会社の設立にあたっては、法律に則って会社形態を選択する必要があります。現在選択できる会社形態は複数ありますが、選択にあたって「株式会社」と「有限会社」の違いを整理したいと考えている方もいるのではないでしょうか。
会社形態ごとのメリットやデメリットを理解することで、自分に合った設立方法を選択できるようになるはずです。そこで本記事では、株式会社と有限会社の違いやそれぞれのメリット・デメリット、その他の会社形態などについて解説します。
特に以下の方には、この記事をご一読いただきたいです。
法人設立を検討しているフリーランス・個人事業主
会社形態の知識を取引先の信用度判断に活かしたい方
特例有限会社から株式会社へ移行すべきか検討している方
目次
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1.株式会社とは
株式会社とは、株式の発行によって調達した資金によって運営する法人のことです。
日本で最も一般的な会社形態であり、株式発行による柔軟な資金調達が最大の特徴であると言えます。株式による資金調達ができるのは株式会社のみであり、他の会社形態では実行できません。
中でも上場(株式を証券取引所にて自由に売買できるようにすること)をしている株式会社は「上場企業」と呼ばれます。上場すれば誰でも株式を売買できるようになるため、多額の資金調達も可能です。
2006年に資本金1円から設立できるように条件が緩和されたことにより、株式会社の設立がよりしやすくなりました。
2.有限会社とは
有限会社とは、少数の出資者によって設立される会社形態です。
社員すべてが「有限責任社員」と呼ばれる出資者になることで、有限会社を設立できます。有限責任社員は株式会社における「株主」のような立場であり、会社が負債を負ったり倒産したりしても責任を負うことはありません。必要な最低資本金額が低めで社員1名以上・取締役1名以上で設立できることから、小規模で事業を始めたい際の良い選択肢になっていました。
ただし2006年の会社法施行によって、2025年6月時点では有限会社の新規設立ができなくなっています。会社法施行によって株式会社の設立要件が緩和されたことで、有限会社として設立する必要性が低くなったことが廃止の大きな理由です。
特例有限会社とは
特例有限会社とは、会社法施行以降も株式会社への変更手続きを取らず「有限会社」の名称を使って存続している法人のことです。
元々有限会社だった企業は、2006年の会社法施行以降は株式会社への変更手続きをとるか「特例有限会社」として存続するかのいずれかを選択する必要があります。特例有限会社は法律上では株式会社の一種ですが、名称には有限会社を使用しなくてはいけません。株式会社に適用される決算公告義務がないなど、通常の株式会社とはいくつかの違いがあります。
3.株式会社と有限会社の違い
この章では、株式会社と有限会社の違いについて解説します。株式会社と有限会社の違いを簡単に整理すると、以下の通りです。
株式会社 | (特殊)有限会社 | |
---|---|---|
役員数 | ・現在 取締役:1名以上
取締役:3名以上 監査役:1名以上 取締役会の設置が必要 | 取締役:1名以上 |
社員数 | 制限なし | ・現在 制限なし
50名以下 |
取締役の任期 | ・現在 最長10年(原則2年)
原則2年 | 制限なし |
最低資本金額 | ・現在 1円
1,000万円 | 300万円 |
公告の義務 | あり | なし |
役員数
役員数の規定について、現在では株式会社も特例有限会社も「取締役1名以上」となっています。
会社法が施行される以前は、株式会社の設立には「取締役3名以上、監査役1名以上、取締役会の設置」が必要でした。現行の法律では役員数の規定が緩和され、会社設立のハードルが下がっていると整理できます。
社員数
社員数について、現行の法律では株式会社と特例有限会社ともに制限はありません。
会社法施行前は、有限会社の場合社員数を50名以下に抑える必要がありました。社員を増やせないことから企業規模の拡大が難しいといった側面が、有限会社にはあったと考えられます。
一方で会社法施行後は、特例有限会社として事業を継続する場合も株式会社に転向する場合も社員数の制限はなくなっています。株式会社でも特例有限会社でも、現在では経営状況に応じて規模を拡大しやすくなっていると考えられるでしょう。
取締役の任期
取締役の任期について、現在では以下のように定められています。
株式会社:最長10年(原則2年)
特例有限会社:制限なし
株式会社に関しては、会社法施行前も後も取締役の任期は原則2年です。しかし会社法施行後では、株式譲渡の際に会社の承認が必要と定めている「譲渡制限会社」の場合、最長で10年まで延長できることになっています。
有限会社に関しては会社法施行前後で変化がなく、取締役の任期は一貫して制限なしです。
資本金額
会社設立にあたって必要な資本金額について、現在では以下の通りになっています。
株式会社:1円以上
有限会社:300万円以上(※現在設立不可)
ただし有限会社に関しては、会社法施行以降は設立できなくなっています。株式会社に関して、会社法施行前は最低1,000万円の資本金が必要でした。しかし現在では1円以上で設立が可能となっており、会社新設のハードルが大きく下がっています。
決算の公告義務
決算公告とは、決算に関する情報を公に告知することです。
官報や新聞などで一般に広く決算情報を公表することで、株主や取引先が投資や取引を安心して続けられます。決算の公告義務については、以下の通りとなっています。
株式会社:あり
有限会社:なし
株式会社を設立する場合、決算公告が義務付けられます。有限会社から株式会社に変更したケースにおいても、同様に決算公告は義務です。一方で、有限会社から会社形態を変化させず特例有限会社として運営している場合は、決算公告をする必要がありません。
特例有限会社は法律上株式会社ではありますが、決算公告の義務はない点は把握しておくと良いでしょう。
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4.株式会社のメリット・デメリット
会社形態を決定するにあたっては、各形態のメリット・デメリットを整理することが大切です。この章では、株式会社のメリット・デメリットについて解説します。
株式会社のメリット
株式会社を選択する主なメリットは、以下の通りです。
社会的信用が高い
資金調達がしやすい
税金面で優遇されやすい
社会的信用が高い
株式会社のメリットとしてまず挙げられるのが、社会的信用の高さです。
株式会社は役員の任期や決算公告の義務など法律による規制が多いため、クリーンなイメージを獲得しやすいと考えられます。また、株式会社は国内の会社形態の中でも総数が多く、一般的な認知度が高い点も社会的信用の高さにつながっていると考えられるでしょう。
会社形態 | 総数(2024年) |
---|---|
株式会社 | 103万1,370社 |
特例有限会社 | 16万3,407社 |
合同会社 | 12万6,623社 |
合資会社 | 2,853社 |
合名会社 | 739社 |
上記の通り、他の会社形態と比較しても圧倒的に株式会社の数が多くなっています。
資金調達がしやすい
資金調達がしやすい点も、株式会社のメリットです。
株式会社は、株式や社債の発行によって幅広い先から資金調達を行えます。投資家は出資額以上の損失に対する責任を負わない法律の仕組みになっているため、株式会社は投資対象として選択されやすいと言えるでしょう。
また、株式発行によって調達した資金は「自己資本」として整理されるため、返済義務がありません。資金調達を自由に行いやすくなる点は、株式会社を選択する非常に大きな魅力であると考えられます。
株式会社のデメリット
株式会社のデメリットとしては、以下の3点が挙げられます。
決算公告の義務がある
役員に任期がある
設立に費用や手間がかかる
決算公告の義務がある
株式会社のデメリットとしてはまず、決算公告の義務が挙げられます。
全ての株式会社には、資本金額や事業規模に関わらず決算公告の義務があります。公告とは、特定の利害関係者のみでなく広く世間一般に情報を公開することです。株式会社は、定時株主総会が終わった段階で遅滞なく決算内容を公告しなくてはいけません。
決算の公告方法には、以下が挙げられます。
官報
日刊新聞
電子公告
決算を広く公開することで経営状態を明らかにし、株主や債権者が安全に取引を行える市場環境を確保することが公告の主な目的です。なお、決算公告を怠った株式会社には100万円以下の罰金が課せられると、会社法第976条において規定されています。
(参考:e-Gov法令検索「会社法」)
決算公告義務は特例有限会社やそのほかの形態の会社にはなく、株式会社特有のデメリットだと言えるでしょう。
役員に任期がある
役員に任期がある点も、株式会社特有のデメリットに挙げられます。
株式会社の役員の任期は、会社法332条において以下のように規定されています。
原則は2年
非公開会社は最長10年まで伸長可能
(参考:e-Gov法令検索「会社法」)
非公開会社とは、定款(法人が活動するうえでのルールを定めた書類)にて株式の譲渡制限を設けている企業のことです。任期が終わった役員は退任となり、継続には再任の登記が改めて求められます。
つまり役員の任期が満了するたびに登記の費用と手間が必要です。
設立に費用や手間がかかる
株式会社の設立にあたっては、一定の費用や手間がかかります。
株式会社設立に必要な費用は、主に以下の通りです。
資本金 | 1円~(数百万円程度が一般的) |
---|---|
法定費用 | 登録免許税:15万円または資本金額×0.7%の高いほう 認証手数料:~5万円 収入印紙代:4万円※電子定款の場合は0円 謄本手数料:250円×ページ数(数千円程度が目安) |
上記の他にも法人の印鑑作成や手続きに必要な個人の印鑑証明書取得などさまざまな費用が必要であり、資本金以外に25万円程度の予算が必要だと言えます。さらに、設立後に登記内容の変更があれば、そのたびに登録免許税を負担しなくてはいけません。
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5.有限会社(特例有限会社)のメリット・デメリット
ここでは、有限会社(特例有限会社)のメリットとデメリットについて解説します。
有限会社のメリット
有限会社のメリットは、主に以下の3点です。
会社経営の自由度が高い
会社形態の移行手続きに手間や費用がかからない
長く続く歴史ある会社という印象を与えられる
会社経営の自由度が高い
有限会社のメリットとしてまず挙げられるのが、経営の自由度の高さです。
有限会社には決算公告の義務がなく、取締役会や監査役の設置も求められません。取締役会がないため、意思決定を自由かつ迅速に行える点が有限会社の強みです。また役員の任期や人数の制限もなく、経営者の考えに合わせて柔軟な経営ができると考えられます。
ただし取締役会が設置されていない場合、経営者が暴走とも言える身勝手な判断をしたとしても株主総会以外に暴走を止める権限者がいない点には注意が必要です。
会社形態の移行手続きに手間や費用がかからない
特例有限会社のままでいれば、株式会社への移行手続きに必要な手間や費用がかかりません。
株式会社設立には一定の費用が必要であり、役員の任期満了に合わせて定期的に登記を繰り返す必要があります。しかし、特例有限会社のまま会社を継続させる場合はこうした費用がすべてかかりません。
手続きに手間がかかることもないため、その分だけ本業に集中できるとは考えられるでしょう。
長く続く歴史ある会社という印象を与えられる
有限会社のメリットとしては、「長く続いている歴史がある会社」という印象を与えられる点も挙げられます。
2006年の会社法施行以降、有限会社は新たに設立できないようになっています。そのため有限会社を名乗っている企業は、「少なくとも約20年程度は続いている企業」であると判断可能です。
企業経営を長く続けることは難しく、設立から20年続いている企業は全体のほんの一部であることが実情です。経営が安定している企業といったイメージを持ってもらえる可能性があるでしょう。
有限会社のデメリット
有限会社のデメリットとしては、以下の4点が挙げられます。
経営の透明性を保ちにくい
社会的信用を低く見られやすい
吸収合併ができない
資金調達をしにくい
経営の透明性を保ちにくい
有限会社のデメリットとしてまず挙げられるのが、経営の透明性を保ちにくい点です。
有限会社には決算公告の義務がなく、役員の任期も特に決められていません。そのため、少数の経営者に権力が集中したままの状態が続きやすいと考えられます。経営者次第で会社内のことが決まってしまい、従業員がモチベーションを保てなくなる恐れもあるでしょう。
もちろん経営者次第で経営の透明性は確保可能ですが、いわゆる「ワンマン経営」の状態になりやすい点は理解しておく必要があります。
社会的信用を低く見られやすい
有限会社は、社会的信用を低く見られやすい傾向があります。
会社法が施行される前は、株式会社と比較して有限会社の規模が小さかったためです。会社法施行前は、有限会社設立の最低資本金額が300万円である一方で株式会社は1,000万円でした。
また、現在では有限会社を新たに設立できないことから、時間の経過とともに数が減っていくことになります。「現在は減っていっている形態」「株式会社よりも圧倒的に少ない」と思われれば、今後社会的信用をより得にくくなっていく恐れもあるでしょう。
吸収合併ができない
有限会社は、株式会社のように吸収合併ができません。
正確にいうと吸収合併される可能性はありますが、有限会社側から他の法人を吸収合併することは不可能です。もし吸収合併されれば、元の有限会社は消滅会社として法人格がなくなってしまいます。
事業規模の変化やそのほかの事情によって組織再編をしたいと思っても、有限会社のままではできないと想定すべきでしょう。事業規模や経営方針を大きく変えるためには、株式会社への移行を検討する必要もあります。
資金調達をしにくい
有限会社のデメリットとしては、資金調達をしにくい点も挙げられます。
特例有限会社であれば、株式発行自体は可能です。しかし発行した株式の公開はできず、広く資金調達を行うことはできません。また株式の譲渡についても会社の承認が必要であり、株式会社と比較すると資金調達の柔軟性は低いといえるでしょう。
6.株式会社・有限会社以外の会社形態
会社形態には、株式会社・有限会社以外にも以下の種類があります。
合同会社
合資会社
合名会社
上記の3形態は、いずれも特定の出資者から資金を集めて運営する「持分会社」と呼ばれる形態です。この章では、持分会社である上記3種類の会社形態についてそれぞれ解説します。
合同会社
合同会社とは、1名以上の有限責任社員によって構成される持分会社です。
出資者は有限責任社員のみであり、資本金1円以上から設立できるなど設立コストが低い会社形態だと言えます。事業に投資してくれる人を見つけられず初期投資を押さえなくてはならないケースでは、合同会社は有力な選択肢です。
原則として社員全員が出資者であり、意思決定を円滑に進めやすいと言えます。また出資者はあくまでも「有限」社員であり、出資額以上の負債を負うことがありません。以上より、ほかの持分会社の形態よりもリスクが低いといえるでしょう。
合資会社
合資会社は、1名以上の有限責任社員と1名以上の無限責任社員によって構成される持分会社です。
最低資本金の規定はなく、他の持分会社と同様に設立コストを抑えられる会社形態だといえます。ただし他の持分会社とは異なり自分以外にもう1人の出資者が必要であり、1人だけでは会社の設立ができません。
また、無限責任社員は出資額に関係なく企業の債務に対する責任を負う必要があるため、ややリスクがある会社形態だと整理できるでしょう。
合名会社
合名会社とは、1名以上の無限責任社員のみで構成される持分会社です。
最低資本金の規定はないため、他の持分会社と同様に初期コストは抑えられます。出資者も1名から設立できるため、設立のハードルは低いと考えられるでしょう。ただし、合名会社では原則として全員が無限責任者社員です。
たとえば会社が大きな債務を負った場合、無限責任社員は個人資産を処理してでも返済する義務を負うリスクがあります。万が一企業が倒産したら、社員全員が大きな負担を覚悟しなければならない恐れもあるでしょう。
7.会社形態を決めるポイント
ここまで、株式会社や有限会社、そして持分会社とさまざまな会社形態を紹介してきました。会社形態が複数あると、「どの種類を選ぶべき?」と悩んでしまうこともあるのではないでしょうか。そこでこの章では、会社形態を決める際のポイントを以下の3点に整理して解説します。
目指す事業規模
経営リスク
社会的信用の必要性
目指す事業規模
会社形態を決定する際のポイントとしてまず挙げられるのが、目指す事業規模です。
事業規模を拡大していくつもりがあるのなら、できる限り資金調達の柔軟性を高める必要があります。株式会社の場合、株式上場によって広く投資家を募ることが可能です。多額の資金調達が必要だと判断するなら、株式会社を選ぶとよいでしょう。
一方で、小規模で事業を進めていこうと考えている場合や設立時のコストをできるだけ抑えたい場合は、合同会社も選択肢に挙がります。特例有限会社の場合は、形態を変えずそのまま運営を続けるのも1つの選択肢です。
経営リスク
会社形態を選ぶにあたっては、経営リスクについてもしっかりと考える必要があります。
今回紹介した会社形態の中で、合資会社と合名会社には無限責任社員が必要です。無限責任社員は出資額に関係なく企業の負債に対して責任を持つため、合資会社や合名会社はリスクが高い形態だといえるでしょう。
リスクを抑えるためには、特例有限会社のままでいる、もしくは株式会社や合同会社を選ぶ方針が考えられます。
社会的信用の必要性
会社形態について考える際には、各形態の社会的信用についても無視できません。
事業の内容や規模によっては、社会的信用が重要になることも考えられるためです。
社会的信用を得ることを重視するのであれば、最も数が多く一般的にも認知されている株式会社の選択が合理的だと言えます。ただし、株式会社の設立には費用や手間が一定かかる点を理解しておくことが必要です。
しかし最終的には社会的信用が必要であっても、当面の間はコストやリスクを抑えて進めたい場合もあるでしょう。スモールスタートをしたいなら、特例有限会社のままでいたり合同会社としてスタートしたりして、事業が軌道に乗ったタイミングで株式会社へ変更する方法も考えられます。
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8.まとめ
株式会社と有限会社には、必要な役員数や役員の任期、決算公告の義務などにおいて違いがあります。2006年の会社法施行以降は有限会社の設立ができず、既存の有限会社は特例有限会社として事業を継続するか株式会社へ移行するか選択しなくてはいけません。
また株式会社や有限会社以外にも、持分会社である合同会社・合資会社・合名会社も会社形態には挙げられます。目指す事業規模やリスク、社会的信用の必要性を考慮し、自社に合った会社形態を選択することが大切でしょう。
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