消費税の課税期間は基本的に1年ですが、中間納付制度が導入されているため特定の条件に該当する場合にはこの制度が適用されることがあります。税金の支払い自体に変更はありませんが複数回に分けて納付することで、資金繰りの計画が立てやすくなるという利点があります。
そこでこの記事では消費税の中間納付に関して、対象や納付のタイミング、計算方法などについて詳しく解説します。中間納付を検討している方にとって役立つ情報を提供する内容ですので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.税の中間納付とは?
消費税は、他の税金と比べて納付額が大きくなりやすい特徴があります。そのため一度にまとまった金額を納める事業者の負担を軽減する目的、国の財政運営上、資金を分割して受け取る方が望ましいという事情の両面から、「中間納付制度」が設けられています。
中間納付を行う場合、最終的には確定申告時に実際の納税額を精算する必要があります。この章ではその仕組みについて詳しく解説していきます。
消費税の仕組み
まずは消費税についておさらいしておきましょう。消費税は私たちにとって身近な存在でありながら、その仕組みは意外と知られていません。
例えば100円の商品を作る場合を考えてみましょう。原材料を50円で購入するときに、消費税として5円を支払ったとします。この原材料を使って100円の商品を製造し、消費税10円を加えた110円で販売したと仮定します。今期の売上がこの取引だけだった場合、納める消費税は一体いくらになるでしょうか。
仮に10円全額を納めることになれば、すでに仕入れ時に5円を支払っているため、合計15円が国に納付されることになります。これは100円の商品に対して15%の消費税を課していることになり、整合性が取れません。
このような理由から、消費税は「受け取った消費税額から支払った消費税額を差し引いた分」を納税する仕組みになっています。
なお売上高が5000万円以下の事業者には「簡易課税制度」という特例が認められており、さらに一定期間、売上高などが1000万円未満であれば、そもそも消費税の納付義務自体が免除されます。
2.消費税の中間納付が必要となる事業者について
消費税の納税義務は課税事業者に限られていますが、課税事業者の中でも特定の条件を満たす場合には中間申告制度の対象となります。
この中間申告制度の適用条件は法人と個人事業主で異なるため、それぞれの条件について以下で確認していきましょう。
前年の消費税年税額(国税分)が48万円以上の場合
法人が中間申告を行う必要があるのは、前年度の確定消費税額が48万円を超えた場合です。現在の消費税率は8%と10%ですがこの税率には地方消費税が含まれており、実際の消費税率はそれぞれ6.24%と7.8%となっています。
確定消費税額には地方消費税額が含まれていないため、その点には注意が必要です。
法人だけではなく個人事業主も中間納付の対象になる
個人事業主が中間申告を行う必要があるのは、前年の確定消費税額が48万円を超えた場合です。
法人は事業年度ごとに判定されますが、個人事業主は前年の1月1日から12月31日までの1年間の確定消費税額を基に判断されます。
また個人事業主の場合も、法人と同様に地方消費税額を含まない確定消費税額で判断されます。
なお国税通則法に基づき申告期限が延長されてその結果、中間申告書の提出期限とその対象となる課税期間の確定申告書の提出期限が同じ日になる場合には中間申告書の提出は不要となります。
また中間申告書の提出義務がある事業者が提出期限までに中間申告書を提出しなかった場合には提出があったものとみなされ、直前の課税期間の実績に基づく中間申告方式によって算出された消費税額が直ちに確定することになります。
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3.消費税の中間納付が必要な回数とそのタイミング
基本的に、税務署から送られてきた納付書に基づいて消費税の中間申告・中間納付を行うことになります。その基準は前期の「国税のみ」の消費税額に基づいて、以下の段階に分かれています。
直前課税期間の消費税額(国税のみ) | 確定申告 | 中間申告 | 申告の間隔 |
---|---|---|---|
48万円以下 | 1回 | 0回 | (任意で1回可能) |
48万円超から400万円以下 | 1回 | 1回 | 6ヶ月 |
400万円超から4,800万円以下 | 1回 | 3回 | 3ヶ月 |
4,800万円超 | 1回 | 11回 | 1ヶ月 |
事業者の都合で申告の時期や回数を変更することはできません。
ここからは中間納付の回数について詳細に解説します。
前年度の消費税額が48万円以下の場合
前年度の消費税額が48万円以下であれば、中間申告は不要です。そのため、税務署から申告書類は届きません。
ただし手間は増えますが、税務署に届出を出すことで1回のみの中間申告を行うことができます。中間納付は税金を分割して支払う方法ですので、分割払いの方が都合が良ければ中間納付を検討しても構いません。しかし納付を忘れてしまうと延滞税が発生するので、注意が必要です。
任意の中間申告制度については、後で改めて解説します。
前年度の消費税額が48万円超~400万円以下の場合
前年度の消費税額が48万円超~400万円以下の場合、確定申告1回と中間申告1回の合計2回の申告が必要となります。中間申告書と納付書は決算期から約半年後に届き、納付期限はその2ヶ月後です。
前年度の消費税額が400万円超~4,800万円以下の場合
前年度の消費税額が400万円超~4,800万円以下の場合、確定申告1回と中間申告3回の合計4回の申告が求められます。中間申告書と納付書は決算期から約3ヶ月ごとに届き、それぞれの2ヶ月後が納付期限となります。
前年度の消費税額が4,800万円超の場合
前年度の消費税額が4,800万円超の場合、確定申告1回と中間申告11回の合計12回の申告が必要です。
中間申告書と納付書は決算期から約1ヶ月ごとに届き、納付期限は以下の通りです。
個人事業主の場合:1月~3月分は5月末日までに申告、4月~11月分についてはそれぞれ中間申告対象期間の末日の翌日から2か月以内に申告が必要です。
法人の場合:課税期間が始まった後の最初の1か月分については課税期間開始日から2か月経過後、さらに2か月以内に申告を行う必要があります。その後の10か月分については、それぞれの中間申告対象期間の末日の翌日から2か月以内に申告します。
なお消費税確定申告の期限延長特例を適用している法人は課税期間開始後2か月分について課税期間開始日から3か月経過後から2か月以内に申告し、それ以降の9か月分は通常通り中間申告対象期間の末日の翌日から2か月以内に申告する形となります。
4.消費税の中間納付額の計算方法を知ろう
中間申告で納める税額は、「予定申告方式」と「仮決算方式」のどちらを採用するかによって異なります。これから、それぞれの方式における納付期限や税額の考え方について詳しくご説明します。
予定申告方式による計算
予定申告方式による金額は以下の通りです。
48万円超~400万円以下:直前の課税期間の確定消費税額の6/12とその78分の22の地方消費税
400万円超~4,800万円以下:直前の課税期間の確定消費税額の3/12とその78分の22の地方消費税
4,800万円超:直前の課税期間の確定消費税額の1/12とその78分の22の地方消費税
仮決算方式による計算
仮決算方式では中間申告対象期間をひとつの課税期間とみなし、仮決算を行って消費税および地方消費税の納付額を算出します。
この方式を利用する場合には中間申告の都度、仮決算に基づいて消費税・地方消費税の中間申告書を作成して納税額を計算する必要があるため業務量が増加する点には注意が必要です。
一方で前年よりも業績が落ち込み、予定申告方式を選ぶと過大な税額を納付することになりそうな場合には仮決算方式を活用することで税負担を抑えることができるという利点もあります。
なお仮決算による計算で税額がマイナスとなっても、還付は受けられない点には気をつけましょう。
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5.消費税の中間納付の仕訳方法を解説
消費税の中間申告に伴う仕訳は、税抜経理方式か税込経理方式かによって異なります。それぞれのケースに応じた仕訳方法を確認していきましょう。
税抜方式の場合の仕訳
消費税を税抜経理方式で処理している事業者が中間消費税を支払う場合は、「仮払金」または「仮払消費税等」という勘定科目を使って仕訳を行います。
中間消費税20万円を当座預金から支払った場合は以下の通りです。
借方) | 仮払金 | 20万円 | 貸方) | 当座預金 | 20万円 |
決算時には売上時に預かった「仮受消費税等」と仕入時に支払った「仮払消費税等」を相殺し、最終的に精算します。このとき、支払済みの中間消費税についても合わせて処理します。
例)【決算】消費税を精算したケース(仮受消費税等残高:100万円、仮払消費税等残高:40万円、確定納付額:29万9,800円)
借方) | 仮受消費税等 | 100万円 | 貸方) | 仮払消費税等 仮払金 未払消費税等 雑収入 | 40万円 20万円 29万9,800円 200円 |
なお「仮払消費税等」と「未払消費税等」の合計が「仮受消費税等」と必ずしも一致しない場合があります。この差額については「雑収入」または「雑損失」として処理します。
仮払消費税等:税抜経理方式を採用している場合に、仕入れなどで支払った消費税を資産として計上する勘定科目です。税込経理方式では使用しません。
仮受消費税等:税抜経理方式を採用している場合に、売上に伴い預かった消費税を負債として計上する勘定科目です。こちらも税込経理方式では使用しません。
税込方式の場合の仕訳
税込経理方式を採用している事業者が中間消費税を支払う際には、「租税公課」の勘定科目を使用して仕訳を行います。
中間消費税20万円を当座預金から支払った場合は以下の通りです
借方) | 租税公課 | 20万円 | 貸方) | 当座預金 | 20万円 |
確定納付額を未払処理した場合は以下の通りです。
借方) | 租税公課 | 20万円 | 貸方) | 未払消費税等 | 20万円 |
納付が次の期に行われる場合は、未払処理を行う必要があります。これにより11回目の中間納付も未払処理が必要となります。なお注意点として11回目の中間納付期限は決算月の翌月となります。したがって決算日以降に11回目の中間納付を行う場合は、消費税納付予定額について未払処理をする必要があります。
6.消費税の中間納付手続きの方法一覧
中間納付はまず申告書を作成・提出した後に、消費税の納付を行う流れで進められます。予定申告方式を選択する場合、税務署から送られてきた申告書を使用します。
一方仮決算方式を選ぶ場合には、新たに申告書を作成する必要があります。申告書は国税庁のWebサイトからダウンロード可能です。
中間申告書は所轄の税務署に提出しなければなりませんが、税務署の窓口への直接提出だけでなく郵送やe-Taxを利用してオンラインで申告することも可能です。
以下では、消費税の納付方法について説明します。
e-Taxでダイレクト納付
電子納税の一形態として、e-Taxを利用することで簡単な操作で納税が可能です。e-Taxの開始届出書とダイレクト納付利用届出書を提出すれば、指定した預貯金口座から自動的に納付ができます。
中間納付の申告をe-Taxで行いたい方や納付日を指定して納税したい方には、この方法が便利です。
振替納税の利用
消費税の中間納付は、口座振替を利用した振込納付も選択できます。あらかじめ口座情報を登録しておけば、納付の手間を省けるという利点があります。自動で引き落としが行われるため、納付の忘れによる延滞税を防ぐことができます。
インターネットバンキングで納付
インターネットバンキングを利用した納税方法です。e-Taxの開始届出書を提出し、インターネットバンキングまたはモバイルバンキングと契約している場合に利用可能です。
e-Taxで申告を行っている方や、日常的にネットバンキングやモバイルバンキングを利用している方に特におすすめの方法です。
クレジットカードによる納付
消費税の中間納付を行う際には、クレジットカードでの納付も非常に便利です。クレジットカードを利用することでいつでも納付でき、後から分割払いやリボ払いに変更することも可能です。
納税の負担を軽減しやすく、特に個人事業主にとっては大きなメリットがあります。もし金融機関や税務署に足を運ぶ時間がなくインターネットでの納付ができない場合には、クレジットカードでの納付を検討してみると良いでしょう。
納付アプリを使う
スマホアプリを使って消費税を納付する方法です。納付する税額が30万円以下でスマホアプリの決済サービスを利用できる方が対象となります。
対応している税目はすべての税目に対応しており、消費税の納付にも問題なく利用できます。
コンビニ納付(QRコード方式)
QRコードを利用して、コンビニで納付することもできます。コンビニ納付用のQRコードを持っている方は、最寄りのコンビニで消費税を納付できます。この方法は、金融機関や税務署が遠い場所にある方にとって非常に便利です。
コンビニ納付(バーコード方式)
コンビニでの納付方法の一つに、バーコードを読み取って行う方法もあります。QRコードではなくバーコードが付いた納付書を持っている方は、この方法で納付できます。税務署からバーコード付きの納付書が送られてきた場合、この方法を利用できます。
税務署や金融機関窓口で納付
消費税の中間納付は、金融機関や税務署の窓口で直接行うことができます。現金での納付となるため、事前に納付額を準備しておく必要があります。もし金融機関や税務署に足を運ぶ予定がある場合は、その際に中間納付を合わせて行うことも考慮できます。
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7.中間納付をしないと?
前年または前事業年度の消費税額が基準額を超えているのに中間納付を行わなかった場合、どうなるのでしょうか。
消費税および地方消費税の確定申告書を提出しないと、予定申告方式による申告書が提出されたものとして扱われ消費税額が確定します。この場合ペナルティは課されませんが、期限後の申告書提出は認められないため仮決算方式への変更はできません。
納付が遅れた場合、納付期限の翌日から実際の納付日まで延滞税が課されます。延滞税の税率は通常の確定申告の場合と変わらず基本的には納付期限の翌日から2ヶ月以内は7.3%、2ヶ月を超えると14.6%の税率が適用されます。
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8.消費税の中間納付時に注意すべきポイント
この章では消費税の中間納付時に注意すべきポイントについて解説します。
期限内に申告書を提出すること
仮決算方式で中間申告・納付を行いたい場合、期限内に中間申告書を提出する必要があります。もし提出しない場合、申告・納付は自動的に予定申告方式で行われることになります。
提出期限を過ぎてから申告を行うことはできませんので、仮決算方式を選ぶ場合は早めに申告を済ませておくことが重要です。中間申告書の提出期限は、基本的に中間申告対象期間の末日の翌日から2ヶ月以内です。
納付遅れに注意すること
中間納付の期限内に納税を行わないと、遅延した分について延滞税が課されます。これにより、納税額が増えてしまうため、納付期限を正確に把握し、延滞税による負担を避けるよう注意することが重要です。
万が一期限を過ぎてしまった場合は、すぐに納税を行うことが大切です。納付が遅れるほど、延滞税の負担が大きくなるので、早急に対処することを心がけましょう。
中間申告の対象外でも任意で納税可能
すでにご説明した通り中間申告が義務付けられるのは、確定消費税額が48万円を超える場合です。ただし年に1回、自主的に中間申告書を提出できる「任意の中間申告制度」が設けられています。
直前の課税期間における確定消費税額(地方消費税分を除いた金額)が48万円以下の事業者(中間申告義務のない事業者)は、「任意で年1回の中間申告書を提出する」旨を記載した届出書を納税地を管轄する税務署長に提出することで届出後最初に到来する6か月間から、自主的に中間申告と納付を行うことが可能になります。
この場合の中間納付税額は、直前の課税期間における確定消費税額の12分の6の金額(直前の課税期間が12か月に満たない場合には、別途定められた計算方法により算出)となります。
なお提出期限までに中間申告書を提出しなかった場合は、6月中間申告対象期間の末日に任意の中間申告制度を取りやめる届出がされたものとみなされます。
なお任意の中間申告を選択した場合、6月中間申告対象期間の末日の翌日から2か月以内に中間申告書を提出して消費税および地方消費税を納付する必要があります。
中間申告義務のある事業者(確定消費税額48万円超)が中間申告書を期限までに提出しない場合は自動的に提出があったものとみなされますが、任意の中間申告の場合はその扱いが異なり提出がなかったものとされ中間納付はできなくなります。
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9.まとめ
ここまで消費税の中間申告について解説してきました。
実務では届いた納付書に従って支払いを済ませることになるでしょうから、あまり細かい部分まで意識する機会は少ないかもしれません。
しかし、中間納付の金額は、実際にはここまで解説してきたように規定されています。前年度の確定消費税額を納付回数で割った金額を基準に、細かい調整を加えて金額が決められています。
また中間納付を行う回数も前年度の確定消費税額によって異なり、1回・3回・11回に分けられています。
なお国税と地方消費税では計算方法が異なるため、自分で納付書を作成する場合は計算ミスに十分注意が必要です。
消費税に関する仕訳例も紹介していますので、迷ったときには参考にして仕訳作業を進めてください。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。
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