多要素認証(MFA)は、パスワードだけに頼らない強固な本人確認を実現し、巧妙化するサイバー攻撃や不正アクセスから企業や個人のアカウント、システムを守るために不可欠なセキュリティ対策の1つです。
しかし、多要素認証にはSMS認証、アプリ認証、セキュリティキー、生体認証など多様な方式が存在し、それぞれに特徴や導入・運用上の考慮点があります。自社の状況や目的に合わない方式を選んだり、導入・運用方法を誤ったりすると、期待したセキュリティ効果が得られないばかりか、ユーザーの業務効率を低下させてしまう可能性も否定できません。
この記事では、多要素認証の基本的な概念から、なぜ今必要とされているのかなど、網羅的に詳しく解説していきます。多要素認証の導入や見直しを検討されているエンジニア、情報システム部門のご担当者、各種サービスを管理するWeb担当者の皆様にとって、実践的に役立つ情報を分かりやすく整理しました。
ぜひ最後までお読みいただき、多要素認証への理解を深め、自社に最適なセキュリティ強化策の実現にお役立てください。
目次
1.多要素認証(MFA)とは?
多要素認証(MFA:Multi-Factor Authentication)とは、複数の異なる要素を組み合わせて本人確認を行う認証方法です。たとえば、ログイン時に「パスワード+SMS認証」や「パスワード+指紋認証」など2つ以上の要素を使います。
SMS認証は登録された携帯番号に届く認証コードを入力する方式で、本人しか受け取れないという前提で安全性を高めます。一方、指紋認証は身体的特徴を使うため、パスワード漏洩の影響を受けません。
これらを組み合わせることで、仮に1つの認証情報が漏洩しても、他の要素によって不正アクセスを防げるのが大きな特徴で、企業システムやクラウドサービスにおける認証強化策として、多要素認証は欠かせない存在になりつつあります。
2.多要素認証が必要となっている3つの理由
近年、多くの企業やサービスで多要素認証の導入が急速に進んでいますが、その背景には無視できないいくつかの理由が存在します。具体的に多要素認証が必要となっている理由を3つ解説していきます。
クラウドサービス利用が増えている
サイバー攻撃が増えている
パスワード認証の限界が近い
クラウドサービス利用が増えている
企業のクラウドサービス導入率は年々高まり、世界中で伸びています。総務省が発表した令和6年度版情報通信白書によると、2017年から2024年までクラウドサービス市場が右肩上がりで拡大していくとの結果が出ています。
出典:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd218200.html
クラウドサービスの一例として、Office 365 (Microsoft 365) やAWS、SalesforceといったSaaS/IaaS/PaaSの利用拡大は、場所を選ばない働き方やDX推進に貢献する一方、保護すべきアカウントや重要データが社外のサーバーに存在する状況を生み出します。これらのサービスでは、セキュリティ設定の不備や設定ミスが大きなリスクとなり得ることを忘れてはいけません。
顧客情報や財務データ、開発中のソースコードなど、企業の生命線ともいえるデータがクラウド上に置かれることも多く、インターネット経由でアクセス可能なこれらのアカウントを確実に保護するため、多要素認証の導入は今すぐ取り組むべき重要な対策と言えます。
サイバー攻撃が増えている
企業や組織を狙うサイバー攻撃は、近年ますます巧妙化・悪質化しており、その被害も深刻化しています。
IPA(情報処理推進機構)が毎年発表する「情報セキュリティ10大脅威」や、JPCERT/CCの注意喚起、Verizon社のDBIRなど、多くのセキュリティレポートでは、依然としてフィッシング詐欺による認証情報の窃取や、漏洩ID・パスワードを用いたパスワードリスト攻撃、ブルートフォース攻撃が主要な脅威として報告され続けています。
攻撃者は、窃取した正規のアカウント情報を悪用し、システム内部への侵入、機密情報の窃取・暴露、さらにはランサムウェア感染の足掛かりとするケースが後を絶ちません。比較的低コストで実行可能なこれらの攻撃は、攻撃者にとって費用対効果が高く、自動化ツールも用いられるため、今後も継続的な警戒が必要です。そのため、入口対策としての多要素認証が極めて重要となっています。
パスワード認証の限界が近い
従来のパスワードだけに依存する認証方式は、その有効性が著しく低下しており、もはや限界と言わざるを得ない状況です。
大規模な情報漏洩インシデントによって流出した膨大なID・パスワードの組み合わせリストがダークウェブ等で広く共有され、攻撃者に悪用されるケースが後を絶ちません。ユーザー側も、記憶の負担や複雑なパスワード要件から、安易な文字列の使用や複数サービスでの使い回しをしてしまいがちです。
たとえ長く複雑なパスワードを設定したとしても、それが漏洩リストに含まれていたり、システム側の保管方法に不備があれば意味をなさなくなります。こうした状況を受け、Microsoft社は2018年に「パスワードの時代は終わった」と宣言し、業界全体としてもパスワードレス技術への移行が進んでいます。
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3.多要素認証を導入する4つのメリット
多要素認証を導入するメリットは主に以下の4つです。それぞれ解説していきます。
不正アクセス防止
顧客、ユーザーの信頼性向上
企業資産の保護
パスワード管理の手間を減らせる
不正アクセス防止
多要素認証がもたらす大きなメリットは、不正アクセスに対する堅牢な防御能力です。
パスワードリスト攻撃やフィッシング、ブルートフォース攻撃など、認証情報の窃取・突破を狙う攻撃に対し、たとえID・パスワードが漏洩したとしても、所有情報や生体情報といった第二、第三の認証要素が不正ログインを阻止します。
実際に、多くのセキュリティ研究では、多要素認証を有効化するだけでアカウント侵害のリスクを99.9%以上削減できると報告されています。外部攻撃者だけでなく、内部関係者による不正利用抑止にも一定の効果を発揮するため、包括的なアクセス管理に不可欠な対策と言えるでしょう。
顧客、ユーザーの信頼性向上
サービスやシステムに多要素認証を導入し、セキュリティ対策を真摯に行っている姿勢を示すことは、顧客やユーザーからの大切な信頼を築き、維持する上で非常に重要です。
特に個人情報や決済情報など機密性の高いデータを預かる場合、利用者はその管理体制に敏感です。多要素認証のような目に見える形でセキュリティ強化策を講じている事実は、企業がデータ保護に責任を持っている証と受け止められ、安心感を与えます。
また、GDPRやPCI DSSといった国内外の規制・基準への準拠を示す上でもMFAは有効な手段です。情報漏洩インシデント発生時の信頼失墜は計り知れないため、予防的な対策が企業価値を守ることにも繋がるのです。
企業資産の保護
従業員アカウントなどのセキュリティを多要素認証で強化することは、企業が保有する有形・無形の重要な資産全体を保護する基盤となります。
保護対象は、顧客データベースや財務情報、知的財産、さらには生産ラインを制御するOTシステムへのアクセス権限など多岐にわたります。これらの資産が不正アクセスによって侵害された場合の被害は甚大で、直接的な金銭損失に加え、事業継続の危機、訴訟リスク、ブランドイメージの毀損といった深刻な事態を招きかねません。
多要素認証は、こうした壊滅的な被害を防ぐための、深層防御戦略における基本的ながら極めて重要な防衛ラインの一つとして機能します。
パスワード管理の手間を減らせる
多要素認証導入が、結果的にパスワード管理の負担を軽減する可能性があります。
これは、記号含む16桁以上などの非常に複雑なパスワード規則や、極端に短いサイクルでの強制的なパスワード変更といった過度に厳格なポリシーが、ユーザーの記憶負担を増やし、かえってパスワードのメモ書きや使い回しといった危険な行動を助長するためです。
多要素認証によってアカウントアクセスのセキュリティ保証レベルを高めることで、このような厳しすぎるパスワード要件を見直し、より現実的で運用しやすいポリシーへと緩和できる場合があります。パスワードそのものの強度だけに依存する必要性が減るため、管理者の負担軽減にも繋がる効果も期待できます。
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4.多要素認証を導入する4つのデメリット
多くのメリットがある多要素認証ですが、導入を検討する際にはいくつか考慮すべきデメリットや課題点も存在します。以下に、多要素認証導入時に直面する可能性のある主なデメリットを挙げていきます。
コストが増加する
利便性が下がる場合がある
既存システムの改修が必要
ユーザー教育が必要
コストが増加する
多要素認証システムの導入・運用には、様々なコスト要因が伴います。初期費用としては、主に以下のものが発生します。
多要素認証ソリューションのライセンス費(ユーザー単位、機能単位など)
認証用デバイス(ハードウェアトークン、スマートカード等)の購入費
既存システム連携のための開発・導入支援費など
運用開始後も、以下のような費用が発生します。
ライセンスの年間更新費
デバイス紛失・故障時の交換費用
管理者の運用工数(アカウント管理、設定変更、監査対応等)
ユーザーサポートのためのヘルプデスク人件費など
選択する多要素認証方式によってもコストは大きく変動するため、全体的な観点での評価が重要です。
利便性が下がる場合がある
多要素認証導入により認証ステップが追加されるため、ユーザーのログイン操作に影響を与え、利便性の低下を招く可能性があります。
例えば以下のようなログインが困難になるケースが発生する可能性があります。
SMS認証コードの受信遅延
電波の届かない場所での利用不可
認証用スマートフォンのバッテリー切れ
物理トークンの紛失・忘れ物など
また、視覚や操作に制約のあるユーザーにとっては、特定の多要素認証方式が利用しにくいといったアクセシビリティの問題も生じ得ます。
導入する多要素認証の方式を選定する際には、対象ユーザー層のITリテラシーや利用環境を十分に考慮し、セキュリティ強度と許容可能な利便性のバランスを見極めることが重要です。
既存システムの改修が必要
導入予定の多要素認証ソリューションが、全ての既存システム、特に長年利用されている基幹システムや独自開発された業務アプリケーションと標準で連携できるとは限りません。
これらのシステムは、設計当初に多要素認証の連携が想定されていないことが多く、連携用APIが提供されていなかったり、改修自体が技術的に困難だったりする場合があります。場合によっては、認証ゲートウェイとなるミドルウェアの追加導入や、対象システムの大規模な改修が必要となり、予期せぬ高額なコストと長い開発期間を要するリスクも潜んでいます。
導入計画初期段階での綿密な技術アセスメントと互換性検証が不可欠です。
ユーザー教育が必要
新しい認証フローの導入は、単に技術的な設定変更だけでなく、組織全体としての変化が求められます。利用するそれぞれのユーザーが、なぜ多要素認証が必要なのかというセキュリティ上の背景を理解し、新しいログイン手順をスムーズに習得・実践できなければ、導入効果は半減してしまいます。
操作マニュアルの整備や研修会の実施はもちろん、導入目的やユーザーメリット(自身のアカウント保護に繋がる点など)を丁寧に伝え、変化への抵抗感を和らげる工夫が必要です。
また、導入初期に多発しがちな問い合わせに対応するヘルプデスク体制の強化や、継続的なフォローアップも成功の鍵となります。
5.多要素認証の仕組み
多要素認証は、大きく分けて3つのカテゴリに分類されます。どのような種類の情報を用いて認証が行われるのか、その基本的な仕組みと各要素の内容を以下で確認しましょう。
知識情報
所有情報
生体情報
知識情報
知識情報とは、文字通り「その人だけが知っている情報」を基にした認証要素です。
たとえば、日常的に利用するパスワードや、ATM操作などで使う暗証番号(PIN)などがあります。その他、事前に設定した「秘密の質問」、あるいはスマートフォンのロック解除で用いられる「パターン認証」も、この知識情報に分類されます。
記憶に依存するため忘れてしまうリスクがあるほか、フィッシング詐欺や覗き見、推測によって第三者に知られてしまう脆弱性を持ちます。そのため、知識情報のみで使うことはセキュリティ上不十分であり、他の要素と組み合わせて使うことが多要素認証の基本です。
所有情報
所有情報とは、「その人だけが持っているモノ」を認証要素として利用する考え方です。
物理的なアイテムでは、内部の時計と秘密鍵で一定時間ごとに変化するワンタイムパスワードを表示する「ハードウェアトークン」や、社員証・職員証としても利用されるICカードなどが該当します。
近年は、特定のデバイスの所持を証明する方式が主流で、登録済みのスマートフォンで受信するSMS確認コード、あるいはGoogle AuthenticatorやMicrosoft Authenticatorといった「認証アプリ」が生成する時間ベースのワンタイムパスワードが広く使われています。
生体情報
生体情報とは、指紋、顔貌、虹彩、声紋、静脈パターンといった個人の「身体的特徴」、あるいは筆跡やキーストロークといった「行動的特徴」など、その人固有の生物学的・行動学的データを用いる認証要素です。
パスワードのように記憶する必要がなく、トークンのように持ち運ぶ必要もないため利便性が高い上、原理的に複製や偽造が極めて困難という強固なセキュリティを提供します。
近年はスマートフォンやPCへの生体認証センサー搭載が一般的となり、利用のハードルが下がりました。ただし、認証精度は方式によって異なり、生体データのプライバシー保護に対する懸念や導入コストも考慮すべき点として残っています。
6.多要素認証の導入が推奨される場面
多要素認証は、あらゆるログイン場面で有効ですが、特に不正アクセスされた場合の影響が大きいシステムやサービスにおいては、導入が強く推奨されます。具体的にどのようなシーンで多要素認証の導入を優先的に検討すべきか、代表的な例を5つ紹介します。
Office 365やAWSなどのクラウドサービス
SNS
VPN
オンラインショッピング
オンラインバンキング
Office 365やAWSなどのクラウドサービス
Office 365やAWS、Google Workspaceといった主要なパブリッククラウドサービスは、現代の企業活動に不可欠なインフラですが、同時に攻撃者にとっても価値の高い標的です。
これらの管理者アカウントが侵害されると、メールシステム全体が乗っ取られビジネスメール詐欺に悪用されたり、機密情報が大量に流出したり、あるいはAWS等のインフラが不正に利用され高額請求やサービス停止に繋がる可能性があります。
一般ユーザーアカウントであっても侵害されれば大きな影響が出るため、可能な限り全てのユーザーで多要素認証を有効化することが強く推奨されます。
SNS
Facebook、X (旧Twitter)、Instagram、LinkedInなどのSNSアカウントは、個人のコミュニケーションツールであると同時に、企業にとっては広報やマーケティング、採用活動の場としても重要性を増しています。これらのアカウントが乗っ取られた場合、不確かな情報や悪意のあるコンテンツが本人や企業名で発信され、社会的信用の失墜を招く恐れがあります。
また、DMなどを通じた個人情報の詐取、登録された友人・フォロワーへの詐欺メッセージ送信、あるいは他の攻撃への足掛かりとして偵察活動に利用される危険性も考えられるため、多要素認証の導入が必要と言えます。
VPN
テレワークやハイブリッドワークの普及に伴い、VPNは社外から安全に社内リソースへアクセスするための生命線となっています。しかし、VPN接続時の認証がIDとパスワードのみの場合、それらがフィッシングやマルウェア感染で漏洩すると、攻撃者は正規ユーザーになりすまして容易に社内ネットワークへ侵入できてしまいます。
侵入後は、内部のファイルサーバーやデータベースへアクセスして機密情報を窃取したり、他の端末へ感染を広げるといった深刻な事態を招く可能性があります。PCI DSSなどのセキュリティ基準でもリモートアクセス時の多要素認証が要求されるケースが多く、VPNへの多要素認証導入は必須の対策と言えるでしょう。
オンラインショッピング
Amazonや楽天市場といった大手ECサイトから専門店のオンラインストアまで、オンラインショッピングは極めて便利な反面、アカウントが不正利用された際の被害も大きくなりやすいサービスです。
登録されたクレジットカード情報による高額な不正購入、貯めたポイントの不正利用、あるいは配送先住所などの個人情報が他の詐欺行為に悪用されるといったリスクが常に存在します。
多くのECサイトではアカウント設定メニューから多要素認証を有効化できるため、設定することは、自身の金銭的被害を防ぐだけでなく、不正利用に伴う事業者側負担を減らすことにも繋がり、より安全な取引環境の維持に貢献します。
オンラインバンキング
オンラインバンキング(インターネットバンキング)は、銀行窓口やATMに出向かずとも残高照会や振込、各種手続きを行える利便性の高いサービスですが、直接的に金銭を扱うため、最も厳格なセキュリティ対策が求められる分野の一つです。
不正アクセスによる預金の不正送金被害は後を絶たず、フィッシングサイトへ誘導されて認証情報を詐取される手口も巧妙化しています。このため、現在、国内のほとんどの金融機関では、ログイン時や振込などの重要な取引実行時に、ID・パスワードに加えてワンタイムパスワードを用いた多要素認証を必須としています。
金融庁なども注意喚起を行っており、利用者自身が提供される多要素認証の機能を確実に利用することが、資産を守るための大前提です。
7.多要素認証の導入方法
多要素認証を実際に導入する方法は、大きく分けて二つの方向性が考えられます。自社の状況や対象システムに応じて、適切な導入方法を選択することが肝心です。それぞれの具体的な進め方を見ていきましょう。
各サービスでの設定方法確認
専門業者に確認
各サービスでの設定方法確認
導入の第一歩として、利用中のクラウドサービスやWebアプリケーション自体に多要素認証機能が備わっているかを確認しましょう。
多くの場合、サービスの管理コンソールや個人のアカウント設定、セキュリティ関連のメニュー内に以下のような項目が存在します。
多要素認証
MFA
二段階認証
2ステップ認証
そこで、SMS、認証アプリ、セキュリティキー、生体認証など、サービスがサポートする認証方式の中から、自社のポリシーやユーザーの状況に適したものを選択し、有効化します。
設定手順は通常、公式ヘルプやFAQ、解説ブログ記事などで詳しく説明されているので、参照しながら進められます。
専門業者に確認
自社で運用するオンプレミスの業務システムへの多要素認証導入や、複数のクラウド・オンプレミスシステムを横断する統合的な認証基盤の構築、あるいは多数のユーザーへの展開を計画している場合は、専門的な知見を持つベンダーやシステムインテグレーターへの相談が有効です。
専門家は、現状の詳細なアセスメントに基づき、セキュリティ要件、既存環境との互換性、運用負荷、将来的な拡張性などを考慮した最適な多要素認証ソリューションの選定を支援します。
導入プロジェクトの計画立案から設計、構築、テスト、そして導入後の運用保守やサポートまで、一貫したサービス提供が期待できるでしょう。実績やサポート体制、費用対効果を比較検討することが重要となります。
8.多要素認証導入時のユーザー利便性を向上する3つの方法
多要素認証導入時に検討したい、ユーザー利便性を向上させるための代表的な3つのアプローチを紹介いたします。
生体認証の活用
シングルサインオン(SSO)の利用
リスクベース認証の実装
生体認証の活用
指紋認証や顔認証などの生体認証は、現代のスマートフォンやPCに標準搭載されていることも多く、ユーザーにとって直感的で手間のかからない認証方式です。
パスワードの記憶や入力、あるいは認証コードの確認・入力といった操作が不要になるため、ログインプロセスを大幅に簡略化し、ユーザー体験を向上させます。特にWindows HelloやFace ID、Touch IDのようにOSレベルで統合された機能は、非常にスムーズな認証を実現可能です。
ただし、認証精度や、何らかの理由で生体認証が一時的に利用できない場合に備え、代替となる認証手段(PINコードや認証アプリなど)を用意しておくといった配慮も必要となるでしょう。
シングルサインオン(SSO)の利用
シングルサインオン(SSO)は、一度の認証プロセスで複数の連携アプリケーションやサービスへのログインを許可する仕組みであり、多要素認証と組み合わせることで利便性を大きく改善できます。
具体的には、ユーザーは最初にSSO基盤へログインする際に多要素認証による厳格な認証を行いますが、その後、連携先の各サービスにアクセスする際には、パスワード入力や多要素認証が不要となります。
SAMLやOpenID Connectといった認証連携の標準的な仕組みを用いることで、多くのクラウドサービスとの連携が可能です。結果として、多要素認証によるセキュリティ強化を維持しつつ、ユーザーが認証操作を行う回数を大幅に削減し、業務効率の低下を防ぐ効果が期待できます。
リスクベース認証の実装
リスクベース認証は、ユーザーのログイン試行時の状況を多角的に分析・評価し、そのリスクレベルに応じて要求する認証強度を柔軟に変化させる先進的なアプローチです。
評価要素には以下のものがあります。
アクセス元のIPアドレス
国・地域
利用デバイス
時間帯
過去の利用パターンとの比較など
例えば、信頼できる社内ネットワークから、いつも使用しているPCで、通常の業務時間内にアクセスする場合はリスクが低いと判断しパスワードのみで許可する場合があります。逆に、未登録デバイスから深夜に海外IPアドレス経由でアクセスがあった場合は高リスクと判断し、厳格な多要素認証を追加で要求します。
9.多要素認証と似ている認証との違い
多要素認証について調べていると、二要素認証や二段階認証など、似たような用語を目にすることがあります。これらの用語は混同されやすいため、それぞれの意味と多要素認証との関係性を正確に理解しておくことが重要です。ここでは、多要素認証と関連する主要な認証用語を取り上げ、その違いを明確にしていきます。
二要素認証(2FA)
二段階認証
二経路認証
生体認証
場所ベース認証
適応型(リスクベース)認証
ゼロトラスト
二要素認証(2FA)
二要素認証(2FA)は、多要素認証の中でも、利用する認証要素の数が2つである場合を指す、最も一般的で基本的な実装形態です。
たとえば以下の組み合わせがあります。
「知識+所有」(例:パスワードとSMSコード)
「知識+生体」(例:パスワードと指紋認証)
「所有+生体」(例:スマートフォンアプリの生体認証解除)
「多要素認証=二要素認証」ではありませんが、世の中で多要素認証として導入されているものの多くが、現状ではこの二要素認証に該当すると言えるでしょう。多要素認証を理解する上で、まず押さえておくべき基本形となります。
二段階認証
二段階認証は、認証プロセスが単純に「2つの段階(ステップ)」を経ることを意味しており、使われる認証要素の種類や組み合わせについては定義に含まれません。そのため、例えば「パスワード」を入力した後に、別の「パスワード」や「PINコード」を入力するような、同じ知識情報カテゴリの要素を2回連続で使う場合も二段階認証と呼ばれます。
しかし、これは多要素認証や二要素認証の定義である「異なる種類の要素を組み合わせる」という要件を満たさないため、必ずしも多要素認証や二要素認証と同義ではありません。単にステップが多いだけで、セキュリティ強度が多要素認証や二要素認証ほど高くないケースもある点に注意が必要です。
二経路認証
二経路認証は、認証に関わる情報(例えば、認証要求と認証コード)のやり取りを、意図的に「異なる2つの通信経路」に分けて行うことで、セキュリティを高めようとする方式です。
典型的な例として、PC(インターネット回線)でログインを開始し、認証用のワンタイムパスワードは携帯電話のSMS(モバイル網)で受信して入力するケースが挙げられます。もし片方の通信経路が盗聴されたとしても、もう一方の経路の情報がなければ認証が完了しないため、中間者攻撃などに対する耐性が向上します。
多要素認証を実現する手段の一つとして、しばしば要素の組み合わせと共に用いられる技術です。
生体認証
生体認証は、指紋や顔、虹彩といった身体的特徴、あるいは声紋や筆跡などの行動的特徴といった、個人に固有の生物学的・行動学的データを用いて本人確認を行う技術です。多要素認証を構成する3つの主要な認証要素カテゴリ「知識・所有・生体」のうち、「生体情報」に該当します。
重要なのは、生体認証技術そのものは多要素認証を構成する要素の一つであり、生体認証単独での利用はこのセキュリティレベルの認証とはみなされないという点です。例えば、指紋認証だけでログインできるシステムは多要素認証の定義を満たしません。多要素認証として成立させるためには、パスワード(知識情報)やスマートフォンアプリ(所有情報)といった、異なる種類の要素と組み合わせることが不可欠です。
近年FIDO(オンライン認証の標準規格)などの標準化により、より安全で使いやすい実装が進んでいます。
場所ベース認証
場所ベース認証は、ユーザーのアクセス試行時の地理的な「場所」や「移動パターン」に関する情報を、認証プロセスにおける判断材料の一つとして活用する手法です。
主に使用される情報源は、接続元IPアドレスから推定される国・地域情報や、スマートフォンのGPS機能から得られる正確な位置座標などです。これを単独の主要な認証要素とするケースは稀で、通常はリスクベース認証のコンテキスト評価の一部として機能します。
例えば、「普段アクセスしない国からのログイン試行」や「物理的に不可能な短時間での長距離移動」を検知し、リスクが高いと判断して追加認証を要求する、といった使われ方が一般的となります。
適応型(リスクベース)認証
適応型認証、あるいはリスクベース認証は、ユーザーのログイン試行を毎回評価し、その都度算出されるリスクスコアに応じて、要求する認証のステップや強度を動的に調整するインテリジェントな認証メカニズムです。
アクセス元の場所・IPレピュテーション、時間帯、使用デバイス情報(OS、ブラウザ、登録状況)、ネットワーク環境、過去の行動履歴との比較など、多様なコンテキスト情報を総合的に分析します。
リスクが低いと判断されれば、パスワード入力のみ、あるいは生体認証のみといったスムーズなログインを許可し、逆にリスクが高いと判定されれば、複数の要素を組み合わせた厳格な多要素認証を要求することで、セキュリティと利便性の最適なバランスを目指します。継続的な認証の概念にも繋がるアプローチです。
ゼロトラスト
ゼロトラストは、「決して信頼せず、常に検証せよ」という原則に基づいた、次世代のセキュリティアーキテクチャの概念・戦略です。
従来の境界型防御のように「社内=信頼できる、社外=信頼できない」と区別するのではなく、あらゆるアクセス元を信頼できないものとみなし、リソースへのアクセス要求があるたびに厳格な検証を行います。
多要素認証は、このゼロトラストを実現するための極めて重要な技術要素の一つとして位置づけられます。ユーザーが本当に本人であるかを確認するプロセスにおいて、多要素認証による確実な本人確認が不可欠となるのです。つまり、多要素認証はゼロトラストの基盤を支える認証技術と言えます。
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10.まとめ
今回は、多要素認証について、その基本的な仕組みや必要とされている背景、導入メリット・デメリット、推奨される利用場面や導入方法、さらにはユーザー利便性を高める工夫や類似用語との違いについてお話しました。
多要素認証は、巧妙化するサイバー攻撃から重要なアカウントや情報を守るために、現代のオンライン環境において欠かせないセキュリティ対策です。知識・所有・生体といった異なる要素を組み合わせることで機能し、自社の状況や利用サービスに合わせた方式の選択が求められます。
さらに、正しく導入・運用すれば、不正アクセスリスクを大幅に低減でき、顧客やユーザーからの信頼性向上にもつながります。多要素認証を効果的に活用し、安全なサービス利用・提供を目指しましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。
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