フリーランスが請求書を作成する際には、法人とは異なる手続きや項目が存在します。正確で迅速な請求を行うためには、請求書に必要な情報や適切な書き方を理解することが不可欠です。そこでこの記事ではフリーランス向けの請求書作成における重要なポイントやインボイス制度の影響について、詳細に解説します。
目次
1.フリーランスが請求書を作成するメリット
会社員からフリーランスに転身する際には、以前は他の部署や担当者が担当していた業務を自身で行わなければなりません。営業活動から経費の精算・書類作業などこれまで慣れていなかった業務に取り組むことが求められ、そのために時間を要することも少なくありません。フリーランスとしての仕事に初めて取り組む際、請求書の作成や送付の方法などについて悩む人も多いでしょう。
そこでこの章ではなぜフリーランスが請求書を作成するべきなのか、請求書を作成するメリットについて説明します。
支払いトラブルを予防できる
フリーランスとして活動する際、多くのフリーランスが請求書を利用しています。なぜなら、請求書を提出することで支払いに関するトラブルを未然に防ぐことができるからです。
請求書には、受注した仕事や提供したサービスに対する料金・支払い期限・支払い先の情報などが明記されます。請求書を提出することでフリーランスとクライアントの間での取引内容や支払い条件が明確になり、取引の透明性が確保されます。
何かトラブルが発生した場合には請求書は重要な証拠となり、支払いの手続きを円滑に進めるのに役立ちます。
確定申告のための証拠として利用可能である
フリーランスとして活動する際で年間の収入が48万円を超える場合は、税務上の規定により確定申告が必要とされます。この確定申告の際には、収入を正確に申告するために請求書が重要な証拠として活用されます。請求書があれば収入の明細や取引内容を明確に示すことができるため、確定申告の手続きをより効率的に進めることができます。
確定申告において正確な収入の申告は、税務上のトラブルを回避し適切な税金の支払いを確保するために欠かせない要素です。
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2.フリーランスが請求書を発行するデメリット
フリーランスが請求書を作成する際、初めての経験では作業に慣れないため時間がかかることがあります。その結果請求書作成に多くの時間を費やすことで、仕事の遅延やその他の問題が発生する可能性があります。
しかしながら請求書の作成手順を早めに習得し基本的な方法を習得しておくことで、請求書を迅速に発行することが可能となり業務の効率化にも繋がります。
3.フリーランスの請求書に必ず含めるべき5つの項目
請求書には特定のフォーマットがありませんが、消費税の仕入税額控除を受けるためには法律で定められた以下の項目を必ず記載する必要があります。
書類作成者の氏名または名称
取引年月日
取引内容
取引金額(税込み)
書類の受取先の氏名または名称
4.フリーランスの請求書に記載しておきたい3つの項目
上記の5つの項目に加えて、取引先に支払いを促すために以下の3つの項目も請求書に記載しましょう。
請求書番号
振込先(口座情報と振込手数料を含む)
支払期限
「請求書番号」は自社が請求書を一意に識別するための番号であり、一般的には日付と連番の組み合わせが使用されます。この番号を記載することで請求書の管理が容易になり、取引先とのコミュニケーションも円滑になります。
「振込先」には、銀行名・支店名・口座番号などの口座情報が記載されます。振込手数料に関する明確な情報も提供されるべきです。
「支払期限」は、取引先に支払いを促すために重要な項目です。支払い期限を明確にすることで、取引先に支払いを迅速に行うよう促すことができます。
5.フリーランスの請求書の書き方
この章ではフリーランスの請求書の書き方について説明します。
送付先の名称
請求書の宛名には、受取人の法人名または個人名(あるいは屋号)を記載します。法人名の場合、部門名や担当者名を追記することで受取側がより具体的に把握できます。
例えば法人名のみの場合は「株式会社ABC御中」のように、「御中」を付けます。一方担当者名まで記載する場合は「株式会社ABC 〇〇様」のように、「様」を付けます。このようにして宛名を適切に記載することで、受取側との信頼関係を築くことができます。
一方、屋号の後に個人名をつけるのであれば、「◯◯様」という形で屋号の後に敬称はつけず、個人名の後にのみ「様」を記載します。個人でも屋号宛に発行するのであれば、敬称は「御中」です。
送付者の連絡情報
請求書には、請求書を送る側の情報を記入します。フリーランスの場合、通常は個人名(あるいは屋号)に加えて、住所・電話番号・メールアドレスなどの連絡先情報が記載されます。これによって取引相手が請求書を受け取った際に、迅速かつ適切なやり取りが行われることに繋がります。
請求書番号
請求書には、請求書を発行した日付を記入します。この発行日は取引先の期末処理に影響を与える可能性があるため、取引先と合意した日付を事前に確認することが重要です。取引先との合意を得ることで適切な発行日を確定し、双方のビジネスプロセスが適切に進むことに繋がります。
発行日
請求書番号は、発行した請求書を適切に管理するための重要な識別子です。この番号を付ける際には、他の請求書との混同を避けるために重複しないように十分な注意が必要です。
番号の付け方には厳密なルールは存在しませんが一般的には、通し番号を使用する方法や日付と通し番号を組み合わせた番号を用いる方法がよく取られます。これらの方法を採用することで請求書の識別や管理が容易になり、プロセスの効率性が向上します。
請求金額
請求内容では、提供したサービスや商品の詳細を明確に示すことが重要です。
商品を提供した場合、請求書には商品名と品番を明記します。さらに「数量」「単価(税抜価格)」「数量 × 単価の金額」など、具体的な取引内容を詳細に記入します。
金額は、税抜価格の小計、消費税額・税込価格を明示します。取引先が支払う最終金額を明確にするためです。取引の透明性を高め、円滑な取引の促進に役立ちます。
源泉徴収額(必要な場合)
フリーランスの所得税を支払う前に会社に天引きしてもらい、それを会社が税務署に納付する制度は「源泉徴収」と呼ばれます。この制度は、すべての所得に適用されるのではなく、特定の所得にのみ適用されます。具体的には、雇用者から得られる給与や報酬などの収入に対して源泉徴収が行われます。
請求書に源泉徴収額が記載されていなくても、会社は特定の所得に対して源泉徴収の支払いを行います。しかし請求書に源泉徴収額が記載されていれば会社が納税額を計算する手間が省けるため、一般的には請求する側が配慮して源泉徴収額を記載します。このように源泉徴収は所得税の徴収方法の一つであり、会社が支払う際の手続きを簡略化する役割を果たしています。
支払先の口座情報
請求書には、支払いを受けるための振り込み先情報が含まれています。この振り込み先情報には、銀行名・支店名・口座番号などの口座情報が含まれます。
振り込み手数料については通常、支払いを行う側と受け取る側の間で誰が負担するかが事前に決められます。この情報は請求書に明記され、受け取る側に支払いをする際の手数料についての透明性を提供します。
支払期限
支払期限に関しても振込手数料と同様に、取引先と事前に調整した日付を請求書に記載します。
特に年末年始やゴールデンウィークなどの休業期間と支払期限が重なる場合は、支払いのスケジュールを適切に調整する必要があります。例えば、休暇前や休暇明けに支払いが行われるような調整が求められます。支払いの遅延や混乱を回避し、円滑な取引を確保することができます。
特記事項
特記事項欄には、主に振り込みに関する補足情報や振込手数料の負担者・支払方法などを記載します。これらの項目を請求書に記入することで、取引先との間での不明点や誤解を避けることができます。
振込手数料の負担者や支払方法などの情報を明確にすることで、支払いに関するトラブルを未然に防ぐことができます。
6.フリーランスが請求書を作る方法
フリーランスが請求書を作成する方法には、例えば以下の方法があります。それぞれのメリットとデメリットを説明しますので、自分に適した方法を考える際の参考にしてください。
市販の請求書
文房具店や100円ショップなどで販売されている請求書を購入し、手書きで最低限の情報を記入する方法があります。
この手法のメリットは記入内容が改ざんされにくく、パソコンや電子機器の機種やバージョンなどの問題に左右されないことです。また手書きによって人柄が伝わり、取引相手により信頼感を与える場合もあります。
一方で請求書の作成には手間と時間がかかり、特に大量の請求書を処理する場合は効率が悪くなるかもしれません。また手書きのために金額の計算ミスが発生しやすく、記入漏れや書き間違いも起こり得ます。
WordやExcel
フリーランスはWordやExcelを使えば、手書きよりも手軽に請求書を作成できます。自分でフォーマットを作成できるので、項目の配置などを自由にカスタマイズできます。
ただし作成には時間がかかる上、実際に印刷したりPDF化した際にレイアウトが崩れる可能性があることに気を付ける必要があります。WordやExcelに対応した無料のテンプレートをダウンロードすればコストや手間がかからず、レイアウトの崩れを心配せずに請求書を作成できます。必要な情報を記入するだけでいいので、請求書を初めて作る人にもおすすめです。
なお、この記事から請求書テンプレートがダウンロードできます。
会計ソフト
フリーランスは会計ソフトを使って請求書を作成する方法もあります。会計ソフトには施設内に設置する「オンプレミス」とインターネット経由で利用する「クラウド」の2種類がありますが、最近ではクラウド型がよく使われています。
会計ソフトを使うと、見積もりから入金までの全ての流れを一括管理でき業務の効率化が図れます。導入費用や月額料金はかかりますが自動で売掛金として登録したり定期的に請求書を自動発行したりする機能があるので、初心者でも簡単に請求書を作成できます。
7.フリーランス向けの無料請求書テンプレート
フリーランスの方が活用できるインボイス制度対応の請求書テンプレートをご用意しております。
以下より請求書テンプレートのこちらにて公開いたします。ぜひコピーしてご利用ください。
8.フリーランスが請求書を発行する際の留意点
フリーランスが請求書を作成するときは、ビジネス上のマナーも考慮する必要があります。具体的なポイントについて説明します。
宛先は正確か
フリーランスが請求書を作成する際は、宛先を改めて確認しましょう。
請求書の宛名の書き方には迷いが生じることもあると考えられますが一般的な慣習に則って担当者宛に送る場合は「様」、部署宛に送る場合は「御中」と記します。これらの敬称は通常、同時に使うことはありません。部署名と担当者名を併記する場合、宛名は担当者名に付けるのが通例です。
発行日をいつにするか
請求書の日付は、請求書を作成した日付をそのまま書く場合と、取引先から指定された日付を書く場合があります。通常は、取引先が支払い期限の基準となる日(月末など)を指定することが一般的です。事前に担当者と相談して取り決めておくと、円滑に進めることができます。
振込先が明示されているか
支払先が明確でなければ、適切な支払いが行われない可能性があります。そのため、請求書には振込先の情報を明確に記載することが極めて重要です。
振り込みを円滑に進めるためには口座番号だけでなく、口座名義人の情報も記載すると良いでしょう。特にフリーランスの場合は仕事とは異なる名前を使用していることもあるため、これらの情報を含めて記載することが不可欠です。
振込手数料について明記されているか
実際の支払額が請求額よりも少なくなる原因の一つに、「振込手数料が請求側に負担されているため」ということが挙げられます。
もし契約段階で振込手数料の負担が相手方にある場合は、その旨を請求書に明記することが重要です。しかし振込手数料の負担が事前に明確に決まっていない場合は請求書を発行する前に相手方と調整し、その内容を記載することが不可欠です。
源泉徴収税がかかるか
フリーランスが請求書を作成する際は、源泉徴収税の有無を確認しましょう。
源泉徴収は報酬から事前に所得税を差し引く制度です。フリーランスの場合、この源泉徴収が適用されることがあります。以下の例がその一部です。
フリーランスのライターが原稿料を受け取る場合
セミナーや講演での講師料
デザイン業者がデザイン料を受け取る場合
モデルや芸能人が出演料を受け取る場合
他にも源泉徴収の対象となるケースが存在するため、事前に国税庁のウェブサイトなどで情報を確認することがおすすめです。源泉徴収の税率は通常、請求額に対して10.21%となります。また消費税の計算は源泉徴収を差し引く前の請求額に対して10%となるため、この点にも十分な注意が必要です。
9.フリーランスの請求書の保管期間
フリーランスが請求書を受け取った場合一般的には請求書の原本は、確定申告期限の翌日から5年間保存することが求められます。一方で法人の場合は請求書を受け取った側は請求書の原本を、確定申告期限の翌日から7年間保管しなければなりません。
インボイス制の前は請求書を発行した側は請求書の原本を送付するため通常は手元に原本が残らず、送付した請求書の控えを作成する義務はありませんでした。ただし控えを作成した場合には保存義務が発生し、フリーランスは確定申告期限の翌日から5年間、法人は確定申告期限の翌日から7年間においてそれぞれ保存しなければなりませんでした。さらに事業を開始した年度に欠損金が生じた場合その繰越期間は基本的に10年間であり、その場合は10年間保存しておくことになります。
インボイス制度においては適格請求書(インボイス)を発行した場合、控えの作成と保存が義務化されますので留意する必要があります。
10.フリーランスの請求書の保管方法
基本的には請求書の保存には紙での保存が必要ですが一定の条件を満たせば、コピーしたりスキャナで保存したり写真を撮影した電子データでも保存することができます。
近年ペーパーレス化が進んでおり、請求書を郵送する代わりに電子メールで送付することも一般的になっています。この場合受け取った電子メールを保存することで、請求書をデジタル形式で保管できます。
電子データで請求書を保存する場合以前は税務署長の事前承認が必要でしたが、2022年1月に改正された電子帳簿保存法により、事前承認が不要になりました。これにより電子データでの請求書保存が容易になり、ペーパーレス環境の導入が促進されることが期待されています。
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11.2023年10月からはインボイス制度に適合する必要がある
2023年10月からインボイス制度が始まりました。この制度に適用される事業者は、インボイス制度に基づいた請求書を発行しなければなりません。
従来の請求書との違いは、適格請求書発行事業者の名前・登録番号・適用税率の厳密な記載などが挙げられます。そのため事業者はインボイス制度に適応するためには必要な情報を正確に記載し、制度に準拠した運用を行う必要があります。
この制度の導入により請求書の発行や取引の透明性が向上し、税務上の信頼性が高まることが期待されます。
12.まとめ
フリーランスであっても、請求書には多くの情報を記載する必要があります。どの項目も重要で、漏れがあると後でトラブルにつながる可能性もあります。請求書を発行する際には何を記載すればよいかを確認し、記載漏れや間違いがないように十分な注意を払いましょう。
例えば請求書の発行者・受取人の情報・請求書番号・発行日・支払期限・請求内容など、これらの項目を適切に記入することが重要です。また消費税や源泉徴収額などの税金関連の情報も正確に記載する必要があります。
さらにインボイス制度においては発行した請求書は控えを残し、しっかりと保存しておくことも大切です。保存方法や場所を確立し紛失しないように気をつけることで、後々のトラブルを防ぐことができます。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。