MySQLとPostgreSQLは、数あるデータベースの中でも特に利用される機会が多いオープンソースのRDB(リレーショナルデータベース)です。
しかし、両者にはアーキテクチャや機能、性能に明確な違いがあり、プロジェクトの要件に合わない選択をしてしまうと、開発効率の低下や将来的な技術的負債につながる可能性があります。
この記事では、MySQLとPostgreSQLの基本的な違いから、機能・性能の技術的な比較、用途別の選び方、さらにはPostgreSQLへの移行手順や注意点まで網羅的に解説します。
実践で役立つ情報を分かりやすくまとめました。ぜひ最後までお読みいただき、データベース選定の理解を深めてください。
目次
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1.MySQLとPostgreSQLの違い早見表とおすすめ用途
MySQLとPostgreSQLを多角的に比較した結果とおすすめの用途を解説していきます。ぜひ最後までお読みください。
MySQLとPostgreSQLの比較早見表
MySQLがおすすめな用途
PostgreSQLがおすすめな用途
MySQLとPostgreSQLの比較早見表
まず、MySQLとPostgreSQLの主要な違いを一覧できる比較表で解説します。
比較項目 | MySQL | PostgreSQL |
---|---|---|
主な開発元 | Oracle | PostgreSQL Global Development Group |
ライセンス | デュアルライセンス(無償のGPL / 有償の商用) | PostgreSQLライセンス(BSDライセンスベースで商用利用も自由) |
アーキテクチャ | プラグイン・ストレージエンジン形式(InnoDB, MyISAMなど) | 単一の統合されたエンジン(MVCCを強力に実装) |
SQL準拠度 | 独自の拡張構文も多い(近年は標準への準拠度が向上) | 非常に高い(標準SQLへの厳格な準拠を重視) |
対応データ型 | 基本的なデータ型が中心(JSON型をサポート) | 豊富(配列, JSONB, 地理情報, UUIDなど) |
インデックス種類 | B-tree, 全文検索, 空間インデックスなど | 多様(B-tree, GIN, GiST, BRINなど) |
レプリケーション | 非同期/準同期レプリケーション(グループレプリケーションも可) | ストリーミングレプリケーション(同期的/非同期的, ロジカルも可) |
得意な処理 | ・高速な読み取り処理 (SELECT) ・シンプルなWebアプリケーションのバックエンド | ・複雑なクエリの実行, データ分析 ・高い信頼性や堅牢性が求められるシステム |
この表では、ライセンス、アーキテクチャ、SQL準拠度、対応データ型、レプリケーション方式、そして得意な処理といった、データベース選定で重要となる項目を網羅的に整理しました。両者の特性がひと目で分かり、大まかな違いを一目で違いを把握しやすく、選定の判断材料として有用です。
技術的な詳細に入る前に、この比較表で全体像を掴んでおくと、以降の内容がスムーズに理解できるはずです。それぞれの特徴を知り、自身のプロジェクト要件と照らし合わせてみましょう。
MySQLがおすすめな用途
MySQLは、その高速な読み取り性能とシンプルな構成から、特定の用途で大きな強みを発揮します。
代表的なのが、WordPressに代表されるCMSや、一般的なWebアプリケーションのバックエンドです。これらのシステムでは、複雑な書き込みよりも高速なデータ読み出しが求められるケースが多く、MySQLのアーキテクチャが活きる場面といえます。
また、世界中で豊富な導入実績があり、関連情報やドキュメントを見つけやすい点も魅力の一つです。開発実績の多い構成を素早く立ち上げたいスタートアップや、読み取り処理が中心のサービス開発におすすめの選択肢です。
PostgreSQLがおすすめな用途
PostgreSQLは、多機能性とデータの堅牢性が求められる用途で真価を発揮するデータベースです。
例えば、複雑なトランザクション処理が必須となる金融システムや基幹業務システムが挙げられます。また、JSONB型による高度なJSON操作や、PostGIS拡張による地理情報データの扱いに長けているため、データ分析基盤やGISアプリケーションにも最適です。
標準SQLへの準拠度が高く、複雑なクエリを安定して実行できる性能も持ち合わせています。
データの整合性を最優先し、多様なデータ型や複雑な処理を必要とするプロジェクトで採用を検討すべきデータベースです。
2.MySQLとPostgreSQLの基本的な特徴と違い
ここでは、MySQLとPostgreSQLがそれぞれどのようなデータベースなのか、その基本的な特徴と歴史的背景を解説します。また、開発や運用において重要な要素となるライセンス体系の違いについても触れていきます。それぞれ見ていきましょう。
MySQLとは?その特徴と歴史
PostgreSQLとは?その特徴と歴史
ライセンス体系の違い
MySQLとは?その特徴と歴史
MySQLは、世界で最も広く利用されているオープンソースのリレーショナルデータベース管理システムの一つです。
その歴史は1995年に遡り、高速な読み取り性能と使いやすさを重視して開発されました。特にWebアプリケーションのバックエンドとして急速に普及し、LAMP(Linux, Apache, MySQL, PHP/Perl/Python)スタックの中核を担ってきた実績があります。
現在はOracle社によって開発が続けられており、ストレージエンジンを選択できるプラグイン形式のアーキテクチャが大きな特徴です。これにより、用途に応じてInnoDBやMyISAMといった異なる特性のエンジンを使い分けることが可能になっています。
PostgreSQLとは?その特徴と歴史
PostgreSQLは、拡張性と標準SQLへの準拠を重視して開発された、高機能なオープンソースRDBMSです。
その起源は1986年にカリフォルニア大学バークレー校で開発されたIngresプロジェクトにまで遡り、学術的な背景を持つことから「ポスグレ」の愛称で呼ばれることも少なくありません。
オブジェクトリレーショナルデータベースという概念を掲げ、多様なデータ型や複雑なトランザクション、MVCC(多版型同時実行制御)といった先進的な機能を早期から実装してきました。
データの堅牢性に定評があり、機能追加も活発なため、信頼性が求められる大規模システムで採用されるケースが増えています。
ライセンス体系の違い
MySQLとPostgreSQLは、どちらもオープンソースですがライセンス体系が異なります。
PostgreSQLは、BSDライセンスをベースとした独自の「PostgreSQLライセンス」を採用しており、ソースコードの改変や商用利用に対する制約が非常に緩やかです。
一方、MySQLはデュアルライセンス方式を採っています。無償で利用できる「GPL(GNU General Public License)」と、GPLの制約を受けずに利用できる有償の「商用ライセンス」の2種類が存在する形です。
GPL版で開発したソフトウェアを配布する場合、そのソースコードも公開する義務が生じることがあるため、商用製品への組み込みを検討する際は注意が必要です。
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3.MySQLとPostgreSQLの技術的な違いを徹底比較
この章では、MySQLとPostgreSQLの技術的な違いを以下の7項目で解説していきます。この違いを理解することが、最適な技術選定とトラブルシューティングの鍵です。
アーキテクチャ
SQL準拠度
データ型
インデックス
レプリケーション
JSON対応
拡張性
アーキテクチャ
MySQLとPostgreSQLの最も根本的な違いは、同時実行制御の仕組みです。
PostgreSQLはMVCCを追記型アーキテクチャで実現しており、読み取り処理が書き込み処理をブロックしません。そのため、読み書きが頻繁に発生する高負荷な環境でも性能を維持しやすいという利点があります。
一方、MySQLもMVCCを基本としますが、特定の操作ではギャップロックなどを用いてデータの整合性を保つ点が特徴です。
このアーキテクチャの違いは、分離レベルの挙動やデッドロックの発生傾向にも影響を与えるため、技術選定で重要な判断材料です。
SQL準拠度
PostgreSQLは、標準SQL規格への準拠度が非常に高いことで知られています。ウィンドウ関数や共通テーブル式といった高度な機能をサポートしており、他のデータベースで書かれたSQLも比較的容易に移行できるケースが多いです。
一方、MySQLは歴史的な経緯から独自の拡張構文が多く、標準SQLとは異なる挙動を示すことがあります。例えば、GROUP BY句の扱いや一部の関数名が異なります。ただし、近年のバージョンではMySQLも標準SQLへの準拠を進めており、その差は縮まりつつあります。
構文の厳密性を重視し、将来的なDB移行の可能性も視野に入れるならPostgreSQLのほうがおすすめです。
データ型
対応するデータ型の種類は、両者で大きく異なります。
PostgreSQLは、以下の種類をサポートしています。
配列型
範囲型
UUID型
JSONB型
IPアドレス型など
アプリケーション側でのデータ加工の手間を減らし、データベース側で効率的なデータ管理を実現します。
対するMySQLのデータ型は、よりシンプルで基本的なものが中心ですが、一般的なWebアプリケーション開発には十分です。
移行を検討する際には、このデータ型の非互換性が大きな課題となることがあります。例えば、MySQLのENUM型やSET型はPostgreSQLには存在しないため、代替策の検討が必須です。
インデックス
インデックスはデータベースの検索性能を左右する重要な機能ですが、利用できる種類に違いがあります。
両者ともに基本的なB-treeインデックスをサポートしていますが、PostgreSQLはそれに加えてGIN、GiST、SP-GiST、BRINといった多様なインデックスタイプを提供します。これらは全文検索や地理情報データ、範囲型の検索を高速化するのに非常に有効です。特にGINインデックスは、JSONB型や配列型の要素を効率的に検索する際に力を発揮します。
MySQLでも全文検索インデックスや空間インデックスは利用できますが、PostgreSQLほど選択肢は多くありません。特定のデータ構造に対する高度な検索要件がある場合は、PostgreSQLの多様なインデックスが大きな武器になります。
レプリケーション
レプリケーションは、データベースの可用性や負荷分散を実現するために不可欠な機能です。
MySQLでは、古くから非同期のステートメントベースまたは行ベースのレプリケーションが主流でした。近年では準同期レプリケーションやグループレプリケーションといった高可用性を実現する機能も強化されています。
一方、PostgreSQLは追記先行ログを転送するストリーミングレプリケーションが基本で、同期的にも非同期的にも構成可能です。さらに、ロジカルレプリケーション機能を使えば、特定のテーブルや行だけを柔軟に複製できます。
どちらも高可用性構成は組めますが、その仕組みと設定の柔軟性に違いがある点を理解しておきましょう。
JSON対応
NoSQLデータベースのように柔軟なデータ構造を扱いたいというニーズが高まっています。この要求に応えるのがJSONデータ型のサポートです。
MySQLではJSON型を利用でき、JSONドキュメントを格納して特定の値を抽出する関数も提供しています。
対するPostgreSQLは、テキストベースのJSON型に加えて、バイナリ形式でデータを格納する「JSONB型」が非常に強力です。JSONBは格納効率が高いだけでなく、インデックスを利用した高速な検索を可能にします。
ドキュメント指向のデータモデルを多用し、JSON内のデータに対して複雑な検索や更新を行いたい場合、PostgreSQLのJSONB型が優れた選択肢となるでしょう。
拡張性
データベースの機能を独自に拡張したい場合、両者のアプローチは異なります。
MySQLは、データベースのストレージエンジンの入れ替えなど、データベースの中核機能を柔軟にカスタマイズできます。また、ユーザー定義関数を作成して独自の関数を追加可能です。
一方、PostgreSQLはその設計思想から「拡張性」を非常に重視しており、独自に関数やデータ型、インデックス、演算子などを追加する仕組みが豊富に用意されています。特に、PostGISやTimescaleDBといった強力な「拡張機能」を導入することで、特定の用途に特化した高機能なデータベースへと進化させられる特徴があります。
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4.MySQLとPostgreSQLのパフォーマンス比較
データベース選定において、性能や速度は最も気になるポイントの一つです。この章では、様々なシナリオにおけるMySQLとPostgreSQLのパフォーマンスを比較検討します。
読み取り(SELECT)速度比較
書き込み(INSERT/UPDATE)速度比較
複雑なクエリや大量データ処理の性能比較
高い同時接続性が求められる場合の性能比較
読み取り(SELECT)速度比較
一般的に、シンプルな主キー検索のような単純な読み取り処理では、MySQLが非常に高速だと評価されてきました。これは、Webサイトのコンテンツ表示など、大量のリード処理が求められる用途でMySQLが広く採用されてきた理由の一つです。MySQLのアーキテクチャは、こうしたユースケースに最適化されている面があります。
しかし、PostgreSQLも近年のバージョンアップで読み取り性能は大幅に向上しており、一概にMySQLが速いとは言えない状況です。特に、複数テーブルのJOINや複雑な条件での読み取りでは、PostgreSQLの優れたクエリオプティマイザが力を発揮し、MySQLを上回る性能を示すことも少なくありません。
書き込み(INSERT/UPDATE)速度比較
書き込み性能に関しては、処理の特性によって両者の得意不得意が分かれます。
大量のデータを一括で挿入(INSERT)するような単純な書き込み処理では、MySQLの方が高速な傾向が見られます。
一方で、PostgreSQLはMVCCアーキテクチャの恩恵により、多数のクライアントから読み取りと書き込みが同時に発生するような高負荷な状況でも、安定した性能を維持することが得意です。
データの整合性を厳密に保ちながら更新(UPDATE)処理を行う際も、その堅牢なトランザクション機構が力を発揮します。単純な書き込み速度だけでなく、同時実行性も考慮した評価が重要です。
複雑なクエリや大量データ処理の性能比較
複雑なクエリの実行性能は、PostgreSQLに軍配が上がりがちです。
PostgreSQLは非常に洗練されたクエリオプティマイザを搭載しており、多数のテーブルを結合(JOIN)したり、サブクエリやウィンドウ関数を多用したりする分析系のSQLを効率的に実行できます。大量のデータを集計・分析するようなデータウェアハウス的な用途では、その差が顕著に現れるでしょう。
MySQLもバージョンアップでオプティマイザは改善されていますが、複雑なクエリの最適化能力ではPostgreSQLに一日の長があります。
データ分析やバッチ処理がシステムの中心となる場合は、PostgreSQLの採用が有力な選択肢となります。
高い同時接続性が求められる場合の性能比較
高い同時接続性が求められる環境では、アーキテクチャの違いが性能に影響します。
PostgreSQLは、クライアントからの接続ごとに新しいプロセスを生成するアーキテクチャを採用しています。これは接続ごとにメモリを消費するため、コネクション数が増えるとリソースを圧迫しやすいという課題がありました。しかし、pgBouncerのようなコネクションプーラを併用することで、この問題は解消可能です。
一方、MySQLはスレッドベースのアーキテクチャであり、一般的に少ないリソースで多くのコネクションを処理できるとされています。ただし、高負荷時にはスレッド間のロック競合が性能のボトルネックになる可能性も指摘されています。
どちらもチューニングやミドルウェアの活用が性能を引き出す鍵です。
5.【用途別】ケーススタディから学ぶ選び方
ここまでの機能や性能の違いを踏まえ、具体的なユースケースごとにどちらのデータベースを選ぶべきかを考察していきます。
ケース1:シンプルなWebアプリケーション・CMS(WordPressなど)
ケース2:金融・基幹システムなど、高い信頼性が求められるサービス
ケース3:データ分析基盤や地理情報システム(GIS)
ケース4:スタートアップや新規事業での技術選定
ケース1:シンプルなWebアプリケーション・CMS(WordPressなど)
ブログや企業のコーポレートサイト、小規模なECサイトといった、比較的シンプルなWebアプリケーションではMySQLが有力な選択肢です。
これらのシステムの多くは、複雑なデータ処理よりも、高速なコンテンツ表示、つまり読み取り性能が重視されます。MySQLは、そのシンプルな構成と高速なリード処理で長年の実績があり、多くのホスティングサービスで標準的に利用できる点もメリットです。
特にWordPressのように、MySQLを前提として設計されているアプリケーションを運用する場合、特別な理由がなければMySQLを選択するのが最も簡単で確実な方法といえるでしょう。
ケース2:金融・基幹システムなど、高い信頼性が求められるサービス
決済システムや在庫管理、企業の基幹業務システムなど、データの整合性とトランザクションの信頼性が絶対条件となるサービスでは、PostgreSQLの採用を強く推奨します。
PostgreSQLは、標準SQLへの厳格な準拠と堅牢なACID特性で定評があり、複雑なビジネスロジックを正確に処理する能力に長けています。万が一の障害時にもデータを失わないためのリカバリ機能も強力です。
商用データベースに匹敵するほどの信頼性を持ちながら、オープンソースとして利用できる点は大きな魅力です。データの「正しさ」がビジネスの根幹をなすシステムには、PostgreSQLが最適な基盤となります。
ケース3:データ分析基盤や地理情報システム(GIS)
大量のデータを集計・分析するDWHや、位置情報を扱うGIS(地理情報システム)の構築には、PostgreSQL導入がおすすめです。
その理由は、洗練されたクエリオプティマイザと、強力な拡張機能の存在です。複雑な分析クエリを高速に実行できるだけでなく、PostGISという拡張機能を導入することで、高度な地理空間データ分析が可能になります。また、配列型やJSONB型といった多彩なデータ型は、非構造化データを含む多様な分析対象を効率的に扱う上で役立ちます。
ビッグデータを活用したサービスや研究開発の分野では、PostgreSQLの柔軟性と拡張性が不可欠です。
ケース4:スタートアップや新規事業での技術選定
スタートアップや新規事業のように、迅速な開発と将来的な変化への対応力が求められる場面では、どちらのデータベースも選択肢になり得ます。
判断の分かれ目となるのは、プロダクトの特性とチームのスキルセットです。シンプルな構成で素早くMVPを立ち上げたいなら、実績豊富で扱いやすいMySQLが適しています。
一方で、将来的に複雑な機能追加やデータ分析への展開が見込まれるなら、初期段階から拡張性の高いPostgreSQLを選択する方が適切な場合があります。
どちらを選ぶにせよ、クラウドのマネージドサービス(AWSのRDSやGCPのCloud SQLなど)を利用すれば、運用負荷を下げつつ、後からの移行も比較的容易に行えます。
6.MySQLからPostgreSQLへの移行が注目されている理由
近年、既存のシステムをMySQLからPostgreSQLへ移行する事例が増えています。その理由は主に以下の4つです。ひとつひとつ解説していきます。
PostgreSQLが持つ豊富な機能と標準SQLへの高い準拠度
複雑なクエリやデータ分析における性能の優位性
トランザクションの堅牢性とデータの信頼性の高さ
クラウドネイティブ時代における採用トレンドと活発なコミュニティ
PostgreSQLが持つ豊富な機能と標準SQLへの高い準拠度
PostgreSQLへの移行が選ばれる大きな理由の一つは、その機能の豊富さです。
アプリケーションの要件が複雑化する中で、ウィンドウ関数や共通テーブル式(CTE)、多彩なデータ型といったPostgreSQLの高度な機能を活用したいというニーズが高まっています。これらの機能を使えば、これまでアプリケーション側で実装していた複雑なロジックを、よりシンプルで効率的なSQLとしてデータベース側で処理できます。
また、標準SQLへの準拠度が高いため、特定のデータベースに依存しない、よりポータブルで保守性の高いコードを記述できる点も、長期的な視点で開発者に評価されているポイントです。
複雑なクエリやデータ分析における性能の優位性
ビジネスの成長に伴い、蓄積されたデータを分析してサービス改善に活かしたいという要求はますます強くなっています。このようなデータ分析の場面で、PostgreSQLの性能が注目されています。
PostgreSQLのクエリオプティマイザは、複数テーブルの複雑なJOINや大量データの集計処理を非常に効率的に実行するよう設計されています。MySQLで実行すると時間がかかっていた分析クエリが、PostgreSQLに移行したことで高速化されるケースも少なくありません。システムのコア機能だけでなく、分析基盤としての役割も一つのデータベースで担える点が、PostgreSQLの大きな魅力となっています。
トランザクションの堅牢性とデータの信頼性の高さ
データの整合性を何よりも重視するシステムにおいて、PostgreSQLの堅牢なトランザクション管理能力は移行の強力な動機となります。
PostgreSQLはACID特性を厳格に満たしており、どのような状況でもデータの矛盾が発生しにくいよう設計されています。特に、読み取り処理が書き込み処理をブロックしないMVCCアーキテクチャは、高い同時実行性が求められるオンラインサービスで安定したパフォーマンスを提供します。
サービスの信頼性をさらに高めたい、データ破損のリスクを極限まで低減したいと考える開発者にとって、PostgreSQLは非常に信頼できる選択肢となりえます。
クラウドネイティブ時代における採用トレンドと活発なコミュニティ
クラウドサービスの普及も、PostgreSQLの採用を後押ししています。
AWS、GCP、Azureといった主要なクラウドプラットフォームは、PostgreSQLのマネージドサービスを標準的に提供しており、誰でも手軽に高機能なデータベースを利用できる環境が整っています。これにより、運用負荷を気にすることなくPostgreSQLのメリットを享受できます。
また、PostgreSQLは特定の企業に所有されない、活発なコミュニティによって開発が支えられています。このオープンな開発体制が、継続的な機能改善と長期的な安定性への信頼につながり、多くの企業や開発者が安心して採用する一因となっています。
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7.MySQLからPostgreSQLへ移行前に確認すべき注意点
MySQLからPostgreSQLへの移行は多くのメリットをもたらしますが、簡単には完了しません。この章では、移行プロジェクトでつまずきやすい技術的な注意点を具体的に解説します。
データ型のマッピング:AUTO_INCREMENTとSERIAL/IDENTITYの違い
SQL構文の非互換性:関数、日付時刻の扱い、NULLの評価
トランザクション制御とロックの挙動の違い
文字コードと照合順序(Collation)の再設定
予約語の衝突とインデックスタイプの差異
開発チームの学習コストとドキュメントの整備
データ型のマッピング
移行時に最初に取り組むべき課題が、データ型のマッピングです。特に、自動連番を実現する仕組みの違いは重要です。
MySQLではテーブルのカラムに AUTO_INCREMENT 属性を設定しますが、PostgreSQLでは伝統的に SERIAL 型を利用してきました。最近のPostgreSQLでは、標準SQLに準拠した IDENTITY カラムもサポートされています。
他にも、MySQLの DATETIME 型とPostgreSQLのタイムゾーン情報を持つ TIMESTAMP WITH TIME ZONE 型の扱いの違いなど、非互換なデータ型は多数存在します。
これらを事前に洗い出し、どの型に変換するかの設計が不可欠です。
SQL構文の非互換性
SQL構文の微妙な違いも、移行時の落とし穴となります。
例えば、MySQLでよく使われる IFNULL() 関数は、PostgreSQLでは標準SQLの COALESCE() を使う必要があります。
また、MySQLではダブルクォート(")を文字列リテラルとして扱えますが、PostgreSQLでは原則として識別子を囲むためにしか使えません。さらに、日付や時刻を扱う関数の名前や引数も異なります。
これらの非互換なSQLをアプリケーションのコードやストアドプロシージャから全て洗い出し、PostgreSQLの構文に修正する作業は、移行の中でも特に時間のかかる工程の一つです。
トランザクション制御とロックの挙動の違い
トランザクションの挙動、特に分離レベルのデフォルト値の違いは、見落としがちですが非常に重要なポイントです。
MySQLのデフォルト分離レベルは「REPEATABLE READ」ですが、PostgreSQLでは「READ COMMITTED」がデフォルトです。この違いにより、同一トランザクション内で同じSELECT文を発行した際に、結果が変わる可能性があります。
また、MySQLのInnoDBが用いるギャップロックはInnoDB特有の機能で、REPEATABLE READ分離レベル以上で発動し、範囲に対するロックでファントムリードを防ぎます。
PostgreSQLにはギャップロックが存在しないため、ロックの考え方やデッドロックの発生パターンが変わることを理解しておかなければなりません。
文字コードと照合順序の再設定
文字化けは、データベース移行で頻発するトラブルの一つです。
MySQLとPostgreSQLでは、データベースやテーブル、カラム単位での文字コードや照合順序のデフォルト設定、および指定方法が異なります。照合順序とは、文字列の比較やソート順のルールのことです。
例えば、「A」と「a」を同一視するか、あるいは「あ」と「ア」を区別するかといった挙動を決定します。
移行元のMySQLの設定を正確に把握し、PostgreSQL側で同等の振る舞いをするよう、データベース作成時やテーブル定義時に適切な照合順序を明示的に指定することが、データの整合性を保つ上で極めて重要です。
予約語の衝突とインデックスタイプの差異
MySQLでは問題なく使えていたテーブル名やカラム名が、PostgreSQLの予約語と衝突し、エラーを引き起こすことがあります。
例えば、「USER」や「LIMIT」といった単語は、PostgreSQLでは予約語です。移行前に対象となる識別子をリストアップし、予約語と重複していないかチェックしなければなりません。
また、インデックスの互換性にも注意が必要です。MySQLで利用していた特定のインデックスタイプがPostgreSQLに存在しない場合、代替となるインデックスを検討し、性能が劣化しないか検証しなくてはなりません。特に全文検索や空間インデックスなどは、実装方法が異なるため入念なテストが必要です。
開発チームの学習コストとドキュメントの整備
技術的な課題だけでなく、人的な側面も無視できません。開発チームが長年MySQLに慣れ親しんできた場合、PostgreSQLの作法やエコシステムを新たに学習するには相応の時間がかかります。
SQLの書き方から、運用・監視の方法、チューニングの勘所まで、多くの知識をアップデートする必要があるでしょう。この学習コストをプロジェクト計画に織り込み、十分な教育期間やプログラミングなどの機会を設けることが成功の鍵です。
また、移行に伴って変更された仕様や運用手順は、必ずドキュメントとして整備し、チーム全体で知識を共有する体制を整えることが、将来の安定運用につながります。
8.MySQLからPostgreSQLへの代表的な移行ツール
MySQLからPostgreSQLへの移行を成功させるには、適切なツールの選定が欠かせません。ここでは、移行プロジェクトで中心的な役割を果たす代表的なツールを3つ紹介し、それぞれの特徴と最適な利用シーンを解説します。
pgloader
AWS DMS & SCT
Google Cloud Database Migration Service
pgloader
pgloaderは、コストをかけずに強力な移行機能を利用したい場合に最適な、代表的なオープンソースツールです。
このツールの最大の魅力は、スキーマ定義の変換とデータ移行を一つのコマンドで実行できる点にあります。
データ型のマッピングや変換中のデータ加工なども設定ファイルで柔軟に制御可能です。コマンドラインでの操作に慣れは必要ですが、オンプレミス環境での移行や、初期コストを抑えたいプロジェクトでは非常に頼りになる存在です。
無料で利用できる反面、サポートはコミュニティベースとなるため、自走できる技術力が求められます。
AWS DMS & SCT
AWS環境での移行を検討しているなら、「AWS Database Migration Service (DMS)」と「Schema Conversion Tool (SCT)」の組み合わせが最も有力な選択肢です。
このサービスの最大の強みは、ダウンタイムを最小限に抑える継続的なデータ同期機能にあります。SCTが事前にスキーマの互換性を評価して変換を支援し、DMSがサービスを稼働させたまま安全にデータを移行します。
ECサイトや業務システムなど、サービスの停止が許されないシステムの移行に特に適しています。AWSのマネージドサービスであるため信頼性が高く、インフラの運用負荷を大きく軽減できる点も大きなメリットです。
Google Cloud Database Migration Service
GCP(Google Cloud Platform)環境でデータベースを運用している、または移行先として検討している場合には、「Google Cloud Database Migration Service」が最適です。
このサービスもAWS DMSと同様に、ダウンタイムを抑えたライブマイグレーションをサポートしており、GCPのマネージドデータベースである「Cloud SQL for PostgreSQL」へのシームレスな移行を実現します。
Google Cloudの管理コンソールから直感的に設定・操作ができるため、GCPの各種サービスとの連携を重視し、エコシステム内で移行を完結させたいプロジェクトに向いています。
9.MySQLからPostgreSQLへの手順の概要
具体的な移行手順は以下の4ステップです。それぞれを解説していきます。
STEP1:移行計画と影響範囲の調査
STEP2:スキーマ変換と代表的なツール
STEP3:データ移行の実践
STEP4:アプリケーションの修正と移行後のテスト・切り替え
STEP1: 移行計画と影響範囲の調査
データベース移行は、綿密な計画を立てることが大切です。
まず、なぜ移行するのかという目的を明確にし、達成すべきゴールを定義します。次に、移行対象となるデータベースの全ての機能を洗い出し、影響範囲を正確に調査します。
このアセスメント作業を通じて、前章で解説したような非互換な箇所を特定し、修正にかかる工数を見積もります。
テスト計画や切り替え手順、そして万が一の際の切り戻し計画もこの段階で策定しておくことが重要です。
STEP2: スキーマ変換と代表的なツール
計画が固まったら、次はデータベースの「器」であるスキーマの変換作業に入ります。この工程では、手作業での修正はミスを誘発しやすいため、ツールの利用が一般的です。
オープンソースの代表的なツールとして「pgloader」が有名で、MySQLのスキーマ定義をとデータを直接読み込み、PostgreSQL上にテーブル作成とデータ投入を同時に実行してくれます。データ型のマッピングやデフォルト値の変換なども設定ファイルで柔軟に制御可能です。
この段階で自動変換されたスキーマを元に、手動での微調整や最適化を行っていくことになります。
STEP3: データ移行の実践
スキーマの準備が整ったら、いよいよ実データの移行です。
データ移行には、大きく分けて以下2つのアプローチがあります。
一括移行:サービスを一度停止して全データを一括で移行する方法。データ量が少なく、サービスの停止時間が許容できる場合に採用されます。
差分移行:サービスを稼働させたまま初期データを移行し、その後発生した変更分を継続的に同期し続ける方法。ダウンタイムを極力短くしたい場合に選択され、前述のAWS DMSなどのツールがこの方式に対応しています。
移行するデータ量やサービスの要件に応じて、最適な方法を選択することが肝心です。
STEP4: アプリケーションの修正と移行後のテスト・切り替え
データベースの移行は、データの入れ替えだけで完了ではありません。PostgreSQLに接続し、正しく動作するようアプリケーションのコードを修正しなければなりません。データベース接続ドライバの変更、非互換なSQL構文の修正などが主な作業です。
修正が完了したら、入念なテストを行います。単体テストや結合テストはもちろん、実際の負荷に近い状態で性能を測定する負荷テストも不可欠です。ここで性能要件を満たせない場合は、クエリやインデックスのチューニングを行います。
全てのテストをクリアし、データの同期が完了したことを確認した上で、いよいよ本番環境の接続先を新データベースへと切り替えられます。
10.まとめ
今回は、MySQLとPostgreSQLについて、その基本的な違いから機能・性能の比較、用途別の選び方、そして具体的な移行手順まで詳しく解説しました。
MySQLとPostgreSQLは、どちらも優れたオープンソースデータベースですが、それぞれに得意な領域と設計思想があります。シンプルなWebアプリケーションには高速なMySQL、データの堅牢性や複雑な処理が求められるシステムには多機能なPostgreSQLといったように、プロジェクトの要件に合わせた選択が求められます。
この記事で得た知識をもとに、ぜひ自身のプロジェクトに最適なデータベースを選定し、開発を加速させてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。
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