IT業界で働くエンジニアには、企業との間にさまざまな契約形態の選択肢があります。エンジニアを雇用する企業としても、それぞれの契約について理解を深めることが大切でしょう。今回紹介する「SES契約」も、IT業界におけるエンジニアの契約形態の1つです。実際の利用にあたっては、他の契約形態との違いやメリット、注意点などを把握しておくことが重要だと言えます。
そこで今回は、SES契約の概要や他の契約形態との違い、メリット・デメリットなどについて解説します。特に以下の方については、この記事をご一読していただきたいです。
SES契約について理解を深め最適な働き方を実現したいフリーランスエンジニア
SES契約のポイントや契約条件を知り案件選びに活かしたいITプロフェッショナル
SES契約と他の働き方を比較検討しキャリアプランの最適化を目指している方
目次
1.SES契約(システムエンジニアリング契約)とは
SES契約(システムエンジニアリング契約)とは、エンジニアを雇用する時間に対して報酬を支払う契約形態のことです。
発注元の企業が派遣会社に依頼してエンジニアの派遣を受ける、IT業界特有の契約形態であると言えます。SESのサービスを提供する企業を「SES企業」、SES企業に登録して働くエンジニアを「SESエンジニア」と呼ぶこともあります。
SES契約では作業時間に対して報酬が発生するケースが多く、その場合は成果に対する責任はエンジニアに一切発生しません。契約期間中に成果物の提出が全くなかったりクオリティが低かったりしても、SES契約であれば働いた時間に応じて報酬が発生します。
SES契約に関しては、以下の2点に注目すると理解が深まりやすいと考えられます。
SES契約の指揮命令権
SES契約における一般的な報酬の決め方
SES契約の指揮命令権
SES契約内について理解を深めるうえでまず気を付けておきたいポイントが、指揮命令権についてです。
たとえば発注会社「A社」が派遣会社「B社」にエンジニア派遣を依頼した場合、エンジニアに対する指揮命令権を持つのは発注元のA社ではなく、派遣元のB社です。
つまりこのケースでは、業務を直接依頼するA社はエンジニアに対する指示を出すことができません。指示を出すと違法扱いになってしまうため注意が必要です。
SES契約における一般的な報酬の決め方
SES契約では、派遣会社が決定した単価と発注企業が希望する労働時間を掛け合わせることで決定されるのが基本です。
働く時間は発注元の企業が決めることから、エンジニアが収入を上げるためには単価を上げることが大切です。派遣元が決める単価は、エンジニアの経験やスキルによって変化します。経験豊富で幅広いスキルを持ったエンジニアの方が、やはり単価は高い傾向があると言えるでしょう。
なお、SES契約においては、報酬精算時に一定の「精算幅」が設定される場合があります。これは、実際の労働状況や成果に応じて、あらかじめ定めた単価から一定幅内で調整可能な仕組みを指し、エンジニアの実績や契約期間中の変動を反映しながら、双方が納得する最終支払い額を決定するための柔軟な交渉基準となります。
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2.SES契約と他の契約形態の違い
この章では、SES契約と他の契約形態の違いを以下の4つに整理して解説します。
SES契約と準委任契約の違い
SES契約と派遣契約の違い
SES契約と請負契約の違い
SES契約と業務委託契約の違い
SES契約と準委任契約の違い
準委任契約とは、特定の業務を委任・受託する契約のことです。準委任契約には、以下の2種類があります。
成果完成型:成果物の完成・納品の対価として報酬を受ける
履行割合型:労働力や労働時間の提供の対価として報酬を受ける
SES契約は、準委任契約の一種であると考えられるでしょう。SES契約には履行割合型が多いと言えますが、成果完成型の契約もあります。
SES契約と派遣契約の違い
SES契約も派遣契約も、派遣先の企業の業務に従事する点では共通しています。しかし両者は、以下の点で異なります。
SES契約:指揮命令権が派遣元にある
派遣契約:指揮命令権が派遣先にある
SES契約の場合指揮命令権が派遣元企業にあり、派遣を受けた企業は業務上の指示命令ができません。自社が求める働き方を100%実行してもらえない可能性はありますが、指示を出さなくて良い点はメリットでもあると言えるでしょう。
SES契約と請負契約の違い
SES契約と請負契約には、以下の点で違いがあります。
SES契約:労働時間が報酬の対象であり、指揮命令権が派遣元にある
請負契約:成果物の提出が報酬の対象であり、指揮命令権が派遣先にある
請負契約の場合、何時間労働したのかは報酬と直接関係なく、成果物の提出が報酬の対象になります。一方のSES契約では、成果物の提出ではなく労働時間が報酬の対象です。また、指揮命令権の所在においても両者は異なるため、間違えないように整理しておきましょう。
SES契約と業務委託契約の違い
業務委託契約は企業や組織が自社業務の一部を外部に委託する際に締結する契約形態であり、請負契約や準委任契約、SES契約の総称です。
SES契約は業務委託契約の一種であり、IT業界において多く見られる契約形態であると理解しておくと良いでしょう。また、SES契約では成果物ではなく労働時間が報酬の対象になる点も押さえておきたいポイントです。
3.SES契約のメリット
この章では、SES契約のメリットについて「企業側」と「エンジニア側」の2つに分けて解説します。
企業側のメリット
SES契約の企業側におけるメリットは、主に以下の通りです。
人材確保を柔軟に行える
エンジニアを教育するコストを削減できる
エンジニアが常駐してくれる
人材確保を柔軟に行える
SES契約を利用する企業側のメリットとしてはまず人材確保を柔軟に行える点が挙げられます。
SES契約を利用すれば、自社・プロジェクトの目的に合わせた特徴・経歴を持つエンジニアをピンポイントで見つけやすいためです。必要なスキル・知識を持った人材が自社内にいなかったとしても、SES契約によって柔軟に・早期に補充できます。人材を常に雇用しておく必要がないため、無駄なコストの発生も避けられると考えられるでしょう。
エンジニアを教育するコストを削減できる
エンジニア育成にかかるコストを削減できる点も、SES契約を活用する大きなメリットだと考えられます。
SESでは即戦力人材を獲得できることから、教育にコストをかける必要がありません。また社員を雇用して教育する場合、育ったとしても辞めてしまえばそれまでのコストが無駄になることも考えられます。自社で新入社員を雇用していちから教育するケースを考えたら、かかるコストには大きな違いがあると言えるでしょう。
エンジニアが常駐してくれる
エンジニアが常駐してくれることも、SES契約の大きな魅力の1つです。
遠隔ではなく現場で一緒に働いてくれることから、やり取りがしやすく仕事をスムーズに進められます。オンラインでも業務に支障が出ないケースは多々ありますが、説明しにくいところがあったり、緊急で即座に対応してほしいところがあったりした場合に困ってしまうこともあるでしょう。
日常のちょっとしたやり取りがスムーズに進めば、全体の進行にも好影響が期待できます。
エンジニア側のメリット
SES契約のエンジニア側におけるメリットは、主に以下の通りです。
さまざまな企業で経験を積める
人脈形成にもつながりやすい
未経験からでも採用されやすい
残業時間をコントロールしやすい
さまざまな企業で経験を積める
SES契約のエンジニアにとってのメリットとしてまず考えられるのが、幅広い企業で経験を積めることです。
SES契約では短期間で幅広い企業に派遣され、さまざまなプロジェクトへ参加できます。現場が異なれば求められる技術や知識も異なるため、参加したプロジェクトの数だけ幅広いスキルや知見が得られるでしょう。また、異なる業界の知識も吸収することで、より幅広い仕事に挑戦できるようになるはずです。
人脈形成にもつながりやすい
人脈形成につながりやすいことも、SES契約で働くメリットです。
さまざまなプロジェクトに参加できるということは、それだけ多くの人に出会う機会に恵まれるということであるためです。さまざまな業界・企業に人脈を作っておけば、将来独立した際に大きなメリットになります。人脈が増えることで仕事のチャンスも増えることから、エンジニアとしては重要なポイントだと言えるでしょう。
未経験からでも採用されやすい
SES契約であれば、未経験のエンジニアでも採用されやすいと考えられます。
IT業界全体で慢性的な人材不足におちいっていることから、SESであっても未経験も可としている採用が多くあるためです。特に大企業で経験を積みたい場合、正社員として入るよりもSES契約で現場に入る方がハードルが低いと考えられます。エンジニアとしての経験を積みたい場合、SES契約も選択肢の1つとしてみても良いでしょう。
残業時間をコントロールしやすい
SES契約のメリットとしては、残業時間をコントロールしやすいことも挙げられます。
SES契約では勤務時間が明確に決められており、残業が少ない傾向にあるためです。オンとオフにメリハリをつけてワークライフバランスを重視した働き方をしたい場合、SES契約は魅力的だと考えられるでしょう。ただしSES契約であれば残業を必ず避けられるわけではなく、プロジェクトやタイミングによっては残業する必要が出てくることもあります。
4.SES契約のデメリット
この章では、SES契約のデメリットについて「企業側」と「エンジニア側」の2つに分けて解説します。
企業側のデメリット
SES契約の企業側におけるデメリットは、主に以下の通りです。
契約期間中にプロジェクトが終わらない可能性がある
エンジニアの能力には差がある
技術的な指導は違法
契約期間中にプロジェクトが終わらない可能性がある
SES契約の企業側にとってのデメリットとしてまずあげられるのが、エンジニアの契約期間中にプロジェクトが終わらない可能性がある点です。
エンジニアの契約期間中にプロジェクトが終わるように計画を立てていても、想定外の事態から進捗が遅れ、期間内にプロジェクトが終わらないことは十分に考えられます。プロジェクト終了までエンジニアに働いてもらうためには、追加料金を支払って契約期間を延長してもらう必要があるでしょう。
予定通りの期間・コストでプロジェクトを完了させるには、余裕を持った計画作りが大切です。
エンジニアの能力には差がある
SES契約を利用するデメリットとしては、エンジニアのスキルにおける個人差も挙げられます。
SESを提供する側の耐性によっては、想定していたレベルのスキルを持ったエンジニアが派遣されない可能性があります。エンジニアのスキルまでは企業側がコントロールできませんが、面接をする際に可能な限り確認と摺合せを行うことが重要です。
技術的な指導は違法
SES契約で来ているエンジニアに対しては、現場の判断による指示や技術的指導が原則としてできません。
発注側の企業には、派遣されたエンジニアに対する指示命令権がないためです。もし指示や指導をしてしまった場合、「偽装請負」として違法行為だとみなされる恐れがあります。派遣契約とSES契約とは違うことを意識しておかないと、思わぬトラブルにつながる可能性もあるでしょう。
エンジニア側のデメリット
SES契約のエンジニア側におけるデメリットは、主に以下の通りです。
収入が低め
労働環境が短期間で変わる
最後までプロジェクトに関われない可能性がある
収入が低め
SES契約に関するエンジニア側のデメリットとしてはまず、収入が低くなりやすい傾向が挙げられます。
SES契約での募集が、下流工程や下請けの仕事に比較的多いためです。幅広い企業・業界での経験ができる点は確かに大きなメリットですが、収入を伸ばしていくことを考えた場合はいつまでSES契約を利用していくのか考えることも大切でしょう。
労働環境が短期間で変わる
SES契約のデメリットとしては、労働環境が短いサイクルで変化することも挙げられます。
クライアントでの常駐が基本であるため、契約期間が終わって次の企業と契約するたびに労働環境が変化します。人間関係もイチから構築する必要が出てくるため、ストレスに感じる方もいるかもしれません。柔軟性やコミュニケーション能力がなければ、常にどの職場でも良好な人間関係を築いていくことは難しいでしょう。
最後までプロジェクトに関われない可能性がある
SES契約で現場に入っている場合、最後までプロジェクトに関われない可能性もあります。
SES契約の場合、契約時点でいつまで働くのか期限が決まっているためです。
自分が携わってきたプロジェクトに最後まで関われないことは、エンジニアとして残念なことではあります。延長されるケースもありますが、基本的には割り切って考えることも重要でしょう。
5.SES契約を結ぶ際には偽装請負に注意
SES契約を結ぶ際には、「偽装請負」とみなされないように注意が必要です。
偽装請負とは、SES契約をはじめとする業務委託契約を結んでいるエンジニアに対して、発注側の企業が指揮命令を行っている状態のことを指します。例えば以下のようなケースは、偽装請負を疑われる可能性があるでしょう。
業務をする場所や作業時間に関して指示を行う
別のプロジェクトに参加するように指示する
突然の仕様変更に対して修正対応を行わせる
業務委託のルールをしっかりと理解していないと、偽装請負が発生するリスクが高まります。偽装請負は違法行為であり、罰則の対象になるため注意が必要です。SES契約に関して事前に法律的な整理を行い、労働者の権利を侵害しないようにする意識を持つことが大切でしょう。
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6.SES契約を結ぶ方法
SES契約によって人材を獲得するなら、SES人材を扱っている派遣会社やSES事業を運営している企業に依頼することが基本です。
派遣会社やSES事業を運営している企業に求めるスキルや必要な契約期間、人数などについて相談することで、条件に合ったエンジニアを紹介してくれます。まずは電話やメールで打ち合わせを行い、その後営業担当者と打ち合わせを行うのが一般的な流れです。
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7.まとめ
SES契約とは、エンジニアを雇用する時間に対して報酬を支払う契約形態のことです。SES契約は企業側にもエンジニア側にもさまざまなメリットがある契約形態であり、柔軟な雇用や働き方の実現に役立ちます。
ただし指揮命令権についてはしっかりと理解しておかないと、「偽装請負」として罰則の対象になる恐れもあるため気を付けましょう。関連する法律やエンジニアのスキル、契約面に関してしっかりとチェックを行い、SES契約を有効活用してください。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。