復興特別所得税は東日本大震災からの復興資金を確保する目的で設けられた税金で、2013年1月1日から2037年12月31日までの25年間に得た所得に対して課されます。所得税に加算されて徴収されるため、給与計算時には所得税とともに復興特別所得税も源泉徴収する必要があります。
また復興特別所得税は所得税とは異なる税率が適用されるため、その違いを正しく理解しておくことが重要です。
この記事では復興特別所得税の基本的な内容・税率・計算方法・納付手続きについて説明します。
目次
1.復興特別所得税とは?
「復興特別所得税」は、東日本大震災からの復興に必要な財源を確保するために設けられた税金です。平成23年(2011年)12月2日に施行された「東日本大震災復興対策のための財源確保に関する特別措置法」に基づき、平成25年(2013年)から導入されました。
復興庁によるとこの税金の使用目的は、1. 被災者の支援、2. 産業や生業の再建、3. 住宅再建や復興まちづくり、4. 原子力災害からの復興・再生に充てられています。
復興特別所得税の納税対象者は?
復興特別所得税の納税対象者は、所得税の納税義務がある個人です。所得税の納税義務者とは日本国内に居住している人の中で日本国籍を持つ人、または過去10年のうち5年以上日本に住所や居所があった人を指します。
国民として、納税を通じて復興を支援することは当然の義務といえるでしょう。しかし復興特別所得税の存在を意識していないビジネスパーソンも少なくないと考えられます。
復興特別所得税は自らの収入から納めるものですので、納税額や期限についてしっかり理解しておくことが大切です
2.復興特別税の適用範囲
復興特別税には、個人の所得に対して課税される復興特別所得税があります。さらに、住民税にも復興特別税が加算されています。
復興特別所得税の対象者
復興特別所得税は、所得税の源泉徴収義務者に対して均等に課されます。ただしOECD加盟国間で定められた租税条約に基づく特例として所得税法および租税特別措置法により「限度税率」が適用される場合、課税対象から除外されます。
また所得税額が0円の個人については源泉徴収すべき税額が存在しないため、課税対象外となります。例えば、基礎控除と給与所得控除を合わせて103万円以内の年収の方が該当します。
住民税に関する復興特別税
復興特別税は住民税にもごくわずかに課されており、その対象となるのは住民税の均等割部分です。
均等割とは所得の多寡に関係なく、居住する自治体に住所を持つ人が一律に支払う住民税のことです。標準税率では市町村民税が3,000円、道府県民税が1,000円と定められています。
この均等割に対して市町村民税と道府県民税それぞれに500円ずつ、合計で1,000円の復興特別税が加算されます。この制度は2014年から2023年までの10年間にわたって実施されていました。
3.復興特別所得税の税率とその算出方法
給与や賞与から源泉徴収される復興特別所得税は、「給与所得の源泉徴収税額表」や「賞与に対する源泉徴収税額の算定率の表」に組み込まれています。
2013年以降の給与や賞与についてはこれらの源泉徴収税額表を参照して計算すれば、所得税と復興特別所得税を合わせた源泉徴収額が求められます。
そのため、給与計算を行う際に復興特別所得税のみを別に計算することはあまりないかもしれません。
一方で個人事業主などが行う確定申告では所得税と復興特別所得税をそれぞれ別に計算し、合算して申告・納付する必要があります。
また復興特別所得税は所得税とは異なる税であるため給与から源泉徴収する際には、復興特別所得税の仕組みや税率について正確に理解しておくことが重要であるといえます。
この章では復興特別所得税の税率や計算方法について詳しく説明していきます。
復興特別所得税の適用税率
復興特別所得税額はその年の基準所得税額(所得税額から税額控除などを差し引いた後の金額)をもとに、次の計算式を使って算出されます。
復興特別所得税額 = 基準所得税額 × 2.1%
つまり復興特別所得税額を求めるためにはまず所得税額を算出し、その金額に2.1%を掛ける必要があります。なお、1円未満の端数は切り捨てられます。
また外国税額控除が適用される場合は、外国税額控除額を控除する前の所得税額が基準所得税額となります。
さらに控除対象外国所得税額が所得税の控除限度額を上回る場合、その超過分をその年の復興特別所得税額から控除することができます(ただし、国外所得に関連する金額が上限となります)。
復興特別所得税の計算手順
個人事業主などの場合には所得税と復興特別所得税をそれぞれ算出し、その合計額を申告・納付する必要があります。復興特別所得税額を計算する際の手順は、以下の通りです。
復興特別所得税の算出過程
収入から経費や所得控除を引いて、「課税所得」を算出します。
課税所得に所定の所得税率を掛けて、所得税額を求めます。
算出した所得税額から税額控除などを差し引いて、「基準所得税額」を求めます。
基準所得税額に2.1%を掛けて、復興特別所得税額を算出します。
所得税は所得が多いほど税率が高くなる累進課税制度を採用しています。課税所得とは収入から経費や所得控除を引いた額であり、収入そのものではありません。
給与所得者は、経費の代わりに年収に応じた給与所得控除を収入から差し引くことが可能です。
さらに所得控除には合計所得金額が2,500万円未満のすべての人に適用される基礎控除のほか、該当する場合に適用できる配偶者控除・扶養控除・生命保険料控除なども含まれています。
復興特別所得税の計算例
課税所得が300万円の場合を例に取り、所得税額と復興特別所得税額を計算してみましょう。
なお、ここでは税額控除は考慮しないものとします。
課税所得300万円の場合の復興特別所得税額の例
基準所得税額は次のように計算されます。
基準所得税額 = 300万円 × 10% − 97,500円 = 202,500円
復興特別所得税額は以下のように求められます:
復興特別所得税額 = 202,500円 × 2.1% = 4,252円(1円未満は切り捨て)
給与や賞与からの源泉徴収税額
計算する際は、国税庁が提供する源泉徴収税額表に基づいて行います。これにより、所得税と復興特別所得税を合わせた合計の源泉徴収税額が算出される仕組みです。
給与に関しては「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」または「給与所得の源泉徴収税額表(日額表)」を使用して、源泉徴収税額を計算します。
賞与の場合は、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を参照します。
いずれの計算においても、課税対象金額や扶養家族の人数などによって源泉徴収額が決定されます。
4.復興特別所得税の支払い時期は?
復興特別所得税の支払い対象期間は、平成25年(2013年)から令和19年(2037年)までの各年にわたります。
支払いのタイミングは給与を受け取るか、自営で事業を行うかによって異なります。いずれの場合も所得税と同様に支払う必要があります。
経営者の場合には自身の復興特別所得税の支払いだけでなく、従業員の復興特別所得税の源泉徴収と納付に関しても責任があるため注意が必要です。
給与所得者は源泉徴収される
給与を受け取っている従業員の分は所得税に加えて復興特別所得税も源泉徴収され、所得税徴収高計算書(納付書)を用いて納付します。
また、年末調整も所得税と同時に行われます。
個人事業主は確定申告期限内に納付
個人事業主は平成25年(2013年)から令和19年(2037年)までの各年における確定申告で、所得税と復興特別所得税を一緒に申告する必要があります。申告書の提出期限までに、申告書に記載した納付すべき所得税と復興特別所得税の合計額を支払うことが求められます。
個人事業主の所得税は、確定申告期間内に納付しなければなりません。復興特別所得税についても同様の取り扱いです。
確定申告の期間は、一般的に毎年2月15日から3月15日までの間です。この期限内に所得税と復興特別所得税を納付できるよう、十分な準備を行うことが重要です。
5.復興特別所得税の予定納税とは?
国税庁のウェブサイトには、「平成25年(2013年)から令和19年(2037年)までの各年度において、予定納税基準額が15万円以上の場合は、所得税と復興特別所得税の予定納税を行う必要がある」と記載されています。
予定納税とはその年の5月15日に確定している前年の所得金額や税額を基に算出された金額(予定納税基準額)が15万円以上となる場合、その年の所得税と復興特別所得税の一部を前もって納付する制度です。
予定納税額は、所得税と復興特別所得税の合計額に基づいて計算されます。
予定納税を行うかどうかは自分で選べるものではなく、税務署からの通知を受けたすべての人が予定納税を実施する義務がありますので注意が必要です。予定納税は予定納税基準額の3分の1の金額を第1期分として7月1日から7月31日までに、第2期分として11月1日から11月30日までに納めなければなりません。
対象となる場合は、事前にしっかりと準備を行うことが重要です。
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6.復興特別所得税に還付はあるか?
源泉徴収された税金や予定納税の金額が過剰になっている場合は、還付を受けるための申告(還付申告)を行うことで税金が返金されます。
この際、復興特別所得税も対象となります。
国税庁のウェブサイトによると、確定申告によって税金が還付される可能性があるのは以下のようなケースです。該当する条件がある場合は、確定申告の義務がない給与所得者なども必ず申告を行うようにしましょう。
株式の配当や原稿料などを受け取る人の場合
年間の所得が特定の金額を下回る場合、税金が返金される可能性があります。
給与所得者で控除を受けられる人の場合
雑損控除
医療費控除
寄附金控除
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除(年末調整で控除を受けている場合は除外)
政党等寄附金特別控除
認定NPO法人等寄附金特別控除
公益社団法人等寄附金特別控除
住宅耐震改修特別控除
住宅特定改修特別税額控除
認定住宅新築等特別税額控除 など
これらの控除を受けている場合、税金の還付を受けられる可能性があります。
公的年金のみで生活している人の場合
医療費控除や社会保険料控除を受けることができる場合、税金の還付を受けられる可能性があります。
年の途中で退職し再就職しなかった人の場合
給与所得に対して年末調整を行っていない場合、税金の還付を受けられる可能性があります。
退職所得を得た人の場合
以下のいずれかに該当する場合、税金の還付が見込まれるため確認しておきましょう。
退職所得を除いたさまざまな所得の合計から所得控除を引いた結果、赤字になる
退職所得を受け取る際に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかったため20.42%の税率で源泉徴収が行われ、その結果としての源泉徴収税額が本来の税額を上回っている
7.復興特別所得税の確定申告と納付の遅延
多くの給与所得者は、給与を支給する企業が実施する年末調整により所得税額が確定して納税も完了します。この条件に該当する場合給与所得に関する復興特別所得税については、自分自身で手続きを行う必要はありません。
しかし以下の条件に該当する給与所得者は、自ら確定申告を行い所得税および復興特別所得税を納付しなければなりません。
年間の給与収入が2,000万円を超える方。
1か所から給与を受け取っている方で、給与所得および退職所得以外の所得合計が20万円を超える方。
2か所以上から給与を受け取っている方の中で給与のすべてが源泉徴収対象となり、年末調整を受けていない給与の収入と給与所得および退職所得以外の所得の合計が20万円を超える方。
(注)給与収入の合計から雑損控除・医療費控除・寄付金控除・基礎控除以外の各種所得控除の合計を差し引いた額が150万円以下でさらに給与所得および退職所得以外の所得が20万円以下である場合、申告は不要です。
同族会社の役員などで、その会社から貸付金の利子や資産の賃貸料を受け取っている方。
災害減免法に基づき、源泉徴収の猶予などを受けている方。
源泉徴収義務のない者から給与等の支払いを受けている方。
退職所得の税額を正規に計算した結果、その税額が源泉徴収された額を上回る方。
8.復興特別所得税の納付遅延について
もし所得税および復興特別所得税を期限内に納付しなかった場合、延滞税が発生します。その際に加算される延滞税の金額は次のようになります。
【納期限の翌日から2ヵ月間】
年率「7.3%」または「特例基準割合+1%」のうち低い方
【2ヵ月を超えた場合】
年率「14.6%」または「特例基準割合+7.3%」のうち低い方
また2021年1月1日以降に適用される延滞税の計算では、特例基準割合の代わりに延滞税特例基準割合が用いられます。
特例基準割合:各年の前々年の10月から前年の9月までの各月における銀行の新規短期貸出約定平均金利の合計を12で割ったものに、前年の12月15日までに財務大臣が告示した割合に年1%を加えたものです。
延滞税特例基準割合:各年の前々年の9月から前年の8月までの各月における銀行の新規短期貸出約定平均金利の合計を12で割ったものに、前年の11月30日までに財務大臣が告示した割合に年1%を加えたものです。
最後に申告期限である3月15日が日曜日の場合は翌日の3月16日、土曜日の場合はその翌々日である3月17日までに納付を行う必要があります。
9.復興に向けた取り組みの課題
以下のように多くの課題が残されているため、私たちの納税によって得られる資金は今後も被災地のために重要な役割を果たし続けるでしょう。
住宅の再建や仮設住宅の解消
相談支援や心身のケアの提供
「心の復興」による生きがいづくり
コミュニティの形成
住まいと地域の復興
住宅再建の実務支援や自助による再建支援
交通網の整備や物流網の構築、医療・介護体制の整備
産業・生業の再生
水産加工業や農林水産業の売上の回復
被災地企業の人材の確保
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10.まとめ
以上、ここまで復興特別所得税について解説して来ました。
復興特別所得税は通常の所得税と同様に所定の期限内に納付しなければならない重要な税金です。「通常の所得税に加えて、さらに税金を支払わなければならないのは負担だ」と感じる方もいるかもしれません。
しかし復興特別所得税は通常の所得税とは異なり、納めた税金の使途が非常に明確であるため「自分が支払った税金が社会のために実際に役立っている」と実感しやすいという大きな特徴があります。この税金は東日本大震災などの自然災害による被害からの復興を目的とした資金源となり、具体的な支援活動やインフラの再建に直接つながっています。
実際復興特別所得税を通じて集められた資金は被災地の復興プロジェクトに活用されており、徐々にではありますがその成果が見えてきています。被災地では新しい住宅の建設や公共施設の整備、地域経済の活性化に向けた取り組みが進んでおりこれらの活動は復興税によって支えられています。
そのため自分の納めた税金が具体的にどのように社会に還元されているのかを感じることができ、納税者にとっての大きなモチベーションとなるでしょう。
復興特別所得税を支払った後に万が一、払い過ぎた税金があった場合は還付を受けることも可能です。
さらに従業員を雇用している事業主は、適切に税金を徴収納付することが求められます。これにより復興への貢献ができるだけでなく、事業の信頼性を高めることにもつながります。
このように復興特別所得税は単なる税金の支払い以上の意味を持っており、被災地の復興を支える重要な役割を果たしています。税金を納めることによって自分自身が社会の一員として復興活動に寄与しているという実感を持ちながら、計画的に申告・納付を行って復興の進展に貢献していきましょう。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。