ファンベースマーケティングとは自社の商品やサービスを愛してくれるファンを主な対象とするマーケティング手法です。数多くの商品やサービスが溢れている今、他社との差別化が必要であるだけでなく、自社を長期的に支え続けてくれるファンの存在が重要といわれています。
本記事では、ファンベースマーケティングの概要を押さえた上で、ファンベースマーケティングについて必要な理由、成功させるコツ、成功事例などを解説します。
目次
1.ファンベースマーケティング
ファンベースマーケティングとは自社の商品やサービスを愛してくれるファンを中心にマーケティングを行う手法です。
ここでいうファンとは商品やサービスを繰り返し購入してくれるだけでなく、自社やブランドを愛してくれる人のことです。
ファンはブランドの魅力やよさを周囲に伝えてくれることもあります。自分が気に入った商品やサービスをSNSで褒めてくれたり、知人に口コミで広めてくれたりすれば、その商品やサービスの知名度が上がります。
またファン同士のコミュニティをつくることで、ファンを育成したり、囲い込んだりすることも可能です。
ファンベースの意味とは
ファンベースは佐藤尚之氏によって提唱された概念です。1985年、佐藤氏は電通に入社し、コピーライター、CMプランナー、Webディレクターなどを歴任。2019年5月には株式会社ファンベースカンパニーを設立しました。
佐藤氏は自社の商品を深く理解し、いつも買ってくれる顧客(ファン)を重要視する考え方がファンベースにおいて重要だと述べています。
ファンベースではファンとリピーターの差別化を図っています。リピーターはその商品の機能やデザイン、価格に惹かれて購入する傾向にありますが、ファンは企業やブランドの価値観も含めて愛してくれる存在のことです。
ファンベースは顧客を単なる自社に利益をもたらす存在とするのではなく、企業を支えるファンと捉えて大切にしていこうとする考え方です。
2.ファンベースマーケティングが必要な理由
現在、多くの企業が注目しているファンベースマーケティングですが、ファンベースマーケティングはなぜ必要とされているのでしょうか。
ファンベースマーケティングが必要な理由として、以下の4つが挙げられます。
ブランドイメージの構築
他社との差別化
収益の長期的な確保
製品やサービス改善
それぞれ確認していきましょう。
ブランドイメージの構築
ファンは企業や商品ブランドを愛してくれる存在であるだけでなく、共感者です。ブランドに好意を抱き、ビジョンを理解してくれるファンは商品やサービスについて外部に発信してくれます。
近年の消費者は価格や機能、デザインだけでなく、その企業のサステナビリティへの取り組み、社会的なイメージも重視する傾向にあります。そうした中で、ファンが語るブランドストーリーには説得力があります。
ファンに商品やサービスについて語ってもらうことで、自社のブランドイメージを高められます。
他社との差別化
消費者にとって商品やサービスの選択肢は多くあります。選択肢が豊富にあるからこそ迷って選びきれず、結局購入できなかったというケースは珍しくありません。
その一方、すでに知っている商品やサービスであれば、安心して選べます。新しいものが次々に生み出されている現代社会ですが、こうしたものに目新しさを抱きつつも、安心感からよく知るものを手に取る消費者も多くいます。
自社の商品・サービスをリピートしてくれている既存顧客を大切にすることで、変化が激しい市場でも安定的な利益を得られます。
収益の長期的な確保
ファンは単なる顧客ではなく、ブランドや商品に愛着を抱いてくれる存在です。セールやキャンペーンに関係なく、商品やサービスを継続的に利用してくれる傾向にあります。
また、近年は円安などの影響によりさまざまな商品が値上げしています。社会的な事情を鑑みて値上げを決断せざるを得なかった場合でも、ファンはついてきてくれる可能性が高いです。「値上げはきついけど、〇〇が好きだから使い続けたい」「企業も大変なんだね。応援したい」と思ってもらえるためです。
さらに、ファンが口コミ投稿を行うことで新規顧客の獲得につながることもあります。売上の安定を目指している企業にもファンベースマーケティングは必須です。
製品やサービス改善
ファンは企業を愛しているからこそ、製品やサービスがよりよくなるように提案してくれることがあります。ヘビーユーザーでもあるファンの指摘の中には的を射ているものや開発者も思わず頷きたくなるものが多いです。
企業はファンの声を製品開発、運営方針などに取り入れることで、サービスの質を高められます。
3.ファンベースマーケティングを成功させるコツ
ファンベースマーケティングはただ単に行うだけでは効果を得られません。ファンベースマーケティングを成功させるにはコツがあります。
ファンベースマーケティングを成功させるコツとして、以下の5つが挙げられます。
特別な顧客体験の提供
ファン同士の交流スペースを設ける
顧客に自信を持ってもらう
ファンとのコミュニケーションの機会を大切にする
ファンに自社への愛着を深めてもらう
それぞれ確認していきましょう。
特別な顧客体験の提供
顧客にスペシャルな体験を提供することはファンマーケティングの成功において重要なポイントです。
商品を購入してくれて、ブランドの宣伝をしてくれるファンに感謝を伝えるためにも、ファンを対象に顧客体験を提供することがおすすめです。ファンミーティングの実施、店頭イベントへの優先的招待、先行商品体験はファンにとって喜ばしいものであり、ブランドから大切にしてもらえていることを実感できます。
商品やサービスによってはパーソナルサービスの提供や試供品のプレゼントもおすすめです。
ファン同士の交流スペースを設ける
ファンマーケティングにおいて顧客同士が対話できる場を設けるのも戦略の1つです。ブランドや商品を愛する人たちが集える掲示板やFAQなどのプラットフォームを活用し、顧客同士の接点をつくることで、企業に対する愛着も深まります。
また、近年は、SNSを活用したファン同士が交流できる施策もおすすめです。その1つとして、診断コンテンツがあります。ファンが他のファンに出会いやすいように、同じサービスを好むユーザーの診断結果をSNSで発見できる手法も実施されています。
顧客に自信を持ってもらう
顧客にファンになってもらい、ブランドを宣伝してもらうにはファンとして、そして自分自身に自信を持ってもらう必要があります。
自分やそのブランドのファンであることに自信がないと、他の人に商品やサービスを勧めてみようという気にはなりません。
顧客は自分がブランドから大切にされていると実感できると、その企業への自信や信頼が生まれ、周囲にも話せるようになります。
ファンとのコミュニケーションの機会を大切にする
ファンマーケティングでは企業か顧客のどちらかが発信するだけではなく、コミュニケーションを相互に取ることが大切です。
ファンだけが参加できるイベントを開催し、ファンの声を聞いて、返答するのも1つの手です。
また、SNSのDMやコメント機能を活用したり、X(旧 Twitter)で自社ブランドに関する投稿にはリツイートやいいねなどのリアクションをしたりするのも効果的です。ファンは自身の投稿に企業からリアクションをもらえるとうれしいだけでなく、ファンとしての自信もつきます。
ファンに自社への愛着を深めてもらう
ファンには商品やサービスだけでなく、自社への愛着を深めてもらうことも大切です。自社の社会活動についてファンと共有したり、商品が製造される過程をファンに見せたりといった方法があります。
また、ファンの声を取り入れた企画を開催したり、商品を販売したりすることで、企業に対しても好意を抱けます。
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4.ファンベース マーケティングの成功事例
ファンベースマーケティングを実施し、成功している企業は多くあります。知名度が高い企業の中にもファンベースマーケティングを取り入れている企業が多々あります。
ファンベースマーケティングの成功事例として、以下の4社が挙げられます。
株式会社コメダ
カゴメ株式会社
スターバックス
無印良品
それぞれ確認していきましょう。
株式会社コメダ
喫茶店チェーンのコメダ珈琲はコミュニティサイト「さんかく屋根の下」を運営しています。このサイトはコメダファンが集まるコミュニティサイトです。優秀作品にはプレゼントが贈られるフォトコンテスト、同社の商品に関する記事、企業の裏側を知れるイベント開催の通知など、コメダファンにはうれしいコンテンツとなっています。
また、コメダ珈琲で撮影した写真を投稿するコーナーも同サイトにはあります。それぞれが思いを込めて撮影した写真が並ぶ楽しいページです。
カゴメ株式会社
食品メーカーのカゴメ株式会社はファンベースマーケティングに早くから力を入れています。同社は特設サイト「&KAGOME(アンドカゴメ)」を中心にファンベースマーケティングを行っています。このサイトではファン同士がオンライン上で会話できるだけでなく、トマト苗のプレゼント企画なども実施されています。
また、同サイトはファンの存在を中心に運営されているといっても過言ではありません。例えば、食を中心とする話題で会話できるトークルーム、トマトを育てている人を中心に盛り上がれるトークルームもあります。
さらに、同サイトには健康やレシピなどをテーマにした有益な記事も掲載されています。これらの記事には「いいね」のリアクション機能もあります。
スターバックス
スターバックスではスタッフ、従業員を「パートナー」と呼んでいます。この呼び方を採用し、お客様と近い関係を構築することを目指しています。
また、スターバックスは飲食を提供する単なるカフェではなく、お客様の「サードプレイス」としても機能しています。サードプレイスは第三の場所という意味ですが、お客様に家庭でも職場でもない居心地の良い場所の提供を目指しています。
また、同社には「スターバックスリワード(STARBUCKS REWARDS)」というモバイルアプリがあります。このアプリは利用回数の多さに比例して、お得になります。
買い物ごとにスター(ポイント)が貯まり、スターはドリンクチケット、食品、ドリンクのカスタマイズなどと交換できます。Green会員からGold会員にランクアップすれば、誕生月特典、サプライズプレゼントなどを受け取れます。
無印良品
雑貨屋や衣類、食品などを扱う無印良品はユーザーとの共創を目的としたオンラインコミュニティ「IDEA PARK」を運営しています。このサイトは消費者の声に耳を傾けるだけでなく、同社の考え方を消費者に伝えることも目標としています。
同サイトでは自分があったらいいなと思う商品をリクエストし、担当者だけでなく、他のユーザーとも共有できます。同社はファンのニーズや希望を汲み取った上で、商品の企画や開発を行っています。
また、家や雑貨に関することをファンと企業が一緒に考える「プロジェクト」もあります。自分の意見を発するだけでなく、さまざまな人の意見を知れるのも魅力的です。
5.ファンベースマーケティングを学びたい人におすすめの本
ファンベースマーケティングは将来的にさらに重要性が高まると考えられます。ファンベースマーケティングに関する知識や情報は本で収集できます。
ファンベースマーケティングを学びたい人におすすめの本として、以下の3冊が挙げられます。
佐藤尚之『ファンベース』
和田裕美 (著)、佐藤尚之 (監修)『ファンに愛され、売れ続ける秘訣』
佐藤尚之、津田匡保他『ファンベースなひとたち』
それぞれ確認していきましょう。
佐藤尚之『ファンベース』
『ファンベース』の著者である佐藤氏は電通でマス広告、ネット広告、コミュニケーション・デザインなどに携わってきました。
同書ではファンベースに関する基本的な考え方、ファンベースが必要な理由、ファンに対する効果的なアプローチ方法などが説明されています。
読みやすく、分かりやすいだけでなく、深みのある内容となっています。本書1冊でファンベースについて全体像を理解できるはずです。
和田裕美 (著)、佐藤尚之 (監修)『ファンに愛され、売れ続ける秘訣』
『ファンに愛され、売れ続ける秘訣』は「営業のカリスマ」と称される和田裕美氏が手がけた一冊です。新しい時代の営業の極意について佐藤氏が提唱するファンベースを元に説明されています。
自分の関心がある項目から順番に読んでも理解できるページ構成になっています。ファンベースの基礎が押さえられるだけでなく、具体的なトーク例も示されているため実務でも役立ちます。
佐藤尚之、津田匡保他『ファンベースなひとたち』
『ファンに愛され、売れ続ける秘訣』は前述の『ファンベース』の著者である佐藤氏と、ネスレ日本でコーヒーのオフィス向け定期宅配サービス「ネスカフェ アンバサダー」を大成功させた津田匡保氏の共著です。漫画として楽しく読めるため、活字が苦手な人やファンマーケティングについて難しいイメージを抱いている人も安心です。
同書を手に取ることで、ファンベースマーケティングとは何か理解できるだけでなく、ロングセラーブランドが実践しているファンベースの事例を知ることができます。
6.K-POPから学ぶファンベースマーケテイング
日本においても若い世代を中心に幅広い世代からK-POPは人気を集めています。絶大な人気を誇るK-POPですが、K-POPのマーケティング手法に注目する企業も多々あります。
K-POPのマーケティングにおける重要なポイントはファンの存在です。K-POPには熱狂的なファンが多く、彼らは自分たちファンの影響力や責任も自覚しています。
SNSやオンラインコミュニティを活用し、推しのアーティストのプロモーション、支持などを自発的に行っています。
また、K-POPでは視聴者参加型オーディションが開催されています。ファンがオーディションに参加することで、アーティストやグループを育てるという意識がファンの中で芽生えます。
アーティストのデビュー後も、SNSやイベントを活用した双方向コミュニケーションの機会があります。
K-POPのファンはアーティストが提供する音楽やサービスなどを受容するだけでなく、自らも応援するアーティストを盛り上げることに貢献しています。
7.ファンベースマーケティングを行う際の注意点
ファンベースマーケティングはうまく行うことで長期的な利益の獲得につながります。企業にとって魅力的なマーケティングといえます。
しかし、何事にもメリットとデメリットがあるように、ファンベースマーケティングにおいても注意点があります。
現代社会でファンベースマーケティングを実施する場合、SNSを活用することが考えられます。SNSには拡散力があり、自社のブランドをファンが広めてくれ、大ヒットする可能性もあります。
しかし、使い方や投稿内容を一歩間違えば、炎上し、批判が殺到するリスクがあることを忘れてはいけません。ちょっとした言葉の綾が一部から反感を買った場合、それがあっという間に広まることもあります。
また、ファンマーケティングはすぐに成果が出る手法ではありません。ファンが育つまでにはある程度の期間が必要であるため、「来月までに売上を〇%上げたい」という場合は不向きです。長期的なスパンでの利益拡大に向いています。
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8.まとめ
市場が成熟している現代社会で企業が生き残るには、既存顧客を大切にするファンベースマーケティングの重要性が増しています。
ファンベースマーケティングでは自社のファンを増やし、安定的な利益獲得を目指します。また、ファンは自社のブランドを魅力的にPRしてくれる存在でもあります。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。
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