個人事業主の間でよく聞かれる悩みの一つが「せっかく稼いでも税金が高く、手元にお金が残らない」というものです。節税の必要性は理解していてもどこから手をつければいいのかわからない人や、対策をしているつもりでも思うようにお金が残らない人も少なくないと考えられます。
利益が出れば税金を納めるのは避けられませんが、できるだけ税負担を抑えて資金繰りに困らないようにしたいものです。納税資金の工面に苦労したり事業をやめた後の資金不足を心配したりすることなく、適切な税金対策を講じて資産を残していくことが理想です。
個人事業主が税金貧乏に陥る主な原因として税に関する知識不足や、経費として計上できるものを把握していないことが挙げられます。しかし青色申告の活用や損益の定期的な管理など、適切な対策を講じることで税負担を軽減することは可能です。
そこでこの記事では個人事業主が税金貧乏に陥る理由を分析し、具体的な対策やお金を残すための方法について解説していきます。
目次
1.個人事業主の主な税金
税金で損をしないためのポイントをお伝えする前に、個人事業主が負担する主な税金の種類について理解しておきましょう。
所得税
まず、個人事業主には所得税が課されます。所得税とは、個人が得た所得に対してかかる税金のことです。会社員であっても個人事業主であっても、生活するうえで何らかの所得を得ることが一般的です。
所得税は所得の種類を10種類に分類し、それぞれの所得に応じた計算方法が定められています。例えば会社員の給与は「給与所得」として計算され、個人事業主の収入は通常「事業所得」として扱われます。また株式投資による利益は「配当所得」、不動産や株の売却益は「譲渡所得」となります。
所得税は課税対象となる金額に応じて7段階の税率が設定された累進課税制度が適用されており、所得が多いほど税率が高くなります。
所得税は1年間の所得を対象に翌年の2月16日から3月15日までの間に申告(確定申告)を行い、納税する必要があります。
住民税
所得税と深く関わりがあるのが住民税です。住民税も所得に応じて課税され、確定申告の内容に基づいて自治体から納付書が送付されます。通常、この納付書を使用してコンビニなどで支払いを行います。
消費税
消費税は「消費」という行為に対して広く課される税金であり、買い物をする際に自動的に支払っているように感じられますが実際に税金を納めるのは法人や個人事業主です。
ただし年間の売上が1,000万円を超えない事業者や開業から2年が経過していない事業者には、基本的に納税義務がありません。そのため小規模な個人事業主の場合は、消費税の納税対象とならないケースが多いでしょう。
個人事業税
地方税法などで定められた特定の事業を営む個人は、個人事業税を納める必要があります。この税金の税率は業種によって異なり、3つの区分に分けられそれぞれ5%・4%・3%の税率が適用されます。
2.個人事業主が税金を滞納するとどうなる?
個人事業主が負担する税金は決して軽いものではありません。ではもし税金を支払えなかった場合、どのような影響があるのでしょうか?この章では税金を滞納した際に生じる問題について解説します。
納付期限を過ぎると延滞税が発生する
すべての税金には納付期限が設定されていますが、もし期限までに支払いをしなかった場合には納付期限の翌日から延滞税が発生します。
延滞税とは法定納付期限の翌日から支払うまでの期間に自動的に課され、日数に応じて利息に相当する金額です。元々の税額に加え延滞税が発生し、滞納期間が長くなるほど支払うべき税額が増えていきます。
住民税・個人事業税・固定資産税などの地方税は納付期限から1カ月以上経過すると延滞金の利率が上がるため、早急に支払うようにしましょう。また所得税・相続税・贈与税などの国税も、期限から2カ月が過ぎると延滞税の利率が引き上げられます。
税務署から督促状が届く
税金の支払いを延滞し続けると、督促状が送付されます。督促状は未払い分を早急に支払うように促すための文書で、催促状よりも強い表現を用いて未納行為を取り締まる意味合いがあります。
住民税の場合には督促状は納付期限から20日以内に、所得税の場合は納付期限から50日以内に送付されることが法律で定められています。督促状が届いた場合には10日以内に滞納している税金を全額支払わなければなりません。
支払いをせず放置すると差し押さえが行われ、財産が強制的に換金または処分されることになります。差し押さえが行われても原則として強制徴収にはなりませんが、自治体によっては支払いを促すために電話がかかってきたり担当者が自宅まで訪問したりすることもあります。
財産の差し押さえなどの滞納処分を受ける可能性がある
差し押さえのタイミングは自治体によって異なりますが、差し押さえが行われると不動産・預貯金・保険などの財産が売却または処分されることになります。預金口座が突然凍結される可能性もあり、もし不動産を所有している場合は強制的に競売にかけられるリスクもあります。
また給与が差し押さえられた場合、勤務先にも通知が届いて税金の未納が職場に知られることになります。滞納処分が行われないよう、速やかに税金を支払うことが重要です。
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3.個人事業主として生活できない!貯金なしになる理由とは
個人事業主が税金で困ってしまう理由は、節税の方法を知らずに税額を不必要に高くしてしまうことが多いです。さらに手元の資金が不足しているために、納税の負担が大きく感じられることも考えられます。
個人事業主が税金で苦しむ原因について、詳しく見ていきましょう。
税金に関する知識が不足している
税金に関する基本的な知識が不足していると結果的に税額が高くなって損をしたり、納税のタイミングで資金不足に陥るリスクがあります。確定申告後や納税通知書が届いてから税額に驚いても、事業年度が終わっているため対処が難しいことがほとんどです。
個人事業主の税務はサラリーマンとは大きく異なるため、どの税金をいつ納めるべきかや確定申告の方法など基本的な部分から確認することが重要です。
効果的な税金対策ができていない
帳簿をしっかりつけて確定申告を行っていても、税金対策が不十分だと結果的に税額が高くなり損をしてしまいます。ただし税金対策をする際に、無理に経費を使って税額を減らそうとするのは逆効果です。
適切な経費計上を行うことや青色申告制度を活用するなど、税金対策としてできる方法は多くあります。うまく対策を講じれば、税額を大幅に抑えることも可能です。
個人事業主としての効果的な税金対策の方法については、後ほど詳しく説明します。
売掛金の回収が滞っている
いくら商品やサービスを販売しても、売掛金がきちんと回収できなければお金が手に入りません。売掛金が長期間未回収のままだと、収入がないにも関わらず経費を支払わなければならず資金繰りが厳しくなります。
さらに売掛金が未回収のままで利益が計上されていれば、経費だけでなく税金も発生します。事業を継続するためには、売掛金の管理が不可欠です。
売掛金が期日通りに正確に入金されたかをしっかり確認し、未回収の場合には早期に回収できるよう手を打ちましょう。また相手の支払い条件に合わせている場合は、交渉して売掛金の回収期間を短縮することも検討してみましょう。
納税資金の準備ができていない
納税のための資金が準備できていないと、納税時に資金不足に陥る恐れがあります。サラリーマンは毎月の給与から税金が差し引かれますが、個人事業主は基本的に確定申告の時期に一括で所得税や消費税を納める必要があります。
税額が一定額を超えると年数回に分けて納付し、確定申告で精算する「予定納税」制度もあります。しかしどちらにしても大きな金額を一度に納税しなければならないことが多いため税金を支払った後に手元にお金が残らない、あるいは納税に充てるお金自体がないという個人事業主の方も少なくありません。
納税資金をしっかり準備するためには、手元の資金を使い切らず毎月一定額を積み立てておくことをお勧めします。
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4.個人事業主が税負担を軽減するための対策
税金対策は、確定申告をして税額を計算する段階で考え始めても遅いです。事業年度がすでに終了しているため、その時点で収支を変更することはできません。しかし日常的な収支の管理など、早期に取り組める対策は今日からでも始めることが可能です。
この章では、個人事業主が税金による負担を避けるための対策について説明します。
定期的に収支を把握する
収入と支出を把握することは、経営の現状を理解することでもあります。毎月収支を確認していれば、今年の利益がどの程度になりそうかや税金が通常通りかそれとも増える可能性があるかなどの予測を立てることができます。早期に見通しを立てることで、必要な税金対策を事前に講じることができます。
もし普段から収支の管理をせず決算や確定申告時に初めて1年間の業績を振り返るようなことがあれば、税金対策には間に合わないでしょう。予想以上に税額が高くなり慌てて資金を調達しなければならない状況に陥る可能性もあります。
定期的に収入と支出を把握しておくことで、余裕を持って対処できるようになります。
貯金するためにも「経費」を正しく活用する
税金、特に所得税などは「収入」に対して課税される仕組みです。しかし「収入」の計算方法はサラリーマンと個人事業主では異なります。
サラリーマンの場合、給与から会社が税金を天引きしてくれるためあまり意識することはありません。
一方個人事業主は、売上から必要経費を差し引いた金額が課税対象となります。そのため経費を正しく計上することが重要であり、課税所得を計算する際に控除できるはずの経費を計上していないと税金面で損をしてしまうことがあります。
経費として認められる支出にはある程度の知識が必要で、個人事業主が適切に経費を計上できていない面もあると考えられます。
経費として計上できる項目を把握する
それでは、実際に「経費」として認められるものを具体的に見ていきましょう。
仕事と密接に関係する支出を経費にする
個人事業主の中には、仕事用と日常生活用のものを共用している場合があります。
例えば自宅で仕事をしている場合には、賃貸している自宅の賃料や住宅ローンの月々の支払いはプライベートの費用として扱われる一方で仕事で利用している部分に関しては経費として計上できます。
また水道光熱費・固定電話・携帯電話、さらには自動車の費用も同様です。こうした費用については仕事に使用している割合を計算し、その部分を経費として計上することが可能です。
例えば店舗と自宅を兼用している場合で店舗の割合が約2/3であり月額21万円の家賃であれば、14万円を経費として計上できるということになります。
経費には家賃・水道光熱費・ガソリン代のような支出だけでなく、自動車や備品などの固定資産を購入した後の価値減少を計算する「減価償却」という費用も含まれるのでこの点についても確認しておくことが大切です。
事業に直接関わる支出を適切に計上する
自宅で仕事をしている個人事業主の中には、自宅に専用の執務スペースや打ち合わせスペースを設けていない方も多いです。そのため、打ち合わせの際に外のカフェやレストランを利用することもあるでしょう。
食事や休憩を目的としたカフェやレストランの利用は日常生活の一部とみなされるため、経費として認めることはできません。しかし会議や打ち合わせのために利用する場合は事業活動に関連しているとみなされるため、その費用を経費として計上できます。
また例えばコンサルティング業務を行っている場合、新聞や専門書・雑誌の購読費用は経費として認められます。モデルや女優として活動している場合には、衣装や化粧品の費用も経費に含まれることになります。
福利厚生費の経費化は慎重に行う
一般的な企業に勤務しているサラリーマンの場合、会社の福利厚生としてスポーツジムやマッサージなどの利用費用が会社の経費として処理されることがあります。
これらの費用は企業では通常経費として計上され法人税申告で処理されますが、同じ感覚で個人事業主が所得税申告の際にこれらの費用を経費として計上することは一般的には税務上認められていません。
ただし個人事業主が複数の従業員を雇用しており、従業員全員と自分自身が同じようにスポーツジムやマッサージを利用できる場合には福利厚生として認められることも想定されます。認められれば経費として計上することが可能です。
青色申告を活用して節税する
次に所得税の仕組みの一部として、税制上の優遇を受けるための方法に青色申告制度があります。青色申告制度は収入と支出に関する記帳を正しく行うことを中小企業や個人事業主にも徹底させ、税面での優遇を提供することを目的とした制度です。
青色申告を利用しない場合は白色申告という方法が採用されるため、これも合わせて覚えておいてください。この制度を活用しないと、以下のような点で不利になることがあります。
最大65万円の特別控除を受けられない場合がある
まず青色申告制度を利用すると、それだけで申告する収入から65万円を減額することができます。青色申告では、一般的に知られる日商簿記検定などで使用される複式簿記という方法で会計記帳を行う必要があります。
この説明を聞くと非常に難しく感じるかもしれませんが最近ではパソコンの会計ソフトやクラウド会計サービスが進化しており、複雑な会計処理の原則を理解していなくても簡単に記帳ができるようになっています。
要するに青色申告を行うことで特に難しくなくなったにもかかわらず、それを利用しないとまず65万円の控除を受けられないことになります。
家族への給与が一部しか経費として認められない場合がある
例えば法人化していない飲食店などで、家族が手伝いをしてその対価として給料を支払う場合もあります。給料を支払っているのだから全額経費にできると思うかもしれませんが、青色申告でない場合には「事業専従者控除」として以下の金額までが控除されます。
配偶者の場合は86万円、それ以外の親族の場合は50万円
一方青色申告をしている事業者が次の要件を満たす親族に給料を支払っている場合には、全額経費として認められます。
青色申告者と生計を一にする配偶者や親族であること
その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
その年のうちに6ヶ月を超える期間、または事業に従事する期間の2分の1以上青色申告者の事業に専念していること
これらの条件を満たす場合、常識的な範囲での給与支払いは全額経費として計上できます。
つまり青色申告をしていないことで家族に支払う給料を経費として計上できる金額が小さいこともありえるため、損をすることも想定されます。
赤字を翌年以降に繰り越せない
個人事業主は開業初期に備品の購入やサービスの契約など、多額の経費がかかることがあります。その一方で事業が軌道に乗るまでは売上が思うように上がらず、赤字が発生することもあります。
赤字が発生した場合にはその年の所得は0となりますが、青色申告を行っていればその赤字を翌年以降に繰り越すことができます。赤字の繰り越しとは、その年の赤字分を次年度の経費として計上できることを意味します。
赤字の繰り越しは最大で3年間可能です。したがって事業が軌道に乗る前に設備投資を行い赤字を計上し、その後の売上で繰り越した赤字を相殺することで黒字の圧縮と納税額の削減が可能になります。
この点で、青色申告をしていないと損をしていると言えます。
一括で減価償却できる資産の上限が低くなる
個人事業主が事業に必要な固定資産を購入した場合、確定申告ではその資産に対して減価償却を行うことになります。
固定資産とは短期間で売却することを目的とせず、事業のために長期間使用する消耗品でない資産のことを指します。
例えば現在ほとんどの業種でパソコンを使用していますが、このパソコンが販売目的でない限り固定資産に該当します。また事業で自動車を使用する場合も、自動車が販売目的でない限りには固定資産として扱われます。
パソコンや自動車は使用していくうちに損耗し、価値が減少していきます。このような価値の減少を会計上で計上するのが減価償却です。
例えば軽トラックを新品で120万円で購入した場合、会計処理としてはその価値を4年間にわたって減価償却します。定額法を採用する場合、毎年30万円ずつ経費に計上して最終年は残りの金額を調整して計上します。
減価償却については少額の資産に関しては複数年にわたって計上するのが手間になるため、1回で全額を経費として処理する方法が認められています。通常は10万円以上20万円未満の資産ですが、青色申告をしている中小事業者等は10万円以上30万円未満の資産も300万円まで一括償却できます。
したがって青色申告をしていないと、一括償却の対象となる資産が少なくなり損をすることもありえます。
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5.個人事業主が実践できるお金の残し方
次に、個人事業主が活用できる税制優遇制度についてご紹介します。各制度の目的や意図を把握し、自分の状況に合ったものを選んで利用しましょう。
生命保険料控除
生命保険料控除は所得控除の一つで、その年に支払った生命保険料に応じて契約者の所得から一定額を差し引くことができる制度です。この控除により、所得税と住民税が限度額まで軽減されます。
旧制度と新制度では取り扱いに違いがあるため、注意が必要です。さらに介護医療保険料控除や個人年金保険料控除など、保険料に関連する税制優遇措置も存在します。
iDeCo(イデコ)
iDeCo(イデコ)は確定拠出年金法に基づいて運営される私的年金制度で、加入者が自分で掛金を拠出しその資産を運用していきます。拠出した掛金は全額が所得控除の対象となり、運用で得た利益も非課税となります。
さらに年金を受け取る際には「公的年金等控除」、一時金を受け取る際には「退職所得控除」が適用されるなど税制面での優遇措置が享受できます。
その他の税制優遇制度
生命保険料控除やiDeCo(イデコ)に加えて、個人事業主が利用できる税制優遇制度は他にもいくつかあります。代表的なものには、以下のような制度があります。
ふるさと納税
住宅ローン控除
医療費控除
NISA(ニーサ)
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6.個人事業主が法人化を検討すべきケース
法人化のタイミングについて悩む個人事業主の方は少なくないと考えられます。しかし「手続きが面倒」「事業内容に変更はないから」といった理由で法人化を先延ばしにしていると、節税効果や事務負担の面で後悔する可能性があります。
法人化を検討すべきケースとしては、例えば以下のような状況があります。
所得が800万円を超えている
年間の課税売上高が1,000万円を超えている
事業承継をスムーズに進めたい
経営者自身も社会保険に加入したい
節税対策を講じたい
これらのポイントについて、さらに詳しく解説していきます。
個人事業主が法人化するより税金貧乏になり損する年収の基準は800万円超
所得税は「累進課税方式」、法人税は「比例課税方式(一定の税率で課税)」が採用されています。累進課税は、所得が多いほど税金の負担が増える仕組みです。
所得税の最高税率は45%に対して法人税の最高税率は23.2%です。法人税は所得が800万円を超えると税率が一定となるため、所得税よりも税金の負担が少なくなる場合があります。
言い換えれば高所得者ほど、所得税より法人税の方が税金負担が軽くなるということです。事業の税負担を抑えたい場合、所得が800万円を超えるかどうかを目安にすると分かりやすいでしょう。
年間の課税売上高が1,000万円を超えている場合
基準期間や特定期間の課税売上高などが1,000万円を超えると法人であれ個人事業主であれ、消費税の納税義務が生じます。しかし個人事業主が法人化した場合には法人としての課税売上高がまだないため、最大2年間は消費税の納付が免除されます。
これによりこれまで年間で1,000万円以上の課税売上高があり消費税を支払っていた個人事業主は、2年間にわたり消費税が免除されることで「事業資金が増える」「資金繰りに余裕ができる」といった多くのメリットを享受できるでしょう。
たとえば毎年100万円の消費税を支払っていた場合、法人化によって2年間分の合計200万円の消費税の納付が免除される可能性があります。
年間の課税売上高が1,000万円を超える個人事業主は、法人化を検討する価値があります。ただし消費税課税事業者をあえて選択した方が有利なケースや、適格請求書発行事業者などで消費税の納税義務が免除されないなどの条件もあるため法人化に関して後悔しないためにも、事前に専門家に相談することをお勧めします。
事業の承継を円滑に進めたい場合
法人化には、個人事業主に比べて事業承継をより円滑に進めやすいというメリットがあります。事業承継がスムーズになる理由は以下の通りです。
経営者が亡くなった後も、口座の凍結を心配する必要がない
経営者交代後も、許認可や契約がそのまま引き継がれる
経営者交代時の事業資産の引き継ぎが簡単
個人事業主の場合には口座・契約・政府・自治体の認可などは個人名義で行われているため、代表者が変わるとこれらの手続きが必要になります。特に代表者が亡くなった際に口座が凍結されると、事業運営に支障をきたす可能性もあります。
一方法人では契約や認可が法人名義で行われているため、代表者が交代しても手続きは不要で口座凍結のリスクも回避できます。
さらに法人化することで事業資産は法人の財産となり、引き継ぐべき資産が限定され事務的な手間も減ります。事業承継をスムーズに進めたい場合には、法人化が非常に有利と言えます。
経営者自身が社会保険に加入したい場合
自治体が提供する「国民健康保険」と健康保険組合などが運営する「社会保険」には、医療給付内容や保険料の額などさまざまな違いがあります。国民健康保険に加入している個人事業主が社会保険に加入することで、以下のようなメリットを享受できることがあります。
将来的に受け取る年金額が増える
支払う保険料が安くなる
医療保険の給付内容が充実する
特定の条件を満たす家族を社会保険の扶養に入れられる
法人化すると、経営者本人も社会保険に加入することになります。個人事業主が社会保険に加入する機会は限られているため社会保険への加入を希望する場合は、法人化を検討するのが良いでしょう。
税負担を軽減したい場合
法人は個人事業主よりも経費として計上できる範囲が広いため、節税効果が大きくなります。
例えば車両関連の費用の場合、個人事業主はプライベート利用と事業利用の割合を計算して経費を算出します。しかし法人の場合には車両を法人名義にすることで、車両費用・ガソリン代・保険料などを全額経費として計上できるため大きな節税効果が期待できます。
さらに法人化すると「住居費」や「出張旅費」なども経費として計上できるようになります。また、代表者に支払う退職金や報酬も経費にできるため、かなりの節税が可能となります。
税金を抑えたいと考えている方は、法人化を検討するのも一つの方法です。
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7.まとめ
会社員と同様に個人事業主の所得税も累進課税制度が適用され、所得が増えるほど税率が上がる仕組みになっています。つまり事業の収益が大きくなるほど納める所得税も増えるため、効果的な節税対策が重要です。
個人事業主の場合には会社員向けの節税策ではなく、事業主ならではの節税方法を選ぶ必要があります。また税務調査で問題にならないよう、適切な手法を取り入れることが大切です。
本記事が皆様にとって少しでもお役に立てますと幸いです。