エンジニアとして働く際には、「SIer」に就職することも1つの選択肢となります。SIerでは多数のエンジニアが必要とされているため、今後も多くの求人情報が掲載される可能性があります。そんなSIerで働く際には、まず基本や仕事内容、エンジニアから見た働くメリット・デメリットなどを確認しておくのがポイントです。
本記事ではSIerの特徴や種類、エンジニアとして働く際のポイントなどを解説します。転職先の1つとしてSIerを検討する際には、ぜひ本記事の情報を参考にしてください。
目次
1.SIerとは?
SIerでエンジニアとして働く際には、まず「SIerとは何か?」という基本を把握することがポイントです。以下では、SIerの意味や特徴について解説します。
システム開発などの業務を請け負う企業
SIerとは、企業のシステム開発や関連するあらゆる業務を請け負うサービスを提供する企業・仕事を指します。SIerは「エスアイヤー」と呼称し、「システムインテグレーター(System Integrator)」を略した言葉として使用されています。
SIerは和製英語であるため、英語として正しい使い方がありません。一般的には先の通り「システム開発を請け負う企業」という意味で、ビジネスの現場で使用されます。
SIerの需要・将来性について
SIerは、需要と将来性がともに高い仕事だと考えられます。近年はIT技術およびビジネスで利用できる機能が急速に発展し、結果的に多くの企業で自社にマッチしたシステムの開発が検討されています。しかし、専門性の高いシステムの開発は簡単ではなく、自社の開発環境で賄うのが難しい企業も珍しくありません。
SIerは専門的なスキルを持つエンジニアや、プロジェクトを進行させる能力を持つ人材を確保しているため、自社だけでシステム開発などが行えない企業にとって有益なサポートが可能です。そのためSIerの需要は、今後も高まると予想されます。
xenoBrainのデータを参考にすると、SIer業界の国内市場規模は2029年に11兆706億円に達する見込みとなっています。2024年時点で10兆円以上の市場規模を達成しているため、今後5年間で全体の5.03%ほど成長する可能性があります。このような分析結果があるため、将来性のある業界としても注目され、エンジニアが就職・転職する際の選択肢として挙げられることもあります。
SIerとSESの違い
SIerは、「SES(System Engineering Service)」と比較されることが多い仕事です。SESとは、委託契約における方法の1つで、システムの開発などを含んだIT業務を担当できる技術者を派遣するのが、主なサービス内容です。
SIerがシステムの開発業務全般に関するサービスを提供する一方で、SESは各種IT技術者を派遣して労働力として提供する点に違いがあります。また、SIerは成果物を納品することで対価を得ますが、SESはIT技術者の工数に対して報酬が支払われる契約になります。
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2.SIerの種類について
SIerにはいくつかの種類があり、それぞれの企業ごとに独自の特徴を持ちます。以下では、SIerの主な種類と特徴について解説します。
メーカー系SIer
「メーカー系SIer」とは、ハードウェアなどを製造していたメーカーから独立した企業を指します。パソコンなどのハードウェアや関連するソフトウェアの開発などを請け負い、独立前の親会社やグループ会社からの仕事を担当します。NEC・富士通・日立製作などが、代表的なメーカー系SIerです。
ユーザー系SIer
ユーザー系SIerとは、一般企業に該当する会社のシステム開発部門が独立して生まれた企業です。例えば商社・金融・製造系などの大企業に属していたシステム開発部門が独立した場合、ユーザー系SIerとなります。
ユーザー系SIerは親会社や外部企業からの案件を請け負い、システム開発および関連業務を担当します。親会社から多くの案件を獲得できるため、比較的安定している経済状況をキープできている傾向にあります。野村総合研究所・NTTデータ・みずほ情報総研などが、ユーザー系SIerの代表企業として有名です。
独立系SIer
独立系SIerとは、親会社やグループ企業を持たない独立したSIer企業を指します。最初からSIerの事業を行うために設立され、あらゆる企業からの仕事を請け負えるのが特徴です。メーカー系やユーザー系のSIerは、親会社の製品をプロジェクトに使用しなければならないなど、独自の条件を持つケースが多いです。
その点、独立系SIerは親会社を持たないため、自分たちの裁量で使用する製品やシステム開発方法を選択できるのが特徴です。例えば大塚商会・富士ソフト・オービックなどが、独立系SIerとして知られています。
コンサル系SIer
コンサル系SIerとは、コンサル業務に特化したSIerのことを指します。要件定義や企画提案などの上流工程を担当し、システム開発における基礎を築くのが主な仕事です。コンサル業務に特化していることから、転職することで専門性の高いスキルの習得や経験を得られる可能性があります。
NRI・アクセンチュア、アビームコンサルティングなどが、コンサル系SIerの代表格です。
外資系SIer
外資系SIerとはその名の通り、海外企業が資本を出しているSIer企業です。海外からの案件を請け負うことも多く、グローバルな事業に参画できるのが特徴です。企業によっては海外勤務などを通して、他のSIerでは得られない経験ができるケースもあります。
日本HP・Cisco・アクセンチュア・Oracleなどが、外資系SIerに該当します。
3.SIerの仕事内容
エンジニアとしてSIerで働く際には、基本となる仕事内容を把握しておくのも大切です。以下では、SIerの主な仕事内容について解説します。
システム開発に関する業務全般
SIerはシステム開発と、関連する業務全般を仕事として請け負います。具体的には、以下の業務がSIerの仕事内容になります。
要件定義(クライアントへのヒアリングなど)
設計
開発システムに必要な製品(ハード・ソフト)の選定
システムに必要なインフラ整備
システム導入における支援
システム運用や保守 など
上記のようにシステム開発とそれに関するあらゆる業務が、SIerの対応範囲になります。その他、スマートフォン向けのアプリ開発や、サーバー・データベースの構築、Webサイト・ECサイトの構築なども仕事になります。
SIerは多くの仕事内容に対応しますが、所属するエンジニアがそのすべてを担うとは限りません。特定の業務のみを社内で対応し、他の仕事は下請けに任せるケースもあります。
顧客ニーズを満たす企画の立案
SIerは外注されたシステム開発をそのまま請け負うだけでなく、顧客ニーズを満たすための企画を立案することも仕事の一環です。企業によっては必要なシステムが明確になっておらず、「〇〇のようなシステムが欲しい」「〇〇を実現できる環境が必要」といった形で依頼を受けるケースもあります。
このように顧客側で必要なシステムが明確となっていない場合、SIer側で企画を立案してプレゼンすることがあります。顧客の業務内容や課題を把握したうえで、最適なシステムの設計・構築を行い、プロジェクトを立ち上げるのもSIerの役割です。
ときにはコンサル業務なども実施し、時間をかけて顧客側と連携しつつ、綿密な計画を立てることもあります。
4.SIerのエンジニアとして働くメリット
SIerのエンジニアとして働く場合、さまざまなメリットを得ながら仕事ができます。以下では、SIerエンジニアとして働く主なメリットを紹介します。
多種多様なプロジェクトに参画できる
SIerエンジニアとして働く場合、多種多様なプロジェクトに参画する機会があります。あらゆる業界・業種から外注を受けることになるため、幅広い業務経験を将来の糧にできる点はエンジニア目線で見た場合のメリットです。
プロジェクトに合わせて必要な能力や業務内容は変わるため、新しい仕事のたびにスキルアップを図れます。特に親会社がなく、自由に仕事を請け負える独立系SIerの場合、エンジニアとしてさまざまな経験ができるでしょう。
経営が安定している企業が多いため高待遇で働ける
SIerは比較的経営面が安定しているため、安心して仕事に集中できる点もメリットです。例えばメーカー系SIerやユーザー系SIerで、親会社が大手企業の場合には、高待遇で採用されることもあります。
高収入かつ充実した福利厚生で働ける可能性が高い点も、SIerエンジニアのメリットです。メーカー系SIerやユーザー系SIerは親会社から案件を得られるため、安定してプロジェクトを受注し続けられるのも特徴です。
幅広いITスキルの習得につながる
SIerエンジニアとして働くことで、幅広いITスキルの獲得を目指せます。先の通り多種多様なプロジェクトに接する機会があるため、積極的なスキルアップを目指すことで効率良く能力の向上を実現できるでしょう。
また、要件定義やクライアントへのヒアリングなど、プロジェクトの上流工程に関わることが多いため、IT関係のスキル以外も習得しやすいです。例えばコミュニケーションスキルやプレゼンテーションスキル、マネジメントスキルなどの習得を目指せるでしょう。
5.SIerのエンジニアとして働くデメリット
SIerエンジニアの仕事を続ける際には、デメリットについて知っておくことも重要です。以下では、SIerエンジニアならではのデメリットについて解説します。
エンジニアとしての技術力向上につながりづらい
SIerエンジニアとして働く場合、IT技術の向上につながりづらい点がデメリットです。上流工程のみを担当し、プログラミングなどの下流工程は下請けに任せるSIerの場合、開発に必要な実装スキルなどを育む機会が少なくなるでしょう。
将来的にプログラミングにも対応できるエンジニアを目指す場合、独学で勉強する機会を作ることも検討されます。
最新の技術に触れる機会が少ないことも
SIerエンジニアは、最新のIT技術に触れる機会が少ないこともデメリットになり得ます。特に大型の開発案件を中心に受注するSIerの場合、従来から使われている安定したシステムを採用することが多いです。業務システムや基幹システムの構築なども、最新技術を使う必要性が少ないです。
結果的に最新技術を知る機会が減少し、エンジニアとして技術のアップデートが遅れる懸念があります。
クリエイティブな仕事をしたい人には向かない
SIerエンジニアは基本的に、クライアントの要望に応えられるシステム開発が仕事になります。独創的なシステムの考案など、クリエイティブ要素の高い案件は少なくなるでしょう。将来的にクリエイティブな分野で活躍したいと考えているエンジニアは、SIerに向いていない可能性があります。
6.SIerが「やめとけ」「キツい」と言われる理由
SIerについての情報を検索すると、「やめとけ」「キツい」とネット上で警告されていることが分かります。以下では、SIerが「やめとけ」「キツい」と言われる理由について解説します。
激務で心身の負担が大きくなるケースも
SIerのなかには、激務で心身の負担が大きくなり、退職を考えさせられるケースもあります。受注している案件の規模に対して、対応しているエンジニアの数があまりにも少ない場合、毎日激務となって疲弊してしまう可能性もあるでしょう。
転職時には20~30代の若手が辞めずに在籍しているか、労働状況が劣悪でないか口コミなどから確認するのも重要です。
人手不足に悩む企業が今後増える可能性もある
エンジニアを含むIT人材は今後、さらに不足すると予想されています。経済産業省の「IT 人材需給に関する調査」によると、2030年までに最大で79万人のIT人材が不足する可能性があると示唆されています。そのため相対的にSIerエンジニアとして採用されるエンジニア人材も少なくなり、現場の負担が増加すると警戒する意見もあります。
7.SIerでエンジニアとして働く際のポイント
SIerエンジニアとして実際に働く際には、いくつかのポイントを踏まえて行動を起こすのがコツです。以下では、SIerエンジニアとして働くポイントを解説します。
業務で必要とされるスキルを習得しておく
SIerエンジニアを目指すのなら、実際の業務で必要とされるスキルを事前に習得しておくのがポイントです。SIerエンジニアの担当する業務には、以下のスキルが必要になります。
上流工程で役立つスキル(コミュニケーションスキル・プレゼンテーションスキルなど)
プロジェクト管理スキル
論理的思考力
他業種のエンジニアと協力して働くスキル
問題把握と解決策を導き出す能力 など
SIerエンジニアになるには、上記のように上流工程で役立つスキルを中心に学ぶのがおすすめです。一方で、下流工程のSIerエンジニアとして働く際には、プログラミングスキルなどが重要視されます。
キャリアパスを考えておく
SIerエンジニアとして働くのなら、その後のキャリアパスを考えておくのも大切です。より規模の大きな案件を受注しているSIerへの転職、Web系企業への転職、ITコンサルタントへの転職などが、キャリアパスの方針となり得ます。
自分が持つスキルと理想的な働き方を考慮しつつ、SIerエンジニアとしてのキャリアを活かせる将来を見据えるのがポイントです。
自分に合ったSIerの種類を厳選しておく
先に紹介した通り、SIerにも多くの種類があります。そのためSIerエンジニアとして活躍し、その後のキャリアアップにつなげるには、自分に合った種類のSIerを把握しておくのも重要です。特定の業界や製品に特化した知識・技術を得たい場合には、メーカー系やユーザー系への転職が考えられます。
幅広く応用できるスキルの習得を目指すのなら、独立系や外資系での活躍が優先されるでしょう。
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8.まとめ
SIerはシステム開発や関連する業務全般に対応し、顧客側のあらゆるニーズを実現する企業・仕事です。企業ごとに合わせたITシステムの導入および開発が重要視される昨今、SIerの需要は高まっています。今後もSIerは将来性のある職業として、多くの人材が活躍することになるでしょう。
エンジニアとしてSIerへの転職を目指すのなら、まず仕事の特徴や働く際のメリット・デメリットなどの基本を知ることが大切です。そのうえで自分に合ったSIerの種類や転職先を探し、具体的な将来のビジョンを構築すると良いでしょう。
SIerエンジニアとして働く場合、将来的にフリーランスとして活躍することも考えられます。SIerでの業務経験によって得た知識・技術を応用することで、優秀なフリーランスエンジニアとしての基盤を作ることも可能です。キャリアパスを考える一環として、この機会にフリーランスエンジニアの案件をチェックしてみるのもおすすめです。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。