、やばい客先常駐の中でも特にやばいデメリットです。
デメリット3.指揮系統がクライアント優先になりやすい
客先常駐では、SESなどで指揮命令権を勝手に変えることはできません。しかし、指揮系統がクライアント優先になりやすいため、「気づいたらクライアント企業の指揮下に入って仕事をしていた」というケースもあります。
直接、雇用していないクライアント企業に責任のない状態で命令を出されてしまうため、長時間勤務や多忙の原因となります。クライアント企業のルールで働くことからも、忙しさを自分でスケジュール調整しにくいのです。
その上、雇用元の企業にとっては社員の帰属意識が薄れて、従業員エンゲージメント(愛着)率が上がらないという企業側のデメリットも発生します。
デメリット4.ルールをゼロベースで把握し直す手間がかかる
クライアント企業が頻繁に変わる客先常駐では、企業内の細かいルールに合わせた業務遂行が必要となるため、エンジニア側の負担感が増します。特に、客先常駐を繰り返す度にゼロベースでルールを把握し直さなければならず、時間と手間がかかります。
もちろん、他社と似たルールを置いている場合は把握も容易です。しかし、ルールが大きく違っていたり、自社と真逆のルールを置いている場合は、細部の確認ミスが起こり、無駄な業務が発生するリスクがあります。
6.客先常駐に向いている人はどんな人
ここでは客先常駐に向いている人の特徴を紹介します。
新しい環境で仕事に挑戦したい主体的な人
客先常駐は、クライアント企業に実際に労働力として出向いて働くことになります。そのため、環境が変わることにも臆せず自分から行動して、新しいことに向き合える人が向いています。特に、新しい環境では自分から動いてトレンドや技術を吸収することが必要です。
また、新しい環境に飛び込むことで得られるものもあります。それはエンジニアが知っておきたい最新のトレンドや専門的な知識です。そのため、1つの会社の中では経験できない技術やスキルの蓄積が可能となります。
人とのコミュニケーションが得意な人
客先常駐は、相手企業の同じエンジニアや担当者、周囲の人とコミュニケーションを取ることが必須です。仕事場が変わるとプロジェクトも一新となるためです。
職場で周囲の人とすぐ良好なコミュニケーションが取れる人柄や能力のある人が良いといえます。また、一人でコツコツよりも周囲と一体となってチームで働くことにやる気が出る人もおすすめです。
将来独立したい人
将来的に、独立を考えている人も客先常駐に向いています。独立後のベンチャー企業では、少数でクライアント先企業との業務のやり取りを自分たちで行い、その中で関係を築くことが求められるからです。
客先常駐を経験することは、その予行練習にもなりますし、何よりクライアント先との関係を築くことで、コネクションを得ることができます。
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7.まとめ
今回は、客先常駐がやばいケースについて理由や実態、デメリットなどを紹介しました。
IT企業では客先常駐は大多数が行う方法です。特にエンジニアを使い開発や保守・運用をする企業では、欠かせない働き方のため、客先常駐自体を就職先から排除するのは難しいといえます。しかし、優良な企業やホワイト案件の企業を探すことはできます。
以上、やばい実態やデメリットを踏まえて、客先常駐のある企業でやばい事例を避けるための行動を具体的に検討しましょう。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。