少子高齢化や生産人口の減少などの影響により、50代は職場や業界によっては若いとみなされるシーンも増えてきました。また、年金受給開始年齢の引き上げが検討される中で、50歳代から新たな仕事をはじめたいと考える人や長く働ける仕事に転職したいと考える人も多いと思います。
転職は年齢を重ねるごとに難しくなるという意見は少なくなく、50代の人の中には転職について不安を抱える人もいると見てとれます。50代の転職が難しいかは求職者のこれまでの経験や希望する業界などによって異なるため一概には言えません。とはいえ、20代や30代などの若い層と比べると、難しいという意見にも一理あるように思います。
本記事では、50代転職の現実、50代が転職で成功するためのコツ、50代が転職する際の注意点などを見ていきましょう。
目次
1.【50代の転職事情】50代転職の現実とは
まずは、厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」を参照すると50代男性の場合、50~54歳の転職入職率は5.6%、55~59歳は6.6%です。一方、50代女性の場合、50~54歳の転職入職率は9.0%、55~59歳は7.6%となっています。
50代男性の転職入職率は19歳以下から39歳までと比べると低いものの、40代と比べると大きな差はありません。
50代女性については子育ても落ち着く一方、子どもの進学費用なども鑑みて仕事に復帰する人も多いと考えられます。
世間では未経験の業界にチャレンジするならば35歳までという声もありますが、正社員で働く人の割合が多い男性は30代後半以降の転職入職率は確かに低くなっています。
なお、60歳以上の男性の転職入職率が高いのは定年退職をきっかけに、新しい職場で働く人が多いためだと考えられます。
2.50代は転職できるのか?
50代も転職は可能でが、そう高い割合ではありません。50代が未経験の業界に転職できるかは雇用形態によっても変わってきます。
ここでは、以下の3つの雇用形態別に50代の転職事情を見ていきましょう。
正社員の場合
パートや派遣の場合
年齢不問・未経験者歓迎のの求人の場合
正社員の場合
50代が未経験の業界に正社員として入社するのは一般的に難しいと言われています。現在、定年は60歳が一般的であるものの、多くの企業が65歳定年制を採用しています。仮に、50歳だとして65歳まで働くとすると15年しかありません。
未経験者を雇うと即戦力になるまでにさまざまなコストがかかるため、企業には継続勤務年数の上限が15年の人よりも20年、30年働いてくれそうな人を雇う方が得だという考え方があります。
しかし例外もあり、人手不足の業界や企業の場合、50代で未経験の人を採用する可能性は高いといえます。すぐにでも人が欲しい業界や若手が集まらない業界は50代にも門戸を大きく開いており、歓迎する傾向にあります。
また、人気の業界や大手企業の場合、50代でも経験や実績が豊富にある人、マネジメント経験などもあり即戦力になりそうな人は管理職として採用されるケースもあります。
パートや派遣の場合
パートや派遣の場合、20~30代よりも50代を重宝する企業もあります。20代や30代の女性には幼い子どもを抱える人も多く、子どもの都合で欠勤する人は少なくありません。経営者にとって突然休まれたり、勤務できる時間や曜日が限られるとシフトを作成しにくいという難点がありますし、他の従業員に迷惑がかかることもあります。一方、50代であれば、子育てが落ち着いている人も多く、柔軟に勤務してもらえることを見込んで採用する経営者も多いようです。
また、50代は人生経験が長いため子どもやお年寄りなどにもうまく対応できる人も多くいます。こうした能力はパートタイム労働者を多く雇用している飲食店や小売店などで活かせるでしょう。
年齢不問・未経験者歓迎の求人の場合
正規雇用の求人にも非正規雇用の求人にも「年齢不問」「未経験者歓迎」と書かれた求人があります。
これらの言葉を掲げている企業の中には、すぐにでも働き手がほしい企業、従業員が不足していて困っている企業も含まれます。
人手不足が深刻な企業の中には50代で業界未経験の人を歓迎する企業もあります。
ただし、こうした企業は人が定着しない問題を抱えていることも多く、長く務めるには難しいかもしれません。
3.転職を希望する50代におすすめの資格
20代や30代前半までであれば意欲やポテンシャルで採用されることも多いですが、50代は即戦力になるかが採否を決める重要な鍵になります。このため、経験のない業界に転職を希望する場合は資格を取得し、即戦力になることをアピールする必要があります。
転職を希望する50代におすすめの資格として、以下の5つが挙げられます。
管理業務主任者
マイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)
ITパスポート
医療事務認定実務者
簿記
介護福祉士
それぞれ確認していきましょう。
管理業務主任者
管理業務主任者はマンション管理者が管理組合などに、管理委託契約についての説明や管理事務報告などの独占業務を行う国家資格です。管理業務管理者の設置はマンション管理適正化推進法で義務付けられているので継続してニーズがある資格になります。ミドル層以上になってからトライする人も多くいます。
定年退職をした人やミドル層以上の人にマンション管理などの仕事が人気を集めています。マンションの住民や来客のフロント対応、業者の手配などが主な仕事で、座って行える業務もあります。
マイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)
マイクロソフトオフィススペシャリストとはマイクロソフト オフィス製品の利用スキルを証明できる資格です。マイクロソフトオフィス製品にはExcelやWord、PowerPointなど、事務作業においてよく使用するツールが含まれます。
この資格は日常的にパソコンを使用している人であれば、2週間前後での取得も現実的です。受験後、合否がすぐに届くので、合否を長期にわたって待ち続けることもありません。
事務職は無資格で採用されることもありますが、マイクロソフトオフィススペシャリストを保有していれば、事務職としての適性やスキルを客観的に証明できます。また、内定後も業務にスムーズに入れるでしょう。
MOS資格の詳細はこちらからご覧いただけます。
ITパスポート
ITパスポートはIPAが主催する試験で、共通キャリア・スキルフレームワークにおいてもっとも易しいレベル(4段階中1)に位置付けられています。
ITパスポート保有者はITに関する基礎的な知識やスキルの保有を客観的に証明できるので、IT系企業に転職したい人におすすめです。また、試験では企業に関する知識や法務、経営戦略なども問われるため、ビジネスパーソンとしての能力を証明するのにも役立ちます。
IT社会といわれる昨今ですが、IT人材の不足は深刻な社会問題です。能力が期待されれば、50代も採用される見込みがあります。また、IT系の仕事はフリーランスやリモートワークとも相性が合うので、スキルがあれば自分のペースで働けるのも魅力です。
ITパスポートの詳細はこちらからご覧いただけます。
医療事務認定実務者
医療事務認定実務者とは医療事務に関する基礎的な知識があることを証明する資格です。この試験には学科試験と実技試験があり、いずれもマークシート形式で出題されます。
試験に向けた学習を通して、医療事務に関する知識、診療報酬明細書(レセプト)作成の知識・スキルが身につくので、医療事務として入社した後はスムーズに業務できるはずです。
医療事務は病院などで医療費の計算や保険者への診療報酬請求などの事務に携わります。また、患者の対応をしたり、診察室が分からない患者などを案内したりすることもあります。
簿記
事務職だけでなく、会計事務所で働きたい人にも簿記はおすすめできます。簿記は事業活動の資金の流れを記録し、自社の財政状況を把握する記録作業です。
事務職として働きたい人は、まずは3級、可能であれば2級を取得してみてください。1級の難易度は高く、取得するには覚悟が必要ですが、簿記1級保有者は専門的な業務を任せてもらえる可能性が高いです。
介護福祉士
介護福祉士は国家資格です。介護福祉士の業務は利用者の身体介助や生活支援だけでなく、利用者家族の相談にのったり、介護スタッフをマネジメントしたりすることも含まれます。
少子高齢化により、介護士の不足は社会問題にもなっています。こうしたことからも、未経験の50代を歓迎する老人ホームは多くあります。とはいえ、介護福祉士の資格があると採用率が上がるほか、資格手当なども付きます。
介護福祉士は国家試験ですが合格率は70%前後と比較的高く、50代も挑戦しやすい国家資格といえます。
4.50代が転職で成功するためのコツ
満足できる転職先をより短い期間で見つけるためにも、50代が転職活動を行う際はコツを押さえて行うことが大切です。
50代が転職で成功するためのコツとして、以下の4つが挙げられます。
エージェントを活用する
経験の棚卸しを行い、スキルを活かせる業界に応募する
自分に合う求人媒体を活用する
心身の健康を維持する
それぞれ確認していきましょう。
転職エージェントを活用する
転職エージェントを活用することで、一般には公開されていない非公開求人に出会うチャンスを得られます。人気企業や大手企業は応募者の殺到が予想されるため、転職エージェント経由でしか求人を出さない企業やポジションもあります。転職エージェントの担当者から応募先の条件にマッチすると判断されれば、非公開求人に応募できます。
特に、50代以上が求められる管理職や企業の重要なポジションなどは非公開求人として扱われていることが多いので、ミドル層以上こそ転職エージェントを活用するべきでしょう。
また、転職エージェントを利用することで、転職のプロと二人三脚で転職活動を進められます。応募する企業についての相談、応募書類の添削、面接対策などに応じてもらえることもあります。
経験の棚卸しを行い、スキルを活かせる業界に応募する
20代や30代前半であれば、経験やスキルがなくても、やる気やポテンシャルが評価されて採用にいたるケースも多いです。一方、50代の転職ではこれまでの社会人生活で何を行ってきて、入社後にそれがどのように活かせるのかが鍵になります。
内定を勝ち取るには経験の棚卸しを行い、応募先企業にどのような観点から貢献できるのか分かりやすく伝える必要があります。また、応募先で活かせるスキルについても書類や面接でアピールできると安心です。
自己分析をしっかりと行い、自分の特技や強みについて話せる準備をしましょう。
自分に合う求人媒体を活用する
求人媒体の中には対象年齢や職種を限定しているものもあります。例えば、50代以上を積極的に採用している企業の求人を中心に掲載している媒体、第二新卒を対象にした求人媒体、IT人材に特化した求人媒体、医療・介護職に特化した求人媒体などさまざまです。
50代が20代や30代を主なターゲットにした求人媒体で、応募する企業を探してもマッチする企業に出会いにくいだけでなく、応募したとしても採用される見込みは低いでしょう。求人媒体が自分に合っていないことに気付かないまま利用していると、時間の浪費にもつながるので注意が必要です。
心身の健康を維持する
転職活動は50代の転職活動では心身に負担がかかる傾向にあります。
現職と両立して転職活動を行う場合、休日や余暇を転職活動に充てなければならず、心身を休める時間は限られます。
また、不採用が続けば、自己嫌悪につながり、メンタルに不調をきたすこともあるでしょう。
休めるときは休み、不採用が続いても気分転換を行うなどして、心身の健康を保つことをおすすめします。
5.50代が転職する際の注意点
転職によって労働条件が改善したり、給与がアップしたりするとは限りません。場合によっては、後悔することにもなりかねないので注意が必要です。
50代が転職する際の注意点として、以下の3つが挙げられます。
思い立ったら転職活動をすぐにはじめる
年収が少なくなる可能性が高い
年齢を理由に採用を見送られる可能性がある
それぞれ確認していきましょう。
思い立ったら転職活動をすぐにはじめる
一概には言えないものの、転職は若ければ若いほど有利ともいわれています。年齢は日々重ねますので、年齢が少しでも若いうちに転職活動をはじめることをおすすめします。
また、50代の転職活動は難航するケースも多く、内定が出るまでに時間を要することも多々あります。想像以上に時間がかかることもあるので、早めに始める方がよいでしょう。
年収が少なくなる可能性が高い
転職することで今よりも年収を上げたいと考える人は多いと思います。しかし現実はシビアで、転職をすれば年収が上がるとは限りません。
厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」によると、50~54歳で転職した人の34.0%が年収減少、34.6%が増加55~59歳で転職した人の34.3%が年収減少、27.7%が増加という結果が出ています。
50~54歳は転職したことで年収が増加した人がやや多いものの、55~59歳は転職で年収が減少した人の方が多いのが現状です。
転職によって現在よりも年収が下がる可能性があることも、心に留めておくようにしてください。
年齢を理由に採用を見送られる可能性がある
企業が年齢を理由に求人への応募を断ることは、年齢に関わりなく均等な機会を与えなければならないという観点から禁じられています。しかし、実情としてはミドル層以上よりも20代や30代が転職市場において有利になるケースが多いようです。
30代の応募者と50代の応募者が同じスキルで、同等のコミュニケーション力だった場合、多くの企業が30代の応募者を採用する可能性が高いでしょう。つまり、50代の応募者が30代の応募者に勝つには、それ以上の経験や実績が重要になります。
関連記事
転職の最終面接で合格するために知っておくべきポイントについて解説
転職時の面接でありがちなミスや自分らしさを伝えるために意識すべきポイント
6.まとめ
近年、60代以上になっても働き続ける人が多いことなどからも、50代になってから「自分に合う仕事をしたい」と考える人や「将来を考慮した職業に転身したい」と考える人は少なくないように思います。
少子高齢化などによって労働人口が不足している昨今、ミドル層以上の働き手にも注目が集まっており、転職市場で以前ほど年齢がネックになることは少ないようにも見えます。しかし、人気企業や応募者が集まる業界は年齢が若い人ほど有利になる傾向があるでしょう。
50代が大手企業に転職するケースや50代から未経験の業界にチャレンジするケースも多々あります。これらには応募者が自身のスキルや経験を活かせるポジションに転身しているケースや、働き手が集まりにくい業界にチャレンジしているケースなども含まれることを念頭に置いておいてください。
ミドル層以上の人が転職活動で成功するには、キャリアの棚卸しを行い、自身の強みをアピールできるように準備しておくことが大切です。また、転職活動を長引かせないためにはある程度は妥協は必要かもしれません。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。