クラウドサービスは、業務の柔軟性や生産性を高める一方で、情報漏えいや設定ミス、不正アクセスといったセキュリティリスクも抱えています。特にマルチクラウドやリモートワークが進む現代において、従来の境界型セキュリティだけでは不十分とされる場面が増えており、扱いには注意が必要です。
本記事では、クラウドセキュリティを強化するうえで押さえておきたいリスクの種類と対策、製品や基準、スキルの選び方について、実務に即した視点でわかりやすく解説しています。日々変化するセキュリティ環境への備えとして、必見の内容です。
ぜひ最後までご覧いただき、クラウドセキュリティの理解を深めてください。
目次
1.クラウドセキュリティとは?
クラウドセキュリティとは、クラウドサービス上で扱われるデータやアプリケーション、システムを不正アクセスや漏洩、サービス停止などの脅威から守るための技術と管理手法を指します。SaaSやIaaS、PaaSといったサービスの拡大により、企業のIT基盤がクラウドへと急速にシフトしており、それに伴ってセキュリティの重要性も増しています。
クラウドサービス市場は世界中で伸びています。総務省が発表した令和6年度版情報通信白書によると、2017年から2024年までクラウドサービス市場が右肩上がりで拡大していくとの結果が出ています。
出典:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd218200.htm
この背景には、ランサムウェア攻撃の増加や法規制の強化、リモートワークの普及といった要因があり、個人事業主から大企業まで、幅広い層にとってクラウドセキュリティ対策は喫緊の課題となっています。
2.クラウドサービスの種類
クラウドサービスの種類は主に以下の3つです。一つずつ解説していきます。
SaaS
PaaS
IaaS
SaaS
SaaSはSoftware as a Serviceの頭文字をとった用語で、ソフトウェアをクラウド経由で提供するサービス形態です。利用者は自社でインストールやメンテナンスを行う必要がなく、インターネット環境さえあればすぐに業務に活用できます。
代表例としては、以下のとおりです。
Microsoft 365
Google Workspace
Salesforceなどが
SaaSは利便性が高い一方で、データ管理やアクセス権限の設定など、利用者側のセキュリティ意識が求められます。特に個人情報や機密情報を扱う場合は、暗号化や多要素認証の導入が推奨されます。
PaaS
PaaSは、アプリケーションの開発や実行に必要なプラットフォームを提供するサービスで、Platform as a Serviceの略称です。開発者はサーバやOS、ミドルウェアの構築を気にせず、コードを書くことに集中できます。
代表例としては、以下のものがあります。
Microsoft Azure App Service
Google App Engineなど
PaaSのメリットは、開発スピードの向上と運用負荷の軽減にありますが、一方でセキュリティパッチの適用や構成ミスへの対応は、サービス提供者と利用者の連携が不可欠です。
IaaS
IaaSは、仮想サーバやストレージ、ネットワークなどのインフラをインターネット上で提供するサービスで、Infrastructure as a Serviceの頭文字をとった用語です。
代表サービスは以下のとおりです。
Amazon Web Services(AWS)
Microsoft Azure
Google Cloud Platform(GCP)など
IaaSは柔軟性が高く、自社の要件に合わせた構成が可能ですが、OSやアプリケーションのセキュリティ設定、ログ管理などは利用者の責任範囲となります。ファイアウォールの構成やアクセス制御リストの設定など、実践的なセキュリティ対策が必要です。
3.クラウドセキュリティのガイドラインとは
クラウドセキュリティのガイドラインは、クラウドサービスの安全性と信頼性を高めるための基準を示すもので、利用者と提供者の双方が守るべき枠組みとして位置づけられています。
総務省が発行した「クラウドサービスの安全・信頼性に係る情報開示指針(第2版)」では、サービス提供者がセキュリティ対策、運用体制、障害発生時の対応状況などを利用者に明確に提示することを推奨しています。
こうした情報が開示されていれば、利用者は自社の要件に合ったサービスを選定しやすくなり、導入前のリスク評価も行いやすくなります。特に中小企業や個人事業主にとっては、クラウド導入時の判断基準として活用できる実用的な指針です。
4.クラウドセキュリティで考慮すべきリスク一覧
クラウドサービスの利用には多くの利便性がある一方で、情報資産を外部環境に預けるという特性上、複数のリスクが存在します。ここでは、主なリスクとして5つ解説していきます。
不正アクセス
サイバー攻撃
情報漏えい
データ消失
シャドーIT
不正アクセス
不正アクセスとは、アクセス権限を持たない第三者がWebシステムやサーバ内部に侵入する攻撃です。
クラウドサービスはインターネット経由でアクセスできるため、外部からの不正ログインやアカウント乗っ取りのリスクがあります。特にパスワードの使い回しや、多要素認証を導入していない環境では、攻撃者にとって格好の標的となりやすくなるため、避けなければなりません。
権限設定を見直し、アクセスログの監視や異常検知の仕組みを整備することが求められます。また、管理者アカウントのアクセス制限やIPアドレス制御の導入など、攻撃経路を限定する対策も併せて検討すべきです。
サイバー攻撃
クラウド環境はサイバー攻撃の標的になりやすく、DDoS攻撃やゼロデイ脆弱性を突いた攻撃など、さまざまな脅威にさらされています。特に共通基盤を複数の利用者で共有するパブリッククラウドでは、一部の脆弱性が他の利用者に波及するリスクも無視できません。
常に最新のセキュリティパッチを適用し、WAFやIPSなどの導入も検討が必要です。加えて、クラウドネイティブなマルウェアへの対処や、監視の自動化も進めるとより安全性が高まります。
情報漏えい
設定ミスや人為的なミスにより、機密情報が第三者に漏れるケースは少なくありません。たとえば、ストレージのアクセス設定を誤って「全員に公開」としてしまうと、意図せず情報が外部に晒されることになります。
定期的な設定確認とアクセス制御の見直しが、情報漏えいの防止には欠かせません。さらに、データ暗号化の徹底やログ監査機能の活用により、漏えい発生時の原因特定と迅速な対応が可能になります。
データ消失
クラウド上のデータが誤操作や障害、悪意ある攻撃によって消失するリスクも存在します。特にバックアップが適切に行われていない場合、事業継続に深刻な影響を与える恐れがあります。
サービス提供側の可用性だけに依存せず、自社でも定期的なバックアップ体制を整えておくことが重要です。加えて、バックアップ先を別リージョンやクラウド間で分散させるなど、より高度なBCP(事業継続計画)対策も有効です。
シャドーIT
従業員が会社に無断で利用するクラウドサービスは、管理者が把握できない領域で情報がやり取りされるため、大きなセキュリティリスクとなります。
個人で利用する無料クラウドストレージやメッセージアプリなどが、社外への情報流出につながるケースもあります。使用可能なサービスを明示し、ポリシーを明確にすることで、シャドーITの抑制につながります。
さらに、振る舞い検知ツールを導入して、許可外の通信やサービス利用をリアルタイムで把握する対策も効果的です。
5.国内で発生したクラウドサービスでの被害事例
実際に国内で発生したクラウドサービスでの被害事例を3つ解説します。適切なセキュリティ対策ができていないことで大きな被害が出た事例です。一つずつ解説していきます。
クラウド設定ミスによる情報漏えい
Googleアカウント不正アクセスによる情報漏えい
AWSアクセスキー管理不備による情報漏えい
クラウド設定ミスによる情報漏えい
トヨタ自動車は2023年7月12日、同社の「T-Connect」および「G-Link」サービス利用者の車両から収集した約230万人分の個人データが、約10年間にわたり外部から閲覧可能な状態にあったと発表しました。
この問題は、関連会社であるトヨタコネクティッドが管理するクラウド環境の設定ミスに起因し、車載機IDや車台番号、位置情報などが含まれていました。原因としては、クラウド設定の誤認識や個人情報の不適切な格納、委託先管理の不備が挙げられています。
これを受けて、トヨタは従業員教育の強化、クラウド設定の監視システム導入、委託先の監査などの再発防止策を策定し、個人情報保護委員会からの指導に基づき、適切な安全管理措置を講じることを求められています。
参考:https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1516045.html
Googleアカウント不正アクセスによる情報漏えい
2023年5月、長野県伊那市立伊那中学校で教員のGoogleアカウントが不正に使用され、クラウド上に保存されていた生徒や教職員の個人情報が漏洩しました。
漏洩した情報には、2022年度と2023年度の在校生の「心身面で配慮を要する情報」や食物アレルギー情報、教職員の緊急連絡先など、144件のファイルが含まれており、影響を受けた生徒は400人を超えるとされています。
市教育委員会は以前からGoogleドライブでの個人情報管理を控えるよう指示していましたが、徹底されていなかったことが判明しました。再発防止策として、強固なパスワードの使用やクラウドサービスの監視強化を進める方針です。
参考:https://www.asahi.com/articles/ASR5V73YPR5VUOOB008.html
AWSアクセスキー管理不備による情報漏えい
2024年2月、トヨタモビリティサービスが提供する社用車専用クラウドサービス「Booking Car」において、約25,000名分の個人情報が漏洩した可能性があると発表されました。
漏洩の可能性がある情報には、メールアドレス、氏名、社員番号、顔写真、携帯電話番号、IPアドレスなど17項目が含まれます。原因は、開発委託先企業が過去のプロダクト開発に使用していたAWSアクセスキーを無効化せずに使用し続けたことにより、2020年10月から2024年2月2日までの間、不正アクセスが可能な状態となっていたためです。
同社は、アクセスキーの変更や不正アクセスの監視を実施し、影響を受けた可能性のある利用者には個別に連絡を行い、専用の相談窓口を設置しています。また、今後は委託先との連携を強化し、個人情報の取り扱いとセキュリティ管理の徹底を図るとしています。
参考:https://news.t-mobility-s.co.jp/information/20240216-1/
6.クラウドサービスを利用する上で取り入れるべきセキュリティ対策
クラウドサービスを安全に活用するには、技術的な対策と運用面でのルール整備の両方が欠かせません。この章では、クラウドサービスを利用する上で取り入れるべきセキュリティ対策を10個解説します。
多要素認証の導入
ゲストユーザーの管理
共有・公開設定の見直し
アクセス制御
データのバックアップ
監査ログの取得・確認
設定の定期的な見直し
データの暗号化
脆弱性の検知
クラウドサービスプロバイダの選定
多要素認証の導入
多要素認証は、IDとパスワードに加えてスマートフォンの認証アプリやワンタイムコードなどの別の要素を用いてログインする仕組みです。
万が一、IDとパスワードが漏洩しても、認証コードがなければログインできないため、不正アクセスを防ぐ有効な手段となります。
近年では、フィッシングやブルートフォース攻撃などの脅威が増加しており、特にクラウドサービスにおいてMFAの導入は、企業規模や業種を問わず必須の対策といえるでしょう。加えて、MFA導入後も定期的な認証方式の見直しや、利用者教育も欠かせません。
ゲストユーザーの管理
クラウドサービスでは、社外の関係者を一時的にゲストとして招待する場面が少なくありません。しかし、ゲストユーザーのアクセス権限が過剰に設定されていたり、利用終了後も削除されずに放置されていたりすると、情報漏えいのリスクが高まります。
安全に運用するためには、招待時にアクセス範囲を明確にし、使用期限の設定や定期的なアカウント棚卸しを行うことが重要です。さらに、ゲストアカウントに対しても多要素認証やログの監視を適用することで、管理の抜け漏れを防止できます。
共有・公開設定の見直し
クラウド上でのファイル共有は非常に便利ですが、誤って「誰でもアクセス可」に設定してしまうと、意図しない情報漏えいにつながる危険性があります。特にURLベースでの共有リンクは、外部に拡散しやすく、漏洩リスクが高くなります。共有設定は、必要な人に限定し、パスワード保護や有効期限の設定を併用することが推奨されます。
また、定期的に共有ファイルの一覧を確認し、不要な共有は解除する運用も有効です。自動共有の無効化やポリシー設定も効果的です。
アクセス制御
アクセス制御は、情報資産に誰が・いつ・どこからアクセスできるかを管理する重要な仕組みです。
クラウドサービスでは、役職や所属ごとに閲覧・編集の権限を細かく設定できます。過剰な権限付与は内部不正や事故につながるため、最小権限の原則に基づいた設計が推奨されます。
また、IPアドレス制限やログイン時間帯制限を組み合わせることで、より強固なアクセス管理が実現できます。定期的な棚卸しにより、不要な権限の洗い出しも行いましょう。
データのバックアップ
クラウドに保存しているからといって、常にデータが保全されているとは限りません。設定ミスや障害、悪意ある攻撃によりデータが削除されることもあります。
重要な情報については、クラウドサービス内だけでなく、別リージョンやローカル環境にもバックアップを取ることで、災害時やインシデント時の復旧をスムーズに行えます。バックアップは定期的に実行し、リストア手順も事前に確認しておくことが重要です。
テスト復旧も実施しておくと、緊急時に慌てず対応できます。
監査ログの取得・確認
監査ログは、誰が・いつ・どの操作を行ったかを記録する仕組みです。
クラウドサービスでは、操作履歴を取得できる機能が標準搭載されていることが多く、不正なアクセスや操作ミスの追跡に活用されます。ただし、ログを取得するだけでなく、定期的に確認・分析することが重要です。
異常なアクセス傾向や未承認の操作を早期に検知するには、自動アラートやダッシュボードの活用が効果的です。ログ保管期間の設定も適切に行いましょう。
設定の定期的な見直し
クラウド環境は柔軟性が高い一方で、設定変更が容易なため、運用の中で意図せずリスクが生まれることがあります。
たとえば、開発環境と本番環境でアクセス権が同一になっていたり、無効化すべきユーザーアカウントが放置されていたりするケースです。こうしたリスクを防ぐためには、構成管理ツールの導入や、月次・四半期ごとの設定レビューを実施し、継続的にセキュリティ状況を把握する必要があります。
チェックリストや自動スキャンツールの導入も有効です。
データの暗号化
クラウドに保存されるデータや通信内容は、暗号化によって保護することが推奨されます。
暗号化には、転送中と保存時の両方が対象です。暗号化を施していない場合、万が一情報が漏洩した際に、内容をそのまま読み取られる危険性があります。
クラウドサービスが提供する自動暗号化機能を有効にしつつ、自社で鍵管理の仕組みを持つと、より安全性が高まります。特に機密性の高い情報は、二重暗号化や独自鍵の活用も検討しましょう。
脆弱性の検知
クラウド環境では、日々新たな脆弱性が発見されており、脆弱性を早期に検知し対応する仕組みが重要です。サービスのOSやミドルウェア、アプリケーション層での脆弱性は、攻撃者に悪用される可能性があるため、放置は大きなリスクです。
脆弱性管理ツールやCSPMを活用し、定期的なスキャンやパッチ適用を自動化することで、対応の遅れを防げます。特にゼロデイ攻撃対策としては、異常検知や振る舞い監視の仕組みも導入すると、より堅牢な対策が可能になります。
クラウドサービスプロバイダの選定
クラウドサービスを選ぶ際は、利便性や価格だけでなく、セキュリティ面の信頼性も重視する必要があります。
データセンターの場所、情報の暗号化体制、契約内容における責任分担の明確さなどを事前に確認しましょう。
また、セキュリティ認証(ISO/IEC 27001やSOC2など)を取得している事業者であるかも判断材料になります。サービス提供者によっては、運用支援やコンプライアンス対応、ログ監査の機能が異なるため、利用目的に応じた比較検討が不可欠です。将来的なスケーラビリティや対応エリアも考慮すると安心です。
7.クラウドサービスのセキュリティ基準
クラウドサービスを選定・利用する際には、その事業者がどのようなセキュリティ基準に準拠しているかを確認することが重要です。ここでは、クラウドサービスのセキュリティ基準を6つ解説します。
これらの認証取得状況を確認することで、クラウドサービスの選定における透明性と安全性を高めることができるため、最後までお読みください。
ISMSクラウドセキュリティ認証
CSマーク
CSA STAR認証
StarAudit Certification
FedRAMP
SOC2(SOC2+)
ISMSクラウドセキュリティ認証
ISMSクラウドセキュリティ認証は、ISO/IEC 27001(情報セキュリティマネジメント)とISO/IEC 27017(クラウドサービス特有の管理策)を組み合わせた認証です。
クラウド特有のリスク(仮想化、共有責任モデル、データ移転など)への対策が含まれており、提供者のセキュリティ運用が国際基準であることを示します。
特に日本国内では、信頼できるクラウドベンダーを選ぶうえで、ISMSクラウドセキュリティ認証の有無が大きな判断材料になるケースも増えています。
CSマーク
CS(クラウドサービス)マークは、総務省と経済産業省が連携して設けた、日本独自のセキュリティ認証制度です。
クラウドサービス事業者が情報セキュリティ・可用性・透明性の面で一定水準を満たしていることを証明するもので、安心して利用できるクラウドサービスであることの目安となります。
特に自治体や公共分野での採用において、CSマーク取得が評価対象となることが多く、国内の信頼性重視のユーザーにとっては有力な判断基準です。
CSA STAR認証
CSA STAR認証は、クラウドセキュリティ分野の国際団体「Cloud Security Alliance(CSA)」が策定した認証制度です。
ISO/IEC 27001に準拠しつつ、クラウド特有の管理策を評価対象としています。STARレベルには自己評価、第三者認証、継続的監査の3段階があり、クラウドサービス提供者の透明性と対策レベルを可視化できます。国際取引の多い企業にとっては、信頼構築の武器となる認証です。
StarAudit Certification
StarAudit Certificationは、欧州を中心に普及しているクラウドセキュリティの評価制度です。
セキュリティだけでなく、透明性や契約の明確性、データ保護など多角的に評価され、クラウドサービスの品質を示す基準として注目されています。
特にGDPR対応を意識する企業にとっては、StarAuditの評価指標が導入検討時の信頼材料となる場合があります。欧州企業との取引を視野に入れる場合、取得の有無は重要です。
FedRAMP
FedRAMPは、米国政府機関向けクラウドサービスに対するセキュリティ認証制度です。
FISMA(米連邦情報セキュリティマネジメント法)に基づき、第三者機関による厳格な評価を通じて、セキュリティ水準が担保されていることを証明します。
アメリカの公共機関とビジネスを行う際には事実上必須とされており、高いレベルのセキュリティ体制が構築されている証として、国際的な信頼性も非常に高い制度です。
SOC2(SOC2+)
SOC2は、米国公認会計士協会が定めた監査基準に基づき、クラウドサービスのセキュリティ・可用性・機密性・処理の完全性などを評価する制度です。SOC2+はこれにISOやNISTなどの他の基準を統合した高度版です。
第三者機関が提供者の運用状況を監査し、一定基準を満たしていることを報告書として提供します。国内外の企業からの信頼獲得、取引先とのコンプライアンス要求対応など、広範囲に役立つ認証です。
8.クラウドセキュリティの安全性を高める製品
クラウド環境では、従来の境界型セキュリティでは不十分なケースが多く、クラウド特有の脅威に対応するための専用製品・サービスの導入が不可欠です。この章では代表的な製品を解説していきます。
CASB
SWG
IdPーSSO
CSPM
WAF・NFW
CWPP
CASB
CASBは、Cloud Access Security Brokerの頭文字をとった用語で、クラウドサービスの利用状況を可視化・制御し、不適切な操作や不正アクセスを防ぐための中継的なセキュリティ製品です。
ユーザーが利用しているシャドーITの把握や、機密データのアップロード防止、DLP(情報漏えい防止)などを実現します。
クラウド導入が進む一方で、IT部門の管理が追いつかない環境において、CASBは統制を取り戻す有効な手段として注目されています。API連携型とプロキシ型の製品があり、導入方式によって使い分けが可能です。
SWG
SWGは、Secure Web Gatewayの略称でインターネットとの通信を中継し、悪意あるサイトへのアクセスをブロックしたり、不正な通信を遮断したりするゲートウェイ製品です。
クラウドサービスやWebアプリケーションの利用が拡大する中、社外からのアクセスにも対応できるSWGの重要性は高まっています。HTTPS通信の中身まで解析できるSSL復号機能を持つ製品も多く、マルウェアの侵入防止やコンプライアンス違反の検出にも有効です。ゼロトラストの実現にもつながる要素です。
IdPーSSO
IdP(Identity Provider / Single Sign-On)はユーザー認証を一元管理する仕組みで、SSOは複数のクラウドサービスに対して一度のログインで利用可能にする技術です。
パスワードの使い回しを避けながら利便性を維持できるため、業務効率とセキュリティを両立させる対策として広く導入が進んでいます。多要素認証と組み合わせることで、クラウドアクセスの安全性をさらに高められます。
CSPM
CSPM(Cloud Security Posture Management)は、クラウドサービスの設定ミスやポリシー違反を検出・是正するためのツールです。特に、IaaSやPaaSで発生しやすい過剰なアクセス権の付与やストレージの公開設定ミスなどを早期に発見できます。
AWS、Azure、GCPなどの3大クラウドサービスへの対応が進んでおり、自動スキャンと修正提案によって運用負荷を軽減します。セキュリティガバナンスの強化に直結する機能であり、大規模クラウド環境では導入が必須ともいえる存在です。
WAF・NFW
WAF(Web Application Firewall)は、Webアプリケーションへの攻撃を検知・遮断するセキュリティ製品で、クラウドで公開されるシステムに対する防御の最前線となります。
NFW(Next-Gen Firewall)は、従来のポート制御に加えてアプリケーション単位での制御やマルウェア検知機能を備えた高機能な防御製品です。クラウド環境とオンプレミス環境をまたぐハイブリッド構成においても、両者の併用は不可欠となっています。
CWPP
CWPP(Cloud Workload Protection Platform)は、クラウド上で動作する仮想マシン、コンテナ、サーバレス環境などの「ワークロード」を保護するためのプラットフォームです。
エージェントを用いた監視・マルウェア対策・脆弱性スキャン・ポリシー適用などの機能を通じて、クラウドネイティブな環境のセキュリティを維持します。
インフラそのものではなく、動作中のアプリやサービスの保護に特化しているため、DevOpsやCI/CDといった高速開発プロセスとの相性も良いのが特徴です。
9.クラウドセキュリティ製品の選び方
クラウドセキュリティ製品は種類が多く、それぞれ機能や導入方法に違いがあるため、自社の利用目的や体制に合った製品を見極めることが重要です。ここでは、導入前に検討すべきポイントの3つに注目して説明します。
目的に合う製品を選ぶ
カスタマイズ性を考慮する
ライセンス数を確認する
目的に合う製品を選ぶ
目的に合うクラウドセキュリティ製品を選びましょう。
セキュリティ製品には、アクセス制御を担うもの、設定ミスを検知するもの、マルウェアを防ぐものなど、目的によって機能の焦点が異なります。
たとえば、従業員のシャドーITを可視化したいのであればCASB、設定ミスの検知ならCSPM、Webサービスの防御にはWAFが適しています。
導入のゴールを明確にしておくことで、必要な機能を過不足なく備えた製品を選定しやすくなり、コスト面や運用負荷の無駄も削減できます。
カスタマイズ性を考慮する
企業によってクラウド環境や運用ルールは異なるため、セキュリティ製品にも柔軟な設定ができることが求められます。たとえば、ユーザーごとにアクセス制御を細かく設定したい、特定の通信だけをブロックしたい、といったニーズに応えられる製品であるかがポイントです。
また、API連携の可否や、他のクラウドセキュリティ製品と統合できるかも、導入後の効率性や拡張性を左右します。PoCによる評価も有効です。
ライセンス数を確認する
クラウドセキュリティ製品の料金体系は、ユーザー数、端末数、アカウント単位など、製品によって異なります。
中には最低契約数が定められているものや、拡張時に追加コストが発生するものもあるため、現状の利用規模だけでなく、将来的なユーザー数の増減も見越してライセンス体系を確認することが大切です。
特にスタートアップや中小企業では、初期費用を抑えつつ、必要に応じてスケール可能な製品を選ぶ視点が求められます。
10.クラウドセキュリティに関連する資格
クラウドサービスの利用が拡大する中で、セキュリティに関する専門知識の証明として、クラウド関連の資格取得が注目されています。ここでは、代表的な国際資格であるCCSPに加え、Google Cloud、AWS、Azureといった主要クラウドベンダーの認定資格を紹介します。
CCSP
Google Cloud認定資格
AWS認定資格
Microsoft Azure認定資格
CCSP
CCSP(Certified Cloud Security Professional)は、クラウドセキュリティに特化した世界的に認められている資格です。クラウド環境での情報管理、アクセス制御、法令対応、災害復旧など、幅広いセキュリティの知識が体系的に問われます。
たとえば、自社でクラウドを導入する際、「顧客データはどこに保存され、誰がアクセスできるのか」「セキュリティ事故が起きたときの対応はどうするか」といった視点で体制を整える必要があります。
CCSPは、そうしたクラウド特有のリスクに対応できる能力を示す資格であり、経営におけるITリスクマネジメントにも深く関わります。特にクラウド導入を本格化させたい企業にとって、信頼できるセキュリティ担当者の証として役立ちます。
Google Cloud認定資格
Google Cloud認定資格は、Googleのクラウドサービス(GCP)を安全に設計・運用するスキルを証明するもので、中でも「Professional Cloud Security Engineer」はクラウドセキュリティに特化しています。
業務でGoogle Workspace(Gmail、Driveなど)を使う企業は多く、クラウド環境でのセキュリティ対策が甘いと、社内外への情報漏えいや不正アクセスにつながるリスクがあります。
この資格を持つ人は、データの暗号化やアクセス権限の管理、セキュリティログの監視など、GCPを利用する上で欠かせない対策を実装・運用する能力を証明できます。Google Cloud導入企業にとって、安心して任せられる専門人材の指標として非常に有効です。
GCP認定資格についてより詳しく理解したい方はこちらをご確認ください。
AWS認定資格
AWSはクラウド市場で最も広く使われているプラットフォームの一つであり、その安全な利用には専門的な知識が求められます。
「AWS Certified Security – Specialty」は、AWS環境におけるセキュリティ対策に特化した認定資格で、クラウドセキュリティと最も直結した内容です。たとえば、データの暗号化、アクセスログの収集、脆弱性への対応など、AWS上でセキュアな環境を構築するための実践的スキルが問われます。
業務システムのAWS移行や、顧客向けクラウドサービスの提供時には、セキュリティ要件への対応が求められるため、この資格は信頼性を担保するうえで非常に重要です。社内外における「安心できるAWS環境づくり」の中心を担う人材として評価されます。
AWS認定資格についてより詳しく理解したい方はこちらをご確認ください。
Microsoft Azure認定資格
AzureはMicrosoft製品との親和性が高く、国内企業でも導入が進んでいます。Azure認定資格の中でも「Azure Security Engineer Associate」は、クラウドセキュリティ分野に特化した資格です。
たとえば、社内でMicrosoft 365を利用している企業がAzure上に業務データを保存する場合、「誰がいつアクセスできるか」「外部とどのようなデータが共有されるか」を明確に制御する必要があります。
この資格を取得することで、Azure環境におけるアクセス制御、ネットワークセキュリティ、ログ監視などを体系的に学べるため、クラウドサービス導入時のセキュリティ体制強化に貢献できます。企業の情報資産を守る実務的な力として、IT部門の評価向上にもつながりやすい資格です。
Microsoft Azure認定資格についてより詳しく理解したい方はこちらをご確認ください。
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11.まとめ
今回は、クラウドセキュリティに関するリスクと対策、代表的な製品やセキュリティ基準、関連資格の特徴までを幅広くお話ししました。
クラウドサービスは、その利便性と引き換えに、正しい運用やセキュリティ対策が欠かせない技術領域です。仕組みを理解し、適切な対策を選んで実践することで、サービスの信頼性や事業継続性を大きく高めることができます。
セキュリティ知識の習得は、エンジニアや事業責任者にとって、リスクに強い意思決定と提案力を支える大きな武器になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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