セキュリティエンジニアは企業や組織のサーバーやネットワークなどのインフラ、ITシステムやサービスなどにおけるセキュリティ確保を行う役割を担っています。外部からの不正アクセスなどが深刻な問題となっている昨今、企業におけるセキュリティエンジニアの役割の重要性はますます増しています。
セキュリティエンジニアの業務範囲は幅広く、企画やセキュリティ診断、設計・実装などが挙げられます。いずれも専門的な知識が求められる業務です。
セキュリティエンジニアは専門知識やスキルを活用し、企業のセキュリティを守る重要な役割を担っていますが、この仕事についてやめとけといった意見が少なからずあるようです。この背景にはセキュリティエンジニアならではの多忙さなども関係していますが、仕事には向き不向きがあるので全ての人におすすめできないというわけではありません。
本記事では、セキュリティエンジニアについて仕事内容、やめとけと言われる理由、年収事情、年収アップの方法、将来性などを解説します。
目次
1.セキュリティエンジニアとは
セキュリティエンジニアとは企業におけるサーバーやネットワークなどのインフラ、ITシステム、サービスなどのセキュリティ確保を行う職業です。
多くの企業がソフトウェアやITシステム、アプリケーションなどを利用しています。これらを活用することで、業務負担が軽減されたり、より多くの利益を生み出せたりしますが、セキュリティ面でリスクが生じます。
インターネットなどのネットワークに接続すると、外部からの攻撃のリスクが発生します。近年では不正アクセスによる情報の盗用や漏洩が問題となり、多くの企業が頭を抱えています。自社の情報が盗まれると経営にかかわるだけでなく、顧客や取引先にも多大なる迷惑がかかる恐れがあります。
セキュリティエンジニアはセキュリティリスクを未然に防ぎ、企業やその企業の取引先、顧客を守る役割があります。システムやソフトウェアに対する技術的なセキュリティ対策、組織におけるセキュリティルールの策定などを実施し、自社の大切な情報を守ります。
セキュリティエンジニアの仕事内容
セキュリティエンジニアは自社のセキュリティを守るために、さまざまな業務に携わります。
セキュリティエンジニアは企画・提案から関わることも多く、組織の情報セキュリティ確保に関する企画や提案もセキュリティエンジニアの業務に含まれます。
企業のセキュリティを強化するためにハードウェア、ソフトウェアの導入を検討したり、企業のセキュリティを守るためのセキュリティポリシーの策定を行います。また、全社的なセキュリティルールを決定し、社内に浸透させることも社内のセキュリティを強化する上で重要な業務です。
セキュリティエンジニアは顧客から要件をヒアリングし、セキュリティ対策方法を提案することもあります。企画提案が受け入れられたら、相手にとってベストな情報セキュリティマネジメントを設計します。
設計と実装ではサイバー攻撃に有効な対策をインフラ、ソフトウェアの各領域に対して実施します。その後、設計書を参照しながらネットワークやサーバー、OS、アプリケーションなどにおいてセキュリティ対策を実装していきます。
実装後、テストを実施し、セキュリティに問題がないか確認します。テストのときはサイバー攻撃の手口を実際にシステムに実行し、確認を行います。
セキュリティ開発後の運用・保守などのアフターケアもセキュリティエンジニアの重要な仕事です。
2.セキュリティエンジニアはやめとけと言われる理由
前章でお伝えしたたように、セキュリティエンジニアは企業にとって欠かせない職業ですが、この仕事を勧めない声も少なからずあります。
セキュリティエンジニアはやめとけと言われる理由として以下の5つが挙げられます。
責任が重い
緊急の対応が多い
日々のスキルアップが求められる
夜勤がある
顧客とコミュニケーションをとる機会が多い
それぞれ確認していきましょう。
責任が重い
セキュリティエンジニアには社内の情報を守る重要な役割があります。
NPO日本ネットワークセキュリティ協会の「2018年情報セキュリティインシデントに関する調査結果」によると、サイバー攻撃を受けて情報漏洩事件を発生させてしまうと、事件1件の平均想定損害賠償額は6億3,767万円とのことです。
また、セキュリティに関する事件はお金で解決できるものばかりではなく、多くの人に不安を与えたり、企業の経営にも大きく関わってきたりします。
セキュリティエンジニアのミスで事件が起きてしまうと、責任の重さに疲弊してしまう人もいます。
緊急の対応が多い
サイバー攻撃を受けた場合、セキュリティエンジニアは迅速に対応しなければなりません。
時間が経てば経つほど被害は大きくなり、問題の解決が難しくなるため早急な対応が求められるためです。周囲からも「早く対応してほしい」「まだ解決しないのか」と急がされることも少なくなく、プレッシャーを抱えながら課題解決に向けて動かなければなりません。
トラブルが起きたら深夜でも休日でも関係なく対応しなければなりません。
日々のスキルアップが求められる
セキュリティは日々進化していますし、サイバー攻撃の手口も年々巧妙化しています。
セキュリティエンジニアとして十分な知識やスキルをもって企業に入社したとしても、変化に対応できるように日々勉強し続けなければなりません。
勉強が苦手な方や新しく何かを取得し続けることに抵抗がある人は負担になるでしょう。
夜勤がある
サイバー攻撃は昼夜問わず発生するので、セキュリティの監視は365日24時間体制で行わなければなりません。夜起きていることが苦手な人や生活リズムが乱れるのを好まない人は厳しい部分もあるでしょう。
ただし、セキュリティエンジニアは必ず夜勤があるというわけではなく、企業によっては夜勤なしで働けることもあります。
顧客とコミュニケーションをとる機会が多い
セキュリティエンジニアは一人で黙々と作業しているイメージがありますが、多くの人とコミュニケーションをとりながら仕事をします。
トラブルが起きた際はその状況を的確にヒアリングし、対応しなければなりません。相手にセキュリティやITに関する知識がないケースも多く、自身の経験や知識を活かしながら何が起きているのか把握する必要があります。
また、脆弱性診断や監査など、セキュリティ環境の評価業務などでも相手に状況を分かりやすく伝えたり、質問に相手の立場で答えたりする力が求められます。
3.セキュリティエンジニアの年収事情。年収2,000万円稼ぐことが可能?
セキュリティエンジニアの2023年における平均年収はおおよそ558万円です。
現代の日本における平均年収は国税庁長官官房企画課 「令和4年分 民間給与実態統計調査-調査結果報告-」によると、458万円です。なお、例年においても平均年収は450万円程度となっています。このことを考慮すると、セキュリティエンジニアの平均年収は平均よりも100万円ほど高くなります。
しかし、セキュリティエンジニアを目指す方の中には、年収2,000万円を目指す方もいるのではないかと考えられます。
また、フリーランスのセキュリティエンジニアの報酬を見てみると、平均月額単価は77.5万円、最高単価は220万円です。(フリーランスボード セキュリティエンジニア 2024年7月時点)
年収に換算すると平均930万円であり、さらに月額の最高単価で年収換算を行うと2,640万円です。上記を鑑みると、セキュリティエンジニアとして2,000万円稼ぐことは不可能ではないものの難しいでしょう。フリーランスとして複数業務の請負や高単価案件への参画、一部の外資系企業で役職が就けば可能でしょう。
また、年収2,000万円を目指す方法として、セキュリティエンジニアとしての経験を活かして、セキュリティコンサルタントなどより年収が高いといわれる職種にキャリアチェンジする方法もあります。セキュリティコンサルタントの年収はセキュリティエンジニアよりも高単価です。
4.セキュリティエンジニアが年収をアップさせる方法
セキュリティエンジニアが年収をアップさせる方法は以下の4つです。
難易度の高い資格を取得する
社内で昇進する
セキュリティアナリストやセキュリティコンサルタントになる
外資系企業や大手企業に転職する
それぞれ確認していきましょう。
難易度の高い資格を取得する
セキュリティエンジニアとしての業務に活かせる資格を取得することで、社内で昇給できたり、好待遇で転職できる可能性が高まったりします。
ここでは、セキュリティエンジニアのキャリアアップにおすすめの資格を紹介します。
情報処理安全確保支援士
経済産業省はIT人材の育成においてセキュリティ対策のための知識、技能を持つエンジニアに向けて「情報処理安全確保支援士」の登録制度を設けています。
情報システムのセキュリティ対策と情報セキュリティマネジメントのスキルを客観的に証明できる資格です。
情報セキュリティマネジメント試験
情報セキュリティマネジメント試験はIPAが主催している国家資格になります。この資格はセキュリティに特化したものです。
応用情報技術者試験の上位資格のため取得難易度は高いですが、市場価値が高く、評価されやすい傾向にあります。
CISM
CISMの正式名称は公認情報セキュリティマネージャーです。
資格試験を受けるには情報セキュリティ業務5年以上、マネジメント業務3年以上といった要件を満たさなければなりません。
誰もが受験できる資格ではなく難易度は高いですが、この資格があれば経験の長さやスキルを証明できます。
社内で昇進する
セキュリティエンジニアとして転職などをせず、社内で昇進を目指す道もあります。
例えば、これまで自分の業務だけに専念してきた人も役職が付けばより幅広い業務を任せてもらえ、昇給も期待できます。
例えば、マネージャーは自身の経験を踏まえて、若手エンジニアを統率し、周囲の業務をマネジメントする役割を担います。
また、責任者(エグゼクティブ)はセキュリティに関して全社的な責任を負います。その他にも、自社におけるセキュリティ対策の方針や、戦略を企画検討します。
社内で昇進するにはセキュリティエンジニアとしての知識や技術だけでなく、マネジメント力や人間性、決断力などさまざまなものが求められます。
セキュリティアナリストやセキュリティコンサルタントになる
セキュリティエンジニアとしての経験を活かし、セキュリティアナリストやセキュリティコンサルタントといったより上位の職業に転身する方法もあります。
セキュリティアナリストはサイバー攻撃が発覚した際に、攻撃手法の分析を行います。サイバー攻撃は犯人の特定のしにくさが難点で、対応できずに情報が多く盗まれたり、他の企業も同様の手法で攻撃されたりする状況に陥りやすいです。難易度の高い業務内容なのでセキュリティに関する深い知識が求められますが、平均年収は高めです。
また、セキュリティコンサルタントはクライアントの情報セキュリティの課題や問題点をヒアリングなどから特定し、ソリューションを提案する職業です。専門家としてセキュリティに関する相談にのることもあります。情報セキュリティに関するさまざまな知識が求められます。
外資系企業や大手企業に転職する
セキュリティエンジニアとして経験豊富で、スキルも高いのに給与に反映されない場合は、外資系企業への転職がおすすめです。外資系企業は年功序列ではなく、スキルや成果によって給与が決まる傾向にあります。このため、スキルが高く、さまざまな経験があれば、好待遇で迎えてもらえる可能性もあります。
また、日系企業の大手企業への転職もおすすめです。大手企業は中小企業よりも給与も福利厚生もよい傾向にあります。かつて、内定をもらうのが難しかったレベルの企業でも、実務経験などが評価されて採用されることもあります。
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5.セキュリティエンジニアの将来性
結論を先に述べると、セキュリティエンジニアの将来性はあると考えられます。
世間では「セキュリティエンジニアはなくなる」「セキュリティエンジニアはやめとけ」などと言われることもあります。しかし、昨今におけるITの進化やセキュリティエンジニアのニーズを鑑みると、セキュリティエンジニアの需要は継続すると考えられます。
近年においてITやデジタルの分野は急速に進化し、社会におけるあらゆる部分にITが導入されていますが、IT人材の数は不足しています。IT人材の不足が今後も継続すると考えられているので、IT面でセキュリティに強い人はニーズがあると考えられます。
さらに、AIの進化によりセキュリティ分野でも活用が進んでいます。セキュリティエンジニアはAIを用いた脅威検知や自動化ツールの開発、運用を行い、より高度な防御システムの構築に取り組んでいます。AIの活用により、セキュリティエンジニアの役割はより戦略的になっています。
総務省の発行する「令和5年版情報通信白書」では、世界のサイバーセキュリティ市場が2018年の調査開始から2022年まで右肩上がりで増加していることが説明されています。近年は不正アクセスなど企業のセキュリティをおびやかす問題が増加しているため、多くの企業が注意を払っています。企業は自社のセキュリティを守るためにも、優秀なセキュリティエンジニアを求めています。
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6.まとめ
多くの企業において組織の情報資産の価値が高まり、情報セキュリティに対する重要性の認識も高まっています。外部からの不正アクセスにより、自社の情報が漏洩すると、自社の経営にかかわる問題となるだけでなく、顧客や取引先にも迷惑がかかり、社会的信用を失う可能性もあります。
企業は自社のセキュリティ強化にこれまで以上に力を入れているため、セキュリティエンジニアは需要が高い職業といえます。今後もさまざまな分野にITが導入されるため、需要が続くと考えられます。
とはいえ、セキュリティエンジニアは高いスキルや深い知識が求められる職業です。また、企業のセキュリティを守り、経営にもかかわる職業であるため、採用されるためにもスキルを磨いておく必要があります。
セキュリティエンジニアはキャリアプランも充実しているので、ぜひ迷っている方は検討してみてください。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。