事業者は商品やサービスを提供する際に消費者から消費税を受け取りますが、一方で仕入れや備品購入の際には他の事業者に消費税を支払っています。
消費税は、基本的に受け取った消費税額から支払った消費税額を差し引いた金額を事業者が納めます。もし支払った消費税が受け取った消費税を上回る場合は、その分を還付として受け取ることができます。
特に設備投資などで支払う消費税が大きい場合は多額の還付金が発生することもあるため、適切な手続きを行うことが重要です。
そこで今回の記事ではどのような状況で消費税の還付が可能かを具体的に説明し、還付の仕組みや注意点について解説します。
目次
1.消費税還付とは
消費税は取引の各段階で課税されますが、最終的には最終消費者が負担する仕組みになっています。事業者は取引で受け取った消費税を集計し、消費者に代わって税務署に納めます。
もし売上時に受け取った消費税よりも、経費支払い時に支払った消費税のほうが多い場合にはその差額を還付してもらうことが可能です。
これを「消費税の還付」と呼びます。
2.還付金の算出方法
本来納めるべき消費税は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて計算します。
この結果がマイナスになる場合は、消費税の還付を受けられる可能性が高くなります。一方プラスであれば、その金額分の消費税を納める必要があります。
ただしこの計算で消費税額がマイナスになったとしても、実際に還付を受けるためには後述する一定の条件を満たさなければなりません。
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3.消費税還付を受けられる人・事業者の条件
消費税の還付を受けられるのは支払った消費税が受け取った消費税を上回る場合に加え、以下の条件を満たす事業者に限られます。
課税事業者
原則課税方式を採用している事業者
原則課税方式を採用している課税事業者であること
個人の場合、前々年の課税売上高が1,000万円以下などの条件を満たせば「免税事業者」となります。一方で、前々年の課税売上高が1,000万円を超えるか、または前年の1月1日から6月30日までの課税売上高が1,000万円を超えるなどの条件を満たした場合は「課税事業者」として扱われます。
特定期間の課税売上高の代わりに、その期間中に支払った給与などの金額で判定することも可能です。つまり1月から6月の課税売上高が1,000万円を超えても、同期間の給与等の支払い額が1,000万円以下であれば翌年は免税事業者となります。
新設法人の場合は基準となる前々事業年度の売上がないため、原則として免税事業者となります。ただし、資本金が1,000万円以上ある法人や一定の条件を満たす新設法人は免税事業者には該当しません。
免税事業者は預かった消費税が支払った消費税を上回っていても納税義務がありませんので、その点がメリットです。しかし、支払った消費税の方が多くても還付を受けることはできません。還付を受けられるのは「課税事業者」のみとなっています。
また、還付を受けるためには原則として「原則課税方式」で計算する必要があります。「簡易課税方式」を選択している場合は還付を受けることができない点も注意が必要です。
原則課税方式とは
原則課税方式では、課税対象となる売上にかかる消費税から、課税対象の仕入れにかかる消費税を差し引いて納付すべき消費税額を計算します。
【原則課税方式の計算式】
消費税額 = 課税売上にかかる消費税額 − 課税仕入れにかかる消費税額 |
簡易課税方式とは
簡易課税方式では課税売上にかかる消費税額にみなし仕入率を乗じて、納付すべき消費税額を計算します。
【簡易課税方式の計算式】
消費税納付額 = 売上にかかる消費税額 − (売上にかかる消費税額 × みなし仕入率) |
2割特例の概要
2割特例はインボイス制度の移行期間中の特別措置として設けられた制度です。この制度では免税事業者からインボイス発行事業者へ移行した場合、課税売上にかかる消費税額の20%を納付すべき消費税額として計算します。
そのため簡易課税方式や2割特例を適用している事業者は、消費税の還付対象にはなりません。
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4.起業1年目でも消費税は還付される?
開業初年度の個人事業主や法人において消費税の還付を受けられるかどうかは、いくつかの条件によって異なります。
さらに消費税の免税要件には個人と法人で微妙な違いがあるほか、「事業年度」の捉え方にも違いがあるためあらかじめ理解しておくことが大切です。ここでは、それぞれのケースについて詳しく説明します。
開業1年目の個人事業主は自ら課税事業者としての届出をしない限り、消費税の納税義務は原則として発生しません。そのため、基本的には消費税の還付も受けられない仕組みになっています。
ただし起業時に「適格請求書発行事業者」として登録を行った場合には、納税義務が発生します。この場合、要件を満たせば消費税の還付を受けることが可能です。
なお個人事業主の会計年度は税法により「1月1日から12月31日まで」と定められており、法人とは異なる点に注意が必要です。
還付の可否は課税区分や売上実績など、いくつかの要因で変わってきます。
5.消費税還付となった主な理由・例
課税事業者が消費税の還付を受けられる主なケースとしては、以下が挙げられます。
赤字経営や仕入・経費の負担が大きい場合
売上より仕入れなどの経費が多い場合、会社は赤字となり、消費税の還付を受けられる可能性があります。これは会社が受け取った消費税額(預かり消費税)が支払った消費税額を下回り、還付金が発生するためです。
ただし従業員の給与や租税公課など、一部の経費は消費税の課税対象外となるため注意が必要です。
不動産取得や設備導入など高額投資を行った場合
大きな設備投資や資産購入を行うと「支払った消費税」が増えるため、消費税の還付を受けられる可能性があります。ただし、以下の場合には還付が認められないこともあります。
必要な土地の購入(課税対象外)
不動産賃貸業で居住用の家賃収入がある場合(非課税対象)
設備投資や資産投資が消費税還付の対象となるか判断が難しい場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
輸出を中心とし、売上の大部分が免税取引となる場合
消費税は国内取引に対して課される税金です。たとえ事業の主な部分が海外への輸出であっても国内での仕入れなどにかかる「支払った消費税」が発生している場合、消費税の還付を受けられる可能性があります。
一方で海外への輸出など国外取引では、取引相手から受け取る「預かった消費税」がゼロとなるため消費税が免除される仕組みであることも押さえておきましょう。
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6.消費税還付の対象外となる支出項目
消費税還付の計算は、消費税が課税される取引を基に行われます。課税対象外の売上や経費については消費税が発生していないため、還付の計算には影響しません。したがって、すべての費用が課税対象となるわけではない点に注意が必要です。課税対象外となる費用には、以下のものが含まれます。
従業員への給与や報酬の支払い
従業員に支給する給与や賃金は、消費税還付の計算には含まれません。これは、給与や賃金が雇用契約に基づく労働の報酬であり、事業としての対価を伴う取引ではないためです。
事業税・固定資産税などの税金関係の支出
事業税や固定資産税などの租税公課も、消費税還付の計算対象外となる費用です。これらの租税公課は基本的に消費税の課税対象外(不課税)とされています。
社会保険料や各種保険料(生命保険など)
社会保険料や生命保険料といった保険関連の費用も、消費税還付の計算には含まれません。これは、これらの保険料や共済金が消費税の課税対象外となっているためです。
海外取引による経費の支出
国外での取引にかかる支出も、消費税還付の計算には含まれません。これは、国外取引には消費税が課されないためです。
寄付金や慶弔費(祝い金・お見舞い金など)
寄附金・祝金・見舞金は通常対価を伴わない支出であるため、消費税の課税対象外(不課税)となります。
無償で提供したサンプルや見本品の費用
無料で提供される試供品や見本品は対価が発生しないため、消費税の課税対象外となります。
7.個人事業主が消費税還付金を受け取るための手順と記載方法
個人事業主が消費税の還付を受ける際に必要な書類や提出先についてご説明します。
必要書類と書き方
消費税の申告を行う際に提出が必要な書類は以下の通りです。
課税標準額等の内訳書(申告書第二表)
税率別消費税額計算表および地方消費税の課税標準となる消費税額計算表
課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表
消費税の還付を申請する場合は、これらに加えて「消費税の還付申告に関する明細書」を提出しなければなりません。ここでは、個人事業主向けの消費税還付申告に関する明細書の内容と記入方法について簡単に説明します。
この還付申告用の明細書には還付申告の理由を記載する欄・課税売上に関する欄・課税仕入れに関する欄があります。
還付申告となった主な理由
該当する主要な理由には丸印を付け、該当する理由がない場合は「その他」の欄に理由を記入します。
主な課税資産の譲渡等
消費税の課税売上に関する欄で資産の種類・譲渡年月日・取引金額・取引先を記入し、取引金額が100万円以上のものは金額の大きい順に並べて記載します。
また取引金額の下にある「税込」や「税抜」は消費税の会計処理方法を示しており、該当する方式に丸をつけてください。
主な輸出取引等の明細
消費税が免除される輸出取引に関する項目で取引先・取引金額・主な取引商品・担当する税関を記入します。また、輸出取引に関わる主要な金融機関や通関業者の情報も記載する必要があります。
仕入金額等の明細
課税仕入れの計算に用いる税額は、損益科目と資産科目ごとに分けて記入する欄です。決算額としては損益計算書の金額や資産の取得価額を記載します。
課税仕入れに該当しない項目があればそれを記入し、決算額から差し引いた金額を課税仕入高として扱います。
主な棚卸資産・原材料等の取得
仕入金額等の明細の中で、商品仕入高の詳細を記載する欄です。棚卸資産や原材料に関する情報を記入します。
主な固定資産等の取得
仕入金額等の明細において、資産の内訳を記載する部分です。
特殊事情
還付申告が必要となった特別な事情など、記載しておくべき内容がある場合に該当する項目です。」
必要書類を税務署へ期限内に提出
書類の準備が整い次第、期限内に税務署長宛に提出します。申告期限は、個人事業主と法人でそれぞれ以下の通り異なります。
個人事業主:翌年の3月31日
法人:課税期間終了日の翌日から2ヶ月以内
また、消費税の確定申告書類は以下の3つの方法で提出可能です。
税務署に直接持参して提出
郵送による提出
e-Tax(電子申告)を利用して申告
8.消費税還付金はいつ振り込まれるのか
電子申告を利用すると通常約3週間で還付されるため、早めに還付を受けたい場合は電子申告の活用がおすすめです。近年では取引内容を偽るなどの不正手段による消費税還付が増加しているため、国税庁は消費税還付の審査をより厳格に行っています。
不正がなくても申告内容に不明点があると還付金の支払いが保留され、受け取りまで時間がかかる場合がありますのでご注意ください。
また還付に時間がかかった場合は還付金が発生した日から還付決定日までの日数に応じて、「還付加算金」が追加で支払われます。
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9.消費税還付金の受け取り方
消費税の還付を受けるには、「消費税の還付申告書」と「消費税の還付申告に関する明細書」を作成し、申告期限内に税務署長へ提出する必要があります。
還付金の受け取り方法は指定した預貯金口座への振込か、ゆうちょ銀行や郵便局での受け取りがあります。預貯金口座への振込を希望する場合は、確定申告書の「還付される税金の受取場所」欄に口座情報を記入してください。
なお振込先口座は申告者本人名義に限られており、店名や屋号が含まれる口座は認められない場合がありますのでご注意ください。納税管理人を指定している場合は、その納税管理人名義の口座が振込先となります。
10.消費税還付金の仕訳方法について
一般的に、消費税の会計処理には「税抜経理方式」と「税込経理方式」の2つがあります。
税抜経理方式では消費税を費用や収益としては扱いませんが、税込経理方式では消費税も費用や収益に含めて処理します。自社がどちらの方式を採用しているかによって、会計処理の方法が少し異なるため確認しておくことが重要です。
税抜方式での仕訳方法
還付される消費税の仕訳では、「未収消費税」(資産勘定)を使用します。
確定申告時の処理では課税売上にかかる消費税を「仮受消費税」、課税仕入れにかかる消費税を「仮払消費税」として計上します。還付金の金額が確定している場合は、借方に「未収消費税」として計上します。
還付金が入金された際には、「未収消費税」を減少させる仕訳を行います。
<決算時の仕訳例>
借方 | 仮受消費税 未収消費税 | xxxx xxxx | 貸方 | 仮払消費税 | ×××× |
<還付金入金時の仕訳例>
借方 | 普通預金 | xxxx | 貸方 | 未収消費税 | ×××× |
税込方式での仕訳方法
税込経理方式で確定申告分の当期に計上する場合も、「未収消費税」(資産勘定)を使用しますが、この方法では税抜経理方式のような端数によるズレは生じません。決算時には「雑収入」(消費税の課税区分は「不課税」)を使って処理し、還付金が入金された際に「未収消費税」を減少させます。
<決算時の仕訳例>
借方 | 未収消費税 | xxxx | 貸方 | 雑収入 | ×××× |
<入金時の仕訳例>
借方 | 普通預金 | xxxx | 貸方 | 未収消費税 | ×××× |
11.消費税還付を受ける際の留意点
消費税の還付を受ける際には、いくつかの重要なポイントに注意が必要です。ここでは消費税還付の注意事項についてご説明します。
課税事業者および原則課税方式の選択が必要
免税事業者は「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで、課税事業者に変更することが可能です。
また「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を出すことで、簡易課税から原則課税へ切り替えることもできます。
ただしこれらの届出を行った後は、原則として2年間は免税事業者や簡易課税に戻ることができません。売上高の予測を十分に検討したうえで、手続きを行うかどうかを判断することが重要です。
必要書類はきちんと保管しておくこと
消費税の還付を受けるには仕入れ時に消費税を支払ったことなどを証明する書類が必須です。
必要となる書類には請求書・納品書・領収書などが含まれます。これらの書類には発行期限が設けられている場合もあるため、紛失しないようきちんと保管しておくことが大切です。
還付金の受取には時間がかかる場合がある
申請手続きが完了してから申請後すぐに支払われるわけではないため、還付金を運転資金に充てる予定がある場合は早めに申請を行うことが重要です。
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12.まとめ
以上のように消費税の還付を受けるには、原則課税方式を選び課税事業者であることが条件となります。
支払った消費税が預かった消費税を上回る場合に還付が可能ですので、免税事業者であってもあえて課税事業者になる選択肢があります。その場合は、事業年度開始の前日までに「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出しなければなりません。
ただし一度この届出書を提出すると、原則として2年間は課税事業者として扱われるため途中で免税事業者に戻すことはできない点に注意が必要です。
消費税率の引き上げに伴い預かる消費税も支払う消費税も増える傾向にあるため、本記事を参考にして消費税還付の可能性について改めて検討してみてはいかがでしょうか。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。
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