DevOpsは、開発チームと運用チームが密接に連携し、ビジネス価値を迅速かつ継続的に提供するための重要な取り組みです。
しかし、DevOpsの概念は広範で、導入方法やツール選定を誤ると、期待した効果を得られないケースも少なくありません。
この記事では、DevOpsの基礎から、アジャイル開発やCI/CDとの違い、導入のステップ、具体的なツール、さらにはDevOpsエンジニアの役割に至るまで詳しく解説します。
DevOpsの導入を検討している方々にとって、実践的に役立つ情報をわかりやすくまとめました。
ぜひ最後までお読みいただき、DevOpsへの理解を深めてください。
目次
1.DevOpsとは?
DevOpsとは、開発(Development)と運用(Operations)が密接に連携し協力する文化や手法、考え方全般を指します。
目的は、ビジネス価値を迅速かつ継続的に顧客へ届けることです。単なるツール導入や組織変更だけでなく、チーム間のコミュニケーション改善やプロセスの自動化、そして継続的な改善活動がDevOpsの本質と言えます。
開発と運用の壁を取り払い、共通の目標に向かって協力し合うことで、システム開発のライフサイクル全体の効率化を目指す動きが重要です。
2.DevOpsが重要な理由
DevOpsが重要視される背景には、市場の変化の速さと顧客ニーズの多様化があります。このような状況下でビジネス競争力を維持・向上させるには、新しいサービスや機能を迅速に市場へ投入し、顧客からのフィードバックを素早く製品改善に活かすサイクルが不可欠だからです。
従来の縦割り組織では、開発と運用の間で連携がスムーズにできず、リリース遅延や手戻りが発生しがちでした。DevOpsを導入することで、よりスムーズに開発からリリース、運用までのプロセス全体の効率化が可能です。
その結果、ビジネスの俊敏性が高まり、顧客満足度の向上にもつながるため、多くの企業でその重要性が認識されています。
3.アジャイル開発やCI/CDとの違い
DevOpsを理解する上で、アジャイル開発やCI/CDとの違いを把握することは大切です。それぞれの違いを見ていきましょう。
アジャイル開発との違い
CI/CDとの違い
アジャイル開発との違い
アジャイル開発とは、反復的な短い期間で開発を進め、変化への対応力を高める開発手法です。
主に開発チーム内での効率化や柔軟性向上が主な目的です。一方、DevOpsは開発チームだけでなく、運用チームも含めた組織全体の協力体制と文化の変革を目指す点で異なります。
アジャイル開発が「より良く作る」ことにフォーカスするのに対し、DevOpsは「より良く作り、より良く届け、より良く運用する」という、開発から運用までのライフサイクル全体を対象とする点が大きな違いです。
アジャイル開発の成果を迅速かつ確実に運用に乗せるために、DevOpsの考え方が活きてきます。
CI/CDとの違い
CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリーまたはデプロイメント)は、ソフトウェアの変更を頻繁かつ確実にリリースするための自動化されたプラクティスです。
CI/CDはDevOpsを実現するための重要な技術的要素の一つと位置づけられます。DevOpsが開発と運用の文化やプロセス全体の変革を目指す広範な概念であるのに対し、CI/CDはその中の自動化と効率化を具体的に支える実践手法です。
CI/CDパイプラインを構築・運用することで、DevOpsの目指す迅速で信頼性の高いリリースが実現しやすくなります。つまり、CI/CDはDevOpsの一部であり、DevOpsの成功に不可欠な手段と考えると分かりやすいはずです。
4.DevOpsを利用するメリット
DevOpsを導入すると、開発と運用の連携が強化され、多くのメリットが期待できます。それぞれのメリットを解説していきます。
導入するスピードが早い
品質や信頼性が高まる
拡張しやすい
共同作業がしやすくなる
セキュリティ強化がしやすい
復旧時間が早くなりやすい
導入するスピードが早い
DevOpsの導入は、ソフトウェアやサービスのリリース頻度と速度を大幅に向上させます。
開発からテスト、デプロイメントに至るプロセスを自動化し、手作業によるボトルネックを解消できるからです。加えて、小さな単位で頻繁にリリースを行うため、変更に対するリスクも低減します。フリーランスのプロジェクトマネージャーの方にとっては、市場への迅速な価値提供は大きな強みとなるはずです。
開発チームと運用チームがスムーズに連携することで、アイデアから実現までのリードタイムが短縮され、ビジネスチャンスを逃しにくくなる点も魅力となります。
品質や信頼性が高まる
DevOpsの実践は、開発されるソフトウェアやサービスの品質と信頼性の向上に大きく寄与するのがメリットの一つです。
CI/CDパイプラインに自動テストを組み込むことで、コード変更時の問題を早期に発見し、修正できるようになります。また、頻繁なリリースと監視を通じて、本番環境での問題を迅速に検知し対応する体制が整います。
開発と運用の連携が強化されると、運用からのフィードバックが開発へスムーズに伝わり、継続的な品質改善が進むでしょう。結果として、ユーザーにより安定したサービスを提供でき、顧客満足度の向上にもつながるはずです。
拡張しやすい
DevOpsのアプローチは、システムの拡張性を高める上でも有効です。
Infrastructure as Code (IaC) のようなプラクティスを採用すると、インフラ環境の構築や変更をコードで管理し、自動化できます。この仕組みがあることで、需要の増減に合わせて迅速かつ正確にリソースをスケールアップまたはスケールダウンさせることが容易になるのです。
また、マイクロサービスアーキテクチャとの親和性も高く、サービス単位での独立した開発・デプロイ・スケーリングが可能になります。変化に強いシステム基盤を構築し、ビジネスの成長に合わせて柔軟に対応できる体制を整えることは、将来の事業拡大を見据える上で大きな利点です。
共同作業がしやすくなる
DevOpsは、開発チームと運用チーム間の壁を取り払い、共同作業を促進する文化を醸成します。共通の目標と責任を持つことで、チーム間のコミュニケーションが活発になり、情報共有もスムーズに進むようになるでしょう。
バージョン管理システムやチャットツール、プロジェクト管理ツールなどの活用は、透明性の高い情報共有基盤を提供し、認識の齟齬を防ぎます。開発と運用の担当者が互いの業務を理解し尊重し合うことで、より建設的な議論が生まれ、問題解決も迅速に進むはずです。
セキュリティ強化がしやすい
DevOpsのプロセスにセキュリティを組み込む「DevSecOps」という考え方は、セキュリティ強化に大きく貢献します。
開発の初期段階からセキュリティを考慮し、自動化されたセキュリティテストをCI/CDパイプラインに統合することで、脆弱性を早期に発見し対処できるようになるのです。
また、Infrastructure as Code (IaC) を用いることで、セキュリティポリシーに準拠したインフラをコードで定義し、一貫性のあるセキュアな環境を構築・維持しやすくなります。
復旧時間が早くなりやすい
DevOpsを取り入れた環境では、万が一システムに問題が起きても、元に戻すまでの時間を短くできます。なぜなら、問題を見つけやすく、修正したプログラムをすぐに提供できる仕組み(自動化された展開手順や監視システムなど)が整っているためです。
また、小規模な変更を頻繁にリリースするプラクティスは、問題が発生した際の影響範囲を限定し、ロールバックも容易にします。運用チームは障害対応に追われる時間が減り、より戦略的な業務に集中できるようになるでしょう。ビジネス継続性の観点からも、迅速な復旧体制は極めて重要な要素となります。
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5.DevOpsを利用するデメリット
DevOpsは多くのメリットがありますが、導入や運用において考慮すべきデメリットや課題も存在します。それぞれを見ていきましょう。
スケジュール把握がしにくい
専門知識やノウハウが求められる
大規模開発には向いていない
スケジュール把握がしにくい
DevOps、特にアジャイル開発と組み合わせた場合、従来のウォーターフォール型開発と比べて厳密な長期スケジュールの策定や進捗把握が難しくなることがあります。
反復的な開発サイクルの中で仕様変更や優先順位の見直しが柔軟に行われるため、最終的な完成形やリリース時期が初期段階では不明確になりやすいです。
専門知識やノウハウが求められる
DevOpsを効果的に実践するには、自動化ツール、クラウドプラットフォーム、CI/CDパイプライン構築など、多岐にわたる専門知識や技術的ノウハウが求められます。
また、開発と運用の両方の視点を持つことや、チーム間のコミュニケーションを円滑に進めるソフトスキルも重要となるでしょう。これらのスキルを持つ人材の確保や育成には時間とコストがかかる場合があります。
そのため、組織としてDevOpsに取り組む際には、計画的な教育体制の整備や、必要に応じて外部の専門家のサポートを得ることも有効な手段となり得ます。
大規模開発には向いていない
DevOpsの考え方自体はプロジェクトの規模に依存しませんが、特に大規模で複雑なシステム開発においては、導入と実践の難易度が上がることがあります。
多くのチームが関わる場合、全体のコミュニケーションやプロセスの標準化、ツールの一貫性を保つことが課題となりやすいです。また、既存の巨大なレガシーシステムにDevOpsを適用しようとすると、技術的負債や組織文化の変革が大きな障壁となるケースも見られます。
ただし、これはDevOpsが「向いていない」というより、「導入に際してより慎重な計画と段階的なアプローチが必要」と捉えるべきでしょう。
6.DevOpsを利用する流れ
DevOpsの考え方を取り入れた開発・運用の流れは、以下のとおりです。一つずつ解説していきます。
計画
コーディング
ビルド
テスト
デプロイ
保守・運用
モニター・フィードバック
計画
DevOpsにおける計画段階では、ビジネス要件や顧客のニーズを定義し、開発する機能の優先順位付けを行います。ここでは、開発チームと運用チーム、そしてビジネスサイドが密接に連携し、共通の理解を形成することが重要です。
アジャイル開発のアプローチを取り入れ、ユーザーがどのようにシステムを使うかの具体的な場面を考えたり、作業の計画を立てたりすることも一般的です。この段階で、チーム全体の目標を明確にし、必要なリソース(人、時間、予算など)をどのように配分するかを決め、次のコーディング作業へスムーズに進めるように準備を整えることが求められます。
コーディング
コーディング段階では、計画に基づいて開発者が実際にソースコードを作成します。
この際、バージョン管理システム(Gitなど)の使用が不可欠であり、チームメンバー間のコード共有や変更履歴の管理を効率的に行います。
また、コードの品質を保つために、コーディング規約の遵守や単体テストの実装もこの段階で意識されるべき点です。DevOps環境では、開発者は頻繁にコードをリポジトリにコミットし、次のビルドプロセスへと繋げていくことが奨励されます。
ビルド
ビルド段階では、開発者が作成したソースコードをコンパイルし、実行可能な形式(アプリケーションやライブラリなど)に変換します。
このプロセスは、CIツールによって自動化されるのが一般的です。コードがリポジトリにコミットされるたびに自動的にビルドが実行され、問題があれば即座に開発者にフィードバックされます。ビルドの成功は、コードの統合に問題がないことを示す最初の関門と言えるでしょう。
この自動化されたビルドプロセスが、後のテストやデプロイの効率化、そして品質向上に大きく貢献します。
テスト
テスト段階は、ビルドされたアプリケーションが要件を満たし、品質基準をクリアしているか検証する極めて重要な工程です。
DevOpsでは、単体テスト、結合テスト、受け入れテストなど、様々なレベルのテストが自動化され、CI/CDパイプラインに組み込まれます。自動テストによって、開発者は迅速にフィードバックを得られ、バグの早期発見と修正が可能になるのです。品質を担保しながらリリーススピードを上げるためには、このテスト自動化が鍵となります。
デプロイ
デプロイ段階では、テストをクリアしたアプリケーションを本番環境またはステージング環境へリリースします。
DevOpsにおいては、このデプロイプロセスも可能な限り自動化されるのが理想です。CDツールを用いることで、手作業によるミスを減らし、迅速かつ安全にアプリケーションをユーザーへ届けられます。
ブルー/グリーンデプロイメントやカナリアリリースといった高度なデプロイ戦略を採用し、リスクを最小限に抑えながら新しいバージョンを公開させられます。リリースの頻度と安定性を両立させる上で、自動化されたデプロイは欠かせません。
保守・運用
アプリケーションが本番環境にデプロイされた後、保守・運用段階に入ります。このフェーズでは、システムの安定稼働を維持し、パフォーマンスを最適化し、発生した問題に迅速に対応することが主な役割です。
DevOpsでは、運用チームも開発プロセスに早期から関与し、システムの運用性や監視のしやすさを考慮した設計を行います。また、Infrastructure as Code (IaC) を活用してインフラ構成をコードで管理し、再現性のある環境構築や変更管理を実現する取り組みも重要です。
開発と運用が一体となってシステムのライフサイクル全体に責任を持つ文化が求められます。
モニター・フィードバック
モニター・フィードバック段階は、本番環境で稼働しているアプリケーションのパフォーマンスやユーザーの利用状況を継続的に監視し、得られたデータや知見を収集・分析する工程です。
この情報は、システムの安定性維持や問題の早期発見、そして将来の改善や新機能開発のための重要なインプットとなります。DevOpsサイクルでは、このフィードバックが計画段階へと繋がり、継続的な改善ループを形成するのです。
ログ管理ツールやAPMツールなどを活用し、システムの状態をリアルタイムに把握することが、迅速な意思決定とサービス品質向上に不可欠です。
7.DevOpsで業務フローを効率化するステップ
DevOpsを導入して業務フローを効率化するためには、以下のように段階的かつ計画的なアプローチが求められます。ひとつひとつ解説していきます。
目的を明確化する
チーム編成と役割分担を行う
適切なツールやプラットフォームを決める
自動化を導入する
試験運用を行う
導入効果の確認と改善を行う
目的を明確化する
業務フロー効率化の最初のステップは、DevOps導入によって何を達成したいのか、具体的な目的を明確にすることです。
例えば、「新機能のリリースサイクルを現在の半分に短縮する」「システム障害からの復旧時間を平均X分以内にする」「手作業によるデプロイミスをゼロにする」など、測定可能で具体的な目標を設定します。
この目的が曖昧なままでは、取り組みが迷走したり、導入効果を正しく評価できなかったりする可能性が高くなってしまいます。チーム全員で目的を共有し、共通認識を持つことが、その後の活動の方向性を定める上で極めて重要です。
チーム編成と役割分担を行う
DevOpsによる業務フロー効率化を推進するためには、適切なチーム編成と明確な役割分担が不可欠です。
開発担当者と運用担当者が密接に連携できるようなチームの組成を検討しましょう。従来の縦割り構造を見直し、共通の目標に向かって協力し合える体制づくりが求められます。
適切なツールやプラットフォームを決める
DevOpsの実践と業務フロー効率化には、適切なツールやプラットフォームの選定が欠かせません。
CI/CDツール、構成管理ツール、監視ツール、コミュニケーションツールなど、DevOpsライフサイクルの各段階を支援する様々なツールが存在します。自社の目的、チームのスキルセット、既存システムとの連携性、そして予算などを総合的に考慮し、最適な組み合わせを選択することが重要です。
AWSやAzureのようなクラウドプラットフォームは、DevOpsに必要な多くの機能をサービスとして提供しており、導入のハードルを下げる一助となるでしょう。ツール選定は慎重に行い、チームが使いこなせるものを選ぶべきです。
自動化を導入する
業務フロー効率化におけるDevOpsの核となるのが、手作業プロセスの自動化です。
ビルド、テスト、デプロイ、インフラ構築といった反復的で時間のかかる作業を自動化することで、ヒューマンエラーを削減し、作業時間を大幅に短縮できます。CI/CDパイプラインの構築はその代表例と言えるでしょう。自動化は、開発者や運用担当者がより創造的で価値の高い業務に集中するための時間を生み出します。
まずは、効果が大きく導入しやすい部分からスモールスタートで自動化を進め、徐々に範囲を拡大していくアプローチが現実的です。
試験運用を行う
新しいプロセスやツールを導入した後は、本格展開の前に試験運用を行うことが重要です。
まずは小規模なプロジェクトや一部のチームでDevOpsのアプローチを試行し、実際の運用における課題や改善点を洗い出します。この段階で得られたフィードバックは非常に貴重で、本格導入に向けた計画の精度を高めるのに役立つでしょう。
試験運用を通じて、ツールの使い方に習熟したり、チーム内のコミュニケーション方法を確立したりすることも可能です。リスクを最小限に抑えつつ、効果的にDevOpsを組織へ浸透させるための重要なステップです。
導入効果の確認と改善を行う
DevOpsによる業務フロー効率化は一度導入して終わりではなく、継続的な効果測定と改善が不可欠です。
試験運用や本格導入後には、事前に設定した目的に対してどの程度の効果があったのかを定量的に評価します。リリース頻度、平均復旧時間、デプロイ失敗率などのKPI(重要業績評価指標)を定めてモニタリングし、定期的に振り返りを行うことで、さらなる改善点が見えてくるでしょう。
この改善サイクルを回し続けることが、DevOps文化を組織に根付かせ、持続的な業務フロー最適化を実現する鍵となります。
8.DevOps導入事例
DevOpsの導入は、業種や企業規模を問わず、多くの組織で成果を上げています。具体的な事例を知ることで、自社への導入イメージがより明確になるはずです。
Netflix
Docusign Inc.
すかいらーくグループ
Netflix
Netflixは、DevOpsを大規模に実践し成功を収めている代表的な企業です。同社は、多数のマイクロサービスから構成される複雑なシステムを、高い信頼性と迅速な更新頻度で運用しています。その背景には、徹底した自動化、クラウドネイティブなアーキテクチャ、そして失敗から学び迅速に改善する文化があります。
カオスエンジニアリングのような先進的な取り組みも積極的に導入し、システムの堅牢性を高めている点は特筆すべきでしょう。Netflixの事例は、特に大規模サービスを運用するエンジニアやプロジェクトマネージャーにとって、DevOpsがもたらす価値を具体的に示唆してくれます。
参考:https://www.slideshare.net/slideshow/netflix-a-state-of-xen-chaos-monkey-cassandra/53478023
Docusign Inc.
電子署名サービスを提供するDocusign Inc.も、DevOps導入によって大きな成果を上げた企業の一つです。同社は、急速な事業成長に伴い、開発サイクルの迅速化とサービス品質の向上が課題となっていました。そこで、CI/CDパイプラインの構築や自動テストの強化、開発チームと運用チームの連携促進といったDevOpsプラクティスを導入したのです。
その結果、リリース頻度の大幅な向上とシステム障害の削減を実現し、顧客満足度の向上にもつながりました。特にSaaSビジネスを展開する企業にとって、Docusignの事例は競争力強化のヒントとなるでしょう。
参考:https://www.pagerduty.com/blog/devops-case-studies/
すかいらーくグループ
国内大手外食チェーンであるすかいらーくグループも、DevOpsの考え方を取り入れ、システム開発の内製化と迅速化を進めています。同社では、顧客向けモバイルアプリや店舗システムなど、多岐にわたるITシステムを自社で開発・運用する必要性が高まっていました。
アジャイル開発手法の導入や開発・運用チームの連携強化、そしてクラウドプラットフォームの活用を通じて、変化への対応力を高め、新しいサービスをスピーディーに提供できる体制を構築しつつあります。飲食業界のような伝統的な産業においても、DevOpsが事業変革を後押しする事例として、多くの情シス担当者や経営層に示唆を与えるはずです。
参考:https://classmethod.jp/cases/skylark/
9.DevOpsを導入する際の注意点
DevOps導入は多くのメリットをもたらしますが、成功のためにはいくつかの注意点を理解しておく必要があります。それぞれを見ていきましょう。
組織の変革が必要な場合がある
ツール選びが重要
自動化を過信しないこと
組織の変革が必要な場合がある
DevOpsの導入は、単に新しいツールやプロセスを導入するだけでは不十分で、多くの場合、組織文化やマインドセットの変革が伴います。
従来の縦割り意識や責任の押し付け合いが残っていると、DevOpsはうまく機能しません。経営層の強いコミットメントのもと、チーム間のコミュニケーションを促進し、失敗を許容し学ぶ文化を育む必要があります。
この組織変革には時間がかかることを理解し、粘り強く取り組む姿勢が求められるでしょう。
ツール選びが重要
DevOpsを支えるツールは多岐にわたりますが、ツール選定は慎重に行うべきです。
「流行っているから」「多機能だから」といった理由だけでツールを選ぶと、チームのスキルセットに合わなかったり、実際の業務プロセスに馴染まなかったりする場合があります。自社の目的や課題、チームの状況を考慮し、本当に必要な機能を備えたツールを選択することが肝心です。
また、特定のツールに過度に依存するのではなく、柔軟にツールを見直せる体制も重要となります。ツールはあくまで手段であり、DevOpsの文化やプロセスを補完するものと捉える視点を持つことが大切です。
自動化を過信しないこと
DevOpsにおいて自動化は非常に強力な手段ですが、自動化そのものが目的になってはいけません。
何を自動化するのか、なぜ自動化するのかという目的意識が重要です。また、すべてのプロセスを最初から完璧に自動化しようとすると、時間とコストがかかりすぎる可能性があります。まずは効果の高い部分からスモールスタートで自動化を進め、徐々に範囲を広げていくのが現実的です。
そして、自動化されたプロセスが正しく機能しているかを継続的に監視し、必要に応じて見直しや改善を行うことも忘れてはなりません。自動化は万能ではなく、人間の判断や介入が必要な場面も残ることを理解しておくべきです。
10.DevOpsツールの選び方
適切なDevOpsツールを選ぶことは、DevOps導入の成否を左右する重要な要素です。自社の状況や目的に合致したツールを選び出すための比較ポイントを解説します。
必要な機能を有しているか
オールインワンかツールチェーンか
クラウド版かオンプレミス版か
外部ツールと連携できるか
カスタマイズ性があるか
必要な機能を有しているか
DevOpsツールを選定する上で最も基本的な確認ポイントは、自社が必要とする機能を備えているかどうかです。
CI/CD、構成管理、監視、テスト自動化、プロジェクト管理など、DevOpsライフサイクルのどの部分を強化したいのか、どのような課題を解決したいのかを明確にしましょう。その上で、候補となるツールの機能一覧を詳細に比較検討します。
多機能であれば良いというわけではなく、本当に必要な機能が過不足なく提供されているかを見極めることが重要です。無料トライアルやデモなどを活用し、実際の操作感や機能性を確認することもおすすめです。
オールインワンかツールチェーンか
DevOpsツールには、広範な機能を一つのプラットフォームで提供するオールインワン型と、特定の機能に特化した複数のツールを連携させて利用するツールチェーン型があります。
オールインワン型は導入や管理が比較的容易で、一貫したユーザーインターフェースで操作できるメリットがあります。一方、ツールチェーン型は各分野で最適なツールを選べる柔軟性があり、既存のツール資産を活かしやすい点が魅力です。
チームのスキルセットや既存環境、求めるカスタマイズ性などを考慮し、どちらのアプローチが自社に適しているか検討することが大切です。
クラウド版かオンプレミス版か
DevOpsツールの提供形態として、クラウド版とオンプレミス版があります。
クラウド版は初期費用を抑えられ、インフラ管理の手間がかからず、迅速に利用開始できる点がメリットです。一方、オンプレミス版は自社のセキュリティポリシーに合わせた厳密な管理が可能で、既存システムとの連携が柔軟に行える場合があります。
データの保管場所やセキュリティ要件、運用体制、コストなどを総合的に比較し、自社の環境や方針に合った提供形態を選択するのがおすすめです。
外部ツールと連携できるか
多くのDevOpsツールは、他のツールと連携することでその価値を最大限に発揮します。
例えば、CI/CDツールがバージョン管理システムやプロジェクト管理ツール、チャットツールなどとシームレスに連携できると、開発プロセス全体の効率が向上しやすくなります。
選定時には、APIの提供状況や連携可能なツールの種類、設定の容易さなどを確認することが重要です。すでに社内で利用しているツールがある場合は、それらとの連携がスムーズに行えるかどうかが大きな選定ポイントです。
カスタマイズ性があるか
DevOpsツールを選定する際には、自社の独自のワークフローやプロセスに合わせてどの程度カスタマイズできるかも重要な比較ポイントです。
設定項目が豊富であったり、プラグインや拡張機能が充実していたりするツールは、より柔軟な運用が可能になります。ただし、カスタマイズ性が高すぎると設定が複雑になり、かえって運用負荷が増大する可能性も考慮しなければなりません。
自社が求めるカスタマイズのレベルと、ツールの提供する柔軟性のバランスを見極めることが肝心です。最初は標準機能で運用を開始し、必要に応じてカスタマイズを加えていくアプローチも有効です。
11.DevOpsツール一覧
DevOpsを実現するためには、様々なツールが活用されます。ここでは代表的なツールをカテゴリ別に紹介し、それぞれの特徴を掴んでいきましょう。
AWSで活用する主要DevOpsツール・サービス
Azure DevOpsの機能とVisual Studioによる開発加速
代表的なCI/CDツール
構成管理の自動化ツール
コンテナ技術とエコシステム
ソースコード管理の標準
プロジェクト管理とアジャイル開発支援
アプリケーションとインフラの監視ツール
AWSで活用する主要DevOpsツール・サービス
AWSは、DevOpsを実現するための包括的なツール群を「AWS DevOps」として提供しています。
これには、以下のものが含まれます。
コードの保存とバージョン管理を行う「AWS CodeCommit」
ビルドとテストを自動化する「AWS CodeBuild」
アプリケーションのデプロイを自動化する「AWS CodeDeploy」
これらのプロセスを連携させてリリースパイプラインを構築する「AWS CodePipeline」など
これらのサービスを組み合わせることで、AWS上でCI/CDパイプラインを効率的に構築し、迅速なアプリケーション開発と運用が可能です。
Azure DevOpsの機能とVisual Studioによる開発加速
Microsoft Azureが提供する「Azure DevOps」は、計画、開発、デリバリー、運用というDevOpsのライフサイクル全体をカバーする統合サービスです。
具体的には、以下のものから構成されます。
アジャイル計画ツールの「Azure Boards」
GitリポジトリやTFVCを提供する「Azure Repos」
CI/CDを実現する「Azure Pipelines」
手動・自動テスト管理の「Azure Test Plans」
パッケージ管理の「Azure Artifacts」など
特に、統合開発環境であるVisual Studioとの親和性が高く、開発者は慣れ親しんだ環境からシームレスにAzure DevOpsの機能を利用し、開発プロセスを大幅に効率化させられます。
代表的なCI/CDツール
Jenkinsは、オープンソースのCI/CDツールとして非常に広く利用されており、DevOpsにおけるビルド、テスト、デプロイの自動化に不可欠な存在です。
豊富なプラグインエコシステムが特徴で、様々なツールやサービスと連携し、柔軟なパイプラインを構築できます。オンプレミス環境にもクラウド環境にも導入可能で、多くの企業で実績があります。
Javaで開発されていますが、Java以外の言語で書かれたプロジェクトのCI/CDにも対応可能です。その高いカスタマイズ性から、独自の複雑な要件にも対応しやすい一方、設定や運用にはある程度の学習コストが必要となる場合もあります。
構成管理の自動化ツール
構成管理ツールは、サーバーやネットワーク機器などのITインフラの設定を自動化し、一貫性のある状態に維持するために用いられます。
Ansibleは、エージェントレスでシンプルなYAML形式で設定を記述できる手軽さが特徴です。Pythonベースで開発されており、学習コストが比較的低いとされています。
一方、ChefはRubyベースの強力な構成管理ツールで、より複雑なインフラ構成やプログラマティックな制御を得意とします。「クックブック」や「レシピ」といった概念で設定を管理する点が特徴的です。
これらのツールは、Infrastructure as Code (IaC) を実践し、手作業によるミスを減らし、迅速な環境構築を実現する上で重要です。
コンテナ技術とエコシステム
コンテナ技術は、アプリケーションとその実行環境をパッケージ化し、どこでも同じように動かせるようにする仕組みで、DevOpsと非常に相性が良いです。
Dockerは、このコンテナ技術を代表するプラットフォームであり、開発環境から本番環境まで一貫した環境を容易に構築できます。アプリケーションのポータビリティを高め、開発・テスト・デプロイのサイクルを高速化するのに役立ちます。
また、マイクロサービスアーキテクチャの基盤としても広く採用されているのが特徴です。Dockerコンテナを効率的に管理・運用するためのオーケストレーションツールとしてKubernetesも重要で、Dockerと合わせてコンテナエコシステムの中核をなしています。
ソースコード管理の標準
Gitは、分散型バージョン管理システムとして、現代のソフトウェア開発においてデファクトスタンダードとなっています。
ソースコードの変更履歴を正確に記録し、複数人での共同開発を効率的に行うための強力な機能を提供します。ブランチ機能により、本流のコードに影響を与えることなく新機能の開発やバグ修正を並行して進められ、マージ機能でそれらを統合できます。
GitHubやGitLabといったGitホスティングサービスと連携することで、コードレビューやイシュートラッキングといった開発プロセス全体の管理も容易になります。DevOpsにおける迅速な開発サイクルと品質維持にGitは不可欠なツールです。
プロジェクト管理とアジャイル開発支援
JIRAは、アトラシアン社が提供するプロジェクト管理・課題追跡ツールで、特にアジャイル開発チームに広く利用されています。ユーザーストーリーやタスクの作成、担当者の割り当て、進捗状況の可視化、バーンダウンチャートによる実績管理など、アジャイル開発を円滑に進めるための豊富な機能を提供します。
バグトラッキングシステムとしても優れており、開発ライフサイクル全体で発生する課題を一元管理できます。DevOpsにおける透明性の高い情報共有と、迅速なフィードバックループの構築を支援する強力なツールと言えるでしょう。
アプリケーションとインフラの監視ツール
アプリケーションやインフラの監視は、DevOpsにおける安定運用と継続的改善に不可欠です。
Splunkは、マシンデータを収集・分析し、システムの異常検知やセキュリティインシデントの調査などに活用できる強力なプラットフォームです。
SolarWindsは、ネットワーク監視やサーバー監視、データベースパフォーマンス管理など、幅広いITインフラ監視ソリューションを提供します。
New Relicは、アプリケーションパフォーマンス監視に強みを持ち、リアルタイムでアプリケーションの動作状況やボトルネックを可視化できます。
これらの監視ツールは、問題の早期発見と迅速な対応、そしてサービス品質の向上を支援する重要な役割を担います。
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12.DevOpsエンジニアとは?
DevOpsの需要は高まるため、携わるエンジニアの価値が高まっています。DevOpsエンジニアの主な仕事内容と求められるスキルをそれぞれ解説していきます。
主な仕事内容
DevOpsエンジニアに求められるスキル
主な仕事内容
DevOpsエンジニアの主な仕事内容は以下のとおりです。
CI/CDパイプラインの設計、構築
システムやアプリケーションのリソース管理
ライブラリ管理
セキュリティ管理
これらの業務を通じて、開発と運用の連携を強化し、スムーズなリリースと安定したサービス提供を実現することが求められます。
DevOpsエンジニアに求められるスキル
DevOpsエンジニアに求められるスキルは以下のとおりです。
CI/CDへの理解
主要なクラウドプラットフォームのマネージメントサービスの知識
ブランチモデル、タスク管理のスキル
Iacの知見、ツールの理解
スクリプト言語の理解
コミュニケーション力
まず、CI/CDプロセスへの深い理解と、関連ツールの利用経験は不可欠です。AWSやAzureといった主要なクラウドプラットフォームのマネージメントサービスの知識も重要で、これらを活用したインフラ構築や運用スキルが求められます。
バージョン管理(Gitなど)とブランチモデルの適切な運用、タスク管理スキルも業務を円滑に進める上で必要です。
また、Infrastructure as Code (IaC) の知見と関連ツールの理解、PythonやBashなどのスクリプト言語を用いた自動化の実装能力も欠かせません。
そして何よりも、開発・運用チームや他部署と円滑に連携するための高いコミュニケーション力が重要になります。
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13.まとめ
今回は、DevOpsについて、その基本的な概念や重要な理由、アジャイル開発やCI/CDとの違い、メリット・デメリット、利用の流れ、業務フローを効率化するステップ、具体的な導入事例や注意点、そして関連ツールやDevOpsエンジニアの役割についてお話ししました。
DevOpsは、開発チームと運用チームが協力し、ビジネス価値を迅速かつ継続的に提供するための文化、プラクティス、そしてツールセットです。
DevOpsを効果的に活用し、より俊敏で安定したシステム開発・運用体制を目指しましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。
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