日常生活や事業活動において商品やサービスを消費する際には、代金に加えて「消費税」の支払いが求められます。しかし一部の商品の取引やサービスには、特例として消費税が課されない「非課税取引」が存在します。
そこでこの記事では非課税取引の概要とともに、非課税取引と似たような性質を持つ「不課税取引」や「免税取引」との違いについて解説します。
それぞれに該当する取引内容を理解しておくことで、日常の取引や記帳に役立つでしょう。
目次
1.非課税取引・不課税・免税の意味と相違点
非課税・不課税・免税はいずれも消費税がかからない点は共通していますが、それぞれ課税されない理由が異なります。この区分を正しく理解していないと、納税額を誤ってしまう可能性があります。
では、それぞれどのように区別して考えればよいのでしょうか?この章で解説します。
非課税取引とは
通常は課税取引に該当するものの中にも消費に対して税負担を求めるという消費税の性質になじまない取引や、社会政策上の配慮から課税を行わないとされている取引があります。
こうした非課税取引は、消費税法で限定的に定められています。後ほど詳しく解説します。
不課税取引とは
不課税取引とは課税取引に該当するための4つの要件を満たさない取引を指します。課税取引の4要件については後ほど詳細を解説します。
例えば海外での宿泊や飲食といった国外での消費・無償で行われる寄付や贈与・出資に対して支払われる配当金などが、不課税取引にあたります。
免税取引とは
商品の輸出・国際輸送・外国に所在する事業者へのサービス提供といった、いわゆる輸出類似取引は免税取引に該当します。
輸出の場合には資産の引き渡し時点ではその資産は国内にあるため「国内において行われる取引」という課税取引の要件を満たしその他の要件もクリアするため、本来であれば課税対象になります。
しかし消費税はあくまで国内での消費に対して課される税であることから、国外で消費されるものについては課税しない方針に基づき免税扱いとなっています。
非課税取引と不課税取引(対象外)の違いについてわかりやすく解説
免税取引・非課税取引と不課税取引はいずれも消費税が課されない点では共通していますが、課税売上割合の算出方法に違いがあります。
課税売上割合は総売上高(課税取引、非課税取引、免税取引の合計)を分母とし、そのうち課税売上高(課税取引と免税取引の合計)を分子とすることで求めます。
課税売上割合=(課税売上高+免税売上高)/(課税売上髙+免税売上高+非課税売上髙) |
このとき非課税取引は原則として分母にのみ含めます。一方で不課税取引は消費税の対象外のため、分母・分子のどちらにも含める必要がありません。
非課税取引と免税取引の違いについてわかりやすく解説
免税と非課税の違いについても、課税売上割合の計算式を思い出すと理解しやすいでしょう。
免税売上高は、計算式の分子・分母の両方に含まれています。これは、免税売上を「課税売上の一種」とみなしているためです。そのため、免税取引は「税率0%の課税」と表現されることもあります。
売上のすべてが免税取引であれば売上にかかる消費税の納税は不要となり仕入れにかかる消費税は控除できるため、還付を受けられる可能性があります。
一方で売上がすべて非課税取引の場合は、仕入れにかかる消費税の控除は認められないため還付は生じません。
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2.非課税・不課税などの課税区分を間違えると?
消費税の課税区分を誤ってしまうと、納税額や還付額を正確に計算できなくなります。これは次に説明するように課税売上割合の計算に影響を及ぼし、消費税の仕入税額控除の計算にも影響を与えるためです。
もし消費税の納税額が過小だった場合、税務調査で指摘を受けると追徴課税や加算税が課されることがあります。逆に納税額が過大であった場合は、企業が過剰に納税することになりキャッシュが減少します。
間違いに気づいた後に修正申告を行うのは追加の手間と時間を要するため、慎重に行動することが大切です。
不明点があれば、税務署や税理士に相談するのが良いでしょう。日常的に取引内容や消費税制度を正確に理解し、適切な課税区分を選ぶことが重要です。
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3.なぜ課税区分の正確な把握が必要なのか?
消費税は課税取引に対して適用されますが、不課税取引・非課税取引・免税取引には消費税が課されません。なぜこのような区分が必要なのでしょうか?
この章ではこれらの課税区分が必要な理由と、日常の経理処理でよく見落としがちなポイントについて解説します。
消費税額の正確な計算のため
不課税・非課税・免税取引を区分する理由は、それぞれの売上高がいくらになるかによって課税売上割合が異なってくるからです。この課税売上割合は、消費税の納税額を算出する際に必要な指標です。
課税売上割合が95%以上の場合、仕入れにかかる消費税全額が仕入税額控除の対象になります。しかし課税売上割合が95%未満の場合、一部の仕入れにかかる消費税は控除できなくなります。そのため、課税区分を誤ると消費税の納税額に影響が出ます。
誤った仕訳を発見し修正する作業が必要になるため、日々の経理処理では課税区分や勘定科目を間違えないように十分注意することが大切です。
4.非課税取引に該当する品目と適用条件
非課税取引が適用される具体的な品目を紹介した後、その適用条件についても確認していきましょう。
非課税とされる商品やサービスの特徴
非課税取引に該当する商品やサービスは、大きく2つのカテゴリーに分類されます。
税の徴収が適切でないと考えられる商品やサービス
社会的配慮が必要とされる商品やサービス
これらの性質を持つ商品やサービスには、以下のものが含まれます。
土地の売買や賃貸借における非課税扱い
土地の譲渡や貸付けは消費に対して税負担を課す性質とは相容れないため、税の徴収が適当でないとされています。ここで言う土地には借地権や所有権など、土地に関連する権利も含まれます。
ただし土地の貸付けが1ヶ月未満の場合や、駐車場や資材置き場などの施設利用に伴って土地が使用される場合については非課税取引には該当しません。
保険契約や有価証券取引の非課税区分
保険料は社会政策的配慮に基づき、また国債や株券などの有価証券の譲渡は課税対象とするのが適切ではないとされるため非課税取引に該当します。
また、保険料と同様の理由で共済掛金も非課税取引となります。ただし株式・出資・預託などの形式で提供されるゴルフ会員権やスポーツクラブ会員権の譲渡については、非課税取引には含まれません。
社会福祉関連サービスの非課税適用例
社会福祉事業に関連するサービスは、社会政策的な配慮を基に非課税取引として扱われます。代表的なサービスには以下のものがあります。
生活保護法に基づく救護施設の運営
児童福祉法に基づく各種施設の運営
老人福祉法に基づく養護老人ホーム・特別養護老人ホーム・軽費老人ホームの運営
更生保護事業法に基づく更生保護事業 など
住宅賃貸料や手数料の非課税扱い
住宅の家賃や手数料は日常生活に必要な要素の一部であり、消費税を課税することは望ましくないとされ非課税取引として扱われます。
ただし貸付期間が1ヶ月未満の場合や事務所や店舗などの商業目的での建物の貸付けは、非課税取引には該当しません。
非課税品目に対する例外事項
非課税対象品目であっても一部には例外が存在します。例えば有価証券の譲渡におけるゴルフ会員権(ゴルフクラブによる新規発行時の出資金や預託金の受領は課税対象外)や、住宅家賃に関連する建物の家賃などが該当します。その他にも、非課税対象となる品目でありながら例外に該当するものは以下の通りです。
銀行券・硬貨・小切手などを収集品として譲渡する場合(使用目的ではなく)
健康保険法や国民健康保険法などに基づく医療サービスに関して美容整形や差額ベッドの料金、市販薬の購入など
介護保険法に基づく保険給付対象の居宅サービスや施設サービスにおいて特別な居室の提供や送迎など、利用者の選択に基づく対価支払いが発生する場合
5.消費税の課税対象の要件について
非課税取引に該当するのは消費税の課税対象となる要件を満たしているものの、特定の理由から課税が望ましくないとされる取引です。一方で消費税の課税対象となる要件自体を満たさない取引は、不課税取引や免税取引に分類されます。
この章では消費税の課税対象についてさらに詳しく説明します。
国内で行われる取り引き
消費税が適用されるのは、日本国内で行われる取引に限られます。一方で日本国外で行われる取引は不課税取引となり、消費税の対象外となります。また特定の条件を満たす輸出取引については、免税取引として消費税が免除されることになります。
ビジネスとして行う取り引き
消費税の対象となるのは、事業活動として行われる取引です。これを「事業として行う取引」とも表現できます。
事業・ビジネスとして認められるのは、対価を得て反復的・継続的・独立して行う取引です。例えば、個人事業主がリサイクルショップを運営して中古品を販売する行為はビジネスに該当します。
しかし給与所得者が不用品を処分するために中古品を売る行為は、ビジネス目的とはみなされません。
対価を得て行う取り引き
消費税が課税されるのは、対価を得て行う取引です。無償で行われる贈与・寄付金・補助金など、対価が伴わない取引は消費税の課税対象にはなりません。
しかし以下のような行為は無償であっても対価を得て行われた取引とみなされるため、消費税の課税対象となります。
個人事業主が販売目的で仕入れや製造を行った商品を家庭で消費した場合
法人が自社製品を自社の役員に贈与した場合
資産の譲渡や貸付け
消費税法における「資産の譲渡や貸付け」とは、以下の行為を指します。なおいずれも有償で、事業として行われることが基本です。
商品や製品などの販売
資産の貸付け(リースやレンタルなど)。ただし学校教育で使用される教科用図書の譲渡については、非課税取引となります。
役務の提供や輸入取引
役務提供(サービスの提供)も消費税の課税対象となります。
例えば、コンサルティングサービスや塾・予備校などの教育サービスが挙げられます。しかし、一部の役務提供は非課税取引とされています。非課税取引に該当する役務提供の例は以下の通りです。
学校教育
各種保険適用の医療サービス
外国為替業務に関する役務提供
火葬料や埋葬料を対価とする役務提供
助産に関するサービスの提供 など
また輸出取引や国外で行われる取引は消費税の対象外ですが、輸入取引は基本的に消費税の課税対象となります。具体的には、保税地域から引き取られる外国貨物が課税対象となります。
課税売上高が一定基準を超える場合とインボイス制度対応
これまで消費税の課税対象となる取引について解説しましたが、すべての企業や個人事業主が消費税を納める義務があるわけではありません。
消費税の納税義務があるのは、基本的に一定の期間内に課税売上高などが1,000万円を超える企業や個人事業主です。
ただしインボイス制度の導入により課税売上高が1,000万円未満でも「消費税課税事業者選択届出書」を提出すれば、任意で課税事業者となり納税義務が発生することがあります。
6.課税・非課税取引が混在する場合の対応方法とインボイスの発行
インボイス制度は、10%と8%の複数税率に対応した仕入税額控除の方式です。消費税は売上にかかる消費税から仕入れにかかる消費税を差し引いて計算され、この差額が仕入税額控除にあたります。
ただしインボイス制度に基づく適格請求書がない場合、買い手は仕入れにかかる消費税を控除することができません。そのため取引先が免税事業者である場合、買い手は本来売り手が納めるべき消費税まで納めることになる可能性があります。
したがって仕入税額控除を受けるためには、適格請求書(インボイス)を発行することが必要でありそのためには課税事業者であることが求められます。
課税取引と非課税取引が混ざるケースにおけるインボイス対応
インボイス制度は複数税率に対応するための仕組みであり、課税取引に適用されます。したがって非課税取引の場合は消費税が発生しないため、インボイスを発行する必要はありません。
ただし課税取引と非課税取引が同時に行われる場合には、課税取引に該当する部分についてのみインボイスを発行する必要があります。
不課税取引と課税取引が並存する場合の取り扱い
課税取引と非課税取引が同時に行われるケースはまれですが、1枚の請求書に不課税取引と課税取引が混在することはほとんどありません。
ただし、例えば国内取引と国外取引を一緒に行う場合など課税取引と不課税取引が混在するケースもあり得ます。
非課税取引におけるインボイス発行義務の有無
非課税取引のみを対象とする請求書を作成する場合、インボイスを発行する必要はなく従来通り登録番号が記載されていない請求書を使用します。
しかし請求書業務の効率化を図り、登録番号入りのインボイス形式で統一している場合は非課税取引でもそのままインボイスを発行して問題ありません。
非課税・課税取引が併存する場合の適格請求書発行事業者登録要件
法人の場合は通常課税事業者であるため、適格請求書発行事業者としての登録は必須となります。
一方個人事業主や取引先が免税事業者や消費者の場合、課税事業者でなくても基本的に問題はありません。また取引先が簡易課税制度を選択している場合も、適格請求書発行事業者の登録は基本的に不要です。
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7.イレギュラーなケースにおける課税・非課税の区分方法
前述の非課税取引に該当する項目は消費税法に基づいて一定の条件が設定されており、場合によっては課税対象となることもあります。非課税取引でも課税される可能性があるケースについて、改めてまとめて具体例を挙げて解説しておきます。
契約期間が1か月未満の場合の取り扱い
土地の貸付けにおいて、貸付期間が1ヶ月未満の場合
ホテルや貸別荘、ウィークリーマンションのような貸付期間が1ヶ月に満たない場合 など
取引目的によって課税対象になる場合
建物や駐車場などの施設を利用するために土地が使用される場合
オフィスなど、事業として有償で行われる資産の貸付け
コレクションを目的に取引されたコイン
美容目的の治療や、健康保険が適用されない自由診療など
通夜や葬儀の前に行われる費用(火葬・埋葬費用を除く)
塾・予備校・そろばん塾などでの授業料 など
これらの取引は法律で規定されている場合でも、判断する際には複数の条文を確認する必要があり難しいことがあります。国税庁の「税についての相談窓口」などを活用し、個別のケースを確実に判断しましょう。
8.覚えておきたい制度:簡易課税制度
簡易課税制度は中小事業者の納税手続きの負担を軽減することを目的に設けられた制度で、事業者が選択することで売上にかかる消費税額を基準に仕入れにかかる消費税額を計算できる仕組みです。
具体的には所轄の税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した課税事業者が基準期間(個人事業者なら前々・法人なら前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下である課税期間について、売上に対する消費税額に事業の種類に応じたみなし仕入率を掛けた金額を仕入れにかかる消費税額とみなし売上にかかる消費税額から控除することができます。
当期の納付すべき消費税=売上(収入)に対する受取消費税額-(売上(収入)に対する受取消費税額 × みなし仕入率) |
なお簡易課税制度で適用される事業区分ごとのみなし仕入率は、以下のとおりです。
複数の事業を行っている事業者であっても、特定の1事業の課税売上高が全体の課税売上高の75%以上を占める場合はその事業に設定されているみなし仕入率をすべての課税売上高に対して適用することが認められます。
3種類以上の事業を営んでいる場合で特定の2事業の課税売上高の合計が全体の75%以上に達する事業者についてはその2つの事業のうち、みなし仕入率が高い方の事業にかかる売上高にはその高いみなし仕入率を残りの売上高にはその2事業のうち低い方のみなし仕入率を適用することが可能です。
簡易課税制度を選択しても、当期の支出や費用によっては必ずしも節税になるわけではありません。また一度簡易課税制度を選択すると、2年間は変更できず還付を受けることもできません。
9.非課税・不課税に関するよくある疑問:寄附金は非課税扱い?それとも不課税?
寄附金は典型的な不課税取引とされています。これは、寄附金が対価を伴わない取引であるためです。消費税は対価を得て行われる取引に課される税金であり、見返りを求めない寄附金はそもそも消費税の課税対象にはなりません。
ただし「寄附」として行われていても実際には対価性が認められる場合、その取引は不課税取引ではなく課税取引として扱われる可能性があります。
例えば寄附の見返りとして商品やサービスを提供する場合、その取引が実質的に対価を伴うものであれば消費税が課されることがあります。
そのため取引がどのような形式で行われているかだけでなく、実際の内容に基づいて判断することが重要です。
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10.まとめ
この記事では消費税の課税区分を誤った場合の影響や、課税区分の基本的な内容・具体的な例について解説しました。
課税区分を誤ると、企業にとって重大なリスクを招くこともあります。そのため正確な課税区分を理解し、日々の処理を適切に行うことが非常に重要です。
もし課税区分が不明な場合や迷った場合は、税務署に相談して、正しい経理処理を心掛けましょう。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。
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