「効率化や最適化を実現したい」「サービスの品質と顧客満足度を向上させたい」とお考えであれば、ITSMの仕組みや考え方を導入してみてはいかがでしょうか。
ITSMは企業や組織として、もしくは個人事業主やフリーランスとして事業活動を行う場合において、継続的に改善を行っていく仕組みであることから、状況の改善に最適であるのは間違いありません。
本記事では、ITSMに興味をお持ちの方のために、ITSMに関する基本的な知識をご紹介するとともに、具体的にどのような機能とプロセスを必要とするのか、代表的なITSMツールやメリット及び導入する際の注意点などについてお話しします。
目次
1.ITSMとは
ITSMとは、Information Technology Service Managementの略称であり、ITサービスマネジメントを意味します。事業活動でIT技術を用いてサービスを展開している場合において、さらなる効率化や最適化を行うための管理手法の一つであり、主には顧客視点での改善を主軸とした仕組みや考え方がITSMです。
企業や組織、もしくは個人事業主やフリーランスの方が最適化や効率化、顧客満足度の向上に役立てるにはどのように考えるべきかという視点で基礎的な情報を見てみましょう。
ITSMの仕組みや考え方
ITSMの仕組みや考え方の基本として、まずは従来のサービスマネジメントがあります。そもそもサービスマネジメントとは、顧客視点でのサービスの改善をするための管理手法及び考え方であり、ITSMはITサービスにおけるサービスマネジメントを行う仕組みや考え方、管理手法であるということです。
ITSMの考え方のベースは顧客視点でマネジメントを行うようにすること、品質、効率、リスク管理のバランスを取ることで、業務や作業全般を品質向上に向けて、サービスライフサイクル全体を、継続的に改善していくという流れを作ることにあります。
利益や売上の主軸となる顧客を優先的に考えていくことで、結果として柔軟に顧客に対応するための体制の構築となり、必然的に最適化や効率化が進められるということです。
ITSMの主なフレームワーク
ITSMの主なフレームワークとして、ITIL(Information Technology Infrastructure Library)があります。
サービスライフサイクルアプローチ
プロセスベースの管理
顧客中心の考え方
継続的な改善
ベストプラクティスの集約
上記がITILの主な特徴の一例であり、ITSMのベースになっています。そのため、ITSMの仕組みや考え方を導入するためには、ITILについて学んでいくこと、ガイドラインとして参考にすることが一番の近道と言えるでしょう。
また、国際標準規格としてはISO/IEC 20000で定められていることから、認証を受けるための手続きや手順を経て改善を行っていくという方法もあります。企業や組織としてはISOへの対応が様々なシーンで必要となることから、認証や監査などの仕組みを上手に利用しながら、継続的な業務改善によって効率化や最適化を実現していくと良いでしょう。
ITSMに関連する資格試験
ITILファンデーション認定資格
上記がITSMに関連する資格試験の一例です。
個人の方でITSMに関する知識やスキルをアピールしたい場合はいずれかを受験して合格を目指すと良いでしょう。企業や組織として、もしくは個人事業主やフリーランスとしてであれば、これらの参考書や国際標準規格であるISO/IEC 20000についての専門書などを購入して読み解いていくことをおすすめします。
また、個人事業主やフリーランスの方の場合、関連する資格試験に合格することで、ITサービスマネジメントのコンサルタントとしての業務も視野に入るでしょう。同様に企業や組織で効率化や最適化、品質向上などを目指す場合、自社内や組織内の人材が育たない場合は外部コンサルタントやアドバイザーに頼るということも前向きに検討してみてください。
ITSMとITILとの違い
ITSMはITサービス管理の仕組みや考え方など概念の全体を指し、ITILは具体的なフレームワークやガイドラインであることが違いです。そのため、基本的にはほぼ同じものと考えて問題ないでしょう。
具体的に何をすべきかという場合はITILのフレームワークやガイドラインを参考にすること、そして仕組みや考え方の様々な手法を知りたい場合はITSMに関する情報収集やITSMのツールなどの提供元および機能などをチェックしてみてください。
ITSMとITOMとの違い
ITSMはITサービス管理における顧客目線における顧客満足度や従業員満足度など人を基軸としており、ITOM(IT Operation Management:ITオペレーションマネジメント)はITインフラとサービスの日常的な運用の最適化や効率化のためにシステムを基軸としていることが違いです。
どちらも共通するのは改善による品質の向上、効率化や最適化につなげることであるため、それぞれの手法で相性の良い仕組みは考え方を取り入れていくと良いでしょう。
2.ITSMの主な機能やプロセス
次にITSMを実現するために、具体的にどのような機能やプロセスが必要なのか、事業活動におけるどの部分を機能的に改善してくれるのかについて簡単に解説します。
サービスリクエスト管理
ITSMの主な機能やプロセスとして、顧客からの要望や問い合わせを集約して管理するサービスリクエスト管理があります。顧客や従業員からの要望などをまとめたリクエストがサービスカタログとしてまとめられており、それぞれの立場のユーザーからのリクエストがタスクとして管理され、各担当者に割り当てられ順次処理していく流れの管理です。
顧客側も要望するものがサービスカタログから選ぶだけで容易であること、対応する側もサービスカタログの内容に合わせたマニュアルに沿って適切な対応ができることから、効率化や最適化の効果が非常に高くなります。
サービスカタログにない内容が発生した場合は直接的に担当者が対応していくことで、さらにサービスカタログの内容が充実し、継続的に改善ができる効率的な仕組みです。
ナレッジ管理
ITSMの主な機能やプロセスとして、属人化を防ぐために従業員が日々の業務で得られたノウハウやコツなどを集約するナレッジ管理があります。事業活動で生じたITサービスに関する知識や情報を体系的に収集、整理、共有をすることで、誰もがベテランの方と同じように業務を進められるという仕組みおよび考え方です。
また、特定の担当者が不在もしくは退職した場合においても、ナレッジによって情報が蓄積されていれば顧客側に迷惑をかけることもありません。共有された情報が増えれば増えるほど、誰でも容易に対応できるようになり、職場環境を改善するための時間的な猶予や気持ち的な余裕も生まれるということです。
むしろ、ナレッジが管理されていない場合は属人化やブラックボックス化によって、様々な部門や部署でボトルネックが生じるので非常に大変と言えます。
IT資産管理
ITSMの主な機能やプロセスとして、業務や作業に必要なパソコンやスマートフォン、タブレットなど、物理的なデバイスやデータの管理を行うためのIT資産管理があります。システム的に適切なIT資産管理を行うことで、必要なデバイスの数、有償のOSやソフトウェアのライセンス管理、適切なタイミングでの機材やソフトウェアのアップデートなどが実現可能となるため、コストの大幅な削減になります。
IT資産管理がなされていない場合、業務に使えるデバイスがあるのに新しく購入してしまったり、有償のソフトウェアやサブスクリプションをさらに課金してしまったりする可能性が高くなります。
また、各種機材の購入から廃棄までの流れが管理されること、個人情報や機密情報の管理も含まれていることから、情報漏洩や内部不正への対策にも非常に効果的です。
問題・インシデント管理
ITSMの主な機能やプロセスとして、顧客からのクレームも含めて、事業活動で生じる課題や問題を集約する問題・インシデント管理があります。事業活動における重大な問題が発生するタイミングでは、すでに細かな課題や問題とされているものが多発している可能性があるのに、可視化されていなかったり、情報が残されていなかったりすることがインシデント発生の要因になりがちです。
問題やインシデントの大きさや種別に関わらず、情報が蓄積されていくことで、個別に対応することが可能となり、重大なインシデントの発生を防ぐ可能性を高めることにつながります。
また、インシデントでありがちな根本要因が不明という状態への対策にもつながり、トラブルの要因がすぐに判明しやすくなるため、サービスや事業活動の一時的な停止なども発生しにくくなっていくようになるのです。
変更・リリース管理
ITSMの主な機能やプロセスとして、事業活動の主となるサービス、もしくはシステムやソフトウェアの変更及びアップデートの情報を集約する変更・リリース管理があります。
サービスやシステムの変更やリリースのタイミングはトラブルが発生しやすいこともあり、具体的に何を変更したのか、新しく何をリリースしたのかなどを明確に記録しておくことで、原因の特定と対処が迅速にできるようになるのです。
特にテスト環境では何も問題なかったのに、本番環境では原因不明のトラブルが発生するということは現実問題として起こり得るため、すぐに対処できる仕組みや体制が整っていることは、サービスの安定や維持にもつながるため非常に重要と言えます。
インシデントやトラブルが発生しないことを前提として、発生しても短時間で解決できること、被害を最小限にとどめることがサービスの品質向上につながるということです。
3.代表的なITSMツール一覧
次にソフトウェアやツールなどでITSMの仕組みを導入してみたいとお考えの方のために、ITSMの仕組みや考え方をサポートできるITSMツールについて、代表的なものをいくつかピックアップしましたのでご覧ください。
ServiceDesk Plus
ServiceDesk PlusはITサービスマネジメントツールであり、インシデント管理や問題管理、変更管理やIT資産管理などの機能が備わっています。その他にもサービスリクエスト管理、ナレッジ管理なども利用できることから、ITSMの仕組みや考え方以前に、マネジメントツールによる管理が行われていない状況の改善を考えている場合に向いている可能性があるツールです。
REDMINE
REDMINEはオープンソースソフトウェアであり、プロジェクト管理に必要な機能を備えた課題管理システムです。課題や情報を共有するための機能が数多く備わっていること、オープンソースなので無料で使えることから、ITSMの仕組みや考え方をまずは機能面から知りたい、もしくはソフトウェアやツールから新しい業務の手順や作業手法を作り出していきたいという場合に向いています。
Jira Service Management
Jira Service ManagementはITSMの仕組みや考え方を基軸としたマネジメントシステムであり、様々なテンプレートや連携できるアプリケーションも豊富な点が特徴です。リクエスト管理やインシデント管理、問題管理や変更管理など、ITSMの実現に必要な機能のほとんどが備わっています。無料で試せるプランやライブデモの機能なども提供されています。
Backlog
Backlogは、プロジェクト・タスク管理ツールであり、プロジェクトやタスクの機能とともに課題の管理及び情報共有がしやすくなっているのが特徴です。コミュニケーションを重視したソフトウェアおよびシステムの設定であることから、コミュニケーションの強化や情報共有による連携力のアップなどを実現したい場合に向いています。
4.ITSMの仕組みや考え方を導入するメリット
次にITSMの仕組みや考え方を導入することで、具体的にどのようなメリットがあるのか、どのようなことが改善されていくのかについて解説します。
サービス品質の向上
ITSMの仕組みや考え方を導入するメリットとして、顧客視点でのサービス品質の向上が期待できることが挙げられます。
顧客のニーズにしっかりと答えていくこと、そして顧客に対してネガティブな要因が発生しないように対策していくことで、安定的にサービスが供給できるようになり、同時にノウハウなどのナレッジの蓄積が品質を向上させていくのです。
また、企業や組織側の都合で業務や作業の手順を決めていくのではなく、顧客を軸とした業務体制に少しずつ変化していくことで、顧客のニーズにフィットしていくこと、そして実務の現場においても担当者が対応しやすくなることも品質が向上する理由と言えます。
利益や売上の源である顧客を大事にすることが、働く環境そのものも良くしていくというポジティブな循環になるということです。
業務効率アップとコスト削減
ITSMの仕組みや考え方を導入するメリットとして、継続的な改善によって業務効率アップとコスト削減に繋がることが挙げられます。改善による業務効率化は、最初の段階では大きな変化は感じにくいものの、積み重なることと並行して他の人の効率化が進むことで徐々に大きな変化につながっていくのが理由です。
結果として働く環境全体の業務効率がアップし、時間的な余裕が生まれることでまずは時間的なコストが削減されます。
リスク管理の強化
ITSMの仕組みや考え方を導入するメリットとして、問題やインシデントに向き合うことで、リスク管理の強化ができることが挙げられます。リスク管理は予防のようなものであるため、何も起こさないための保険のような対策でもあるからこそ、サービスの品質維持と向上には欠かせません。
実際に重大なインシデントが発生してしまえば、リスク管理のためのコストとは比較にならないはずです。
課題や問題も含めた重大なインシデントに派生するネガティブな要素は目を背けてしまいがちですが、リスクマネジメントとして対応していくことで、冷静かつ迅速に対処されるようになり、問題が大きくなることを防ぐことにつながります。課題や問題のパターンが蓄積されていけば、問題そのものが発生しないという状況が実現できるようになるのもメリットと言えるでしょう。
情報の一元管理と可視化
ITSMの仕組みや考え方を導入するメリットとして、効率化を行うために顧客情報の集約と適切な情報共有が行われることで、情報の一元管理と可視化が実現できることが挙げられます。担当者ベースで蓄積された情報の管理体制では、担当者が不在だったり、連絡が取れなかったりするだけで後手になりがちです。
ITSMの考え方に基づいて、顧客を基軸としたデータ管理でデータの共有と適切な可視化が行われることで、スムーズでボトルネックが解消されるようになります。顧客満足度が向上するのはもちろんのこと、従業員側としてもスムーズに情報が確認できるようになり、ストレスなく対応できるようになるのも大きなメリットです。
コミュニケーションと連携の強化
ITSMの仕組みや考え方を導入するメリットとして、顧客に関する情報が共有されやすくなり、従業員同士でのコミュニケーションと連携の強化につながることが挙げられます。また、情報が共有された状態でお互いに対応ができるため連携がスムーズになります。
5.ITSMの仕組みや考え方を導入する際の注意点
最後にITSMのメリットとなる部分を享受するため、そして導入や運用の際にどのような課題や問題が生じるのかを把握するためにも、ITSMの仕組みや考え方を導入する際の注意点について解説します。
事業活動全体の改善が必要な場合がある
ITSMの仕組みを導入時、顧客情報の取り扱い方や業務及び作業全般の見直しなど、事業活動全体の改善が必要な場合があります。DXの推進で失敗する場合にもありがちなことですが、特定の部門や部署に注力して改善したつもりが、結局は他の部門や部署にしわ寄せが行ってしまい、全体で見ればマイナスになってしまうようなイメージです。
そのため、どんなに小さな改善であっても、一部分のみを見るのではなく、事業活動全体の改善として取り組んでいくことが求められます。
ツールの導入だけでは改善しきれない
ITSMの仕組みや考え方を導入する際の注意点として、ITSMの仕組みや考え方を備えたツールの導入だけでは改善しきれないことが挙げられます。そのため、ツールに任せるプロセスと、業務や作業の手順を変えていくことで改善するプロセスを切り分けていく必要があります。
また、ツールが自社にマッチしているかどうかをしっかりとチェックしながら進めていくことも重要だと覚えておいてください。
急激な変化は実務の現場への負担が大きい
ITSMの仕組みや考え方を導入する際の注意点として、トップダウンで命令して終わりのような、急激な変化は実務の現場への負担が大きいことが挙げられます。ITSMの仕組みや考え方の導入に限らず、いわゆるDXの推進などでも失敗する要因です。
経営陣や上層部が決めたことだからと強引に推し進めるのではなく、しっかりと現場の声を聞くこと、段階的に進めていくことを忘れないようにしましょう。
現状の分析と把握から始める
ITSMを導入した際まずは現状の分析と把握から始めましょう。ITSMの仕組みは考え方において自社が担う機能やプロセスは何か、課題や問題として1番に解決すべき要素は何かという視点を持つことが大切です。
また、顧客目線であることと同じように従業員目線の改善も重視するようにしましょう。従業員の心の余裕が丁寧な顧客対応につながり、結果としてサービス全体の品質向上と生産性のアップも期待できるようになるでしょう。
効果測定と改善を細かく繰り返す
ITSMを導入した際は、効果測定と改善を細かく繰り返しましょう。ITSMの大切な考え方の一つであり、柔軟に対応できる体制と、変化に強い体制の両方を構築していくイメージを持ちましょう。業界や業種によっては、変化が難しい場合や時間がかかるということも留意しておくべきです。
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6.まとめ
本記事では、事業活動においてサービスの品質や顧客満足度の向上、最適化や効率化を目指す方のためにITSMに関する仕組みや考え方や実務でどのように導入と運用していくべきか、どのように注意していくべきかについてお話ししました。
ITSMの仕組みや考え方を学び、実務に導入していくことで継続的な改善を実現できるようになり、さらに続けていくことでより良い状態に向上していくことが期待できます。まずは事業活動の最適化や効率化が品質の向上となり、その結果として顧客満足度の向上につながっていくということを理解しましょう。
事業活動で生じる課題や問題にしっかりと向き合うことで、改善すべき点の可視化になるということを忘れず、インシデントやクレームなどネガティブに感じる要素においても、ポジティブに対応して成長の材料にしていくことが大切です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。
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